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烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2001-06-29 [追悼] 『ムーミン谷の冬』 トーベ・ヤンソン,山室 静 訳 / 講談社文庫
2001-06-28 ジェットコースターSFバトルアクション 『コドク・エクスペリメント』(全3巻) 星野之宣 / ソニー・マガジンズ
2001-06-24 [閑話] 近所のコンビニの兄ちゃんたち
2001-06-19 たまにはベタボメもいいでしょう 『ガダラの豚』(全3巻) 中島らも / 集英社文庫
2001-06-17 ほんの少し復調 『不肖・宮嶋の天誅下るべし! 写真に嘘は写らんど!』 宮嶋茂樹 / 祥伝社
2001-06-16 『陰陽師 10 大裳』 原作 夢枕獏,作画 岡野玲子 / 白泉社(Jets comics)
2001-06-13 ドーナツブックスいしいひさいち選集 36『クローン猫』 いしいひさいち / 双葉社
2001-06-11 カラスマルは偉くもなんともないが 『カラスは偉い ─都会のワルが教えてくれること─』 佐々木 洋 / 光文社知恵の森文庫
2001-06-10 子カラスたちへ
2001-06-06 20年の疲弊 『奇術探偵 曾我佳城全集』 泡坂妻夫 / 講談社


2001-06-29 [追悼] 『ムーミン谷の冬』 トーベ・ヤンソン,山室 静 訳 / 講談社文庫


【たったひとりでも,ぼくがむかしから知っているものがいるといいんだがなあ】

 「ムーミン」シリーズで知られるフィンランドの画家,児童文学作家のトーベ・ヤンソンが27日,ヘルシンキ市内の病院で亡くなったそうだ。
 トーベ・ヤンソンは1914年ヘルシンキ生まれ。父は彫刻家,母は商業デザイナーという芸術一家に生まれ,新進画家として活躍ののち,1945年に『小さいトロールと大洪水』を発表,以後1970年まで書き続けられたムーミンシリーズは世界各国で翻訳され,子供たちに愛された。

 日本ではアニメの影響もあって,「ムーミン」(ちなみにカバではない。トロールという一種のお化けである)は平和な谷を舞台に元気な少年を描くほのぼのストーリー,という印象が強いが,原作は文章こそ平易ながら,(第二次世界大戦の影と思われる)不安や寂寥感がどこかに漂う,少々前衛的な作風である。とくにムーミンパパを主人公にした一部の作品など,枯れた人生論,アフォリズムの趣で,児童文学と言ってよいものかどうか。
 もちろん残虐な事件が起こるとか,そういったことはないのだが,少なくともサザエさんやアルプスの少女ハイジのようにポジティブ一辺倒ではない。ムーミン谷は必ずしも明るく安全な領域ばかりではないし,また意思や言葉の通じない生き物も少なくない。また,アニメでは明るく活発なサブキャラたちも,原作ではよく言って個人主義,ありていにいえば身勝手だ。スナフキンは言うなれば世捨て人であって,決してムーミンの成長を見守る温かい先生というわけではないし,ムーミンパパも穏やかなばかりの人生を送ってきたわけではない。
 要するに,ムーミンは子供だが,その外側には大人の世界が広がっているのである。

 『ムーミン谷の冬』は,烏丸が初めて読んだトーベ・ヤンソンの作品で,確か国際アンデルセン賞の受賞作を集めた全集の1巻(エンジ色のハードカバー?)だったように記憶している。
 雪にとざされた厳しい冬を暖かい家で眠ってすごすトロール一家,ところが,主人公のムーミンが冬ごもりの最中にふと目を覚まして眠れなくなってしまい,暗い外に出て,夏には会えない生き物たちと知り合う,そんなお話である。
 全体に,あの,雪の日の音がこもるようなし……んとした感じがたちこめ,森の中でろうそくのまわりに雪玉を積み重ね,オレンジ色のランプのようにしたものなど,とくに事件というわけでもないのに30年経っても忘れがたい。

 たとえるなら,小学生3年生くらいの少年が,たまたま夜明け前に目を覚まして家族にこっそり家を出,大人の世界を垣間見る,そんな感じだろうか。
 大人たちは,自分の時間,領域に紛れ込んできた少年をかまうでもなく,突き放すでもなく,少年はやがて薄闇の中に胸を張る……。そして,夜明け。

 『ムーミン谷の冬』は,講談社文庫のほか,「ムーミン童話全集」「青い鳥文庫」(いずれも講談社)に収録されている。機会があったらぜひ手にとっていただきたい。

先頭 表紙

りりさま,はじめまして。「ふわふわライフ」の「私の中のスナフキン」はもちろん拝読させていただいております。母親が亡くなったためというのは……少しわかるような気もします。トーベ・ヤンソンには少年的な一面があるように思われますし(うまく言えませんが)。 / 烏丸 ( 2001-07-01 03:52 )
Hikaruさま,お金と自動車ですか。なるほどねえ。でも,原作でも,人間社会のナマグササを取り込んだ設定は少なくないとは思うのですが……。僕はむしろあの初期のアニメの,予定調和というか,誰もがいい人なところが苦手です。原作ではもっとあれこれコミュニケーションギャップが出てきて(たとえば会話の一切通じないお化けとか),それが一種の魅力というか世界観となっているように思われますので。 / 烏丸 ( 2001-07-01 03:51 )
新作を書かなかったのは、お母さまが亡くなったからだと聞きました。アニメも本も大好きでした。心からご冥福をお祈りします。 / りり ( 2001-07-01 01:03 )
ヤンソン女史に不評だった部分は お金 と 自動車 をあの世界に出した事だったようです。新作がなかったのは..何かで読んだのですが忘れてしまいました。また探しておきます。_(..)_ / Hikaru ( 2001-06-30 17:41 )
逆に,少し気になるのは,トーベ・ヤンソンが,亡くなるまでの30年間,ムーミントロールの新作を書かなかったということです。それまでの作品群で満足したのか,それとも飽きてしまったのでしょうか。 / 烏丸 ( 2001-06-30 03:11 )
Hikaruさま,それはわかりません……もちろんもとの「人間くさい」ほうに対して,原作の雰囲気を忠実に描くために製作されたわけですから,当然テレ東版のほうが原作者の意向には近いものだとは思いますが……でも,そもそも日本のアニメをちゃんと翻訳して見せたのか? ということからして不明なんですよね。 / 烏丸 ( 2001-06-30 03:07 )
アナイスさま,ムーミン谷のはずれには「おさびし山」があったり,と,けっこう荒涼とした舞台ではあるのです。 / 烏丸 ( 2001-06-30 03:06 )
カルピス劇場(?)のアニメは、ヤンソン女史には不評だったようですが、テレビ東京でしてた方はどうだったんでしょ?? なんにしても、黙祷..であります。 / Hikaru ( 2001-06-29 22:56 )
「ムーミン谷」て聞くと、子ども心に何だか不思議な感情が起こりました。一抹の不安のような。 / アナイス ( 2001-06-29 21:18 )
今朝の朝日新聞の天声人語では,原作に対し「恐怖と安心」,アニメについては「あまりに人間くさくて」という表現を用いていました。確かに,原作に出てくる登場人物(お化け)には,ときどきひやりと怖いものがいます。童話というより,散文詩のような印象です。 / 烏丸 ( 2001-06-29 13:00 )
実はまだ原作を読んだことがなかったので、落ち着いたら読んでみたいと思います。 / TAKE ( 2001-06-29 11:29 )

2001-06-28 ジェットコースターSFバトルアクション 『コドク・エクスペリメント』(全3巻) 星野之宣 / ソニー・マガジンズ


【私を殺せると…? 母親を!!】

 間の悪い作家というのがいる。恋を楽しめる気分ではないのに小粋で泣けるのを連発されたり,似たタイプの作家を追っかけた直後で最初から倦怠感が漂ったり。
 星野之宣はそんな作家の1人で,SF,実力派,繊細かつダイナミックで実験的な画風ときたひには我が家の本棚にコーナーがあってよさそうなものだが,実は5,6冊しか持っていない。

 最新作『コドク・エクスペリメント』は宇宙を舞台としたストロングスタイルのSFバトルアクション。
 この「コドク」は「孤独」でなく「蟲毒」の意。蛇や蜘蛛,百足,蠍といった毒虫を壺の中で闘わせ,最後に生き残ったものから最強の猛毒を抽出する呪術のことである。
 昨今のホラーコミックでは定番の術の1つで,石川優吾『童乱(タンキー)』にはシンガポールの企業を壺,社員を毒虫とみたてる術師が現れ,諸星大二郎『諸怪志異』シリーズにもビターな蟲毒譚が一編収録されている。最近では高橋留美子『犬夜叉』で主人公の宿敵・奈落がこの術を利用した。
(「蟲毒」は,中国に古来伝わる呪術,と紹介される場合と,当節流行の陰陽師関連の術として取り上げられる場合とに分かれる。これらコミック,ホラーの中で一番最初に取り上げたのはいったい誰のどの作品だったのだろう?)

 物語は,巨大惑星の潮汐力によって崩壊寸前の衛星・デロンガVアルファに置き去りにされたキャノン伍長が,獰猛な肉食獣に追われながら復讐を誓うシーンから始まる。その「コドクエクスペリメント(実験)」が生み出した最強の生物とは……。
 この後は粗筋を書くのも面倒なくらい,途方もない怪物とアクションのオンパレード,一度読み始めるともう途中下車はできない。その分細かい所を読み飛ばして「おや,コドクエクスペリメントとはいったい誰の何のための実験だったっけ」と疑問が残ったりするのだが,地球征服を狙う悪の結社が幼稚園バスを乗っ取ることを思えば些細な問題だろう。

 星野作品の作法はハリウッド大作SF映画に通ずるものがあり,本作でいえば前半は「エイリアン」,後半は「マトリックス」か(最近文庫化された恐竜SF『ブルー・ワールド』も「ジュラシック・パーク」+「ポセイドンアドベンチャー」だと思えば間違いない)。その分,人間存在を不安に揺らすような(ありていにいえば文学的な)含みはない。稀代の猛女カミラ・バグレス准将も煎じ詰めればシンプルな暴君だし,対する善玉たちの嘆き,怒り,愛情等もマンガとしかいいようのない描かれ方で,安心といえば安心,陰影に欠けるといえば欠ける。
 もっともノンストップジェットコースターが成立するには凝りすぎた性格付けはまず邪魔で,このあたりを作者の人間描写の限界と見るか,プロとしての切り捨てと見るかは悩ましいところだ(それにしても星野作品の登場人物たちはどうしてこう誰も彼も前・思春期的,つまり子供なのだろう? 島本和彦のキャラとの違いを考えてみるのも面白いかもしれない)。

 もう1つの注目点は,バグレスを包む重力ボール等におけるCG(コンピュータグラフィックス)の多用だ。コミック作品ではCGが定着して久しく,昨今はすべてディスプレイ上で描かれた作品もあるようだが,それにしてもグラフィックツールの画像処理がこれほどはまった作品はあまり記憶にない。アイデアの元はあのスクリーンセーバーと読んだが,果たしてどうか。

 ともかくアクションSFとしてはA級,お奨めである。B級でも超A級でもないところが若干問題ではあるのだが──。

先頭 表紙

星野之宣の作家生活25周年とやらの短編集が出ていましたが,ちょっと大きくて重そうで,手を出せていません。それに,やはりこの人は短編より長編でしょうか。細かいところにこだわらない画力,展開力がポイントだけに。 / 烏丸 ( 2001-06-28 12:43 )
私は星野さんは「ヤマタイカ」で止まってしもた・・・。やっぱり妖女伝説あたりが一番好きかも〜。 / よこ! ( 2001-06-28 10:04 )
しばらくゴブサタしてました、星野之宣氏。「妖女伝説」以来かもしれません。チェックしてみますね。「B級でも超A級でもないA級」というのは鋭い^^;ですね。 / TAKE ( 2001-06-28 08:48 )
『コドク・エクスペリメント』は,この「くるくる」でもときどき話題に登場するテクニカルライター駒沢丈治氏にご教授いただきました。 / 烏丸 ( 2001-06-28 02:00 )

2001-06-24 [閑話] 近所のコンビニの兄ちゃんたち

 
 最寄り駅から少し歩いたところにあるセブンイレブンがこのところお気に入り。深夜番のアルバイト青年2人の立ち居振舞いがとても気持ちよいのだ。

 1人は背が低くてとんがった茶パツ,1人は中肉中背,黒フレームの眼鏡をかけていて,どこにでもいそうな地味な若いあんちゃんたちだが,2人ともまずステップが静かで早い。常に棚の具合や客の動向に目を配りながらスタスタと歩き回り,手を動かしている。そのくせ客がレジに近寄ると,いつ戻ったかレジの中に現れサクサク応対する。
 客がレジの前に少したまるとすぐもう一方がかけつけて「お待ちのお客さま,こちらへどうぞ」。レジ前の客が1人でも,買い物が多いとすぐフォローが現れて袋詰めを手伝う。荷物の発送や注文など,ちょっと角度の違った応答があると,やはりもう一方がレジに駆け寄って,ほかの客が待たされることがない。
 2人ともレジの手さばきが速い。ビニール袋の選択がよどみない。ペットボトルを袋に入れる際にゴンと音を立てたりはしない。そんな2人が阿吽の呼吸で連携プレイをとるのだから,妙なたとえだがサッカーの試合でアイコンタクトだけできれいなパスが通るのを見るような気分が味わえる。

 客は明るい「いらっしゃいませ↑」と「いらっしゃいませ↓」で迎えられ,「ありがとうございました」「またお越しください」と見送られる。2人とも,とても穏やかなのだ。とても,とても楽しそうなのだ。

 ここに書いたようなことは客商売としてはマニュアルかもしれない。しかし気配りに速度がともなったとき,そこには心地よい空間がかもし出される。そんな空間でパンを選び,ヨーグルトを買うことが幸福でなくて,なんなのだ。

 ……そして,そんなことに熱いシャワーを浴びるように癒される己に,おやおやおれは案外へこたれているのだな,と気がついて愕然としたりもする今日このごろ。

先頭 表紙

いやぁ,へこたれるといっても,家を出たら雨が降り始めて,駅で缶コーヒーでも飲もうとしたら古い500円玉しかなくて,雑誌を買ったら先週のもう読んだやつで……といった感じで,たいしたことではないのですが。クールダウン,クールダウン。 / 烏丸 ( 2001-06-26 12:28 )
いい気分にさせてくれるお店は大好きです。喜んでお得意様になってあげたいです。それにしても烏丸様、へこたれるだなんて、元気出してください。 / たらママ ( 2001-06-25 10:01 )

2001-06-19 たまにはベタボメもいいでしょう 『ガダラの豚』(全3巻) 中島らも / 集英社文庫


【あんたも来んかね】

 かつて,ブンガクといえば面白いものだった。
 バルザックやデュマは言うに及ばず,『罪と罰』だって『赤と黒』だって『ウィルヘルム・マイステル』だって読み始めれば手に汗握る面白さである。難解と言われるボードレールやランボーですらウキウキワクワクするし(さすがにマラルメやヴァレリーは少々しちめんどくさいが),漱石や鴎外のネ暗な話もハラハラドキドキの心持ちである。

 面白いブンガク作品はそうでないのとどこが違うのか。
 第一に,スジである。スジのないオデンにはコクがない,と言われたときに関西風と関東風で実は全く別のスジのことになってしまうのだが,そのスジはまた別の機会に。
 第二に,キャラである。キャラが立たねば男がすたる,女がしおれる,火星人が枯れる。
 第三に,言葉遣いである。ここは覚えといて今度あの店でレイコちゃんの前で一発キメたろ,というくらいかっこよいキメゼリフの2つ3つはちりばめてほしい。
 人生や社会を語るのもよいが,それは人様に読んでいただけるものを提供したうえでの話である。読んでもらえぬ純ブンガクになんの価値がある。

 というわけで,今夜取り上げるのは,面白さではスーパーヘビー級,中島らも『ガダラの豚』。

 第一に,スジが凄い。
 主人公は,アフリカの呪術を研究する大学教授とその妻である。彼らはフィールドワークでアフリカを訪れた折に娘を失い,それ以来8年間,やや投げ遣りな人生を送っている。そんな折,妻が新興宗教にかぶれ,その教祖の奇跡はすべてトリックであると証明することになり……と,しごく理性的な第一部が氷だとしたら,夫婦とその息子,スプーン曲げで一世を風靡した超能力青年らがテレビ局の特報番組の撮影のためにアフリカに向かい,恐ろしい呪術者と出会う第二部が水,命からがら日本に戻った後のジェットコースター的展開の第三部がもうもうたる水蒸気。著者がプロレスをはじめ格闘技のファンであることも影響しているのだろう,理性と呪術敵味方入り乱れてのタッグマッチはひとたび読み始めるとページを繰る手が止まらない。
 第二に,キャラが凄い。
 アル中気味だがどこか憎めぬ大学教授,第二部以降俄然生気を取り戻す妻,生真面目な教授の弟子,世をすねた超能力青年をはじめ,殺られ役の端役にいたるまで個性派がそろう。マンガすれすれの破天荒な性格付けながら,いずれもどこかに白いもの,黒いものを抱えた者たちである。
 第三に,見事なまでの会話の妙。
 随所に味のあるやり取りが重ねられ,1ページ分を抜き出しただけても味のあるコントができ上がりそうだ。ことに後半無残に殺されてしまう……いや,読んでいただければ一目瞭然だろう。

 怒涛の展開に面白がって付き合うだけでもよいが,語られる問題は決して軽くはない。超常現象について,甘い考えを持つ者には少々キツい内容かもしれない。殺害シーン,寄生虫についてなど,少々エグい描写もある。
 だが,全体を通しての爽快感,あふれる元気,これはどうだ。
 本書は推理作家協会賞受賞作品である。賞などどうでもよいが,それにしてもなぜそんな賞なのか。直木賞選考委員は何をしていたのか。

 この国のブンガクは,ミステリだ時代小説だホラーだ恋愛小説だとジャンル分けに熱心なあまり,一番大切な面白さをないがしろにしてきた。それでもたまにこうしてどのジャンルにも押しはめようのない,しかも底抜けに面白い作品が登場するからたまらない。『ガダラの豚』,しいていえば「大文学」である。

先頭 表紙

これは真氏さま,いらっしゃいませ。「医療・生活」では医療について,あれこれ勉強させていただいております。病気というのは……やっかいで大変で逃げられないものですね。身近な者もあれやこれや引きずり込まれてしまい,なんとも。お忙しいでしょうが,これからも書き込みお願いいたします。 / 烏丸 ( 2001-06-24 14:47 )
ありがとうございます、ためになります / 真氏 ( 2001-06-24 06:43 )
ちなみに,「大文学」の評価は体積がものを言いますが,ブンガクの評価は体積だけでなく,密度や質量,色合い,とんがり具合などあれこれありますね。体積も質量もたいしたことないけど,触媒として化学反応をうながすタイプ,なんてのもあります。 / 烏丸 ( 2001-06-20 12:39 )
それにしても,中島らもという人は,エッセイ(とくに朝日新聞の『明るい悩み相談室』)や短編におけるウケの印象が強く,小器用なマルチタレント,と認識しておりました。『ガダラの豚』はその印象とはまったく逆で,このフロシキの大きさ,小器用で書けるものとはとても思えません。おみそれおみそれ。 / 烏丸 ( 2001-06-20 12:34 )
知り合いから,面白いのはともかく「大文学」はほめすぎでは,という指摘をくらってしまいました。確かにこの作品,パーフェクトというわけではありません。「大文学」というのは,言ってみれば私小説や本格推理と並ぶような一種の分類であって,広く大きなテーマにのっとった長編小説,といった感じでしょうか。テーマ性,人物の造詣,物語の展開などの各要素(xyzの各軸)の絶対値が大きい,つまり体積が大きいというか。『ガダラの豚』は「大文学」の中では並の上,あたりかな。 / 烏丸 ( 2001-06-20 12:34 )
いやいや、ホントに面白かったと思います。結末も予想外の展開、最後まで楽しめた記憶があります〜。 / TAKE ( 2001-06-20 00:17 )
なるほど『レスターとスピッツの山』と同年ざんしたか。そっちのオバサンも直木賞をやらないわけにはいかないし,しょうがないですかね。ただ,中島らもはこれ以上の作品は難しいかもしれません。書き手には励みかもしれませんが,芥川賞論外,直木賞もどうでもよい今日この頃。芥川賞なんて受賞後初の単行本が1000部程度というのもざらだそうざんす。 / 烏丸 ( 2001-06-19 13:11 )
『ゴーダ、山に登るの巻』に破れて、直木賞逃したざんすよ。『じんたも』の時もダメでしたなあ。残念至極。 / こすもぽたりん ( 2001-06-19 09:52 )

2001-06-17 ほんの少し復調 『不肖・宮嶋の天誅下るべし! 写真に嘘は写らんど!』 宮嶋茂樹 / 祥伝社


【よっしゃあ! 任したらんかい!】

 前作『不肖・宮嶋の一見必撮!』は,写真がつまらない,文章のノリが悪い,編集が底なしに勘違いと,とことんがっかりさせられた1冊だった。個々の記事が「一発やったらんかい」的破壊力に欠けるため,どうにも救いがないのである。

 たとえば初期の快作『ああ、堂々の自衛隊』では,カンボジアのPKOに動向して動向を撮影する記事や写真の1つ1つに,大朝日・大毎日やピースボートへの強烈な反発があった。世のおきれいごとにおさまらない報道カメラマンの骨太いガッツとでもいうか,無茶を承知のバイタリティがあった。振り返ると,その力が最も明確な形で結実したのが『不肖・宮嶋 史上最低の作戦』であったように思われる。ノルマンディー上陸50周年記念式典にて旧ドイツ軍砲台後で日章旗を振る,北朝鮮に潜入し偉大なる首領様の銅像の前でポーズを真似る,CIA秘密訓練センター潜入,四泊五日ほとんど飲まず食わず眠らずのレインジャー訓練動向,硫黄島戦勝(!)記念日撮影,そしてオウムとの確執など,もはや伝説レベルの強烈な記事が並んでいる。東京拘置所の麻原彰晃スクープ,韓国・光州動乱,ハマコーの裸参り,成田闘争,人肉事件の佐川一政などの記事の並ぶ『突撃取材・血風録 死んでもカメラを話しません』と並ぶお奨めの1冊である。
 そのほか『不肖・宮嶋 南極観測隊ニ同行ス』についてはやはりこすもぽたりん氏の詳解を,『不肖・宮嶋の ネェちゃん撮らせんかい!』については拙文をご参照いただきたい。

 などと,旧作の名シーンばかりあつめたドラえもんビデオみたいな書き方になるのは,新刊『不肖・宮嶋の天誅下るべし!』について書くことがあまりないからである。
 前作『不肖・宮嶋の一見必撮!』よりは1つ1つの記事にボリュームがあるだけなんぼかましだが,それでも角投手の愛人マンション張り込み,森進一・昌子の熱海温泉旅行強撮,オーストラリアでハレー彗星撮影(失敗),三田寛子の大学受験入試会場潜入,フロリダ・ディズニー取材などのフライデー,クレアネタは,雑誌が雑誌だけにターゲットからしてヌルい。南極観測隊同行ウラ日記なども,不肖・宮嶋の著作に長年付き合ってきた身には少々インパクトにはかける。全体に,これまでの単行本で後回しにされたネタであることは否定できないのである。

 しかし,それでも,面白くないかといえば,やはりそこそこ笑えるのが不肖・宮嶋本である。
 また,チベットで行方不明になった長谷川美子カメラマンについて触れた一節,東名高速に出没するベンツ300Eの覆面パトカー撮影,そして出所したオウムのマハーケイマこと石井久子の追跡記事には,初期よりヌルいとはいえ,宮嶋らしい反骨精神がうかがえる。「子どもたちと静かな普通の生活を送っていけたらと希望しております」という石井に対し「殺された十九人も六〇〇〇人以上の被害者も皆,静かな普通の生活を送りたかったのである」と返すあたりは溜飲が下がる。

 ところで,本書の「まえがき」には,タレントの告白本が売れていることに対抗して「彼女は自分で書いてたかどうか知らんが,私は本当に自分で書いたぞ!」とある。サイバラの『鳥頭紀行』で有名になった,ホモカツこと勝谷誠彦が原稿を書いていた,あの話はどないなっとんや?

先頭 表紙

現在はいかなるミッションをかかえて潜伏しているのでしょう。かの地はそろそろ秋? / 烏丸 ( 2001-06-19 02:37 )
ミナ嶋さん、お元気かしら。。。 / アナイス ( 2001-06-19 00:00 )

2001-06-16 『陰陽師 10 大裳』 原作 夢枕獏,作画 岡野玲子 / 白泉社(Jets comics)


【晴明が生命を選ばないのなら おれは海の藻屑だ】

「なんだかなあ……心配になるのだ晴明よ」
「博雅の心配ぐせは新刊が出るたびだな」
「ひどいな。お前が出てくる本だから心配しておるというのに」
「そういうおぬしも出てくるではないか」
「それはそうなのだが……このごろ一冊ごとに分厚くなり、最初のうちは一巻の中に二つ三つの話がおさまっておったものが、今度の十巻めではとうとう一つの話さえ終わらなかったことが心配なのだよ」
「ほう」
「おれはな、晴明。このシリーズにはなにやら深い意味があるように思えてならんのだ」
「わかるか博雅」
「だがそれはな、言葉にあらわしてはいけない、なにか尊いもののように思えるのだよ。ところが今度の十巻では晴明、お前がずっと喋り続け、心をあらわにし、髪をふりみだして安摩を舞う。おれはそれが心配なのだ」
「うむ。しかし主人公たるもの、わかったような顔でうなずいているだけではいかんのだがな」
「そうだろうか晴明。夢枕獏原作のこのシリーズでは、陰陽師たるおぬしの凄みを描くためにおれが呼ばれてきたように思われてならないのだよ。だからおれは多少呑気でピュアなワトスンでそれはかまわぬのだ。おれを間において菅公が暴れ、おぬしが軽々と受ける。おれをはさんんで黒川主が攻め、おぬしが悠々と受ける。おれを道化にして真葛どのが怒り、おぬしが蒼々と受ける。それが陰陽師のあり方ではなかったのか」
「ほう。博雅、案外わかっているではないか」
「それがこの十巻では……一巻を初めて手にした者は二巻の発刊を待ったことだろう。二巻を初めて見たものは一巻を探したことだろう。三巻、四巻、五巻とそれは変わらぬ。だが今回の十巻をはじめて手にした者に、はたして晴明、おぬしの凄みはわかるだろうか。真葛どの妖しさは伝わるだろうか。菅公や黒川主、玄象ら、鬼の眷属ならではの一本はずれた調子は伝わるであろうか」
「確かに……今回は少し本音を喋らさせられすぎたとは思っているのだよ、博雅。おれも真葛も嘆いたりあわてたり、少々人間味を出しすぎたようだ。おまけに、ハナピーだのウェイブだの、たまに混ぜるから効果のある現代用語も多用しすぎときている。要するに過剰すぎるな、あれもこれも」
「そうなのだよ、晴明。不思議のあらわれはそうでないもののなかにすべり込んであるときに一番驚かされるものだ。塔が炎に包まれた中でいかに衣を焼こうとも、人の目には見えぬのではないか」
「うむ、おれもな、困ってはいるのだよ。今回、ことに前半などまるで岡野玲子の創作ノートだからな。しかもそんな折も折、義父たる手塚治虫賞受賞(岡野玲子は手塚眞の妻)ときたものだ。余計なことを……」
「晴明、おれはどうすればよいのだ。なにかできることはないのか。真葛どのが泣きくれるなど、このウェットさ、まるで日出処天子終盤の二の舞ではないか」
「うむ……そうだな、博雅。ひとつ笛を吹いてくれぬか」
「む。こんなときにか」
「こんなときだから、笛の音がいいのさ。葉二は持ってきているのだろう」
「そうか、わ、わかった。吹こう」

     ヒィリ ラ… ヒィラ ハ…
                  ヅ ドォ ドォン ドォン

     ヒィ…ラ…ハ… フロ…ルロ…オ…
                  ヅ ドォ ドォン ドォン
                  ヅ ドォ ドォン ドォン

先頭 表紙

そうなんです小枝さま,これまでにない分厚つさで,それでも今回はお話が完結しないのです。続刊が出るまで,フラストレーションがたまりそうで,もう。 / 烏丸 ( 2001-06-18 13:20 )
JAIさま,それでは「陰陽師」の映画化のときにはやとってもらうことにして。シナリオ集がベストセラーになって,別荘「のろいの館2」を建てて……とらぬ陰陽師の呪算用。 / 烏丸 ( 2001-06-18 13:20 )
なるほどねー。本屋さんであまりの厚さにびっくりしてしまいました。 / 小枝 ( 2001-06-18 12:02 )
うーん、お上手。読みいってしまいました。烏丸様にドラマの脚本書いて欲しかったような(笑)。 / JAI ( 2001-06-16 17:25 )

2001-06-13 ドーナツブックスいしいひさいち選集 36『クローン猫』 いしいひさいち / 双葉社


【キーボードでつき指してアイテテ革命】

 昨秋2年ぶりに新刊2冊,と喜んでいたら早くも36巻の登場である。
 「クローン猫」というサブタイトルは過去の「いかにも葡萄」「椎茸たべた人々」「ああ無精」「毛沢東双六」「とかげのアン」などに比べると今一つパッとせず,さすがにネタ切れかと思われるものの,収録4コマたるや言うべきにあらず,いしいひさいちはやはりいしいひさいちである。
 ここしばらくの定番,ナベツネワンマンマンをはじめ,ノーテンキ森ヨシロー,グリーンビル・ワドル艦長,ノンキャリウーマン三宅さん,101匹忍者くんまで,例によって例のごとし。一時期少し目についた「ずっこけ」オチがほとんど見当たらないなど,高め安定のクオリティである。

 それにしても,あの不肖宮嶋,鳥頭サイバラですら単行本をいくつか売るうちにいまやどことなくゴージャス,ゴーマンなもの言いが目につき始めたものを,いしいひさいちのこの変わらなさはどうだ。バイトに明け暮れる貧乏学生を描いてその情けなさ加減が20年以上維持できるというのはいかなる精神構造なのか。

 ことに,仲野荘13号室のオッサンの電車とび込みを描く最後の1編に漂うものはもはや幽味,玄妙としか言いようがない。

「リストラされて,ラーメン店失敗して,タクシーの運転手で体をこわした,とか言う」
オッサンの人身事故に集まったバイトくんら野次馬が,
「15分で運転再開」
と聞いて線路の信号線こっそりぶち切って言うのだ,
「1時間ぐらい止まったれよ」

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2001-06-11 カラスマルは偉くもなんともないが 『カラスは偉い ─都会のワルが教えてくれること─』 佐々木 洋 / 光文社知恵の森文庫


【またとない】

 うるさい,怖い,汚い,不吉だ……カラスにあまりよいイメージはない。とくに都市部では巣の周辺でヒトが襲われて怪我をするケースもあり,ゴキブリ,ネズミ等と並んで嫌われものの1つである。
 東京都では,昨年来,カラスの捕獲作戦が進められている。電話で申し込みを受け付け,巣を除去し,ひなを捕獲するというものだ。数百か所規模で実施が予定されているという。しかし,実際のところ,彼らの喜ぶ生ゴミを放置して,遠方から呼び寄せているのはヒトの側である。呼びつけておいて捕獲,撤去,カラスにしたらひどい言いがかりだ。まぁ,国内でも最もありふれた鳥の一種だった朱鷺を無造作に滅ぼし,オス,メスとも中国から借りてきて「ひな元気に育つ」と喜ぶのに比べれば同じ身勝手でも正直なだけましかもしれないが(子孫のためにもはっきりと言うべきだろう,私たちはニッポニア・ニッポンと名づけられた大切な鳥の,野生種の最後の1匹まで死なせた国民である)。

 と,ややカラスに肩入れした書き方をしてはみたものの,烏丸は(ハンドルに烏の名を用いているくせに)カラスが好きか嫌いかといえば,とくにどちらの意識もない。ニュートラルといっていいだろう。
 ただ,夜明け前の電信柱にずらりと200羽(ひぃふぅ……10匹でこのくらい,全体では,と大雑把に数えてみた)ばかり並んでいるのを見たりすると,さすがにちょっと怖い。一斉に襲ってきたら少しまずいんじゃないかという凄みがある。しかも,「きゃつら,こちらをの個体を識別し,考えを把握しているんじゃないか」と思わせるにたるだけの頭のよさを感じることが多いことだし。

 本書は,江戸川区北小岩に世界でただ1つの「カラス博物館」を公開するほどのカラス好きな著者が,カラスの賢さ,家族愛,さまざまな不思議な習性(言葉を覚える,遊ぶ,適応能力が高い,などなど)に注目し,紹介した本である。
 埼玉県川口市のグリーンセンターをねぐらとするカラスの大群が早朝京浜東北線に沿って上京して都心で生ゴミをあさり,また帰っていく,という話に「あれっ?」とカバーを見直すと,著者近影に見覚えがあった。著者の佐々木洋氏は「プロナチュラリスト(自然案内人)」という変わった肩書きを持つ人物なのだが,最近たまたま覗いた「町中で見られる生き物」というタイトルの講演の講師だったのであった。

 数羽でチームを組んで,1羽が電線の上から小石やクルミの実を落とし,ほかの数羽でそれを奪い合う「石落とし」に興じるカラス,滑り台で滑って遊ぶカラス,ごった返すラッシュ時のホームで電車を覗き込む鉄道マニアのカラス,中高年のオバちゃんの笑い声そっくりの声でなくバカ笑いカラス,高いところから貝を落として割るカラス,公園で居眠りする人のポケットからものを取り出す「すりガラス」などなど,さまざまなカラスが紹介される。
 カラスを呼ぶことのできる伊豆大島出身のタレント(森川朱里)まで紹介される。

 付録として,「烏」や「鴉」という文字を使った言葉や地名一覧,さらにはカラスの登場する主な本まで紹介されて,(なんの役に立つかはともかく)資料性もなかなかだ。
 おや,エドワード・D・ホックの『大鴉殺人事件』も入っている。椎名誠の『銀座のカラス』もそういえばそうだ。『カラスがハトを黒くする?』ってほんとか。『カラスの勝手はゆるさない!!』,ごめんなさい,『烏の沽券』,いやはや,『カラスの死骸はなぜ見あたらないのか』,矢追先生の有名なとんでも本,『烏天狗カブト』,コブラの寺沢武一の作品,『蛸とカラスの共和国』,なんだそりゃ……。

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八咫烏(ヤタガラス)は古事記に出てくる伝説上のカラスで,熊野灘に上陸した神武天皇の道案内のために天からつかわされたものだそうです。日本サッカーのシンボルとされたのは意外と古くて,1931年のことだそうです。 / 烏丸 ( 2001-06-18 13:19 )
ヤタガラスって例のJFAエンブレムのやつですね! あれもきっといろいろ由来があるのですね! あの日は僕も脱力してました…(笑) / TAKE ( 2001-06-17 19:08 )
実はコンフェデ杯とヤタガラスについてまで書く予定だったのですが,準優勝(残念)ということで,なんとなく気が失せてしまいました。 / 烏丸 ( 2001-06-11 02:15 )

2001-06-10 子カラスたちへ

 
 この週末は家人が京都に出かけ,子カラスと3人で留守番である。
 プールや買い物で楽しい1日を過ごした子カラスたちだが,最近それなりに大人びて,と思われていた上の子カラスが夜になって突然顔をくしゃくしゃにして泣き出した。考えてみればこの子カラスども,生まれてからずっと母親のいない夜など過ごしたことがなかったのだ(父親はいないことのほうが多いが)。
 叱ったりなだめたりしながらも,思うのは大阪の事件の子供たちのことだった。

 お母さんが一晩いないくらいで泣いてはいけない。
 殺された8人の子供たちはね,もう,お母さんの胸に抱かれることも,お父さんの膝ではねることもできないんだよ。夏の海でいっぱいに光を浴びることも,木枯らしの中でサッカーボールを追いかけることもできないんだよ。どきどき新しいページをめくることも,肩を寄せて歌うことも,もう二度と,二度とできないんだよ。

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当たり前に育ち,育てられることがいかに幸せか,ということを考えたりもしました。亡くなった子供たちのこと,親御さんのこと,残された子供たちのこと,どう考えてもたまりません。 / 烏丸 ( 2001-06-11 02:20 )
悲しい事件でした・・。 / あやや ( 2001-06-10 13:36 )
ホントに痛ましい悲しい事件でした。なんでこんなことが起こりうるのだろう…、咀嚼消化不可能のままの三日目です。 / TAKE ( 2001-06-10 12:26 )
本当につらい事件です。許せません。 / Ecru ( 2001-06-10 11:56 )
何の前触れもなく、突然、命を奪われた8人の子供たち。無限の将来を断ち切られたことが悲しい。泣くことも笑うことも出来なくなった子供たち、ただただ合掌するだけです。 / 夢楽堂 ( 2001-06-10 07:55 )

2001-06-06 20年の疲弊 『奇術探偵 曾我佳城全集』 泡坂妻夫 / 講談社


【佳城というのは墓場の意味だった】

 本書は,引退した美貌の奇術師・曾我佳城を探偵とするミステリ短編集で,二段組500ページを越えるハードカバー大作である。昨年6月の発行,「このミステリーがすごい!」2001年版第1位作品でもある。

 しかしこれを3,200円で購入するには少々抵抗があった。実は収録22編のうち14編は
 『天井のとらんぷ』(講談社文庫 1986年8月発行 420円)
 『花火と銃声』(同 1992年8月発行 480円)
で発行済み。420円,480円で各7編,残り7編のために2,300円……というさもしい算段もなくはない。だがそれ以上に気になったのは,最近の泡坂作品のクオリティである。

 念のため書いておくが,泡坂妻夫は国内のミステリ作家としてはベスト3に入れたい大好きな作家である。短編集「亜愛一郎」シリーズはチェスタートンのブラウン神父譚に匹敵,いやそれ以上と面白く読んだし,今もたまに夢に見るほどだ。
 しかしここ数年の作風は……。
 近作の文庫の解説を見てみよう。

 『宝引の辰捕物帳 凧をみる武士』(文春文庫 1999年8月発行)
  ──絶妙な趣向が凝らされていると同時に,深い人間洞察に裏づけられて……

 『からくり東海道』(光文社文庫 1999年6月発行)
  ──からくり尽くしで構築したこの贅沢な伝奇小説……

 『亜智一郎の恐慌』(双葉文庫 2000年7月発行)
  ──亜愛一郎シリーズをはじめ泡坂さんのほかの作品の熱心な読者であればあるほど,にやりとさせられる仕掛けがあちこちに施されているのですが,そんなことは知らなくても,これ一冊だけでじゅうぶんに楽しめ……亜愛一郎の現代シリーズに比べて,ミステリーとして少し物足りない気が……

 実のところ,『凧をみる武士』については絶妙な趣向とも深い人間洞察とも思えなかった。『からくり東海道』のからくりはぴんとこない。『亜智一郎の恐慌』にいたっては解説からもつまらないことが明らかだ。

 最近の泡坂作品の解説者は,作者がマジシャンとして有名であること,本職が紋章上絵師であることを繰り返すばかり。関係ないだろう。そんなこと知らなくとも泡坂作品は十分,いや破天荒に面白かったではないか。
 あの(ネタばれになるので作品名は伏すが)お遊び精神の権化ともいえる信じがたいトリック,製本・編集にまでタネを仕込んだからくりの数々,「本の体裁をとったマジックショー」の作者はもういない。作者の情熱が失せたのか,空回りしているのか,それはわからないが……。

 曾我佳城シリーズも,旧い文庫2冊に収録されていた作品のほうがずっとよい。
 大学の先生がついつい目先のことに興味を引かれ,ふらふら深入りしてしまう「天井のとらんぷ」,テレビのニュースバラエティショウの会話だけで事件を描き上げる「白いハンカチーフ」,スキー場の山荘を経営する若夫婦ウナトット,カマトットの二人の会話が奇妙な漫才のように展開する「ビルチューブ」などなど。各編に登場するきりりとした女たちもすがすがしい。

 今回初めて収録された7編はそれらに匹敵する出来とは思えず,最終話の「魔術城落成」にいたってはミステリ史上何度も書かれたウェットかつ凡庸な締め方,しかもそれまでの切れ味,探偵の存在感を全否定しかねない不自然さである。トランプはこぼれ,帽子は濡れてしまった。手品の域ではない。

 とっぴんしゃん,とんでもはっぷん,すっとんきょう。
 願わくば,もう一度あのとぼけたアクロバットの妙味を味わいたいものだ。解説,選評の諸氏も,持ち上げるばかりでなくもう少し正直に書くべきと思うのだが,如何。

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ブラウン神父の名言中の名言といえば「木の葉を隠すには森を,死体を隠すには……」ですが,最近は「失言を隠すには失言を,利権を隠すには利権を……」な事件のあまりにも多いことよ。 / 烏丸@社会派 ( 2001-06-06 12:41 )
ブラウン神父は所々で滋味のように光るフレーズが記憶に残っています。 / ces@変な日本語で失礼 ( 2001-06-06 06:47 )

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