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烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2000-10-13 笑えて泣けるエッセイのイチオシ 『勇気凛凛ルリの色』 浅田次郎 / 講談社文庫
2000-10-12 ちゃぶ台返しのイチオシ 『自虐の詩』(全2巻) 業田良家 / 竹書房文庫
2000-10-11 マンガ評論のまぁ有名な本だし文庫になったし読んどいたほうがいいかも 『漫画の時間』 いしかわじゅん / 新潮OH!文庫
2000-10-11 かつてイチオシマンガ,のイマイチ 『天才柳沢教授の生活 16』 山下和美 / 講談社(モーニングKC)
2000-10-11 ドーナツブックスいしいひさいち選集 34『酒乱童子』・35『錯乱の園』 いしいひさいち / 双葉社
2000-10-10 雰囲気を剥いた後に残るもののイマイチ 『水に棲む鬼』 波津彬子 / 朝日ソノラマ,白泉社
2000-10-10 時代小説エスピオナージのイチオシ 『影武者徳川家康』 隆 慶一郎 / 新潮社
2000-10-09 サブカル本のイチオシ? イマイチ? 『隣のサイコさん 「いっちゃってる」人びとの内実』 別冊宝島編集部 編 / 宝島社文庫
2000-10-08 喪失とそこからの回帰を願うマンガのイチオシ 『踊って死神さん』 花郁悠紀子 / 秋田書店
2000-10-07 [雑談] 全プレ ラヴ


2000-10-13 笑えて泣けるエッセイのイチオシ 『勇気凛凛ルリの色』 浅田次郎 / 講談社文庫


【だがサチコ。君はもう二度と笑ってはいけない。】

 さて,当代の泣かせ名人といえば『鉄道員(ぽっぽや)』で直木賞を受賞した浅田次郎だろうか。しかし『自虐の詩』に次いで『鉄道員』ではさすがに湿り気が過ぎる。ここではその泣かせのテクニックの裏を垣間見せてくれるエッセイ集をご紹介しよう。

 『勇気凛凛ルリの色』は1994年9月から1995年9月にかけてのおよそ1年間,週刊現代誌に連載されたエッセイをまとめたものである。のちに続刊『勇気凛凛ルリの色2 四十肩と恋愛』『勇気凛凛ルリの色 福音について』『勇気凛凛ルリの色 満点の星』が発行されている。
 1巻めの連載当時は阪神大震災,オウム・サリン事件に日本中が沸いた時期で,自然烏丸も週刊誌を手にすることが多かった。当時,作家・浅田次郎は現在ほどは知られておらず,それにしてはえらく場慣れしたおっさんだな,と読んでいた記憶がある。
 裏社会,自衛隊,競馬,戦争史など,のちに彼のキーワードとなる体験や思想が随所に織り込まれ,「浅田次郎ができるまで」な内容になっているといえるだろう。三島由紀夫に私淑したというくだりなど,彼の小説表現の源流がおぼろげに見える気がして興味深い。

 ……などとやや重めの紹介をしてしまったが,読み物としては爆笑の連続といってよい。彼は陸上自衛隊に入隊し,裏社会で金を稼いだあげくの自称説教オヤジである。そんな人物が,自らの巨頭にうろたえ,船酔いにおののく。仕事にとまどい,耳の穴のカビに泣く。それが可笑しい。電車で周囲が怪しむほどに笑ってしまう。

 だが,もう一度読み返してみれば,それらが計算と技術のたまものだということがわかる。今笑い飛ばした数ページが,まことに重い,切実な内容を込めたものであり,笑いはその内容をこちらに伝える手段の1つであることがわかる。ことに改行が巧い。起承転結の切り替え時にキーワードをすがすがしく1行で立てる,その運びが巧い。そして当然,笑いをコントロールできるからには,泣かせることだってできるのである。
 拳銃強盗に撃たれて死んだウエイトレスの少女を語った「サチコの死について」は泣ける。作者の泣かせの技に自分がはまっていることを頭で理解していても,泣ける。
 浅田次郎,あなどりがたし。

先頭 表紙

寝ている間に胞子をそっと蒔くのにゃ。 / 烏丸 ( 2000-10-13 16:39 )
耳の穴のカビってのが、今夜夢に出て来そうで怖いニャース。 / ゴミ撒き団・ニャース ( 2000-10-13 01:05 )

2000-10-12 ちゃぶ台返しのイチオシ 『自虐の詩』(全2巻) 業田良家 / 竹書房文庫


【人生には明らかに意味がある】

 昨日紹介したいしかわじゅん『漫画の時間』はじめ,ここしばらくの漫画評に必ずといってよいほど取り上げられる作品の1つ。いわく,「4コママンガで大河ドラマを描いた」「人間賛歌」「ともかく泣ける」など,大半が諸手を挙げての大絶賛。

 さて困った。もう書くことがない。

 たとえば……『自虐の詩』は週刊宝石に連載され,それがマンガ専門誌でなかったおかげで作者が編集者の意向や既存のマンガの描き方,評価等を気にせずに書くことができた……というのは文庫の解説で「ゴー宣」小林よしのりがすでに語っているし,それ以上とくに加えることもない。
 作者は川柳も得意で,素朴に見えて実は技巧的,4コマという枠やリフレインを巧く使って……などと書いても,だから何。
 「たかが浪花節」「お涙頂戴ではないか」と指摘するのは簡単だが,これまた,だから何。浪花節はもはやB級文化の代名詞とはいえないし,B級であるからよいとかよくないとかいうわけでもない。

 「うーん,どう書けばよいのか」と昨夜,とくに評価の高い最後の数十ページをぱらぱら読んで……いやもう,またしてもぶわっ。こんなふうに人生を肯定されると。でも,これで肯定される人生って。

 主人公・幸江は,元ヤクザで遊び人のイサオに献身的につくす,美人とも若いともいえない女。イサオは気にくわないことがあるとすぐちゃぶ台をひっくり返す。ひっくり返す。畳までひっくり返す。ほとんどもうその繰り返しで,読み手が幸江に感情移入し,最初は悲痛,続いてうんざり,少し慣れ,だんだん慣れ,そのうち幸江のツラいといえばあまりにツラい過去,その幸江の同級生・熊本のこれまたキツい人生がカットバックでどんどん明らかになり,いいのか,こんなことが,こんな,なんてどよどよしているうちに最後に幸江と熊本が二十年ぶりに出会うシーンでもう,それはもう,ぱああっと,ダムが決壊して水があふれるようにぜんぶ。

 この哀しいまでに力のこもった肯定,匹敵するのは西原理恵子『ぼくんち』くらいだろうか。
 どちらも,実は,好きじゃない。というか,好きとか嫌いとか,そういう間尺で語れるものでない。お奨めもしない。こういう本は,必要な人はそのうち出会うものだろうと思う。

先頭 表紙

ちゃぶ台返しといえば『巨人の星』のとーちゃん・星一徹ですが,実は原作のマンガにもアニメ本編にも,ちゃぶ台返しシーンはないのだそうです。飛雄馬少年を殴るシーンで一徹が食卓にしているのは四角い箱のようなもので,それもくわっとひっくり返すわけではありません。一徹ちゃぶ台返しを刷り込んだのは,アニメのオープニング,主題歌流しながら表示される静止画なのでありました。心理学の授業で使えそうだなあ。 / 烏丸 ( 2000-10-12 18:14 )

2000-10-11 マンガ評論のまぁ有名な本だし文庫になったし読んどいたほうがいいかも 『漫画の時間』 いしかわじゅん / 新潮OH!文庫


【青木光恵の結婚式でのサイバラのスピーチが,聞いてみたかった……】

 いしかわじゅんは,やな奴だ。
「ぼくの基準では,ぼくはとり・みきに負けたことはない」(えっ?)
「新人が怖いと思ったこともない。…(略)…このくらいなら俺でも描けるな,と思うのだ」(ええっ!)
「ほとんどの同業者を,ぼくは怖くない。…(略)…それはギャグだけでなく,シリアスものでも同じだ」(えええーっ!?)

 これ,作品のオリジナリティと作家について,言ってよいことではないように思う。業田良家より巧いマンガ家はいくらでもいるだろうが,『自虐の詩』は誰にも描けない。高橋陽一よりサッカーに詳しいマンガ家は少なくないに違いないが,『キャプテン翼』は彼にしか描けなかった。いしかわじゅんのこの物言いは,作家を自分だけが育てたつもりの三流編集者の傲慢さと同質だ。

 ほかにも,いしかわじゅんは何か処かエラそうな態度を見せる。何人ものマンガ家を自分が育てたかのように言い,各社の編集者が自分を頼りにしているかのように書く。確かに,一部は本当にそうだったのだろう。また,とにもかくにも60冊もの単行本を出したのだ,多少胸を張ってもよいとは思う。
 しかし……彼の作品が多くのマンガファン,マンガに詳しくない子供たち,マンガにうるさいマニアたちに,そう高い評価を得ていないことは事実だ。メジャーではないがマニアに高い評価,というわけでもない(少なくとも,烏丸が信頼するマニア,編集者の多くはとくに彼を評価していない)。また,彼が責任編集した双葉社の「アクション ラボ」も,集めたマンガ家の顔ぶれの割に評価されず,2号めは出なかった。売れなかっただけでなく「いかにも」なつまらなさで,要するに相手にされなかったのだ。
 烏丸は,どんなプロ,マニアの目より,ファン(購入層)の目をとりあえず優先したい。自分に面白くない,下手に見える作品でも,売れているものには必ず何かその作品,作家固有の魅力がある。プロ,マニアの評を気にするのは,その魅力を自分より巧く見つけ出し,より巧く語ってくれることを期待するからだ。その意味でいしかわじゅんは信用できない。

 ……それでもなお,本『漫画の時間』を,烏丸は強くお奨めする。

 なぜなら,この本に収録された約100作品のマンガ評は,ごく普通のマンガ読者に,思いがけない,新しいマンガの読み方を教えてくれるからだ。
 個々の作家について,著者と評価を同じくする必要なんかない。ただ,1つの作品について,たとえば「こんなふうに肉体を描いたのは誰それだけ」だとか「余計な線の捨て方がすごい」とか「この会社から出るマンガがこうなのは」とか「明らかに誰それの模倣として出てきたのに独自性が」とか「絵がヘタだと言われる誰それだがこれこれに着目すると」とか,そういったさまざまなマンガの見方,「目利き」とでもいうか,それがあることを知り,それを知った上でマンガを読むのは,実に面白いことなのだ。同じマンガを読んでも一段深く楽しめるのだ。
 そういう楽しみがあることを知るためだけでも,この本はお奨めなのである。

 ついでに,ある超有名な女流マンガ家,それから同じく有名なベテランマンガ家が,肝心のマンガについていかに愚かか,それが知るためだけにこの本を手にしても損はない。知ったからといってしかたないんだけどさ。

先頭 表紙

文庫版を注文したのね〜 / こすもマキバオー ( 2000-10-13 18:59 )
晶文社版が見当たらないので(知人に借りて読んだだけだったかもしれない),文庫で買い直してしまいました。超有名な女流マンガ家がスーパーおばかなことを口ばしったのは講談社の「IN POCKET」誌上だそうです。「IN POCKET」は何十冊も買い続け,ある日ばかばかしくなって全部捨ててしまいました。この女流マンガ家,大昔にほんのちょっとお仕事でご一緒したら,翌年お会いしたときに覚えていてくれたので,あまり悪く言いたくないんですが……。 / ミーハー烏丸 ( 2000-10-12 11:55 )

2000-10-11 かつてイチオシマンガ,のイマイチ 『天才柳沢教授の生活 16』 山下和美 / 講談社(モーニングKC)


【ヒロミツが救われすぎるのも考えもの】

 『天才柳沢教授の生活』は,それまで少女マンガの世界で活躍していた山下和美の青年誌デビュー作であり,作者の父親をモデルに,神奈川の大学の経済学教授の日常を描く作品である。
 第1巻が1989年の発行。今第1巻を読み返すと(上質とは言いがたい)ギャグの色合いが強く,それ以上に教授の杓子定規さが家族からはなはだしく迷惑がられ,罵倒されていることに驚く。

 その後,このシリーズは「教育」や「老い」というマンガとしては扱いにくい問題に鋭く挑み,何度か大きな成果をあげてきた。
 たとえば8巻における柳沢教授の対戦相手(違う……)は絶妙で,父親,マフィアの友人,二重人格の天才少年などのエキセントリックさと学問を尊ぶ教授とがぶつかり合い,止揚して,このあたりが本作の最後のピークだったろうか。
 しかし,いつの間にか教授は酸いも甘いも噛み分けた,誰からも愛される人生の達人にしてスーパーマンになってしまった。あまりの厳格さ,四角四面さゆえに不器用,頓珍漢,という側面はほとんど見受けられない。たとえば15巻のモンゴル編は,作品として悪くないものの,柳沢教授が主役である必然性は何もなかった。最新の16巻も,個々の物語が悪いわけではないが,教授やそれぞれの脇役の果たす役割が全く予想の内で,著者自身表紙カバーで独白しているようにサザエさん化がはなはだしい。

 本来,このシリーズは,四角四面な教授にとっての「正しさ」が周囲と慣れ合えず,その齟齬によって可笑しさと読み手の思索を呼ぶものであった。先に述べた「教育」「老い」などの問題は,その教授が「動じる」ほどなのだからこれはよほど重大なことなのだ,という振幅で読者に伝わったわけである。
 別に初期の描き方に戻すべき,とは言わないが,さすがに最近はアットホーム,ほのぼの色が強すぎはしないか。サザエさんがいけないというわけではない。しかし,8巻あたりまでに描かれたものが「なかなか心温まるお話」の束の中で拡散してしまうこともまた事実だ。残酷でなければ伝えられないものも,この世にはある。

 したがって烏丸としては,現在の柳沢教授(9巻以降)に比べれば,10年ほど前,同じモーニング誌に連載された曽根富美子の『ファーザー』(講談社,全2巻)のほうをよほどお奨めしたい。
 こちらも実在の奇矯な人物(3人の妻に14人の子供を生ませ,現在は一番下の同名の息子と一緒に野宿をしながら,気のみ気ままに暮らしている75歳の画家,教育者)をモデルに教育や子育てをテーマにした作品。決して万人向けとは言いがたいが,衝撃は柳沢教授の比ではない。現在は絶版のようだが,もし機会があったら古本屋,マンガ喫茶などで手にとってご覧いただきたい。ただし。正面から読むと,キツいよ。

先頭 表紙

あややさま,いらっしゃいませ。実は問題の「新○副都心クリニック」,烏丸も昔勤めていた会社で何度か健康診断に行ったところなのです。幸い点滴はせずにすみましたが……危ないところでございました(そうか?)。さて『柳沢教授』,「魅惑のトップス」という扱いでごくたまーに読み切りを発表するだけのわりに,10年で16冊はけっこう早いペースですよね。若き日の教授といえば,お見合いでのちの奥様に怖がられるところ,それからピアノを買う話,なんとなく好きです。 / 烏丸 ( 2000-10-12 12:07 )
もう16巻まででてるんですか!私も教授の初期の感じがすきです。初期は、ネコをぶつのにわざわざ木材を測って買ってきたりしてましたものね・・。そして、若き日の教授がかっこいい・・・と、その部分は少女漫画のような気分でよんでしまいます・・。 / あやや ( 2000-10-12 00:37 )
あ,「ハラハラ」,そうですね,こっこさまのおっしゃる通り。教授に最近足りないのはその「ハラハラ」かもしれません。 / 烏丸 ( 2000-10-11 18:15 )
教授にはいつもハラハラさせられてたのに。 こっこも「とんでもない人」に賛成です。 / こっこ ( 2000-10-11 15:01 )
柳沢教授,ご健在どころかすっかり添付画像のような家族にも学生にも子供たちにも愛される穏やかなヒーローでございます。もうちょっと昔のように「とんでもない」人であってほしいのですが……。 / 烏丸 ( 2000-10-11 14:52 )
柳沢教授はご健在なんですね。誰からも愛される人生の達人になった彼の姿は想像しがたいです。 これはまとめて読んでみたいです。16巻もあるなんて! 明日は本屋さんのはしご。8月8日の『ストーカーの心理学』 もチェックせねば。  / こっこママは本屋さん>こっこ ( 2000-10-11 14:27 )

2000-10-11 ドーナツブックスいしいひさいち選集 34『酒乱童子』・35『錯乱の園』 いしいひさいち / 双葉社


【35巻で計4486作品】

 いしいひさいちのドーナツブックスが2年半ぶりに発売された。問題外論シリーズが完結とされ,やや政治色に偏っているのが胸を焼くが,相変わらずどうやって情報集めてんだ,な面と,いい加減金残ったろうにどうしてこう貧乏人描けるんだ,な面を見せつけて不気味なまでに快調である。讀賣新聞社社長渡辺某,いわゆる長嶋よりエラそうなナベツネをおちょくり,返す刀で朝日新聞社長某をコケにした4コマなど,この国のマンガ史上,星一徹以来の非情さ,厳しさと言ってよい。星一徹は「獅子は我が子を」なーんて言いながら自らは崖の上にいたが,いしいひさいちは無造作に自分を崖下に突き落とす。
 この博覧強記,自分に対する非情さ,実は「いしいひさいち」は「ひさいち」「ひさじ」「ひさぞう」「ひさし」の一卵性4人兄弟のユニットと言われてもぜんぜん驚きはしない。4人がそれぞれ分身の術で4つの影を演じると,合計16人のいしいひさいち。敵忍者もむむむっと汗を飛ばそうというものである。

 ところで,なぜ2冊同時発売なのであろうか。ドーナツブックスシリーズは以前も述べたようにタイトルはいずれも古典名作文学のパロディで,内容的な統一は求められていない。政治・経済などの時事,プロ野球,バイトくん,ノンキャリウーマン,となりの山田くん,忍者シリーズなどなど,要するに,その期間のいしいひさいちの他の単行本に収録されないありったけ,というのが趣旨と言ってよい。

 ここで,ふと思い出したことがある。噂によれば,いしいひさいちがナベツネをおちょくった作品集『ワンマンマン』(文藝春秋社)が,ナベツネの秘書からのクレームによって発売が中止になった,というのである。なるほど! それなら一気に2巻発行された理由もわかる。ナベツネ本のためにまとめられていた4コマが浮き,その結果ドーナツブックス収録作が膨れ上がった,ということか。実際,第34巻『酒乱童子』は表紙はもちろん,前半,うんざりするほどナベツネのバカヤロービュンビュンビュンだらけである。

 ところが。天井裏に控える烏丸組百一匹サナダムシ忍群から極秘情報が届く。発売中止になったナベツネものは東京創元社の『大問題2000』に収録されるらしいというのだ!
 そして,さらに新たな衝撃が烏丸本部を襲う! これまで25年にわたっていしいひさいちの単行本(バイトくんシリーズ,問題外論シリーズなど)を発行し続けたチャンネルゼロが出版活動を休止した,と。そういえば,『ののちゃん』も最新8,9巻を含め双葉社から刊行され直した。
 もっとも,双葉社ドーナツブックスシリーズももともとチャンネルゼロが編集を請け負って制作されたものと聞く。だとすると,チャンネルゼロはリスクの大きい製本,販売から身を引くだけなのか。それとも『バイトくんブックス7 ばかな男』背表紙のあの名吟は,別れの挨拶だったのか。

 朝日新聞朝刊に連載を持つなどいわば公儀の側に立ちながら,実は隠密お庭番のごとく本音の読めないいしいひさいち。これが知的化け物の貌というものか。答えはドーナツの輪の真ん中に,あるような,ないような。

先頭 表紙

犬のほうの「101」ですが,ディズニーの続編製作に対し,動物愛護派がクレームつけているそうです。その内容がびっくり。あの白地に水玉模様のダルメシアンは体重が約36キロ以上に成長し,神経質な性質。おまけに4匹に1匹は聴覚異常で,飼育が非情に難しい。そのため数多くのダルメシアンが保健所で安楽死させられるのだそうです。うーむむむ。 / わんわん烏丸 ( 2000-10-12 12:14 )
ハムテル不勉強! いしいひさいち『101匹忍者大行進』全2巻,チャンネルゼロ発売なり。そんなことでは立派な漆原教授になれないぞ! / 二階堂烏丸 ( 2000-10-11 14:46 )
ハムテルが『百一匹とは犬の数字ではないのか』と問うております。 / こすもぽたりん ( 2000-10-11 14:19 )
発売は9月18日だったのですが,油断していたら売り切れだったのかそもそも入荷してなかったのか,近所の本屋になくて苦労しました。双葉社の営業にはもっと頑張って欲しいものです。 / 烏丸 ( 2000-10-11 11:25 )
あ〜すごく読んでみたいです。明日は本屋さんに行ってみます。 あと10月5日の基礎からの漢文も気になるのでチェックせねば。久しぶりにお勉強したくなりました。  / こっこ ( 2000-10-11 09:41 )

2000-10-10 雰囲気を剥いた後に残るもののイマイチ 『水に棲む鬼』 波津彬子 / 朝日ソノラマ,白泉社


【ミステリー,ホラーという名の安心装置】

 先日は花郁悠紀子をベタ誉めした烏丸だが,技術的に見れば花郁悠紀子のレベルは必ずしも高くない。絵やコマ運びはどたばたし,人物設定も詰め込みすぎでわかりにくい。いかにも「マンガ」風の記号化された描線にシリアスなストーリーが重すぎることも少なくない。
 華を背負った主人公の描画の精緻さ,ページに漂う静寂,といった点では花郁悠紀子の妹,波津彬子のほうが各段に上だろう。

 ところで,烏丸はそれなりに以前からプチフラワー等での波津彬子を知ってはいたが,彼女が花郁悠紀子の妹であることは不勉強にしてずいぶん後まで知らなかった。そして,1枚絵としてのコマに力を入れすぎ(頼りすぎ)るように思われ,物語作家としてはいくつか難点を感じていた。

 たとえば『水に棲む鬼』とはなんと素晴らしいタイトルであろうか。これは『見ずにすむ鬼』とかけ,すなわち「水」と「見る」ことに含みを持たせたお話なのであろう。……残念なことにこの作品にはそんな含みはなく,それどころか小者のワルは別にして「鬼」すら出てこない。要するにタイトルは雰囲気をかもし出すための壁紙にすぎないのだ。
 内容を見てみよう。住み込みの家政婦として萩原家を訪れた奈津子は,そこに居合わせた者たちを驚かす。彼女は死んだばかりの当家の一人娘・水緒子にそっくりだったのだ。父親の事業を継いだ貴也と結婚した水緒子が裏庭の池で死んだのは,事故か自殺か,あるいは他殺なのか……。
 通常,この設定で奈津子と水緒子について読み手がまず想像するのは「生き別れとなった双子」だろう。物語作家は,そうした定石をいかに避け,予測を裏切って新しく魅力的な設定を創造するのが仕事だといってよい。しかし……。

 本書には殺人や幽霊にからむ短編がいくつか収録されているが,どの作品もプロットは単純,一本道。現代を舞台にしながら警察の科学捜査を全く無視しているのはご愛嬌としても,結局のところいずれも予定調和の上になりたっており,読み手に安心を導くための装置になっている。なにしろ,悪人面していれば悪人,美男と美女がいれば最後には結ばれるのだ。
 姉・花郁悠紀子の作品が前人未到の4回転宙返りにひねりまで加えようとして着地に失敗し続けたのに比べれば,難度の低い,しかし優雅な舞踊,そんな感じだろうか。読み手のニーズに応えて,なら立派なプロだが(そういうプロはそれはそれで嫌いではない),物語作家としてこれでよいかとなると,さてどうだろう。

 もう1つ,別の角度から気になるのは,波津彬子の描く若い女の多くが,男にかしずき,異論をはさまず,堪えて唯々諾々を是とするような,そういう女だということだ。やはり初期の短編集『お目にかかれて』には何人か,いわゆる「はねっかえり」も出てくるが,一皮向けば「あなたに会いたくてアメリカにきたのよ」だったり「タイプだって裁縫だってキャベツ作りだってできるのよ」だったりする。一人で道も歩けない,とは中島みゆきの古い歌詞だが,今どきまずくないかそれは。少なくとも烏丸はごめんだ。

先頭 表紙

くぉぉぉっ、ケロロ軍曹殿がお腹を召されたとは! では不肖ポタタ伍長、軍曹殿の遺志を継いで「南国リゾート地で読む島田掃除(ママ)ベスト10」をばっ! / こすもぽたりん ( 2000-10-10 19:06 )
江戸時代には様斬(ためしぎり)といって,死体をしばりつけ,刀を大きくふりかざして……という本を今,読んでるの。をほほ。という話はこっちにおいといてー,いえいえ,軍曹が花郁悠紀子・波津彬子姉妹について書かれた時点でははっきりつっこむことができず,その後,単行本を買ったり読んだりしてお勉強させていただいての本書き込みなのです。そりゃ後から書くほうが有利なのですわ。 / 烏丸 ( 2000-10-10 18:30 )
しょ、少佐殿っ、不肖ケロロ軍曹著しく不勉強でありましたっ! この上は皺腹掻っ捌いてお詫びをっ! ぐっ、ムゥゥ.... (富江並みの蘇生力なのでご安心を) / ケロロ軍曹 ( 2000-10-10 17:53 )
なんだかんだ言いつつ単行本をそれなりに持っているのだから,決して嫌いな作家ではないのに,出来の悪い短編集選んでわざといぢめたような気分。ただ,ケロロ軍曹の,波津彬子が姉と比較されたプレッシャーで波頭涛子に,という指摘は時間軸から見てどうでしょうか。実質デビュー単行本にあたる『フレデリック・ブラウンは二度死ぬ』(坂田靖子,橋本多佳子との共著)で,すでに点目の自画像は登場しているのです。 / 烏丸 ( 2000-10-10 17:09 )

2000-10-10 時代小説エスピオナージのイチオシ 『影武者徳川家康』 隆 慶一郎 / 新潮社


【それではやむをえんな】

 関ヶ原合戦の間際,徳川家康は島左近配下の刺客に殺された。徳川陣営は苦肉の策として影武者・世良田二郎三郎を家康に仕立て上げる。しかしこの二郎三郎,只の影武者ではなかった。かつて一向一揆で「信長を射った男」として知られるいくさ人であり,しかも十年の影武者生活で家康の兵法や思考法まで一切を身につけていたのだ……。

 作者の隆慶一郎は,編集者,大学助教授の職を経て,シナリオ・ライターとして活躍。60歳を過ぎて初めて小説『吉原御免状』を上梓した(一説に,恩師・小林秀雄が生きているうちは怖ろしくて小説など書けなかったためだという)。その後数年,矢継ぎ早に凄まじい量,質の時代小説を連発し,6年後には亡くなっている。まことに彗星のごとき光芒。
 戦国のかぶき者・前田慶次郎を描いて余りない『一夢庵風流記』は『北斗の拳』の原哲夫によって漫画化され(『花の慶ニ』),そちらも絶大な人気を博している。

 『影武者徳川家康』は隆慶一郎全作の中でも作者の面目躍如,気迫溢れる文字通り代表作と言ってよいだろう。実際,『影武者徳川家康』には,作者が再三扱った,いわば「お得意の主題」が目白押しに登場する。
 一つ,家康替え玉説(関ヶ原合戦の前後で家康の態度が別人のように変貌することから,別人説を取るもの。明治期の村岡素一郎著『史疑徳川家康事跡』に端を発し,南條範夫『願人坊主家康』『三百年のベール』に受け継がれる)。
 一つ,『一夢庵風流記』に通ずる,「いくさ人」の壮烈な生き様,死に様への礼賛。
 一つ,「上なし」,「道々の輩(ともがら)」と呼ばれる,荘園や武士の支配から逃れた漂白の人々,すなわち傀儡子,海民・山民,忍者らが日本の歴史を裏から支えてきたとする考え(歴史学者・網野善彦氏の所説による)。
 一つ,『吉原御免状』に通ずる,公界(自由都市)を舞台とするユートピア願望。
 一つ,秀忠の性残忍さ,柳生の陰湿な陰謀への嫌悪。

 なあんてね,こんなコウルサイ理屈をうだうだ書かずとも,兎に角痛烈で爽快で,どこから何度読み返してもついつい没頭してしまう,よくできた小説。文章も美文かどうかは別として,読みやすく,平らな中に魂魄溢れ,しかも丁丁発止の諜報戦を描いてエスピオナージとしても一流,元気出ます。

先頭 表紙

いやーん。ぽたりん様のヒントの通りにけんさくんかけたら、怖ーいマンガの話が次々と……。よい子はさっさとお薬のんでおとなしくしていようっと。 / 美奈子 ( 2000-10-12 07:03 )
う,ううー,返したいが,今出先で,手元に新解さんがないーっ。 / 烏丸 ( 2000-10-11 19:28 )
なるほど。ところでポタリンについては「ポタリンは軽快で、香ばしく、肉にむっちりしたところもあって、いいオヤツになるのだった」といわれているかと思いきや、「いやにごそごそする。タオルにくっついていたのはポタリンであった」などとも言われ、これもまた謎でございます。[かぞえ方]一本。 / こすもぽたりん ( 2000-10-11 19:08 )
なるほど。すると,「出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら,それが,常にはかなえられないで,ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)カラスマル」「玄関わきで草をむしっていたのがすなわちカラスマルであった」「体制に対する叛乱を企てたり国家の大方針と反対したりする,いけないカラスマル」 / 烏丸 ( 2000-10-11 18:20 )
烏丸氏の謎を解く鍵は、『麗しの家人』『のろいの館』そして今回明らかになった『烏丸組百一匹サナダムシ忍群』でしょう。いったいどういう方なのでしょう。新解さんより謎です。 / こすもぽたりん ( 2000-10-11 14:17 )
烏丸は文筆の人ではありません。ただのカラスなのであります(コウモリという説もある)。くわー。そういえば,このあいだ,自然保護系の人からお話うかがったんですが,カラスって郊外(埼玉や神奈川)に巣をかまえて,早朝,線路にそって都心に出勤するのだそうです。 / 烏丸 ( 2000-10-11 11:29 )
おもしろいエピソードのある作家ですね。小林師匠はテレビには無頓着だったとか……そんなことないですよね。それよりも! 烏丸様の素顔が少しだけ露わになったことに私、興奮しております(笑)。「師匠も文筆の人」ということは、烏丸様も文筆業でいらっしゃるのですか? 以前から、こちらに書評をあげていらっしゃる方々は何を生業にしているのだろうと思っておりました。一見してプロの方かなと感じますけれど、逆にプロはこういうところで惜しみなくご自分の文章を公開しないものなのでは?とも。烏丸様は一体……? / 美奈子 ( 2000-10-11 04:43 )
『吉原御免状』,よいですよねえ。『影武者…』のほうが骨組みが太く,スケール大きいのですが,『吉原…』はしっとりとした影の深さのようなものが感じられ,個人的にどちらが好きかといえば『吉原…』のほうです。これがデビュー作なんですから,凄い。ところで時代劇,サスペンスの作家に「峰隆一郎」というベテラン(あんまり面白くない……)がいるのですが,なんでこんなに名前が似ているのか,謎です。 / 烏丸 ( 2000-10-10 13:38 )
私、影武者徳川家康、池波正太郎の次に好きなのであります。はっきり申しまして、家康は影武者だったと信じている次第です。吉原御免状も好きです。京都の赤山禅院に参りましたとき、隆慶一郎先生の生前に寄進された御札だったか、旗だったかを見つけて歓喜したことを思い出してございます。 / ねむり猫 ( 2000-10-10 13:17 )
本文では「一説によれば」なんて書いてますが,実は文庫の解説には必ずといってよいほど書かれているのです。多分,当人がことあるごとにそう口にしていたのでしょう。しかし小説は別にして,映画やTVドラマのシナリオはずっと手がけていたのに,そちらについては師匠の小林秀雄が怖くなかったのか,とか,そもそも師匠が怖いからと人間60歳まで我慢できるのか,など,謎です。ちなみに烏丸の師匠も文筆の人ですが,怒られないように毎年年賀状で「ことしもロクな仕事してません」と前もって言い訳しています。 / 烏丸 ( 2000-10-10 11:49 )
「小林秀雄が生きているうちは怖ろしくて」という説は、なんだかリアルでいいですね(笑)。 / 美奈子 ( 2000-10-10 07:49 )

2000-10-09 サブカル本のイチオシ? イマイチ? 『隣のサイコさん 「いっちゃってる」人びとの内実』 別冊宝島編集部 編 / 宝島社文庫


【センセエ,あたしの脚のね,このヘンっで鳴いてるセミが五月蝿くって,もお】

 可愛いタイトルだからって,騙されちゃってはだめだめ。てゆかほら,ちょっとアブな人,ネットの掲示板にもよくいるでショ,ほらアノ「電波」な「宇宙人」,そんなカタガタを軽ぅく扱った本でしょ,だなんて油断しちゃいけないの。サブタイトルの「いっちゃってる」っていうノを見ても,まだ「ちょっと」いっちゃってるとかオートコレクトにカッコ付きで想像してるでしょあなた。ノンノン違うの。これ,レッキとした「既知外」の本なのよ。精神病院の内幕とか,壊れてプリプリ,プリズナアなお話,仕掛けられていない盗聴器探し,ストーカー,お薬,お自殺,アルコホル。宝島社はどうやってあたしのことを調べて宝島社のことをあたしの調べて絶対抗議の内容証明は講談社と小学館に許せない。ソノコトは森総理が宝島社の記者会見で繰り返しでないならこの国は全部もう,全部,この本の全部のうち半分くらいは,鬼畜な村崎サンとか書き手の方がモウ存分な既知外なのね。デ残りの半分のさらに半分くらいの書き手が,も少しで既知外。そうなると,残る全体の半分のさらに半分だって,あらあら。モチロンこんな本の中味を全部ほんとかしらって信じちゃうほど世の中に疎いわけないじゃないのよこう見えてあたくし,ええ。でも。この本の内容が7割,いえいえ,9割ウソでも,この本はエグい。どのくらいエグいかといえばここに書くのがはばかられるほど,エグい。あら声が男に戻っちゃったいやね龍角散龍角散。んもう。こほん。それでね,読書の基本は朗読,この本のとくにコワそうな章を毎日3回ずつ声を出して読んでご覧なさいな,まあ,普通な神経の方なら3週間でオカシクなるんじゃないかしら。てゆか,とりあえず○○○○○○○○○○○ようになったら要注意ね。あらあなた。何をまぁぽたぽた。ところでこの本の後ろのほうに,精神科のオイシャさまの遠山高史先生による「境界型人格障害」についてのお話があって,それはつまり海の向こうのアメリカでは1980年代の不景気に精神科のオイシャさまが食べていくため,金持ちのドラ息子やドラ娘たちを治療するシステムが作られてそこから再帰的に「境界型人格障害」という病名が発明されたということなんだけど,ふうん説得力。でもこうしてドア越しにあなたとお話してると,やっぱりそれだけじゃすまないような気がする。だってほら,デデデデ電波があたあたしにそそう言えって。

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2000-10-08 喪失とそこからの回帰を願うマンガのイチオシ 『踊って死神さん』 花郁悠紀子 / 秋田書店


【いつ死ぬかわからない】

 1970年代の半ば,プリンセスで出てきた新人が萩尾望都のアシスタントだいうことはすぐにわかったが(○にチョンチョンの自画像が特徴),作風がどこかおかしかった。死,事故,病気が氾濫して,物語を複雑にしすぎるのだ。

 たとえば1976年に発表された「夏の風うたい」(『四季つづり』収録)のストーリーは次のような具合だ。
 主人公・功作の家は,事故で父を亡くした悠を引き取った。功作の母は悠を事故で死んだ娘・奈津子(功作の妹)と何度も間違える。功作は悠に妹への思いを語る。悠は花火がきっかけで事故のことを思い出し,過去と向かい合おうとする。功作は倒れる。春に手術した癌が転移したのだ。功作の幼なじみ・香也子はどこまでも彼についていくことを誓う。

 同じ『四季つづり』収録の「春秋姫」でも,物語は日本画家の事故死から始まり,その娘・茜が画家として成長するきっかけをなした妹(父の隠し子)・藍根もやはり事故で死ぬ。

 ……花郁悠紀子がいつ癌を病み,いつからそれを知っていたのかわからない。だが,華やかな季節と花に彩られた物語の多くは誰かの死で始まり,誰かの死で終わる。

 『踊って死神さん』はそんな中,珍しく登場人物が誰も死なず,ハッピーエンドに終わる作品が集められている(それでもお話は十分ねじまがっているのだが)。

 収録作の1つ,烏丸がとても好きな「姫君のころには」では,ジウリアという品行方正の優等生少女が階段から落ちて幼児退行を起こしてしまう。彼女の友人レオナは,幼なじみで女性恐怖症のアルフォンスにジウリアを押しつける……。
 ここまででも十分複雑な話なのだが,実はこの話,ジウリアではなく,アルフォンスの病と回復の物語なのだ。奇妙な味のギャグとドタバタのあげく,最後のコマでアルフォンスとジウリアは花をしょって胸を張る。
 ……花郁悠紀子は治ったのか,と,当時この作品を読んだ烏丸は考えた。これは,何だかわからないが病気からの浮上を描いた作品だ。よくわからないけれど多分心の病気だろう,花郁悠紀子はそれを突破したのだ。

 それが大間違いだったことは,のちにわかる。

 同時期の作家,佐藤史生は,やはり実験的かつ複雑なストーリーを狙いながら,鉱物的な魅力を示したのに対し(佐藤作品では,常にトータルのエネルギーが一定に保存される),花郁悠紀子はどこまでも植物的だ。花が滅びて実を結ぶように,あらゆる作品の中で死者が生者に影と光を落とす。
 少女マンガとしてはかなり骨太なSFを目指したこと,日本の美,植物の美をよくモチーフにした点など,この2人はもっと並べて語られてもよいように思う。

 もう,20年が過ぎてしまった。その名は快癒と読めたり逝子と読めたりする。
 有里さんという方の花郁悠紀子ファンページ「花に眠れ」によれば,亡くなった1980年夏の「ペーパームーン」誌のアンケートで,「Q. 今、何でも消すことができる消しゴムがあったら何を消してみたいですか?」という問いに花郁悠紀子は「A. このおなかの痛みとしんどさ(消しゴムで消えるかどうか疑問だけど)」と答えていたという。

 花郁悠紀子。
 金沢出身。高校時代,坂田靖子主催の同人に参加。のち上京し,萩尾望都のアシスタントを務める。独立後は秋田書店「プリンセス」系で活躍。1980年胃癌のため逝去。享年26歳。

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2000-10-07 [雑談] 全プレ ラヴ


 ほにゃららさまの「風雲!わしづかみ大名」でもつっこませていただいたが,烏丸は全員プレゼント,いわゆる全プレが大好きである。
 もちろん宝くじもお誕生日のプレゼントも好きだが,それはそれ。定価で買うとは思えないものに一生懸命になるのが楽しいのだ。

 古くは「萩尾望都 ポーの一族サマーバッグ」(別コミ)とか,「岩館真理子のペンケース」(週マ)とか。岩館真理子は小さな赤い鍵も持っているから,ファンだったんだな。ピカチュウの腕時計やリュックサックは何種類か持っている。
 半年ほど前には,光文社文庫を2冊買うともれなくカッパ先生の携帯ストラップが,というのがあった。しかし,応募券は新刊の帯にしかついておらず,欲しい本がそうそうなくて苦労した。なんとかカッパ先生とカエル君のをもらったがカエル君は家人に取られてしまった。
 文庫本といえば,講談社文庫のカバーの折り返しには葉っぱのようなマークが付いており,これを15枚送ると「庫之介」という文庫BOXがもらえる。CDを整理するのに便利なので,かれこれ20個はいただいた。CD専用クローゼットをこしらえたときも,棚の高さをこれに合わせたほどだ。

 全プレでなくとも,当たる確率の高いプレゼントにはよく首をつっこむ。
 「ぴあ」は東京でしか発売されてなかったため当選率がよく,しかも何に何通応募があったか表を載せてくれていたので穴を狙いやすかった。試写会の入場券など入れ食いだったし,レコード(まだCDはなかった)やTシャツ,トレーナーなどもずいぶんいただいた。「ぴあ」が独特なのは,プレゼントが当たってもモノは送ってくれず,引き換えハガキが届くだけだったこと。それを持ってプレゼント提供のレコード店や書店などに向かうのである。1,000円の写真集を当て,渋谷まで友人と受け取りにいってお茶飲んで赤字,ということもあった。当時「ぴあ」の本社は4階建てのエレベーターもないビルで,大矢ちきデザインのトレーナーが当たったときは「MかなLかな」とその場で着替えさせられ,くるりとその場で回された。あのときの受け付けのお嬢さまはお元気であろうか。

 全プレの醍醐味は,そのうちお金を出して買うつもりのものでなく,普通ならまず手を出さないようなものが得られることにある。「ポーの一族」はファンだったが,誰が金を出してまでビニールしなしなの小さなサマーバッグを欲しがるだろうか。「ぴあ」では朝比奈マリアのデビューアルバムが当たった。知らないだろうが雪村いづみの娘で,その後の噂も聞かない。

 継続して集めているのはチョコボールの銀のエンゼルで,先ほど数えたら18枚あった。おもちゃのかんづめに交換してもよいのだが,子供がこのありがたみを理解しないうちに交換するのはもったいないのでほったらかしている。もちろん,自分の分としては,男の子用,女の子用,もう何度も交換した。

 今,烏丸が思案中の全プレは,あれである。ある種の上場企業の株主になれば,配当のほかに一種の粗品として,さまざまな景品がもらえる。後楽園の株主になれば巨人戦の指定席がもらえるというのが昔から有名だったが,それは別に欲しくないので会社四季報をぱらぱらめくってみる。グループ会社の宿泊券だとかお食事券だとかが並ぶが,この不景気の折り,大枚はたいてまで欲しいものはなかなかない。どこか,ファイトを呼ぶ景品を出してくれないものだろうか。烏丸はきっと,投資するぞ。

先頭 表紙

SENRIさま,いらっしゃいませ。少女マンガ誌の全プレゼントでは,お財布もよくありましたね。「○○の財布は,恥ずかしいかなー」とか,応募しないことが多かったのですが,今思えばゲットしておけば,と悔やまれます。ちなみに,烏丸の実家ではマンガはイケナイモノ扱いだったので,マンガのストックは押し入れの天井裏や机の引出しの奥(引き出しを抜かないと出せない)など,隠すのに苦労しました。全プレの送付先は親しい友人の家でした。 / 烏丸 ( 2000-10-08 01:07 )
たら子母さま,萩尾望都のハンカチとは実にうらやましい。ちなみに,烏丸はデビュー作から掲載雑誌を集めるのに苦労したので,『ポー』はイメージとしては後期の作品です。その後は黙っていても単行本になるので,なんかもう応援しなくてもいいメジャーな人の感じ。 / 烏丸 ( 2000-10-08 01:07 )
「なかよし」の全プレでスパンク(それゆけスパンクだっけ?)のお財布もらったことがあります。薄っぺらーいビニールのお財布だったけど、大切にしてたなぁ。それにしてもスパンクって名前、ちょっとアブノーございます。 / SENRI ( 2000-10-07 22:38 )
私は萩尾望都の「もとファンタジックちーふ」というイラスト入りのハンカチを今でも後生大事に持っています。大判なので三角巾にも使えそう。。「スターレッド」の下敷きもあります。ポーの一族、モー様の初期のヒット作でなつかしいっす。岩館真理サンのカワユラシイ(でもみんな同じ顔)女のコのお顔を思い出します。 / たら子母 ( 2000-10-07 22:21 )

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