himajin top
烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2000-10-08 喪失とそこからの回帰を願うマンガのイチオシ 『踊って死神さん』 花郁悠紀子 / 秋田書店
2000-10-07 [雑談] 全プレ ラヴ
2000-10-06 伝奇ホラーのイマイチ 『死国』 坂東真砂子 / 角川文庫
2000-10-06 前向き小説のイチオシ 『催眠─hypnosis』 松岡圭祐 / 小学館文庫
2000-10-06 [雑談] Carsのメンバー,Benjamin Orr死去
2000-10-05 気分転換にイチオシ 『チャート式国語1・2 基礎からの漢文』 江連 隆 / 数研出版
2000-10-04 [雑談] 声を区別する言葉(石川セリ,ジョン・レノン,カレン・カーペンター……)
2000-10-04 野球マンガのイチオシ 『ナイン』 あだち充 / 小学館
2000-10-04 宗教マンガのイチオシ 『祝福王』 たかもちげん / 講談社(モーニングKC)
2000-10-03 エログロのイマイチ 『中国残酷物語』 山口 椿 / 幻冬舎アウトロー文庫


2000-10-08 喪失とそこからの回帰を願うマンガのイチオシ 『踊って死神さん』 花郁悠紀子 / 秋田書店


【いつ死ぬかわからない】

 1970年代の半ば,プリンセスで出てきた新人が萩尾望都のアシスタントだいうことはすぐにわかったが(○にチョンチョンの自画像が特徴),作風がどこかおかしかった。死,事故,病気が氾濫して,物語を複雑にしすぎるのだ。

 たとえば1976年に発表された「夏の風うたい」(『四季つづり』収録)のストーリーは次のような具合だ。
 主人公・功作の家は,事故で父を亡くした悠を引き取った。功作の母は悠を事故で死んだ娘・奈津子(功作の妹)と何度も間違える。功作は悠に妹への思いを語る。悠は花火がきっかけで事故のことを思い出し,過去と向かい合おうとする。功作は倒れる。春に手術した癌が転移したのだ。功作の幼なじみ・香也子はどこまでも彼についていくことを誓う。

 同じ『四季つづり』収録の「春秋姫」でも,物語は日本画家の事故死から始まり,その娘・茜が画家として成長するきっかけをなした妹(父の隠し子)・藍根もやはり事故で死ぬ。

 ……花郁悠紀子がいつ癌を病み,いつからそれを知っていたのかわからない。だが,華やかな季節と花に彩られた物語の多くは誰かの死で始まり,誰かの死で終わる。

 『踊って死神さん』はそんな中,珍しく登場人物が誰も死なず,ハッピーエンドに終わる作品が集められている(それでもお話は十分ねじまがっているのだが)。

 収録作の1つ,烏丸がとても好きな「姫君のころには」では,ジウリアという品行方正の優等生少女が階段から落ちて幼児退行を起こしてしまう。彼女の友人レオナは,幼なじみで女性恐怖症のアルフォンスにジウリアを押しつける……。
 ここまででも十分複雑な話なのだが,実はこの話,ジウリアではなく,アルフォンスの病と回復の物語なのだ。奇妙な味のギャグとドタバタのあげく,最後のコマでアルフォンスとジウリアは花をしょって胸を張る。
 ……花郁悠紀子は治ったのか,と,当時この作品を読んだ烏丸は考えた。これは,何だかわからないが病気からの浮上を描いた作品だ。よくわからないけれど多分心の病気だろう,花郁悠紀子はそれを突破したのだ。

 それが大間違いだったことは,のちにわかる。

 同時期の作家,佐藤史生は,やはり実験的かつ複雑なストーリーを狙いながら,鉱物的な魅力を示したのに対し(佐藤作品では,常にトータルのエネルギーが一定に保存される),花郁悠紀子はどこまでも植物的だ。花が滅びて実を結ぶように,あらゆる作品の中で死者が生者に影と光を落とす。
 少女マンガとしてはかなり骨太なSFを目指したこと,日本の美,植物の美をよくモチーフにした点など,この2人はもっと並べて語られてもよいように思う。

 もう,20年が過ぎてしまった。その名は快癒と読めたり逝子と読めたりする。
 有里さんという方の花郁悠紀子ファンページ「花に眠れ」によれば,亡くなった1980年夏の「ペーパームーン」誌のアンケートで,「Q. 今、何でも消すことができる消しゴムがあったら何を消してみたいですか?」という問いに花郁悠紀子は「A. このおなかの痛みとしんどさ(消しゴムで消えるかどうか疑問だけど)」と答えていたという。

 花郁悠紀子。
 金沢出身。高校時代,坂田靖子主催の同人に参加。のち上京し,萩尾望都のアシスタントを務める。独立後は秋田書店「プリンセス」系で活躍。1980年胃癌のため逝去。享年26歳。

先頭 表紙

2000-10-07 [雑談] 全プレ ラヴ


 ほにゃららさまの「風雲!わしづかみ大名」でもつっこませていただいたが,烏丸は全員プレゼント,いわゆる全プレが大好きである。
 もちろん宝くじもお誕生日のプレゼントも好きだが,それはそれ。定価で買うとは思えないものに一生懸命になるのが楽しいのだ。

 古くは「萩尾望都 ポーの一族サマーバッグ」(別コミ)とか,「岩館真理子のペンケース」(週マ)とか。岩館真理子は小さな赤い鍵も持っているから,ファンだったんだな。ピカチュウの腕時計やリュックサックは何種類か持っている。
 半年ほど前には,光文社文庫を2冊買うともれなくカッパ先生の携帯ストラップが,というのがあった。しかし,応募券は新刊の帯にしかついておらず,欲しい本がそうそうなくて苦労した。なんとかカッパ先生とカエル君のをもらったがカエル君は家人に取られてしまった。
 文庫本といえば,講談社文庫のカバーの折り返しには葉っぱのようなマークが付いており,これを15枚送ると「庫之介」という文庫BOXがもらえる。CDを整理するのに便利なので,かれこれ20個はいただいた。CD専用クローゼットをこしらえたときも,棚の高さをこれに合わせたほどだ。

 全プレでなくとも,当たる確率の高いプレゼントにはよく首をつっこむ。
 「ぴあ」は東京でしか発売されてなかったため当選率がよく,しかも何に何通応募があったか表を載せてくれていたので穴を狙いやすかった。試写会の入場券など入れ食いだったし,レコード(まだCDはなかった)やTシャツ,トレーナーなどもずいぶんいただいた。「ぴあ」が独特なのは,プレゼントが当たってもモノは送ってくれず,引き換えハガキが届くだけだったこと。それを持ってプレゼント提供のレコード店や書店などに向かうのである。1,000円の写真集を当て,渋谷まで友人と受け取りにいってお茶飲んで赤字,ということもあった。当時「ぴあ」の本社は4階建てのエレベーターもないビルで,大矢ちきデザインのトレーナーが当たったときは「MかなLかな」とその場で着替えさせられ,くるりとその場で回された。あのときの受け付けのお嬢さまはお元気であろうか。

 全プレの醍醐味は,そのうちお金を出して買うつもりのものでなく,普通ならまず手を出さないようなものが得られることにある。「ポーの一族」はファンだったが,誰が金を出してまでビニールしなしなの小さなサマーバッグを欲しがるだろうか。「ぴあ」では朝比奈マリアのデビューアルバムが当たった。知らないだろうが雪村いづみの娘で,その後の噂も聞かない。

 継続して集めているのはチョコボールの銀のエンゼルで,先ほど数えたら18枚あった。おもちゃのかんづめに交換してもよいのだが,子供がこのありがたみを理解しないうちに交換するのはもったいないのでほったらかしている。もちろん,自分の分としては,男の子用,女の子用,もう何度も交換した。

 今,烏丸が思案中の全プレは,あれである。ある種の上場企業の株主になれば,配当のほかに一種の粗品として,さまざまな景品がもらえる。後楽園の株主になれば巨人戦の指定席がもらえるというのが昔から有名だったが,それは別に欲しくないので会社四季報をぱらぱらめくってみる。グループ会社の宿泊券だとかお食事券だとかが並ぶが,この不景気の折り,大枚はたいてまで欲しいものはなかなかない。どこか,ファイトを呼ぶ景品を出してくれないものだろうか。烏丸はきっと,投資するぞ。

先頭 表紙

SENRIさま,いらっしゃいませ。少女マンガ誌の全プレゼントでは,お財布もよくありましたね。「○○の財布は,恥ずかしいかなー」とか,応募しないことが多かったのですが,今思えばゲットしておけば,と悔やまれます。ちなみに,烏丸の実家ではマンガはイケナイモノ扱いだったので,マンガのストックは押し入れの天井裏や机の引出しの奥(引き出しを抜かないと出せない)など,隠すのに苦労しました。全プレの送付先は親しい友人の家でした。 / 烏丸 ( 2000-10-08 01:07 )
たら子母さま,萩尾望都のハンカチとは実にうらやましい。ちなみに,烏丸はデビュー作から掲載雑誌を集めるのに苦労したので,『ポー』はイメージとしては後期の作品です。その後は黙っていても単行本になるので,なんかもう応援しなくてもいいメジャーな人の感じ。 / 烏丸 ( 2000-10-08 01:07 )
「なかよし」の全プレでスパンク(それゆけスパンクだっけ?)のお財布もらったことがあります。薄っぺらーいビニールのお財布だったけど、大切にしてたなぁ。それにしてもスパンクって名前、ちょっとアブノーございます。 / SENRI ( 2000-10-07 22:38 )
私は萩尾望都の「もとファンタジックちーふ」というイラスト入りのハンカチを今でも後生大事に持っています。大判なので三角巾にも使えそう。。「スターレッド」の下敷きもあります。ポーの一族、モー様の初期のヒット作でなつかしいっす。岩館真理サンのカワユラシイ(でもみんな同じ顔)女のコのお顔を思い出します。 / たら子母 ( 2000-10-07 22:21 )

2000-10-06 伝奇ホラーのイマイチ 『死国』 坂東真砂子 / 角川文庫


【どうして,あたしが汚れた霊やの】

 言うまでもなく,映画化され,『リング2』と併映された伝奇ホラーの原作。

 烏丸は元来あまり熱心なホラーの読者でないし,詳しくもないが(怖い話は書いたり語ったりするのが好み),それにしても『死国』は怖くなかった。そもそも京極夏彦のような薀蓄に欠けるため,「四国は死の国」というスケールの大きな設定がこなされていないのである。

 たとえば本書では『古事記』冒頭の表記から古代史における四国を語るのだが,四国八十八ヶ所の霊場は空海(弘法大師)が開基したもので,真言宗との関連が深い。それなのに真言宗と神道のかかわりには詳しくは触れないため,怖いと思う前に少々途方に暮れてしまう。
 また,18年前に死んだ莎代里がよみがえるのは,その母親が八十八ヶ所を死者の歳の数だけ逆順に巡る「逆打ち」によって,と説明されるが,実際の遍路はこの順にあまりこだわらない。手近なところから参り始め,山奥など面倒なところは後回し,最終的に全部回って,お礼参りに高野山奥の院詣ででワンセットである。要するに便宜的な順番にそれほどの重みはないし,逆順に禁忌も聞かない。

 恋愛ドラマ的にも,よくわからない話ではある。
 主人公の比奈子は,東京での不毛な恋愛相手より幼なじみの文也を選ぶのだが,それが前者に倦んでモアベターな相手を選んだ,としか読めない。文也は文也で比奈子に「選ばれた」だけ,だから莎代里の誘いにも動揺する。2人の女の間で揺れるのは別によいとして,どちらに惹かれているようにも見えないのだ。要するに同窓会で異性になんとなくもやもやする,その程度の気持ちにドラマを任せた印象である。
 さらに,莎代里にしても,文也への思いが強いのか,それとも生者へのうらやみが強いのか,どうもよくわからない。怨霊が恨めしがりそうな要素は並んでいるのだが,決定打に欠ける。しかも怪しい気配がだんだん濃くなるのではなく,正面からどんっと出てきてセリフも口にする,これではいくら元死人でも(?)怪談として怖くなりようがないのである。当節流行のストーカーのほうが陰湿な分,よほど怖いかもしれない。

 映画ではNHK教育のドラマ『六番目の小夜子』で津村沙世子を演じた栗山千明が莎代里役をやっており,そのうちビデオでも見たいとは思っている。ただ,烏丸の周辺では,こちらも不評だった。

 ところで拙文を書くのに,ふと「死国」という言葉で紀伊国屋のデータベースをあたってみた。すると本書以外に,大杉博『四国は死国にされていた 大和朝廷の大秘密政策』(倭国研究所)という本があるではないか。1989年の発行で『死国』(1993年)より数年早い。だが『死国』の参考文献にこの本の名前はない。いけないなあ坂東さん,タイトルに先駆者がいたならせめて参考文献には載せなきゃ。
 ついでに調べてみるとこの倭国研究所,出版物はほかには大杉博氏の『ついに見つけた邪馬台国』『邪馬台国は四国にあった』『神代の史跡案内 日本神話の舞台は阿波だった!』の3冊しかない……。
 わーお。この大杉博って,岩田一平『珍説・奇説の邪馬台国』に出てきた,全国の邪馬台国研究家に無理やり自分の信念(?)送りつけ,他の説をとなえる論者は自分を論破できない限りすべて邪馬台国から手をひけと豪語し(無論たいがい無視されるし,反論されてもそれを絶対認めないのだから論破などあるわけがない),のちにはユダヤの秘宝にまで話をふくらませた,いわゆる立派な「とんでも」さんだぁ!

先頭 表紙

坂東眞砂子は先に『身辺怪記』という,創作ノートのような随筆集を読んだのですが,『死国』よりはよほどおもしろく読めました(ごく一部の夢の話を除くと,怖い本ではない)。本文ではかなり叩いてますが,この作者,もう少し読んでみる気ではいます。 / 烏丸 ( 2000-10-08 01:06 )
「真」砂子ではなくて「眞」砂子でした。書名,出版社名はウソにならないよう書店サイトからカット&ペーストすることが多いのですが,紀伊国屋は新字を使うのでときどき困りものです。渋沢竜彦とか。 / 烏丸 ( 2000-10-08 01:06 )
私は『山妣』から入りましたが、この坂東真砂子という人、怨讐の塊のような人ですよね。栗山千明は萌え、でもそれだけのためにDVDを買うかといわれると疑問符連発。 / こすもぽたりん ( 2000-10-07 10:29 )

2000-10-06 前向き小説のイチオシ 『催眠─hypnosis』 松岡圭祐 / 小学館文庫


【ワタシハ友好的ナ,ミドリノ猿デゴザール】

 売れない催眠術師・実相寺則之を尋ねてきた中年女(入絵由香)は,雷鳴とどろく中,甲高い笑い声をあげて自分はファティマ第七星雲のミナクス座からやってきた友好的な宇宙人だと言い出す。そして彼女は,全身みどりいろの猿にかけられた催眠術を解いてほしいと言うのだ。
 いくつもの名を使い分け,相手の思考を読み,ジャンケンに決して負けない由香の能力に驚いた実相寺は,彼女を占いの店で売り出そうとする。そこにの催眠療法科長・嵯峨敏也が現れた。嵯峨は由香が解離性同一性障害(多重人格障害)であり,治療が必要だと考えたのだ……。

 ストーリーは,嵯峨が由香をカウンセリングに持ち込もうと奮闘する様を主軸に,登校拒否児童やパチンコ依存症など,カウンセリングを必要とするさまざまな症例,治療譚が絡まって展開していく。絶妙な伏線の綾に,読み手はただページをめくるしかない。

 全体的には,いたずらにホラー,サスペンスに走らず,催眠療法やカウンセリングについてこつこつと啓蒙を重ねるような印象。登場人物の多くが前向きな善人であり,とことんの悪人や悲劇,殺人は描かれない。この美点はクライマックスでのどんでん返しには向かなかった模様で,エンディングのテンションは期待したほどではない。
 それでも,冒頭の入りのよさ,1冊通しての面白さなど考えると実によくできた作品で,複数のカウンセラーを主人公とした,さわやかな青春小説の傑作と言うべきだろう。

 ……と言う書評では,『催眠』は終わらない。本書のこれらの特徴,さらに著者近影に添えられた「臨床心理士」の肩書きに,往々にして読者は「学者あるいは医者が,その専門知識をもとに余技で書いた小説だろう」などと考えてしまうが,それではアンミツにメープルシロップぶっかけるくらい甘いのである。
 作者は『催眠術バイブル 他人を操る驚異のテクニック』『松岡圭祐の催眠絵本ダイエット 眺めるだけで,やせる!』『松岡圭祐の催眠絵本・禁煙セオリー 眺めるだけで100%タバコがやめられる!』など,かなりアヤシゲな催眠術本の著者であり,さらにはフジテレビ関東圏深夜のエロ番組「A女E女」で若い女性を脱がせ,艶声をあげさせた催眠術師でもある。また,カウンセリングの実態や解離性同一性障害の症状は本書のようなものではない。つまり,本書に書かれたリアリティ溢れるあれこれは,大半が作者の「創作」であって,学者の余技などではない。つまり,作者は徹底してしたたかな(もちろんよい意味で)一人前の小説家なのである。
 という全く架空の組織と人間関係を描くだけでなく,その組織の限界や問題点まで読者に啓蒙してしまう才能は一種破格のものだ。まれに見る知的ゲームと言えよう。そんな作者の力量は,およそ原作と似ても似つかぬB級サイコホラー映画『催眠』のシナリオすら論理的に取り込んだ次作『千里眼』で明らかになってくる。

 ところで全くの余談だが,主人公・嵯峨敏也の持ち歩くノートパソコンがPanasonic PRONOTE FGだったのには,思わず頬がゆるんだ。70cmの高さからコンクリに落としても大丈夫という米軍お墨付きのこのFG,本体がそこまで丈夫だと販売時の段ボール箱は薄い一重で十分なのだ。また,分解してみるとハードディスクが透明なゼリー状の物質でガードされていたことなど思い出す。
 ただ,お医者の持ち歩きPCといえば,普通はPowerBookかThinkPadだと思うのだが……?

先頭 表紙

よちみさま,『催眠』の原作は地味ながら一生懸命なA級です。お奨めです。それなのに次作の『千里眼』は思いっきりB級です。ヘンな作家です。 / 烏丸 ( 2000-10-08 01:05 )
菅野美穂主演の「催眠」はほんとにB級でしたね・・・。原作読もうっと! / よちみ ( 2000-10-06 23:45 )
『千里眼』は別な作者? と思うほどキャラ風が違いますので,ご注意。 / 烏丸 ( 2000-10-06 15:13 )
「千里眼」の著者でしたっけ?これも面白そうですよね。ワクワク。 / mishika ( 2000-10-06 15:08 )

2000-10-06 [雑談] Carsのメンバー,Benjamin Orr死去

【who's gonna come around when ...】

 アメリカのロックバンドにCarsという,パンクともちょっと違うな,エレクトロニックでクールでコマーシャルとでもいいますか,Andy Warholと組んでみたりするちょっとヒネたバンドがありまして,そのメンバーの1人,Benjamin Orrが膵臓癌で亡くなったそうです。

 この人がヴォーカルを担当したDriveというバラードがあるんですが(普段のヴォーカル担当はRic Ocasek),この曲のプロモーションビデオが実にもう,よいのですよ。

 15年くらい前,各テレビ局がポッパーズとかミュージックMTVとか,プロモーションビデオの専門番組をよく流していたころ(Michael JacksonのThrillerとかがウケにウケていた当時ですね),烏丸もわりあい熱心にチェックしてたんですが,その中でもベスト3には入れたい,というくらい好きな作品でした。

 歌詞は「誰が君を家まで送ってくれるだろう」というようなシンプルなものなんですが,そのビデオの「君」(若い女性)は,パーティがひけた後,笑って,泣いて,だんだん壊れていって,白い寝室にこもる,つまり「誰も家まで送ってくれない」,そんな感じです(多分に意訳しています。実際はそんな明確なストーリーはありません)。Benjamin Orrは,そのストーリーに直接荷担せず,淡々と歌っていました。

 帰ったら家人を起こして,久しぶりに見るとしよう。Drive...

先頭 表紙

2000-10-05 気分転換にイチオシ 『チャート式国語1・2 基礎からの漢文』 江連 隆 / 数研出版


【あにはからんや おとうとをや ……ん?】

 ここしばらく,春秋戦国を描いた『東周英雄伝』(鄭問),悪役扱いの多かった曹操を主に据えた『蒼天航路』(王欣太),聊齋志異風の怪異譚『諸怪志異』(諸星大二郎)など,中国古代史に立脚した骨太なコミックが続々と現れている(『西遊妖猿伝』はパス。不勉強で申しわけない)。

 とくに台湾の鄭問が史記,十八史略に材を採った『東周英雄伝』は逸品中の逸品で,水墨画と近代コミックの技術を融合させた大胆にして精緻な画面構成はただもう圧倒的。
 ……と,このまま『東周英雄伝』の紹介に入ればよいのだが,それでは芸がない──というより,烏丸の力量ではせいぜい全3巻に扱われている人物や故事を列挙するしかできそうもない──ので,ここでは少し角度を変え,別の本を紹介しよう。

 先に挙げた作品,あるいは田中芳樹らの中国史モノを読んでいると,要所だけでよいから原典にあたりたいという欲求がふつふつと沸いてくる。さりとて漢文の授業をさぼりまくったこの身には,今さら史記,三国志まるごとは荷が重い。

 たとえば漢詩なら,岩波文庫『王朝漢詩選』(小島憲之),岩波新書『新唐詩選』(吉川幸次郎,三好達治),講談社現代新書『漢詩をたのしむ』(林田慎之助)等々,そこそこ廉価,どこから読み始めどこで休憩してもそれほど後ろめたくない,そんな書籍が少なくない(1冊何万,何十万円という,恐れ多い書物も少なくないが,それはそれ)。こんな感じで漢文がダイジェストに味わえて,なおかつそれなりにお勉強になるものはないものか。

 ……お勉強? お勉強といえば学習参考書なんてどうよ。
 というわけで早速書店に赴き,コギャルに混じってぱらぱらあたってみたところ,これなどいかがであろう,『チャート式国語1・2 基礎からの漢文』。
 昔は背表紙見るのもうんざりな参考書だったが,今こうして自由な読書の対象としてみれば,その内容のなんと豊穣,懇切丁寧なこと。

 史記・十八史略に論語・孟子,道家・法家に屈原・陶潜。聖仙杜甫・李白に残った白居易。もちろんあれこれの漢文・漢詩には,返り点,送り仮名はもとよりルビ完備,語釈通釈は時代背景まで詳細。口絵,写真はおろか,巻頭には中国歴史年表,巻末には中国文学地図まで準備は万端。駅徒歩3分ビジネスホテルのお手軽さである。
 烏丸曰く,これだけ親切にしていただいて買わない手があるだろうか,いやない。一人書くひまじんのネット,すいすい書けざるいかんせん,具や具や今夜はカレーにしよう。

 ま,そういうわけで,久しぶりにめぐり合えたお気に入りを吟じて〆としたい。


     涼州詞  王翰

   蒲萄美酒夜光杯
   欲飲琵琶馬上催
   酔臥沙場君莫笑
   古来征戦幾人回

      蒲萄(ぶどう)の美酒 夜光の杯
      飲まんと欲すれば 琵琶馬上に催(もよほ)す
      酔うて沙場(さじょう)に臥(ふ)す 君笑ふこと莫(な)かれ
      古来 征戦 幾人か回(かへ)る
 
 

先頭 表紙

どういたましまし。風邪のほう,お大事に。 / 烏丸 ( 2000-10-06 18:20 )
烏丸さま、ご丁寧に全文引用していただきありがとうございます!ハイ、烏丸さまをうたった寒山寺ございます。漢字入力もご教示いただき、感謝感謝です。おかげさまで風邪から回復しつつあります。お心遣い、いたみいります! / 美奈子@本当はMac派 ( 2000-10-06 16:02 )
美奈子さま,お風邪の具合はいかがでしょうか。ご指摘は,ますます熱の出そうな,寒山寺を描いた楓橋夜泊でございますね。「月落烏啼霜満天 江楓漁火対愁眠 姑蘇城外寒山寺 夜半鐘声到客船」,つまりカラスマルのツキが落ちて,コソコソと客船で夜逃げする……ちょいと違いますね。変換で出てこない漢字の入力ですが,Windows98でしたら,たとえば「くちへん」と入力してF5キーを押してみてください。IMEパッドには手書き文字で探す機能もあります。Macintoshでしたら……口車大王さま,もしこちら,ご覧でしたらお願いいたします。 / 烏丸 ( 2000-10-06 11:45 )
私は「月落烏ナキ(口偏の。こういう字ってどう出せばいいの(涙))霜天満」っていうのが好き。ありきたりだけど。あーあ、岩波の唐詩選集ももってこればよかった。 / 美奈子@眠れない ( 2000-10-06 04:26 )
私も『大学への数学・理系新作問題演習』書いてます。秋山仁も何冊か書いたな。 / こすもぽたりん ( 2000-10-05 23:10 )
禁じ手と言われましても,なにぶんカラスですから,手はないんですよ。それに,これ,例の書評サイトでも一回公開しておりますです。少々手は加えておりますが……あっ,カラスだから手はないので,クチバシを加えて。 / 烏丸 ( 2000-10-05 16:36 )
うっそー、こんなんでくるの。禁じ手みたい。でも、イケテマスから、怖いんだな。 / mishika ( 2000-10-05 15:44 )

2000-10-04 [雑談] 声を区別する言葉(石川セリ,ジョン・レノン,カレン・カーペンター……)

 ケロロ軍曹の「第666野戦重砲マンガ小隊」が「NHK少年ドラマシリーズ」で盛り上がっていますが,それについて負けずに書こうとして,ふと思ったこと。
 人の声の質を表現する言葉って,なんでこんなに少ないのでしょう。

 そもそもは少年ドラマシリーズに『つぶやき岩の秘密』というのがあって,このテーマソング『遠い海の記憶』を歌っているのが石川セリ。のちに井上陽水と結婚した,大好きなボーカリストなんですが,この石川セリについてなんか書けるかな,書いてみたいな,と思ったところでつまずいてしまったわけです。
 彼女の声はかなり独特な質感があって,透明というには微妙に濁っているし,高い低いでは説明がつかない,平ぺったいような,やや発音の不明瞭な,広い声。……ぜんぜん,説明できません。きっと,知ってる人は「なんだそれ」とむっとしてしまうに違いない。

 いや,そもそも,誰かの歌声をうまく表現できる言葉なんてあるのでしょうか。
 ジョン・レノンの声をヴェルヴェットヴォイスと称するのはなかなか巧い表現なんだけれど,ポール・マッカートニーとジョンの区別がつかない人が多いくらいなのに(ジョンが射殺された夜,テレビのニュースは「ではジョンの声をお聞きください」と「レット・イット・ビー」をかけた。代々木公園に集ったファンがジョンを偲んで歌った,と報道されたのが「イエスタデイ」。どっちもポールです),はたしてヴェルヴェットヴォイスという表記で何が表現できているのか。

 モータウンサウンドなどのある種の裏声(スタイリスティックスなんかそうですね)をファルセットヴォイスというのはまだ共通認識できてよいほう。
 ハスキーな声,といえば確かにハスキーな声のことなんですが,同じハスキーヴォイスでも青江三奈と八代亜紀ともんたよしのりの声質の違いをどう表現したらよいでしょう。

 ずっと以前,プロモーションビデオを紹介する番組で,「最近,アメリカでは美しい女性ヴォーカルをたたえるのに,カレン・カーペンティッシュという形容詞が使われ」と言いながら,そこで紹介された新人バンドのヴォーカルは,悪くはないのですがおよそカレン・カーペンターの声とは異質なものでした。そもそも,カーペンターズのあの歌声は,「カーペンターズのような」という言葉以外にどんな表現で語れたというのでしょう。「美しい」「さわやか」「軽やか」……ぜんぜん特定できません。

 もちろん,言葉による表現には必ず限界があって,書き手の意図するイメージや論理がその通りに読み手に伝わるとは限らないわけだけど,たとえば「コバルトブルーの服」といえばだいたい明るい青なんだな,とか,「キリでさすように胸が痛い」といえばああぎゅうっと痛いのね,とか,それなりにわかります。そのあたりに比べて,「声」というのはその声を知らない人にはなんとも伝えにくい,いや,伝えようのないものなのであるなあ,と。

先頭 表紙

あっ,書いている間に,マイケルさまのあらたなつっこみが(汗)。↓で前者,後者というのは,マイケルさまの最初のつっこみと前半,後半をさしております。 / 烏丸 ( 2000-10-04 23:59 )
前者は,烏丸もそう思っていたところが,意外や区別をつけて認識していない人が多くてええっ!? と思ったことから。後者は,丁寧には書きませんでしたが,「ジョンの歌った」という余計なことを言ったテレビ局スタッフについてであって,ファンがジョン作詞の曲だと思っているぶんについては異論はありません(……と言いたいけど,あの当時,ジョンとポールをごったににした自称「ファン」がわらわらいて,烏丸は苛立っていたのでした。ジョンのファンのなんたらとか称する100人越える集会で,区別ついたのが数人だったと怒り狂った知人もいましたし)。かくいう烏丸にしても,その知人などに言わせればぜんぜんビートルズに詳しいわけではありませんが……。 / 烏丸 ( 2000-10-04 23:56 )
ただ、人間がどのように音を聞き分けているのか、というのは非常に興味があります。例えばJazzとかで、例えその演奏を耳にするのが初めてだとしても、最初の数小節を聞いただけで「あ、これはマイルス」「これはコルトレーン」とわかるのは不思議です。音に限らず、メロディもそうで、世の中には同じ曲でもちょっとテンポやアレンジを変えただけで元の曲が分からなくなる人がいるのが不思議です。 / マイケル ( 2000-10-04 23:53 )
言葉で説明できなくても認識はできる。「Let it be」がポールのボーカルであるのはビートルズにちょっとでものめりこんだ人なら区別がつくと思う。これは選曲した人がビートルズを知らなかっただけ。 「イエスタディ」に関しては歌詞の内容(ポールが書いた)がファンの心理を代弁していたのであえてファンがその歌を選んだのだと思います。 / マイケル ( 2000-10-04 23:27 )
カララ少佐どのっ、拙文をご紹介いただき、まことにありがとうございますっ! / ケロロ軍曹 ( 2000-10-04 19:22 )
あ,そういえば,烏丸は,石川セリのライブを見ました。ライブの少ない人なので,これもかなりポイント高いかも。そのときのライブは『セリシャス・ライブ』でレコード化されました。観客の拍手の中に,烏丸のぱちぱちも含まれているはずっ。 / 烏丸 ( 2000-10-04 18:59 )
大王さま,生カーペンターズをご覧ですか! それはうらやましい! カレンが亡くなったので,もう二度と見られない,貴重な体験ですねえ。烏丸は洋楽はブリティッシュロック(とくにプログレ)ファンですが,カーペンターズは大好きで,シングルレコードを『涙の乗車券』『遥かなる影』『愛のプレリュード』当時から,ずーーーーーーーーっと買っておりました。うるうる。 / 烏丸 ( 2000-10-04 18:56 )
ねむり猫さま,『つぶやき岩の秘密』は,LD,VHSで発売はされているようです。店頭で見たことはありませんが……。また,主題歌『遠い海の記憶』は,CDでは,石川セリのベストに収録されています。ときどき聞きます。 / 烏丸 ( 2000-10-04 18:51 )
をを、カーペンターズ。「券、余っているんだけれど、いっしょに行かない?」と友人に誘われたのが、カーペンターズ武道館コンサート。「行く!」と、いとも簡単についていったのですが、つい最近、あのコンサートは応募者が30万人もあったということを知って、「をを、口車、なんて運がよいんだ!」と思ったのでした。これで一生の運のかなりの部分を使い果たしたのかなぁ。 / 口車大王 ( 2000-10-04 18:35 )
「つぶやき岩の秘密」!これ聞きたかった。確かNHKで夕方6時、セリの[いつか思い出すだろ〜、大人になったときに〜]という歌忘れられませんが、覚えている人が回りに皆無でした。うれいい。ビデオでもう一度観たいんですがねぇ。 / ねむり猫 ( 2000-10-04 18:33 )
おっかさま,おほめいただき,まことにうれしゅうございます。「うれしいことのあった日は,いつもと違う道を歩くことにしている。坂道に,小さな白い花が揺れていた……」(森本レオの声で)。ちなみに,あの『蜜柑』は,ネットのお仲間から「お題ちょうだい」して書いたものでございます。ときどき三題譚のお題を募集しているのですが,募集するだけしてめったにそれで書かないという,ひどいやつです。 / 烏丸 ( 2000-10-04 17:44 )
目ウロコなお話でした。でも、知っているもの同士なら通じる表現というのもあるでしょうね。例:生クリームにきれいな灰を混ぜたような声(森本レオ)ところで、こんなところでなんですが『蜜柑』の話一瞬信じました。巧い! / おっか ( 2000-10-04 17:14 )
黄色い声はあって,なぜ青い声,赤い声はないんでしょうね。絹を裂くような悲鳴,小説では美人の悲鳴として描かれますが,絹を裂く音はエグいような気が。声を無理やり色分けすればカレン・カーペンターはオレンジ色あたりでしょうか。少なくとも紫ではない……。『黄色い部屋の秘密』はよく出来てます。とくに犯人が廊下で消えるトリックが爆笑(ほめているのです)。 / 烏丸 ( 2000-10-04 16:20 )
黄色い声ってえのは、どういう声なんでしょうなあ。『黄色い部屋の秘密』はルルー。誰も知らねえって、いまどき。 / こすもぽたりん ( 2000-10-04 15:22 )

2000-10-04 野球マンガのイチオシ 『ナイン』 あだち充 / 小学館


【百合ちゃーん】

 『タッチ』や『H2(エイチ・ツー)』から入り,あだち充の作品を題材に近代コミックの理念と技法の限界を解明したいという方には(いるのか? そんなやつ),この『ナイン』は必読である。なぜか。
 つまり,それまでは少女コミックで,主人公が不良だの病気だの,根の暗い青春ドラマを原作付きで描いてきたB級マンガ家あだち充が,この『ナイン』で初めて

   宝箱を開けた

からである。

 ストーリーは,高校の野球部が舞台,中学時代は陸上をやっていた主人公・新見克也とマネージャーにして監督の娘・中尾百合の青秀高校入学から卒業まで……でだいたい言い尽くされてしまう。まあこの手のスポーツものの常として,太った友人唐沢進ほか,脇役たちもまずまず活躍するわけだが。

 しかし,そこには,のちに『みゆき』でブレークする,主人公をめぐって髪の長い女の子と短い女の子(名前まで安田雪美だ)が入り乱れるというおなじみの設定,『H2』まで繰り返される勝ち負けより主人公たちの心理がメインのトーナメントなど,あだちマンガのパターンの多くがすでに登場している。もちろん『巨人の星』や『ドカベン』と違って「必勝」は求められない。唯一のライバルは主人公以外の選手のホームランで沈没,甲子園に出られたのは強豪チームのエラーのおかげ,行った先でも優勝するわけでもない。

 ……いや,そもそも,そういう設定や展開の問題ではない。あだちが手に入れた宝箱に入っていたのは,

   間(ま)

なのである。
 ここで勝負! の瞬間,ピッチャーやバッターから目をそらすあの絶妙の「間」,登場人物が自分をぎりぎりまで追い詰める直前,いきなり水着のアップに切り替えてしまうあの「間」。
 『ナイン』の第1話は,のちに青秀高校のエースとして活躍する倉橋永二の苦悩を描き,まだ少女コミック時代の重さを引きずっている。話がくどいし,重い。それが,第2話以降,あれよあれよのうちにページが白っぽく乾いていくのだ。

 というわけで,作品としての完成度,感動度は『タッチ』にとうてい及ばないものの,月刊誌に読み切り形式で連載された『ナイン』にはあだち充のそのへんのテクニックが洗練されないままムキダシに転がっている。その分,何度読んでもタイクツしないのである。

先頭 表紙

ふふふっ,手広く深く無節操が私のシュミ。内田善美と弓月光と前田俊夫とこせきこうじが同じ本棚に並んでたりするのさっ。 / カララ少佐 ( 2000-10-04 20:31 )
むむむむ、うーん、うーん、不肖ケロロ軍曹、じ、実は結構苦手でありますっ.... あっ、上官の命に逆らうとは、軍人にあるまじき行為、失礼致しましたっ。自分で営倉に入るでありますっ。 / ケロロ軍曹 ( 2000-10-04 19:24 )

2000-10-04 宗教マンガのイチオシ 『祝福王』 たかもちげん / 講談社(モーニングKC)


【神は我らの内に在る】

 『百年の祭り』『リストラマン太郎』『約束の人』など,7月に亡くなったたかもちげんの作品は文庫版『代打屋トーゴー』を除き,いまや新刊書店ではほとんど手に入らないのが実情だ。もっともいくつかの作品では連載当初の設定がなし崩しで,作品としての完成度はさほど高くない。
 しかし,埋没させるにはどうにも惜しい作品が1つある。モーニングに連載された『祝福王』全8巻だ。ただ,再販はしばらく難しいかもしれない。これは吉見正平という超越的な主人公が新興宗教の教祖となり,煉獄界を経て人々を救済するという内容なのだが,発刊(1991〜1992年)の数年後,日本人の多くはあのオウム・サリン事件であらゆる新興宗教に不快,不信と滑稽を感じるよう強く刷り込まれてしまったからだ。

 「宗教マンガ」の定義付けは簡単ではない。宗教を広く「人知を越えるものを信じること」とみなすと,人の生き様(死に様)を描き,宇宙や霊魂を語るあらゆる作品が宗教とかかわることになりかねない。たとえば手塚治虫『火の鳥』,日渡早紀『ぼくの地球を守って』。オカルトや神話に題材を求めたものも当然含まれるだろう。
 一方,山本鈴美香『白蘭青風』,桑田二郎『マンガエッセイでつづる般若心経』,石井いさみ『劇画人間革命』など,作者当人が宗教的高揚にかられたものや,宗派広報的な作品もある。

 『祝福王』は,宗教に正面から対峙して描き上げられた,字義通りの「宗教マンガ」である。
 ……ここで,実は信仰心なぞアライグマの小便ほども持ち合わせない烏丸は,ハタと途方に暮れてしまう。作者の意図が理解できないからだ。たかもちげんは宗教人だったのか。少なくとも,一部の作家のように「あちら」に行ってしまい,何を描いてもその教義越しという気配ではない。彼が宗教について描いたのはこの作品だけだし(怪談はいくつかあるが,オカルト盲信とは思えない),晩年の『警察署長』も穏やかな市民の日常倫理とアイデアに由来するものだった。

 しかし,かといって『祝福王』が現世の理屈の範疇に納まるようにも見えない。宗派間の闘争などにワンアイデア目的達成譚を見ることは不可能ではないが,それにしては主人公の予知能力,交霊能力,カリスマ性は催眠術等の特殊技能では説明できないし,後半,彼が母を追い求めてさまよう「煉獄」は,これまで他のマンガで見たこともないほど独特かつ壮絶だ。
 受苦を教義とする煉獄宗の本山地下の巨岩の下に展開する「煉獄」で,正平は醜悪な餓鬼,浮遊する自在神(複数の神からなる不気味な魚のような形だが,正平(絶対神?)の存在の前に自身を見失い,融解してしまう),全身「業」のウロコだらけの亡者(が見開きに何千人と折り重なって描かれ,それが正平の一喝にばっくり割れて悲鳴をあげるシーンはなんとも言いようがない),トゥーパとパーロゥという二柱の創造神らと出会うが,これらは最後まで幻想でなく「現実」として描かれる。

 最後は正平の出身地,桑折の谷に数百万の人々が集い,そこで煉獄の亡者がすべて昇天する。キリスト教の最後の審判にならったものだが,「祝福王」とは何か,最終回に3コマだけ出てくる少年「煉獄の王」との関係は,などいくつかの疑問が説明されないままだ。それでも「全てのものに従い自らを祝福せよ」という正平の教義が谷に繰り返し響き,読者は内なる神について問われる。
 ……問われても困るとは思うが,とりあえず一読をお奨め。

先頭 表紙

ああ、旧暦なら稲刈りの季節ですねえ。なるほどなるほど。 / こすもぽたりん ( 2000-10-05 14:12 )
あっ,お馬鹿ですね,烏丸。旧暦なら8月1日は現在の9月頭じゃないですか。それなら穂を摘むのもまあ考えられますね。 / 烏丸 ( 2000-10-05 11:52 )
……しかも,苗字を考えたのはずいぶん昔でしょうから,旧暦ですよねえ。むむ。 / 烏丸 ( 2000-10-05 00:03 )
八月一日で「ほずみ」って、ちょっと早くありません? うちの方では稲刈りはもうちょっと後なんですけど。 / こすもぽたりん ( 2000-10-04 21:04 )
ところで,この「八月一日」で「ほづみ」とか,「五右衛門」で「ごえもん」とか,名前を考えた人は,漢字とルビの対応を気にしなかったのでありましょうか。五右衛門など,いつもいつも,どこまでが「ご」でどこからが「え」なのか,もう気になって気になって。 / 烏丸 ( 2000-10-04 20:54 )
「八月一日」で「ほづみ」さんもおられるらしい。 / 烏丸 ( 2000-10-04 20:52 )
そういえば、「八月朔日」という名字もありましたっけ。「もちづき」だったと思いますが、上級生だったのでよく覚えてないっす。 / こすもぽたりん ( 2000-10-04 19:32 )
フオオ、し、知らなかったのでありますっ。あの苗字にはそんな秘密があったとわっ! / ケロロ軍曹 ( 2000-10-04 19:21 )
変わった苗字といえば,「開発」さんという方がいます。ケロロ軍曹のネムキ編で紹介された少女マンガ家の本名なんですが,おねーさんのペンネームが「花郁」悠紀子,いもうとさんのペンネームが「波津」彬子。 / 烏丸 ( 2000-10-04 16:32 )
私の田舎には、「四月一日」という名字があります。「わたぬき」と読みます。半纏の綿を毎年四月一日に抜いたからだと言われています。「あ、タヌキだ」で思い出しました。 / こすもぽたりん ( 2000-10-04 15:23 )
実は,最近都会の近くで「あ,タヌキだ」と言われる目撃例の多くが,ペットから野生化したアライグマなのだそうです(本当)。アライグマは,タヌキに比べると人間におびえないのか,エサを求めて人家近くまでくることが多いようですが,うっかり皮や糞にさわると寄生虫に感染するおそれがあります。これは,目にくると失明のおそれもある怖いものです。もっとも,タヌキだって狂犬病のおそれがあるなど,安心なわけではないのですが。 / 烏丸 ( 2000-10-04 13:29 )
「アライグマの小便」というのは、あれですか、やはり『ぼのぼの』に出てくるアライグマ君を想像しつつ、「そんな小便はいらない」とか「さてアライグマ君は小便をしたことがあっただろうか」などと考えつつ、それと信仰心の関連を探れとか、ああ、でも信仰心といえばぼのぼのの大きい姉ちゃんでしょうか。なんか妙に眠くて自分で何を書いているんだかよくわかりません。 / こすもねむりん ( 2000-10-04 13:16 )

2000-10-03 エログロのイマイチ 『中国残酷物語』 山口 椿 / 幻冬舎アウトロー文庫


【モアのテーマ】

 これも「イチオシ」でなく,「イマイチ」。
 「中国」「残酷」おまけに「掌編集」とくればこの烏丸,三度のメシよりウラメシヤ,まこと胸ときめく組み合わせなのだが,いかんせん萎える。

 作者は作家,画家,チェリストという多彩な顔を持つアーティスト,1931年生まれというからけっこう年配である。最近各社から文庫で再販の続くその著作,ポルノなのにポルノという言葉では語り切れない,という扱い。おお,それは凄そう! と反応するにはこちらもいい加減スレてしまった。「あー,ポルノとしてはおっ立たず,奇譚文学としてはエロがくどい,あのあたりかな?」
 あのあたりなんである。

 内容紹介は掌編がたくさんあって面倒なので,表紙カバーから。
 「秘密の花園で,美女の死体を肥やしにあでやかな百花を育てる男」「妻と弟の仲を疑い,弟の両手を切断,妻を生きながら壁にぬりこめた男」「憎い側室の手足を切り,鼻を削ぎ,耳を焼き,糞だめの中に放りこんだ皇后」……壮大な中国の歴史を舞台に語られる,この世で最も残忍残酷な拷問・復讐・惨殺・処刑の数々。人間はやはり悪魔だったのか。

 よい素材である。これだけの素材でわくわくさせないなら,それは書き手の責任だ。しかし,この山口椿の描くポルノは,描かれるセックス行為が倒錯的なわりに電車の中で読めてしまう。要するにフランス書院文庫の隠微,グリーンドア文庫の羞恥,マドンナメイトの可憐(笑),いずれにも至っていない。しいていえば富士見ロマン文庫翻訳シリーズの高踏に近い。マグネシウム成分のない食塩のように,猥雑の雑が足りないのである。
 しかも,本作は中国を舞台にしながら,漢文からゆえの重さ,キレのよさがない。和モノ,ひらがなの粘着質から逃れられないとでもいうか,たとえば『半七捕物帳』の岡本綺堂が『中国怪奇小説集』(光文社文庫)を書けば,ちゃんと中国の怪奇譚ならではの手応え読み応えがあるというのに,それがない。

 もちろん,それならそれで,山口製和モノ怪奇譚として読めばよいわけだが,掌編が35編も並ぶとそのウェットさにうんざりしてくる。多分,残虐な行為の一つひとつを書きながら,著者がビビッドに反応しすぎているのだろう。
 幼稚園年長の折りより親にせがんでヤコペッティのモンド映画を見にいっていた烏丸のワンポイントレッスン,残酷物語はリアルに淡々と書いたほうがびゅーてほー。

先頭 表紙


[次の10件を表示] (総目次)