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烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2000-09-28 知らないと損をする寄生虫シリーズその2 『空飛ぶ寄生虫』 藤田紘一郎 / 講談社文庫
2000-09-28 知らないと損をする寄生虫シリーズその1 『笑うカイチュウ 寄生虫博士奮闘記』 藤田紘一郎 / 講談社文庫
2000-09-27 重いネタ続いたのでちょっと一服 『タイニーポムポム』 坂田靖子 / 小学館(プチフラワーコミックス)
2000-09-27 言葉遊びシリーズ最終回 『いろは歌』実作に挑戦!
2000-09-27 言葉遊びシリーズその4 『いろは歌』
2000-09-26 言葉遊びシリーズその3 『仙界とポルノグラフィー』 中野美代子 / 河出文庫
2000-09-26 言葉遊びシリーズその2 『頭の散歩道』 阿刀田 高 / 文春文庫
2000-09-25 言葉遊びシリーズその1 『ニホンゴキトク』 久世光彦 / 講談社(講談社文庫)
2000-09-25 [雑談] マンガの最終回 あれこれ その4 少女マンガの最終回
2000-09-25 マンガの最終回シリーズ 『エースをねらえ!』 山本鈴美香 / 集英社


2000-09-28 知らないと損をする寄生虫シリーズその2 『空飛ぶ寄生虫』 藤田紘一郎 / 講談社文庫


【コブが消えて,動いて,また,出現する……】

 『笑うカイチュウ』の続編である。主に国内を舞台とした前作に比べ,世界をまたに寄生虫を追い求める藤田先生のペンはさらになめらかだが,笑いの中に語られる批評は重い。

 本書では,カイチュウやサナダムシといったおなじみの寄生虫はあまり姿を現さず,おもに海外で伝染する恐ろしい病気が次々と紹介される。
 それに対する予防は難しく,治療もまた難しい。現在世界でもっとも普通の病気といわれるマラリアは,ハマダラカがヒトを吸血する際にマラリア原虫がヒトの体内に入り込む形で感染する。しかし,そこまでわかっていながら,現在の医学ではワクチンが作れない。体内に入ったマラリア原虫が,ヒトの細胞の中に入り込んでしまうからだ。世界中で莫大な費用をかけて研究されているにもかかわらず,いまだこれといった予防策はなく,藤田先生も親しい友人をマラリアで亡くして涙する。
 本書では,他の寄生虫が介在することで,マラリアに感染しない,という別の角度からの予防法の可能性が示唆される。

 あらゆる生物同様,寄生虫のレゾンデートル(存在意義)は「種の保存」にある。だから,寄生虫たちは想像を絶するあの手この手を用いて宿主の体に入り込み,その宿主の免疫防御機構をくぐりぬけて生存を続ける。その際,宿主が感染症によって急激に倒れてはもともこもないわけで,寄生虫病は慢性的に表れて進行する。そして,(ここが凄いところだが)自分より遅れて入ってくるモノには,宿主に防御反応を起こさせるように仕向けるのだそうだ。

 そして,寄生生物の進化適合は早い。だから,多くの寄生虫は宿主を殺さないよう穏やかな「共存」を目指して進化していく。藤田先生は,あのエボラ出血熱ウイルスも,ヒトに排除されるか,適合するか,どちらかの道をたどるだろう,と予言する(ただし,ヒトに排除されるとは,病原体がきわめて強い伝染力を持って宿主たるヒトをすべて殺してしまう場合も含まれる)。
 現に,ミドリザルのエイズウイルスは,適合してしまってミドリザルではエイズの症状を引き起こさないそうである。

 しかるに昨今の日本は,過剰な潔癖症ともいうべき状態にあり,抗生物質の乱用,抗菌グッズなどの氾濫などのため,本来なら穏やかに適合していったはずの一部の大腸菌が生き延びるために赤痢菌の仮面をかぶって食中毒の症状を起こすようになった……それが「O-157」だ,というのである。
 もっとも,だからといってエイズやエボラ出血熱がはびこり,進化するに任す,というわけにもいかないとは思うのだが……。

 『笑うカイチュウ』や『空飛ぶ寄生虫』は,寄生虫を題材にしたエグいお笑いエッセイとして読み飛ばすことも可能だ。しかし,文化と自然について考え,生活を省みる機会を与えてくれる1冊であることは間違いない。少なくとも本を読んで寄生虫に感染するわけではないので,食卓に1冊,いかがであろうか。

先頭 表紙

……と,本文はいちおう絶賛気味に書いておいたが,この人,じゃっかんソコハカトナク「とんでも」の臭いがする(単なるロマンチストなだけかもしれないが)ので,全面的に信用するのはちゃんと自分の目と腸で確かめてからにしましょう。 / 烏丸 ( 2000-09-29 00:05 )

2000-09-28 知らないと損をする寄生虫シリーズその1 『笑うカイチュウ 寄生虫博士奮闘記』 藤田紘一郎 / 講談社文庫


【摘出された女児の眼球を調べたところ,イヌカイチュウの幼虫が……】

 一部の読書家の間では,ここ数年,「イカ!」と呼べば「ぎっちり詰まった寄生虫!」と答えるのがツウのワザである。これは主に唐沢俊一,ソルボンヌK子『大猟奇』の画像によるが,実は『帽子男』シリーズで知られる上野顕太郎の新刊『ひまあり』でもイカの寄生虫が「うよん」とくねっている。
 このように寄生虫についての想念と現象が偶発することをユングはアニサキス・シンクロニシティと呼んでいる。本気にしないように。

 さかのぼって1960年代後半,寄生虫の「うよん」にすでに着目していた作家がいた。筒井康隆である。初期の短編集『アフリカの爆弾』に収録された「メンズ・マガジン 1977」(1977は執筆時には近未来の意)では,撮影用ライトに温められたヌードモデルの腹からサナダムシが2メートルも這い出し,悲鳴を上げてスタジオを出ると,外気の冷たさにサナダムシはふたたび彼女の暖かい直腸の中に1メートルばかり引き返す。さすが筒井御大,30数年後の寄生虫ブーム(そうか?)を予見して余裕のよっちゃんカギサナダ。

 さて,昨今の寄生虫ブーム(だから,ブームなのか?)のきっかけは『大猟奇』かもしれないが,中核にあるのは藤田紘一郎先生の『笑うカイチュウ』であると断定して異論はないだろう。
 藤田先生は西にカイチュウの卵とじありと聞けばよだれを流し,東にイヌ,ネコの寄りつく砂場ありと聞けばフンを求めて駆け参じる。本書冒頭,インドネシア在留の美人の奥さんが,駆虫剤が効いて30センチのカイチュウをヒネリ出し,トイレでそれを握ったまま失神してしまうシーンなど随所に笑いを誘う。
 しかし,忘れてはならないのは,本書『笑うカイチュウ』は一概に寄生虫を悪物として描いているだけではないということだ。

 藤田先生の指摘は,こうだ。現在の日本では,花粉症やアトピー性皮膚炎など,アレルギー性の病気が急増している。ところが,調べてみると,寄生虫感染率の高い国の在留邦人にはアレルギー症が極めて少ない。これは,寄生虫が入り込んだヒトの体内ではその排泄物が抗原になって抗体が作られ,その結果,スギ花粉やダニに対する抗体が作られなくなり,他のアレルギー症が抑えられる……というのである。
 つまり,アレルギー症の蔓延は日本人の過度の潔癖志向に要因があるとし,寄生虫の研究がアレルギー症の対策になるという可能性が示唆される。

 体内でうごめく寄生虫は,なんとも気味の悪い,怪しげな存在である。命にかかわる病疾患の原因となるものも少なくない。藤田先生はまた,日本人がどんどん海外に出ていく時代なのに,寄生虫病について十分な知識のある医者がほとんどいなくなっていることを心配する。
 我々としてはとりあえず本書によって,どのような食べ物をどう食べると危険か,という点をおおまかにでも把握しておくことが大切だろう。イヌやネコのようなペット,キタキツネやサルのような野生動物から感染する寄生虫もいる。たとえばドジョウの生飲みはガッコウチュウ(本来はブタの寄生虫)の感染の危険がある。ガッコウチュウは幼虫のまま,人体を縦横に這い回る。

 寄生虫については,過剰に反応するのも禁物だが,あまりに無用心なのもまた問題である。これは性病に対する姿勢と変わらないかもしれない。
 というわけで,寄生虫談義,もう少し続く。

先頭 表紙

そうです。『ガ○○の○タ』です。ロアロア病とか怖かったっぴ〜。 / こすもぽたりん ( 2000-09-28 13:25 )
今回はそっち方面には触手(うねうね)はのびませんので,『○○○の○』(ですよね?)は出てまいりませんです。 / 烏丸 ( 2000-09-28 12:43 )
あの本出てくるのかなあ、どきどき。「ガ○○○○タ」ですけど。あれは嫌だったにゃ〜。 / こすもぽたりん ( 2000-09-28 12:11 )

2000-09-27 重いネタ続いたのでちょっと一服 『タイニーポムポム』 坂田靖子 / 小学館(プチフラワーコミックス)


【烏丸氏の優雅な生活】

 坂田靖子の「おっかけ」はつらい。次の単行本がどこから出るのか,見当がつかないからだ。
 彼女の単行本・文庫本は合わせると百種以上あり,最も多いのは白泉社だが,それ以外にも潮出版社,小学館,早川書房,講談社,双葉社,秋田書店,偕成社,文藝春秋,主婦と生活社,理論社,新書館,朝日ソノラマなどなどから発売されている。一部は既刊の文庫化や傑作選だが,油断しているとマンガについてメジャーとは言いがたい出版社から発売され,知らないうちに品切れ,ということもある。
 決してマイナーな作家とは思えないのだが,人がよいのか白泉社の囲い込みが甘いのか,これは脅威だ。書店店頭で新刊を発見したときはほっとして,「出すなら教えてくれよ,おーい」とへなへなしゃがみこんでしまう(今後はオンライン書店でときどき確認すればよいのだが)。

 『タイニーポムポム』はこの夏に発刊された最新オリジナル作品集。いつもより絵が粗い気もするが,もともとが少女マンガとしては緻密なほうではなく,なんともいえない。

 さて,坂田靖子の作品の基本的パターンは「異界に常識人」である。
 少し説明しよう。SFやホラーにおいて,その世界の構成をごく簡単にまとめると,
 (a) 常識的な世界に異常な人物
 (b) 異常な世界に常識的な人物
の2つに分かれる。「常識的な世界に常識的な人物」ではSFやホラーにならないし,「異常な世界に異常な人物」では前衛的すぎてわけがわからない。
 (a)の常識的な世界に異常な人物が現れてかきまぜるパターンはケロロ軍曹ご推薦の伊藤潤二『富江』をはじめ多くのホラー作品がそうだし,大島弓子の初期作品もこれに含まれるだろう。坂田靖子の作品も一部はこれに属すが,大半は(b)である。現実がある日(あるいは最初から)わけのわからない非現実的な世界に変貌し,しかも身内や友人もそれに動じない。常識的感性の持ち主である主人公だけが驚き,あせり,走り,怒る。これが坂田作品の展開である。
 イギリス貴族の日常を描いた代表作『バジル氏の優雅な生活』ではきわだって非現実的な事態は描かれないが,よく読むと状況に応じて登場人物が交代で「異常界」を演じ合っていることがわかる。ある話では主人公バジルは常識人だが,ある話では女盗っ人や孤児の少年の側が常識で彼が異界である。
 異常だの常識だのと漢字が多くて申しわけないが,「ボケとつっこみ」と言うと話が早いかもしれない。

 坂田作品のおもしろさは,その異常な世界がどれほどトンデモハップンか,常識人がどうそれに驚き,あわてるか,それがまず第一。そして第二に,常識側と思われた者が最後に実はやっぱり異常な側だったことを示されたときの世界のゆらぎ感にある。たとえば名作「トマト」における主人公と妻のゆらぎは素晴らしいものであった。

 こうしてみると,『タイニーポムポム』に描かれた「異常」は坂田靖子にしてはそうトリッピーではない。はねっ返りのお姫様のおつきに犬を指名したというタイトル作も,異常なのが世界なのか人物なのか,支点が明らかでないまま軽くどたばたして終わってしまう。「落ち葉のロンド」も現れたモノの異常さが坂田らしいスットンキョーにいたらない。この1冊,坂田ファンが買うのには異論はないが,そうでない人にお奨めするのはどうだろう。少なくとも入門にはほかにもっとよいものがたくさんあるような気がする。

 このほか,坂田靖子とクリスマスなど,いくらでも書きたいことはあるが,今回はここまで。

先頭 表紙

で、テレビをつけると「貞子」が這い出して来るというわけですな。よし、引越しだ! / こすもぽたりん ( 2000-09-28 22:05 )
もちろん,カーペットが盛り上がっていて,なんだろうとめくってみると『富江』の本が出てくるなんてことはないし,森博嗣はもう書評を書いたから片付けようと手にとると本文の「萌絵」の2文字がすべて「富江」に変わっているはずはないし,気がつくと本棚の本がみんな『富江』『富江』『富江』『富江』………………。 / 烏丸 ( 2000-09-28 20:35 )
本屋に寄ったら、映画化記念「富江(全)」なる分厚い本が売っていませんでした。もちろん、手にとりませんでした。 / 弱虫ぽたりん ( 2000-09-28 19:43 )
ちなみに最近の芥川賞周辺作品は,「どこかよくわからない世界で自分が何者かよくわかってない人物」が口だけ達者,な作品が多くて,困ってしまいます。なにしろ,作者が自分のことをよくわかってないことに胸張ってるんだものなあ。普通,照れるか恥じると思うんですが。 / 烏丸 ( 2000-09-27 23:46 )

2000-09-27 言葉遊びシリーズ最終回 『いろは歌』実作に挑戦!

【Do it yourself!】

 さて,回文,いろは歌と,いくつか言葉遊びを取り上げてきたが,ただ先輩諸氏の技に「ははー,なるほどー」と口を開けて感心するばかりではつまらない,実際に挑戦してこそ楽しみがある。
 というわけで,及ばずながらこの烏丸の拙作いろは歌を2つばかりお目にかけようと思う(いずれも「ゐ」「ゑ」の旧仮名を除き,「ん」を含むため46文字)。

   夢知らず
   女は怖い鵺(ぬえ)のよう
   あまたへ広がる煙もれて
   乳房や背骨に其を満つという

    僕の恋
    あなたへ告げよかメロドラマ
    日は裾をやんわり射して揺れ
    胸 見せ終えぬ気持ちに震う

 ちなみに,いろは歌を作るときのコツだが,とにもかくにも「ぬ」「ふ」「わ」「ほ」「む」「め」「ろ」といった,日本語の語彙に頻繁には登場しない文字(JISかなキーボードでも隅のほうに追いやられている)を先に攻めること。そして「て」「に」「を」「は」「へ」「と」などのなんとでも使える助詞はできる限り使わずに最後までとっておく。この2点に尽きる。

 回文といい,いろは歌といい,時間を持て余したようなとき(いや,むしろどうしようもなく時間に追われたときかな?),これほど贅沢な遊びはないと思われる。貴方もいかが?

先頭 表紙

そうなんですよね、練ると纏まるんですけど、インパクトがその分減りますね。最初に「犬踏めばほらワンと鳴き困ったぴょ〜」を思いついた時には笑いが止まらなかったのですが。やはりこれはスナックで水割り片手に考えるというのがいいかも。「悪魔の手鞠唄」と彷彿とさせるというかの消えた名作の甦らんことを! / こすもぽたりん ( 2000-09-28 22:08 )
うーん,まとまりはいいんですが,もとの「無知ねビルゲイツ/愚かジョブス」のほうがびっくらインパクトが。しかし,本文にも書きましたが,「ぬ」「ふ」「わ」「ほ」「む」「め」「ろ」,この7文字がネックでしょ。 / 烏丸 ( 2000-09-28 20:29 )
再挑戦のゲイツ・ジョブスもの。『無知なビルゲイツ / 豊かさ理論を聞く部屋へ / それを見て笑え魔物 / ジョブスに逢おうとせねば誉めぬ』 / こすもぽたりん ( 2000-09-28 19:29 )
あ、しまった。ビルゲイツのやつは「ね」が2回使われてるわ。前面改稿して再挑戦だい! / こすもぽたりん ( 2000-09-28 12:10 )
こりゃーすごい。最後の2節がちょっとあれですが,そこまでは完璧ですね。弟子入りさせてください。 / 烏丸 ( 2000-09-27 23:37 )
↓は、オレと寝れば悪いようにはしないと弓矢を手に迫るゲイツにジョブスが「寝ぬわ!」と抵抗している様子です。 / こすもぽたりん ( 2000-09-27 21:41 )
本当にこれで終わりにして帰ろう。お腹減ったし。「無知ねビルゲイツ/愚かジョブス/晴れの間で怒鳴りあう声/先へ細らせた弓矢を眼に文句/『寝ぬわ!』」う〜ん、オチがいまいち。明日練り直そう。 / こすもぽたりん ( 2000-09-27 20:48 )
参りました、ってこんなにすぐかなうわけないじゃん。修行、修行。 / こすもぽたりん ( 2000-09-27 20:34 )
んでは負けじと新作,「眠る被害者 背にナタぬらり/ヘアは血まみれ 風呂の湯エステ/ほめよワトソン 聞け考察重く」 / 烏丸 ( 2000-09-27 20:27 )
ふわりビル屋根から/さてミケよ運べ/労務士にユモレスク/街の細き女を愛せたメヌエット / こすもぽたりん ( 2000-09-27 20:14 )
うーん、なかなかに難しい。第2弾を提出して今日は帰ります! それでは、第2弾。 / こすもぽたりん ( 2000-09-27 20:09 )
をを、さすがです。白猫も町へゆくのニャ〜! / こすもぽたりん ( 2000-09-27 18:27 )
ちょっと改定。「犬踏めば/それがワンと鳴き/あせったピョ/無理するさ/白猫も町へゆくのニャ/ほら上を見ておけ」。とっぴんしゃん度はもとのほうがよろしいですなあ。 / 烏丸 ( 2000-09-27 18:16 )
お見事。なかなか大変でございましょう。ところで,↑の2つを作ったころは,頭の中がいろは歌でいっぱいで,あるスナックで酒飲みながらでも作れてしまいました。それが密室殺人を歌う(歌うな)大傑作(自分で言うな)だったのに,数日後メモをどこかに紛失(なくすなー!)。ああ,いったいどんな作品だったのやら……(泣)。 / 烏丸 ( 2000-09-27 17:57 )
格調低ぅい。白ヘチマ桶とは猫の森の奥に百年に一度実をつけるという幻の白ヘチマで作った桶です。 / こすもぽたりん ( 2000-09-27 17:50 )
犬踏めば/ほらワンと鳴き/焦ったぴょー/猫がそれ見て/上を行(ゆ)くのニャ/白ヘチマ桶も無理するさ / こすもぽたりん ( 2000-09-27 17:49 )
むふ〜、午後一杯これにはまってしまった。しかもエクセルで専用シートまで作って。なかなか難しいですなあ。 / こすもぽたりん ( 2000-09-27 17:47 )

2000-09-27 言葉遊びシリーズその4 『いろは歌』

【いろはのい】

   色は匂へと散りぬるを
   我か世誰れそ常ならむ
   有為の奥山今日越えて
   浅き夢見し酔ひもせす

 言うまでもなく,いろは歌である。
 仮名をすべて織り込み,なおかつ平家物語冒頭の「祇園精舎の鐘の声,諸行無常の響きあり……」の一節同様,仏教の哲理をうたいあげて隙なしと言う,世界に誇るべきまこと稀有にして見事な作である。

   以呂波耳本部止
   千利奴流乎和加
   餘多連曾津禰那
   良牟有為能於久
   耶万計不己衣天
   阿佐伎瑜女美之
   恵比毛勢須

 万葉仮名で表記するとこうなるが,このように改行した場合の各行の最後の文字をつなぐと

   止加那久天之須

すなわち「とが(科)なくて死す」と読め,これは誰かが無実の罪で捕えられ,その無念を込めた歌なのではないか,そんな説もある(赤穂浪士の切腹の折りにこの歌,巷間にまま落書きされたそうである)。

 ともかく,かな47文字を一度ずつ織り込んで文を作るとどのくらいパターンがあるかといえば,47!(47×46×45×44×43……5×4×3×2×1),すなわちざっと25*10^58(25×10の58乗)ほどとのこと。

 というわけで,先に紹介した阿刀田高『頭の散歩道』に掲載されたいろは歌作例をいくつかご紹介したい。

 まず,江戸中期の国学者・本居宣長の作とされるもの。内容はともかく,七五調におさまりきらず,リズムが悪いような気がするのだがこういう歌の形式があったのだろうか。

   雨降れば
   井堰(いせき)を越ゆる水(みづ)分けて
   安く諸人(もろびと)下(お)り立ち植ゑし群苗(むらなへ)
   その稲よ
   真穂(まほ)に栄えぬ

 続いては,明治時代の新聞「万朝報」が公募した際の入選作。

   鳥啼(な)く声す夢醒ませ
   見よ明け渡たる東(ひんがし)を
   空色(そらいろ)映(は)えて沖つ辺(へ)に
   帆船(ほふね)群居(むれい)る靄(もや)の中

 後者は48文字である。明治期になると「ん」が仮名の扱いを受けるようになったということか。よくみると,「い」「え」が2度ずつ表れている。「ゐ」「ゑ」の旧仮名を数えているということだろう。

先頭 表紙

2000-09-26 言葉遊びシリーズその3 『仙界とポルノグラフィー』 中野美代子 / 河出文庫


【孫さま ナスダックJが くあーッ!】

 続いて紹介するのは,中野美代子『仙界とポルノグラフィー』からの長〜い回文である。

 著者は,北海道大学(漆原教授のいる,ハムテルや二階堂の母校)の言語文化部教授で,『西遊記』の専門家。同書は,タイトルだけ見るとエッチな本かと勘違いされそうだが,表紙にも本文にもそんな気配は一切なく,全編これ中国の古代文化の研究から得られた森羅万象についての薀蓄,奇想のカタマリで綴られた本。
 『西遊記』に登場する白い鸚哥(インコ)のイメージが西洋の古地図の中に発見されたことを発端に,十六世紀の東西文化交流史を探り,さらに話題は古地図とパラレルな関係にあった星座図の中の鯨座へ,さらに龍,博山炉へと至り……。澁澤龍彦の古代中国版だと言うと,だいたいイメージしていただけようか。
 いかんせん,この本をたっぷり隅々まで楽しむには,烏丸の側に古代中国文化の素養が足りず,「とても面白かったです」と小学生の感想文でシメるしかない。

 さて,問題の回文だが,これは著者が,同書の中で『西遊後記』として,つまり三蔵法師や孫悟空のその後を回文で表そうとした,ということになっている。西天取経(シイテイエンチユチンとルビあり)というのが,要するに天竺までお経をとりにいく旅のこと。……とりあえず一部引用してみよう。

   孫さま 酒醒めた。
   八戒かて酒醒めた。
   桃と人参果食べろ! くあー(ッ)!
   止めだ! もー止めだ!
   西天取経は止めだ。
   日本に行こう,そして,
   美代子 どうも! 飲もう!!
   くー(ッ)! 極楽,極楽……
      (16行,略)
   悪路経た勧進に,友も駄目さ。
   今朝 でかい河童 駄目!
   酒醒まさんぞ!

 1行目の「孫さま 酒醒めた」と,最後の「駄目 酒醒まさんぞ」,という具合にすべての発音が対応しているのがおわかりいただけるだろうか。

 同書では,中野美代子氏とその弟子の武田雅哉氏の長編回文バトルが繰り広げられ,あげく,武田氏は回文詩人としてデビューすることになる(中野氏の回文は両端から発して真ん中へ攻めていき,武田氏は真ん中からスタートして前後に伸びていくのだそうだ)。

 ただ,正直言うと,こういった会話やカタカナ混じりの回文は,先の『頭の散歩道』で阿刀田高氏の推すタイトな作品に比べると,個人的にはあまり好みではない。苦しいときに,「うー」とか「ラー」とかの感嘆詞を入れられるわけだし,口語文の中に文語文(極端な場合は方言など)が混じるのもOKということになってしまう。長さではかなわなくとも,文体や内容がびしっと決まった短歌形式のほうを美しく思うのはこの烏丸だけだろうか。
 もっとも,同書のあとがきすら「悲劇のウロボロス」と題された7ページにわたる回文でシメた中野氏の底知れぬパワーには,心から敬服する。いやはや。

 というわけで,回文についてはここまで。だが,言葉遊びについては,まだ数回続くのであった。

先頭 表紙

2000-09-26 言葉遊びシリーズその2 『頭の散歩道』 阿刀田 高 / 文春文庫


【波のり舟の音のよきかな】

 阿刀田高といえば,ブラックな珈琲に一匙のユーモア,それにほんの少しエッチなエッセンスを加えたようなショートストーリーテラーとして知られているが,長年の国会図書館勤務の経験を生かしたものか,パーティパズルの類のコレクションも相当なものである。本『頭の散歩道』は,その方面の傑作。文字や言葉,数字をおもちゃにした知的遊戯が詰まっていて,しかもその遊びがきちんとしたロジックに裏打ちされており,まことに面白い。
 昨今よく書店店頭に平積みされている凡百の「おもしろ」文庫の類とは一線を画す,本当にお奨めの1冊である。

 いくつか内容をアットランダムに拾ってみると,
   三権分立だってじゃんけんポンと同じ三すくみの仲間
   十字架遊び,リレー遊びなど,漢字で遊ぶ
   清少納言のタングラムなど,不思議な図形
   確立の魔術,紅白歌合戦の出場者で誕生日が一致するのは何組?
   地球を相手に推理ゲームを楽しむ
   数当てゲームや魔方陣
   起承転結,黄金分割,フィボナッチ級数など,人間が心地よいと感じる形式美の法則
   マッチ棒遊びを極める
といった具合。それぞれ,さらりと読めながら,考えれば考えるほどにパズル性,意外性が深く,なかなか一筋縄ではいかない。
 たとえば,
   ダメ×ダメ=ヤメテ
のそれぞれの文字に数字をあてはめることはできるか?
   2桁の数字をかけて3桁になるということは,「ダメ」は10から31の間(32×32は4桁になる)
   「メ」と「メ」をかけると「メ」以外になるということは,「メ」は0,1,5,6ではない
といったことを積み重ねていくと,答えは? ……といった具合。
 著者は,このように国語と算数を組み合わせた形で,さまざまな「現代の言葉遊び」の可能性を探ってみせてくれるわけである。

 さて,そういうわけで,先の『ニホンゴキトク』の紹介文でもいくつか例を挙げた「回文」である。世の中には凄い人がいることをこの『頭の散歩道』は教えてくれる。

   ここはキャバレ スタミナ満たすレバ焼きはここ
   伊予の酒めしにお煮しめ今朝の酔い
   濡らしては,初夜は,はやよし果て知らぬ
      (以上,阿刀田氏の作)

   長き夜のとをの眠(ねぶ)りのみな目醒め波のり舟の音のよきかな
      (よみ人知らず。七福神の絵にこの歌を添え,正月ニ日,布団の下に敷いて寝る)

   栃と若,組む利捨て,顔火照り,逸り立つ時,一入(ひとしお)大胆に往(い)なしては,頻(しきり)に叩(はたき)て,得た機押し込むも見切りに,膂力(りょりょく)尽きるや,と。四股(しこ)効く膝,渡し込みも逃げない。寄っては砂掃きつつ吊り,蹴りつつ突き放す。果て強い投げにも見越した業(わざ),低き腰,と遣(や)る気。突くより寄りに,力み,揉(も)む。腰を鍛えて来たは,ニ力士,果てしない忍耐だ。押しと引き,とったりや張り手,頬か手擦り剥く皮と血と。
      (島村桂一氏の怪作の1つ)

 しかも,ただ回文を列挙するだけでなく,回文作成のテクニックや,便利な回文向き用語集まで用意されて,「参加型イベント本」としても実にもう至れり尽せり。

 ということで,まだまだ続くよ回文の旅。みんなも回文,ゲットじゃぞお。なお,『頭の散歩道』はこの後,もう一度ご登場いただく予定である。

先頭 表紙

ふーむ,それではもう神居氏の調査を待つしかないです。 / 烏丸 ( 2000-09-26 17:54 )
私の読んだのはタイガー立石ではなかったです。福音館のページでは見つかりませんでした。 / かむい ( 2000-09-26 17:29 )
紀伊国屋BookWebであたってみると,野崎昭弘【文】タイガー立石【絵】『さかさまさかさ』というのがあるようだけど,どうでしょか。 / 烏丸 ( 2000-09-26 16:57 )
子供の頃に読んだ,福音館の絵本だったと思う。ひょっとしたら回文の作者と絵は別だったかも。 / かむい ( 2000-09-26 16:34 )
いや,土屋耕一の本のタイトルになってたりするくらいだから,谷川ってことはないと思うです。しかし,絵本というのが。 / 烏丸 ( 2000-09-26 16:12 )
その回文は、谷川俊太郎さんのものでしょうか。なんかそんな印象なんですけどね。 / mishika ( 2000-09-26 13:46 )
絵本作家というのは,知らないなあ……思い出したら教えてください。「かるいきびんな……」はすでにスタンダードかと思ってました。 / 烏丸 ( 2000-09-26 12:10 )
回文といえば,名前を失念したのだが,かわいくて優雅な秀作を作る絵本作家がいます。「かるいきびんなこねこなんびきいるか」 / かむい ( 2000-09-26 11:59 )

2000-09-25 言葉遊びシリーズその1 『ニホンゴキトク』 久世光彦 / 講談社(講談社文庫)


【宇津井健氏はドッキリアヘ】

 マンガが続いて,少し飽きてきた。マンガを読むのに,次はどんな切り口で取り上げようかとミケンにシワを刻むのもよいが,24時間天地茂ではちと疲れる。というわけで,マンガの最終回シリーズは少しお休みいただいて,今回から数回,日本語による言葉遊びをあれやこれやご紹介したい。

 「じれったい」「辛抱」「気落ち」「きまりが悪い」「冥利に尽きる」「面変わり」「できごころ」「気くたびれする」「按配がいい」……ああ,よい。こうしてキーボードから打ち並べるだけでも色香があって,指障りのよい柔らかな言葉の数々。しかし,これら艶のある日本語は,いまや気息奄々,滅びの斜面を下る一方。
 『ニホンゴキトク』は,そうした滅びる寸前の言葉を一つひとつ取り上げ,それらへの尽きぬ愛を語るエッセイ集。言葉を扱う仕事や趣味に生きる方には,ぜひともご一読をお奨めしたい。ただし,この本で取り上げられた言葉に一々反応してしまうようなら,すでに貴方が滅びかけのキトクなニホンジンであることの証しかもしれないが……。

 著者の久世光彦は,TBS『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』などで知られる演出家。最近はシックな小説やエッセイ集を多数発表しており,この烏丸はベックリンの「死の島」やビアズリーの「サロメ」を扱った『怖い絵』がお気に入り。

 さて烏丸が本書を取り上げたのは,本そのものをお奨めするためだけではない。この本からいくつか「言葉遊び」を取り上げ,紹介しようという,姑息な企てゆえである。お叱りは後で承るとして,早速始めることにしたい。

 さて。皆様は

  甲州高校良し。先生,始終小さい検定模擬試験。

というのをご存知だろうか。『ニホンゴキトク』の一節に紹介されたものだが,烏丸は(文字通り)不勉強にして知らなかった。

  甲州高校良し。先生,始終小さい検定模擬試験。
  ↓↓↓↓↓  ↓↓ ↓↓↓↓ ↓↓↓↓
  家家家 綱  家家 吉家家家 家家家慶
  康秀光綱吉  宣継 宗重治斉 慶定茂喜
     忠

 (プロポーショナルフォントでは少しずれて表示されるが,下行の「忠」の字は「校」「綱」の下)

すなわち,徳川の歴代将軍名の暗記法だというのである。「一夜一夜に人見頃」「富士山麓オーム鳴く」,「水平にリーベ欲しいと農夫寝る。名前ある競輪S号縁あるか」のたぐいということか。

 一方,本書では「回文」についても幾例か紹介されている。これは,生の文章を読むと腹の中で卵が孵り,白いうにょうにょした……それは回虫。回文とは「タケヤブヤケタ」「コノコネコノコ」のように上から読んでも下から読んでも同じ文になる,というもの。

  宇津井健氏は神経痛
  ヘアリキッド,ケツニツケ,ドッキリアヘ

 美しい日本語への愛はどうした久世光彦,というツッコミはひとまずおいて,回文については次の書評に続く。

先頭 表紙

英語では回文は難しいと見えて,あまり長いのはないそうです。次の『頭の散歩道』に出てきたのは,確か,"Madam,I'm Adam."かな。あんまりおもしろくないですね。かわりに,英語文化圏で盛んなのは,詩の各行の頭の文字を順に読むと言葉になる(ルイス・キャロルが得意。和歌にもからころもきつつなれにし……に「かきつばた」が隠れている,とかありましたね),とか,ある言葉の文字の順番入れ替えてほかの言葉にする(アナグラム)とかがさかんですね。Draculaが一般人にまぎれるときはAlucard伯爵を名乗る,とか。 / 烏丸 ( 2000-09-26 12:18 )
ところが,20文字,30文字程度の回文なんて,実はかわいいものなんですね。次をご覧ください。 / 烏丸 ( 2000-09-26 11:49 )
回文では、『ぎゅあんぶらあ自己中心派』にあった「ナンテシツケイイコ、イイケツシテンナ」が笑えますね。当時「そうかあ、躾がいいのになあ」と全く的外れな感想を持ったことを記憶しています。 / こすもぽたりん ( 2000-09-26 10:32 )
私が高校受験の時に作った暗記文は、「どちらから中央アジアへくねくねとあんたらバイクで来よったんかい」。これは、ソ連(当時)のコンビナート名を西から東へ暗記する方法です。今更何の役にも立ちませんね。西からドニエプル、中央(モスクワ・レニングラード)、ウラル、カラガンダ、中央アジア(そのままや!)、クズネツク、アンガラバイカル、極東の各コンビナートです。あ、隣で「祖父の代から国営農業」となどと言っている人がいます。ソフホーズのことですね。 / こすもブレジネフ(なんじゃそりゃ) ( 2000-09-26 10:31 )
おもしろい。日本語って音や漢字で変化させて遊べる言葉ですよね。奥が深い。.comがドット混むになるのもニホンゴのおもしろさ。甲州高校は初めて知りました。外人に教わった回文をひとつ。右から読んでも左から読んでもAKASAKA。 / 日本語未熟おとじろう ( 2000-09-26 08:50 )

2000-09-25 [雑談] マンガの最終回 あれこれ その4 少女マンガの最終回

【ときおーっ】

 『エースをねらえ!』の最終回について書くために,少女マンガが積んである棚を見直したのだが,最近のものは不勉強,古いものも,最終回について書くというのはなかなか難しい。
 理由はいくつかある。

 まず,そもそも,最終回が気になるようなメジャーな長編をあまり持っていない。
 『ベルサイユのばら』は,ずっと以前に漫画喫茶(という名称がまだない時代)で全巻通して読んだが,「なんだ趣味じゃないけどなかなかおもしろいじゃないか」と思ったこと以外は登場人物も覚えていない。『オルフェウスの窓』も同様。正直,池田理代子や有吉京子の絵柄は苦手なのだ。
 『キャンディキャンディ』は通して読んでさえいない。手元に資料として最終回だけはあるのだが,最後の1回分だけ見てもちんぷんかんぷんである。誰だったかがもう死んでいて,誰だったかが実は誰かさんだったらしいぞ。
 『ぼくの地球を守って』『アンジェリク』『はいからさんが通る』『あさきゆめみし』『カリフォルニア物語』等にいたっては,部分的に読んでいた,という記憶があるばかりで,ちゃんと終わったのかどうかもわからない。とくにぼく球は無事(?)なんらかの決着がついたのだろうか?

 次に,久しく新作が描かれておらず,事実上終わっているが,ストーリー的に最終回があるわけではない,というもの。
 『ポーの一族』や『綿の国星』,『バジル氏の優雅な生活』,『悪魔の花嫁』などがこれにあたる。『アラミス'78』も確かそう。多田かおる『いたずらなKiss』のように,作者が急逝し未完に終わった作品もある。
 いずれも,「最後に描かれた」作品はあれど,最終回というわけではない。

 さらに,最終回について何を語ればよいのか困ってしまう,というものもある。
 『日出処の天子』の最終巻は白泉社とこじれたのか,普通の単行本の半分くらいの厚さだった,結局出版社を変え,角川書店のASUKAに『日出処の天子』の後日談として『馬屋古女王』が描かれた,とかいうことを説明しても,知ってる人には自明のことだし,知らない人に何を説明してよいのやらよくわからない。
 くらもちふさこ作品の最終回は印象的なものが多いが,言葉に変えようとするとたいてい「それがどーした」「で,結局どーなったの」となりかねない。
 『はみだしっ子』にいたっては,烏丸は後半の展開に付き合うのに疲れて,最終巻から少しずつ捨て,今は1冊も残っていない。作者はもっと疲れ果てていたようだが……。

 やはり,最終回が話題になりやすいのは,スポーツ,勝負モノ,ということか。もう少し検討してみよう。

先頭 表紙

2000-09-25 マンガの最終回シリーズ 『エースをねらえ!』 山本鈴美香 / 集英社


【どの人生も終わるさ】

 2部構成からなるテニスマンガ『エースをねらえ!』には,2つの最終回がある。
 1つは単行本10巻,岡ひろみを発掘し,育て上げた宗方コーチが悪性の貧血で倒れ,「岡 エースをねらえ!」と絶筆,米国ジュニア大会に向かう岡が空港のタラップでその声を聞くシーン。
 2つめは18巻,宗方コーチの死に慟哭する岡が,周囲のささえや宗方の遺志をついだ桂コーチの指導に復活を果たし,ウインブルドンを目指す海外転戦に出る空港のタラップで,桂コーチの「岡! エースをねらえ!!」と言う声を今度は空耳でなく聞くシーン。

 少年・少女マンガを問わず,あらゆるスポーツマンガの精神性を引き上げたのがこの作品である。この作品以降,数多くのスポーツマンガが「頑張るぞ」「負けるもんか」より数段高い領域を目指すことになる。ちなみにあまりに高い世界を望んだ作者は神様の領域に行ってしまった。

 しかし今回はあえて,この少女マンガ有数の感動の最終回に疑義を申し立てたい。宗方,桂両コーチの指導についてである。
 この2人について語るのは大変だ。『エースをねらえ!』はテニスマンガだが勝負モノではない。むしろ,岡が試合に負け,プレイヤーとして人間としてさらに高みを求めて鍛錬にいそしむというのが基本パターンである。従ってコーチングを語ることは全編を語ることになってしまう。
 しかし,いくつかポイントはある。4巻で,宗方が岡に教え込もうとしているものが「男子もうらやむパワーテニス」であることは岡自身によって「ああそれがわたしのめざすテニス!!」と明言されている。だから,藤堂との恋は許されないのである。しかし,この目論見はやがてなしくずしに消え,8巻の藤堂との練習試合で岡は2度エースをとるが,9巻でオーストラリアのプロ,エディによってそれが「球の心を読んでそのとおりにラケット面をつくってやったとき球はけっして人間技ではかえせぬ死角をついてとぶのだ」「コーチはそこにかけたのだ!」「奇蹟だこれは……!」と凄いことなんだよと説明される。
 この「球の心……死角」理論そのものがすでに「?」なのだが(だって,球の心と相手の死角は関係ないでしょ。せいぜいキレのよい球が飛ぶ程度),前述の「パワーテニス」はどこにいったのか。岡は最終巻にいたるまで,足は速いがきゃしゃで,海外選手のドライブにはスライスとプレースメントでねばるしかない。最近でいえばヒンギス,好みで言うならマヌエラ・マレーバ(古い)タイプのプレイヤーである。

 勝手な想像だが,4巻あたりでは作者は,先々岡が国際大会で通用する要因として「パワーテニス」という言葉しか用意できなかったのではないか。それなら,宗方の絶筆にはスジが通る。しかし,登場人物について人間的に深く考察を重ねるうち,そういった肉体的な優位性でなく,精神的な武器を持たせるにいたったのではないか(ちなみに,精神性を重視するあまり,岡は最終回まで竜崎(お蝶夫人)に公式には勝てない)。
 ひざをいためていた宗方コーチの死後,引き継いだ頑強な桂コーチが岡に教えたものが「打点を変える」というフィジカルなプレイであることはその意味ではスジが通る。だが,それもまた高度な集中がなせる技だ。

 だから,2つの最終回は,やはりおかしいのである。岡ひろみというプレイヤーは,エースをねらったらフォームが崩れる。ねらっては,勝てないのである。試合にも,人生にも。

先頭 表紙

「紅天女」ってのは,『ガラスの仮面』の劇中劇,幻の名作,という設定ですよね。しかし,ガラかめha連載期間は確かに長いけど,ほとんど「著者急病のため休載」で,実質69年開始の『ゴルゴ13』のほうがずっと長いし,少女マンガでの冊数に限定しても同じ76年に開始され,やはり終わっていない『王家の紋章』のほうが2巻多いのです(厳密なページ数はわかりませんが)。あと,連載開始時期がよくわからない長寿連載に,みつはしちかこの『小さな恋のものがたり』もあります。 / 烏丸 ( 2000-09-25 19:03 )
ところで、紅天女ってどうなったんですか? まだ「ガラスの仮面」自体も終わってはいないんですよね? 連載20年ってギネスものでは? / こすもぽたりん ( 2000-09-25 18:10 )
詳細は不明ですが,ガラかめの美内すずえはアマテラスのほうに浸ってロクにマンガ描いてないようです。それから,この「くるくる」でもご紹介した岡田史子はキリスト教に邁進してマンガから離れました。 / 烏丸 ( 2000-09-25 17:11 )
他にも「あっち」に行っちゃった漫画家さんてぇのはいらはるんですかいのぉ。 / こすもゴエモン ( 2000-09-25 14:21 )
ちなみに,山本鈴美香で『エース』以外でお奨めなのは,CM業界を舞台にしたヘンな父娘マンガ『ひっくりかえったおもちゃ箱』,これはまあいいんですが,この続編の『H2O!前代未聞』ともなるともうかなり神様はいっちゃいます。ちなみに,日本中が「あちゃーこの人,完全にあっちに行っちゃったよ」と声を上げたのが『白蘭青風』……。 / 烏丸 ( 2000-09-25 14:06 )
マンガを読む分には別にいいのですが,身近であの精神世界をやられたら,ちとかないません。なにせ,テニスの練習試合のキャプションがお経ですから。しかし,描く描くといっていっこうに新作の発表されない『7つの黄金郷』はどうなってしまうのか。 / 烏丸 ( 2000-09-25 13:40 )
ああ! よちみ好みの世界だわ〜♪ 黒猫ゴエモン様 途中で嫁をもらって赤ちゃんが生まれましたよね。山本鈴美香にそんな一面があったとは知らなかったです。 / よちみ ( 2000-09-25 13:28 )
おお、新興宗教の教祖になった山本鈴美香ですね。彼女のアシスタントは悲惨で、残業すると残業代を給料から引かれたそうですね。「時間内にできないあなたが悪い」ということで。その他にも、光熱費や夕食代を引かれて、1ヶ月の給料がマイナス10万円というアシスタントもいたとか。文句をいうと「山本先生の下で修行できるだけありがたいと思いなさい」と山本鈴美香の父親に言われたらしいっす。その後新興宗教に走るわけですが「富士に連れて行かれたら生きて帰れない」とアシスタント業界では言われていたそうですな。 / 黒猫ゴエモン ( 2000-09-25 13:09 )

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