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烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2000-09-22 『燃える男』 A.J.クィネル 作,大熊 栄 訳 / 集英社文庫
2000-09-21 マンガの最終回シリーズ 『パイナップルARMY』 工藤かずや 原作,浦沢直樹 作画 / 小学館
2000-09-21 マンガの最終回シリーズ 『砂の薔薇』 新谷かおる / 白泉社文庫
2000-09-20 『まんがサイエンス』 あさりよしとお / 学習研究社(NORAコミックス)
2000-09-19 『あなたの恐怖体験 読者の身近で起きた恐い体験』 大陸書房(ホラーハウスコミックス)
2000-09-19 [雑談] マンガ界の謎 その1'
2000-09-19 [雑談] マンガ界の謎 その2
2000-09-18 [雑談] マンガ界の謎 その1
2000-09-18 マンガの最終回シリーズ 『どろろ』 手塚治虫 / 秋田書店(サンデーコミックス) 第3回
2000-09-17 マンガの最終回シリーズ 『どろろ』 手塚治虫 / 秋田書店(サンデーコミックス) 第2回


2000-09-22 『燃える男』 A.J.クィネル 作,大熊 栄 訳 / 集英社文庫


【戦闘とリタイアと戦闘】

 『パイナップルARMY』で戦闘インストラクター ジェド・豪士を描き上げた浦沢直樹は,すぐさま『Masterキートン』の連載に入る。原作は工藤かずやから勝鹿北星(とぼけたペンネームだ)に変わるが,これはこれでまた一味違う素晴らしい作品である。ただ,オックスフォード大に考古学を学び,ヨーロッパ古代文明の研究に情熱を燃やす主人公が,SASのサバイバル技術教官の経歴を生かしてフリーのオプ(保険会社の調査員)を務める,という2つの顔を持つにいたる説明に最後まで説得力がなく,さらに視点がまま彼の父や娘の活躍に移って18巻が少々冗長に過ぎる。

 そこで今夜は,『砂の薔薇』や『パイナップルARMY』に見られたプロの戦闘シーンや兵士たちの苦い思いを味わいたい方のために,本を1冊ご紹介しよう。マンガでなく翻訳小説だ。烏丸は友人のゲームライター氏にぜひにと貸していただきながら足かけ3年本棚に寝かしてしまい,一度読み始めたら一晩寝食を忘れて読みふけり,まいってしまった。
 それがクィネル『燃える男』だ。

 かつては外人部隊の兵士としてディエン・ビエン・フーで勇名を馳せたアメリカ人クリーシィも今や五十歳目前,アルコールに溺れる衰えた初老の男にすぎない。そんなある日,彼は古い戦友の薦めに何の気なしにイタリア人実業家の令嬢のボディガードに雇われ,11歳の少女ピンタとの交流を通じて少しずつ人生に新しい手応えを見出していく。しかし,少女は彼の目前で何者かに誘拐され,陵辱,惨殺されてしまう。クリーシィもまた重症を追うが,怒りに燃えた彼はマフィアへの復讐に立ちあがる。やがて明らかになる真の敵の姿は……。

 ここには男が衰え,戦えなくなることの意味と,それでも戦いに向かうことの意味が書かれている。

 本作はクィネルのデビュー長編で,この後,クィネルは覆面作家としてさまざまなジャンルの冒険小説を手がけていく。いずれもハリウッドが大作映画の原作に求めそうなサスペンスあふれる長編だが,その装飾を排した文体,展開はタイトでクールだ。いずれ機会があれば他の作品もご紹介したい。

先頭 表紙

あ、「熱き心に」って唄じゃなかったんですね。全く誤解していました。 / こすもぽたりん ( 2000-09-22 19:31 )
ぴんぽん。小林旭でございます。ベストアルバムにはちゃんと「赤いトラクター」という曲が収録されているのでございます。 / 烏丸 ( 2000-09-22 18:05 )
「んもへるをとーこのー、あはかいトラクタあ〜ん」って、結局誰が歌ってたんでしたっけ? 小林旭でしたっけ? / こすもぽたりん ( 2000-09-22 16:49 )
あたしゃ星野仙一がばっと目の前に浮かんだんですが。 / 烏丸 ( 2000-09-22 14:13 )
燃える男というと、トラクターに乗っていそうなイメージがありますね。すいません、ゴミ撒いて。 / こすもゴミりん ( 2000-09-22 13:30 )

2000-09-21 マンガの最終回シリーズ 『パイナップルARMY』 工藤かずや 原作,浦沢直樹 作画 / 小学館


【今度の件がかたづいたら,君に話があるんだ。大切な話だ…………】

 日系,傭兵,ランチャー,爆弾解体,テロリスト……といえば,何か忘れちゃいませんか,ってんで当然のように出てくるのがこの『パイナップルARMY』だ。
 『MONSTER』『Masterキートン』『YAWARA!』等で知られる浦沢直樹の作品だが,烏丸としてはこの『パイナップルARMY』を最もよく読み返す。浦沢ならではの無骨だが誠実な主人公,繰り返し語られる戦争の愚かさ,人間の愛しさ。
 『砂の薔薇』のスピード感も捨てがたいが,作品としての重厚さは圧倒的にこちらが上だろう。

 爆破技術と作戦立案のプロとしてベトナム戦争以来世界各地を転戦してきたジェド・豪士は,現在は戦線に直接関与するのを避け,戦闘インストラクターとして生活している。
 テログループ「黒い手紙結社」は使用済み核燃料を奪取,それを爆破して,欧州数千万の命を奪おうとしていた。豪士は傭兵時代の宿敵オールビー・コーツから連絡を受け,問題のあまりの大きさに作戦に参加する決意をする。そしてかつてともに戦ったハリディ准将,ジャネット,珍,ジェフリー,戦闘インストラクター トム・ローガン,元グリーンベレー ジョー・ハイツマン(スペツナズナイフの使い手ということで素人の烏丸にもお里が知れる)らとともに核燃料の撤去に向かう。
 テログループを率いるのは,ベトナム戦争時に豪士を苦しめた謎の日本人傭兵「小東夷(ショオトンイー)」。彼はブリュッセルの建築中ビルのエレベーター孔に核燃料のコンテナをセット。次々と仲間が被弾し倒れる中,時限装置を解体しようとする豪士だが,そこに見たものはフーコーの振り子を利用した絶対に解体不可能な爆弾だった。……

 と,最後の戦いのストーリーだけ並べるとただの戦闘アクションマンガにしか見えないが,本作の魅力はそういう次元では語れない。必要以上に悲劇臭があおられるわけではないし,命を分かち合う者同士の友情,ジャネットとのつかずはなれずの関係など明るい展開やコメディもなくはないが,全編を覆うテイストは渇いた苦味である。登場する男たちは,敵も味方もアルコールに酔わない。すでに苦いものが体中に詰まっているかのようだ。

 最終回,倒壊するビルで豪士が助かったのかどうか,またジャネットとの関係がどうなったか,などは明記されない。ただ,民間企業CMAがインストラクターの依頼電話にジェド・豪士を紹介するシーンで,彼が無事だったことだけが知らされる。
 その依頼は4人姉妹がプロの殺し屋と戦うというもので,実は『パイナップルARMY』第1話の設定である。ここでストーリーは円を閉じ,ビターにしてタフなページは永遠に巡る。

先頭 表紙

「走れコータロー」のソルティ・シュガーには,サトウトシオというメンバーがいたとのことで,その点からしてもやはりサトウシオの解明は本作戦の重要なポイントであろう。ケロロ軍曹さまのご武運を乙女の祈り。 / カララ少佐(五里霧中) ( 2000-09-21 15:00 )
サトウシオの好物って、確かスルメですよね。 / こすもぽたりん ( 2000-09-21 14:00 )
ご報告が送れましたが、砂糖塩に関しましてはただいま鋭意準備中でございますっ。暫くのご猶予をお願いいたしますっ。 / ケロロ軍曹 ( 2000-09-21 13:25 )
し、しまった! ちょっと油断をしてガンプラにうつつを抜かしておりましたら、少佐殿に先を越されてしまいましたっ! 追い詰められているケロロでありますっ。以上、現場からでしたっ。 / ケロロ軍曹 ( 2000-09-21 13:22 )

2000-09-21 マンガの最終回シリーズ 『砂の薔薇』 新谷かおる / 白泉社文庫


【アテンション!! オペレーション発動23・05】

 科学の次は対テロリズム。添付画像はいかにもイロモノだが,新谷かおるのお色気サービスはあだち充の水着シーン同様安全装置付き。気にする必要はない。

 主人公のマリー(真理子)・ローズバンクは,「C・A・T」(カウンター・アタック・テロリズム)という特殊部隊の女傭兵隊長。なんとこのC・A・T,民間組織という設定である。さすがアメリカ。って無論これは作り話なんだが。
 マリーは,空港爆弾テロで夫と息子を喪い,自らも胸に瀕死の重傷を負う。彼女は事件をしかけたテロリストのコードネームが「グリフォン」であることを知り,C・A・Tに入隊。熾烈な訓練を経てテロリスト壊滅に執念を燃やす。
 彼女の率いる「ディビジョンM」は,副長ヘルガ・ミッターマイヤー,ジェシカ・クレアキン,デライラ・カンクネン,アイリーン・サンダース,コリーン・アンダーソンら優秀な女傭兵たちで組織され,その能力はそこらのSWAT隊の比ではない。

 というわけで,後はもうバンバンドンガガダン,撃って守って解体して走って殺して爆破しての連発である。1話だいたい100ページのストーリーが浪花節だろうが,絵柄が松本零士譲りの武器オタクだろうが,ひるんでいる暇はない。なにしろテキはテロリスト,瞬時の判断の甘さは部隊全員のみならず一般市民多数の死を招く。

 ボードレールの詩に『巨女』といって巨きな女を象徴的に称えあげる作品があるが,ここには迷いなくM72ロケットランチャーを撃ち抜き,時限装置付き爆弾を解体できる翼ある巨きな女たちがいる。要するに峰不二子が大挙してテロリストをやっつけまくるわけで,読者烏丸はただもう口を開けてページをめくる大ガラスならぬアホウドリである。
 主人公を日系人にしたことで,この国のテロ対策意識のおそまつさを描くシーンもある。このあたり『クレオパトラD.C.』(お奨め!)でも見られた新谷かおるの得意ワザだ。

 そして最終回。8巻めでようやく姿を現した仇敵グリフォンがしかけてきたのは最もやっかいなケミカルテロ。水道管にセットされたマルチドラッグ「青い血」が各家庭に流れ込み,テレビのサブリミナルメッセージで人々は互いに殺し合う。政府からの依頼がこないことにいらだつマリーたちはC・A・Tが民間企業であることを利用し,自らの資産でカウンターテロを依頼する。その額約2000万ドル。水道管の時限装置を撤去する一方,テロリストたちとの対決の場はテレビ局。明らかになるグリフォンの正体は……。

 以上,芸も能もない紹介だが,新谷かおるといえば『エリア88』,せいぜい『ふたり鷹』と言われるのが惜しく,取り上げることにした。版の大きい白泉社のジェッツコミックス版も入手可だが,文庫版は7巻めに宮嶋茂樹の解説付き。たった4ページだが日本人の危機意識を喝破して流石である。
 なお,作品タイトルの「砂の薔薇(デザート・ローズ)」はサハラ砂漠に見られるという独特の石英の結晶。烏丸は先般,東京上野の博物館で見ることができた。

先頭 表紙

をを、不肖宮嶋先生の解説付きとわっ! 見逃せませんな。メモメモ。 / こすもぽたりん ( 2000-09-21 12:46 )

2000-09-20 『まんがサイエンス』 あさりよしとお / 学習研究社(NORAコミックス)


【教えて,ペケル博士】

 なにが霊障だ,非科学的な! とご立腹のあなた。科学といえばこちらがお奨め。掲載誌がなにしろ学習研究社の「5年の科学」。おお,学研の「科学」。懐かしい。この烏丸,あれこれの付録で遊ばせていただいた御恩は三十有余年,片時も忘れたことはない。あの付録体験なくして今日のカラスマル産業なしと言えど過言では……って全国に支店でも出してんのか烏丸。

 さてこの『まんがサイエンス』,『宇宙家族カールビンソン』でおたっきーな層に絶大な人気を誇るあさりよしとおが,最新の理論や情報,取材をふまえ子供たちの「なぜ,なに」に答えるというサイエンスリテラシーもの。彼の作品には珍しく,さほどアブなくないのでお子様どもにも安心だ。

 既刊は
 『まんがサイエンス』
 『まんがサイエンスII ロケットの作り方おしえます』
 『まんがサイエンスIII 吾輩はロボットである』
 『まんがサイエンスIV いとしのMrブルー』
 『まんがサイエンスV 内宇宙から外宇宙まで』
 『まんがサイエンスVI 力学の悪戯』
の6冊。A5サイズなので本屋さんで探すときは気をつけよう。

 基本的には小学5年生のよしおくん,あさりちゃん,あやめちゃん,まなぶくんたちが生活の中でなんらかの不思議,疑問に出会い,そこに専門家(食塩の溶解の話題なら水分子,おなかの中の細菌の話題ならビフィズス菌太郎,視線入力スイッチの話題ならMr.視線などなど)が現れ,いやがるあやめちゃんたちに無理やり回答を教えてくれるというもの。煮たり焼かれたり空に投げ上げられたりの体験担当はあやめちゃんが負うことが多い。負けるなあやめちゃん,1冊めを除いて表紙はキミのものだ。
 抗菌グッズやATMのタッチパネル,フライホイール(はずみ車)バッテリー,ラミネートフィルムのマジックカット,水の上で重い荷物を積んでもスピードを出せるテクノスーパーライナーなど,こちらが子供だった時分にはまだなかった科学の話題もふんだんに盛り込まれ,これがけっこう勉強になる。

 とくに,うっかり地球に落ちてきたロケットの神様を宇宙に戻してあげるため,ツィオルコフスキー,ゴダード,オーベルト,フォン・ブラウンら先輩科学者たちの協力をあおぐ第2巻「ロケットの作り方おしえます」はほぼ1冊分の続き物になっており,これが科学少年ゴコロをくすぐってもう絶品。これからロケット開発にたずさわってみようと考えている方には必読だ。泣けるぞお。

 あと,些細なことだが,第6巻に登場する,150℃の高音,マイナス250℃の低音,真空中,乾燥した中でも生き延びるという緩歩動物クマムシ。このクマムシ,1か月ほど前に紹介した奥井一満の『タコはいかにしてタコになったか−わからないことだらけの生物学』はじめ最近あちこちで見かけるような気がするのだが,ブームなのか?

 できればあやめちゃん主人公のアダルトサイエンスも……と,あさりファンなら誰しも考えそうなことはここではナイショにして,本稿とりあえずおしまい。

先頭 表紙

うははははははは、ん? おい、そこの女学生君、キミだ、キミ。その肩の上に乗っている子供は何だ? ん? 泣いているぞ。 / 榎木津ぽた二郎 ( 2000-09-22 16:51 )
えっ,女子大生が二階では乱交。な,なんとフシダラな。 ← と書くか書くまいか迷いつつ結局書いちゃった。いやーん。おげれつ。 / 烏丸 ( 2000-09-22 16:00 )
下僕には女子大生二階堂蘭子がいるのですわ。 / ぽた子 ( 2000-09-21 19:18 )
探偵社をやるなら下僕がいるのだ。鳥口はいなくて烏丸? なんだそいつは。双子か。からからカアちゃんだな。烏丸なんてかんからかあのかあだ! / 烏丸礼二郎 ( 2000-09-21 17:41 )
をを、中野ではなく、神保町にオフィスを構えられるのですね。『薔薇迷宮探偵社』ですわ。 / こすもぽたりん ( 2000-09-20 20:34 )
「君,本は読むためのものであって売るものではないよ」とか言いながら,ホラー漫画の薀蓄たれるだけで一日が過ぎてしまうのでしょうか。それじゃあおなかぺこぺこのぺこちゃんだあ! / 烏丸堂 ( 2000-09-20 20:21 )
カラスマル産業などと仰らずに、中野の竹林の中にでも「古書烏丸堂」を開業していただきたいものです。目録送ってくださいましね。あ、笈川かおるは全巻買わせていただきます。 / こすもぽたりん ( 2000-09-20 18:42 )
さすがスペシャリスト神居さまだけに,お詳しい。「あるらしい」などとおっしゃらず,ぜひ1つレビューをば。 / 烏丸 ( 2000-09-20 18:09 )
あさりよしとお本人作の同人誌で,アダルト版まんがサイエンス「性のしくみ」ってのがあるらしいです。 / かむい ( 2000-09-20 16:28 )

2000-09-19 『あなたの恐怖体験 読者の身近で起きた恐い体験』 大陸書房(ホラーハウスコミックス)


【霊障】

 マンガと出版社についての話題がいくつか続いたが,この際だから表紙を取り込んでおいたこのシリーズを紹介しておこう。

 『あなたの恐怖体験 読者の身近で起きた恐い体験』,これは読者から送られてきた恐怖体験談をもとに,新進の(つまり無名な)マンガ家がそれを書き下ろした作品集。第8集まで発行されている。

 ほぼ同時期に刊行された同様の作品集として,朝日ソノラマの『ほんとにあった怖い話・読者の恐怖体験談集』(ハロウィン少女コミック館)や,学習研究社『ほんとにあった恐怖体験』(ピチコミックス)などがある。前者は30巻にいたる堂々たるラインナップだ。

 いずれも,基本的な作り方は変わらない。
 こういった作品群の利点は,読者から広く恐怖体験談を求める結果,プロの物書きが小手先でひねったものとは手触りの違う,素朴だが,その分説明のつかない怖さがにじみ出ることにある。逆に,デメリットとして,世間に流布したオーソドックスな怪談をさも自分や知人の体験のように語る例,明らかに勘違いや夢と混同しているとしか思えない例があること,また,マンガ家のタッチがその体験にそぐわず,せっかくの恐怖がそがれることがある(たとえば大病院の看護婦が霊を見てしまう,という話でも,淡々と書かれたほうが怖いケースと,霊のアップやうめき声が強調される絶叫型が怖いケースとに分かれる)。

 そういった中でも,添付画像で紹介の『あなたの恐怖体験 読者の身近で起きた恐い体験』第1集は,とくに怖い印象がある。友人が飛び降り自殺する瞬間をたまたま写真に撮ったところ……とか,踏み切りの近くで店に現れた客が……とかいう切り口にはとりたてて新味はない,と理屈ではわかっているつもりなのに,なんともいえないひりひりした気分になってしまう。

 どの集のどの投稿作品が,ということはわからないものの,このシリーズ収録作にはいわゆる「霊障」もあったのではないか。なぜなら,朝日ソノラマは30巻続けても平気だが,大陸書房は8巻出したところで倒産してしまった。

先頭 表紙

『リング』だったか『リング2』だったかは、そう言われたのでかなり注意して聞いてたんですが、わかりませんでした。明菜は、自信ありません。 / こすもぽたりん ( 2000-09-20 20:35 )
中森明菜にもありましたっけ。不幸にして(?)存じません。あと,ヘンなものが映ってる! と噂されたホラー映画『フェノミナ』(ジェニファー・コネリーが美しい)のビデオ持ってるんですが,スプラッタホラーだけあってヘンなものだらけでいったい何がヘンなのかわかりません(泣)。 / 烏丸 ( 2000-09-20 20:32 )
中森明菜にもその手のがありませんでしたっけ? / こすもぽたりん ( 2000-09-20 16:23 )
岩崎宏美「万華鏡」とかですね。なるほど,そういう蒐集もまた一興(というつっこみの途中に,誰も書いた記憶のない「私ニモ集メサセテェェ」と言ううめき文字が!)。 / 烏丸ライブ ( 2000-09-20 12:19 )
こ、怖いCDってぇのも蒐集されていらっしゃるんですかい? 「かぐや姫ライブ」とか。あれはCDになってないか。ああ、やだやだ、怖い。やーめたっと、この話題。 / こすもぽたりん ( 2000-09-20 00:41 )
いえいえ。1階には「あかずのクローゼット」が。ちなみに,CDは井戸のほうにしまっておりまして,夜な夜な,一枚,二枚……。 / 烏丸 ( 2000-09-20 00:09 )
まさかとは思いますが御不浄に保管されていらっしゃるとか? / こすもぽたりん ( 2000-09-19 20:17 )
いや,これはですね,館のほうでなく,階下のほうにですね,ぬるっと。 / 烏丸 ( 2000-09-19 18:44 )
をを、このような本が烏丸家納戸名物「のろいの館」に詰まっているわけでございますね。くわばらくわばら。 / こすもぽたりん ( 2000-09-19 18:17 )

2000-09-19 [雑談] マンガ界の謎 その1'

【続・サンデーコミックスについて】

 「マンガ界の謎 その1」について,サンデーコミックスは「少年サンデー」(小学館)と関係ないのでは,というつっこみを「オタクばんざい」の二木神居氏からいただいた。ご指摘ごもっともで,実は,確証はない。
 確かに,『少年アトム』『鉄人28号』など,光文社の月刊マンガ誌「少年」に連載されたものも含まれているし,桑田次郎『8マン』のように「少年サンデー」のライバル誌である「少年マガジン」(講談社)連載作品すら含まれている。
 ちなみに,当時「少年サンデー」の顔であった赤塚不二夫『おそ松くん』はのちに講談社から発売され,現在は手に入るのは竹書房版だ。また,サンデーコミックスの顔たる『サイボーグ009』は,「少年キング」(少年画報社)で連載が開始され,「少年マガジン」「冒険王」(秋田書店)「少女コミック」(小学館)「少年サンデー」など各誌に掲載されている。
 要するに,マンガの連載誌と単行本発行社は作家と出版社あるいは編集者との知己,契約の問題でしかなく,秋田書店に問い合わせたら「少年サンデー誌とは関係ない」と言われる可能性も高いか,とは思う。

 しかし,それにしてもサンデーコミックスにおける「少年サンデー」色は濃厚で,1970年代後半(未確認)に小学館自らが少年サンデーコミックスを発刊するまでは,「少年サンデー」掲載作品の単行本の受け皿として秋田書店のサンデーコミックスが機能していたのは間違いないと思われる。
 よくわからないのは,サンデーコミックスが,すでに休刊となっていた「少年」掲載作や当時まだマンガの単行本のラインナップを持とうとしなかった小学館系列作の“意識的な”受け皿だったのか,それともそうでもなかったのか,ということだ。要するに,なんでよりによって「サンデー」という名前が付いてるの,と言い換えてもよい。
 「謎」などというよりは,このあたりを解きほぐした資料が欲しい,と,そう書いたほうがよかったのだろう。たとえば,あの新書サイズ(縦18cm)のマンガの単行本を最初に体系づけて発行したのはいったいどこだったのだろう,ということだ。

 そういえば,そもそも,なぜウィークデーに発売される雑誌なのにサンデーなんだ「少年サンデー」。ついでにいえばもっとわけがわからんぞ「サンデー毎日」。

先頭 表紙

そうだそうだ! ファンは待っているぞよ。 / こすもぽたりん ( 2000-09-20 16:23 )
というわけで本文にもリンク貼りました。ここはひとつオタク談義の再開をよろしく。 > 二木神居さま / 烏丸 ( 2000-09-20 12:55 )
二木神居さんにも早く復帰して欲しいですね。素晴らしきオタクの世界を楽しみにしておりますのに。 / こすもぽたりん ( 2000-09-20 00:42 )

2000-09-19 [雑談] マンガ界の謎 その2


【朝日ソノラマ「サンコミックス」の謎】

 マンガ界の謎としてもう1つ取り上げたいのは,朝日ソノラマという会社の存在である。
 同社の雑誌「ネムキ」については,ケロロ軍曹の「あたしのために・その1」に詳しいが,この朝日ソノラマ,そもそもは1959年にソノシート(赤や青のビニール製の薄いアナログレコードで,アニメの主題歌などがよくこれで販売された)付きの出版物で名をあげた会社である。
 「サンコミックス」はその朝日ソノラマのマンガ単行本のラインナップで,たとえば我が家の本棚に見つかるものだけでもざっと以下の通り。

  ジョージ秋山『アシュラ』『デロリンマン』
  あすなひろし『哀しい人々』『ぼくのとうちゃん』『白い星座』
  山上たつひこ『光る風』
  石森章太郎 『竜神沼』『佐武と市捕物控』
  楳図かずお 『紅グモ』『笑い仮面』『半魚人』『猫目小僧』
  永島慎二  『漫画家残酷物語』
  真崎守   『ジロがゆく』
  御厨さと美 『NORA』『ケンタウロスの伝説』
  矢代まさこ 『ノアとシャボン玉』『ボクはイヌになった』『シークレット・ラブ』
  水野英子  『ファイヤー!』
  山岸凉子  『ハーピー』『天人唐草』『ティンカー・ベル』『メデュウサ』
  樹村みのり 『ピクニック』『雨』『Flight』
  岡田史子  『ガラス玉』『ほんのすこしの水』『ダンス・パーティー』
  大島弓子  『誕生!』『ポーラの涙ペールの涙』『ミモザ館でつかまえて』『野イバラ荘園』『F式蘭丸』『いちご物語』
  倉田江美  『ドーバー越えて』『宇宙を作るオトコ』
  山田ミネ子 『ひとりっ子の冬』
  伊藤愛子  『ハピィ・トォク』
  坂田靖子  『闇夜の本』『星食い』
  猫十字社  『黒のもんもん組 富士山麓に玉砕編』

 先に取り上げた秋田書店のサンデーコミックスに比べればややマイナーだが,マンガ史上,強烈なインパクトを残した作品が少なくない。にもかかわらず,すべて絶版である。1冊も残っていない。
 驚くべきことは,これらの作品の掲載雑誌がまったくまちまちであること(出版社も講談社,小学館,集英社とてんでばらばら),ここに挙げた作品の大半が,サンコミックス版が絶版になって以来ずっと入手不能か,入手できるとしても朝日ソノラマ以外の出版社からの刊行であるということだ。

 つまり,朝日ソノラマは,あらゆる出版社のあらゆる雑誌に掲載された作品を単行本化するだけのとんでもないコネクションと企画力を持ち合わせながら,さほど増刷を重ねず,あっさり絶版にして省みないのである。
 これは,出版社の経営理念としては,いちおうスジの通ったことではある。あまり知られていないが,出版社の経営を最も圧迫するのは返本と在庫の管理費であり,主力雑誌の返本率が20%ならビルが建つが,50%なら会社がつぶれる,という例だってある(ちなみに,返品率が70%を越える雑誌も別に珍しくはない)。
 朝日ソノラマは,刷り部数をタイトに削ることによって返本,在庫を極力抑える,なみなみならぬ強固な保守意識を持っているということになる。そのくせ,この攻撃的なラインナップ。……なんだろう,この異様なバランス感覚は。正直言って,よくわからん。

 朝日ソノラマの倉庫か会議室に過去の出版物がすべて置いてあるなら,有料でよいから半年ばかりこもりたい,とは,烏丸の嘘いつわりのない心からの願いの1つなのである。

先頭 表紙

ダイエーの秋山はあんなに三振ばかりしているくせに2000本安打打ってしまったわけです。怖い奴です。あ,いや,だからバク転しなくちゃというわけではありません。 / 烏丸 ( 2000-09-20 12:58 )
ジョージ秋山は、何かを読んで「もう二度と読むまい」と思ってしまったわけです。怖い奴です。あ、いや、思い出したいわけではありません / こすもぽたりん ( 2000-09-19 13:48 )

2000-09-18 [雑談] マンガ界の謎 その1


【秋田書店「サンデーコミックス」の謎】

 こすもぽたりん氏の「神田マスカメ書店」のつっこみに記したように,本日は「マンガの最終回シリーズ」をいったんお休みし,亀谷了先生,あるいは藤田紘一郎先生あたりのありがたくも微笑ましい寄生虫本をご紹介しよう……とは思ったのだが,とりあえずそれは後回しにしたい。
 理由は簡単である。不肖・烏丸,今日の昼飯は和風スパゲッティであった。

 ……さて,そういうことで,ここでは,マンガ界について烏丸が以前より不思議に思っていることを1つ取り上げてみたい。

 それは,「サンデーコミックス」はなぜ秋田書店から発行されているのか? ということである。

 先の手塚治虫『どろろ』もそうだが,これは小学館の少年サンデーに連載されたものでありながら,なぜか単行本は秋田書店から,サンデーコミックスと銘打って発行されている。
 秋田書店が小学館の子会社,という話も聞かない。資本提携くらいはあるのかもしれないが,秋田書店といえば「冒険王」「少年チャンピオン」「プレイコミック」「プリンセス」などで知られる堂々たる老舗マンガ出版社である。サンデーやビッグコミックの小学館から見れば,ことマンガに関してはライバル社の1つだと思われるのだが……。

 ちなみに,サンデーコミックスに収録されている作品は『どろろ』のほか,手塚治虫『鉄腕アトム』『海のトリトン』『W3』『ビッグX』『マグマ大使』『バンパイヤ』,石森章太郎『サイボーグ009』『幻魔大戦』,横山光輝『鉄人28号』『伊賀の影丸』『仮面の忍者赤影』,楳図かずお『のろいの館』『恐怖』『怪』『おろち』『アゲイン』,一峰大二『黒い秘密兵器』,小沢さとる『サブマリン707』,桑田次郎『8マン』,水島新司『男どアホウ甲子園』,ちばてつや『ちかいの魔球』,松本零士『潜水艦スーパー99』『宇宙戦艦ヤマト』,つのだじろう『虹をよぶ拳』,貝塚ひろし『ミラクルA』,いしいいさみ『くたばれ涙くん』など数百冊。
 一部は品切れ・絶版で入手できないが,現在にいたるも在庫率はかなり高く,ともかく正統派というか,大変なラインナップである。

 小学館はこれらを「マンガの単行本化なんてウチの仕事じゃないもんね」とばかりにライバルであるはずの秋田書店に任せ,放置した,ということだ。
 理解に苦しむ。

先頭 表紙

逆の言い方をすると,『男どアホウ甲子園』のころまで,小学館側からの少年サンデー掲載作の単行本化の場って,ほかになかったように思うんですが。だから,少年サンデー掲載作,および少年サンデー系の作家はサンデーコミックスから単行本を出した,と。チガウカナー。 / 烏丸 ( 2000-09-19 14:06 )
はい,確かに『鉄腕アトム』『鉄人28号』などの「少年」掲載作品など,少年サンデーと関係ないのも多々ありますが,基本は少年サンデー系列だと思います。また,並列してチャンピオンコミックスも出すなど,「サンデー」というネーミングには意味を持たせているように思います。>かむいさま / 烏丸 ( 2000-09-19 14:00 )
サンデーコミックスって,全部に少年サンデー掲載作品だったんですか? 私は関係ないと思ってました。 / かむい ( 2000-09-19 13:46 )
ああーっ、この009懐かしい! いいな、いいな。しかし、物持ちいいですねえ。 / ぽた公 ( 2000-09-19 13:40 )
あ,『マグマ大使』について書くのを忘れてました。マグマ大使は,人間でもロボットでもなく,いわばアースという地球の精の作ったマグマの精である,で,そんないい加減なマンガがよくウケたなぁ,というようなことを手塚治虫本人が語っているようです。テレビ化がアニメでなく実写だったのは(ちなみに主演のマモル少年はのちのフォーリーブスの江木俊夫,マモルの父は岡田真澄,ゴアの声は大平透),当時の怪獣ブームが影響したのでしょう。しかし,ヘンな作品だった……。 / 烏丸 ( 2000-09-19 12:56 )
新機能ですな。 / 烏丸 ( 2000-09-19 12:47 )
新機能だよん。 / こすもぽたりん ( 2000-09-19 11:33 )
へぇ〜、『マグマ大使』って手塚治虫だったんだぁ〜。なんて間抜けなコメント入れてるとぶっ飛ばされますかね? 手塚治虫って読んでないなあ。 / ぽたりん ( 2000-09-18 17:17 )

2000-09-18 マンガの最終回シリーズ 『どろろ』 手塚治虫 / 秋田書店(サンデーコミックス) 第3回

【されどわれらが日々】

 これは深読みだが,アニメのオープニングでどろろが手にふりあげているのがただの木の棒であることもそう考えると筋が通る。手塚は「妖刀似蛭の巻」の最後でどろろに「もう刀なんか二度と持たない」と言わせている。この「ファッション」は,60年安保闘争では素手,のちに催涙弾に対し角材(いわゆるゲバ棒)で対抗しようとした当時の新左翼デモ隊の姿勢にほぼシンクロしているのだ(*2)。
 だから,最終回で百鬼丸がどろろを村に置き去りにするのは,どろろがそういった共産主義革命の側にいることを,共闘を拒み,とことんニヒリズムの側に立つ百鬼丸が悟り,さらに旅をともにするのは無理とみなしたため,とこじつけることが可能だ。つまり『どろろ』は,主人公どろろが,単なる野盗的存在から,オープニングシーンのように農民を指揮する解放指導者に至る「前史」なのではないか。

 こうしてみると『どろろ』の結末が,白土三平の『サスケ』のアニメ版(アニメ放映は『どろろ』直前)のエンディングに実によく似ていることがわかる。妖怪と忍術,素材こそ異なるが,アニメの最終回でサスケの父は猿飛忍軍の一員として権力に挑むテロリストとして去り,サスケは村に残される。サスケが託されたのは,農民を組織することによって新しい体制を目指せ,ということではなかったのか。サスケの背中に背負わされたものは,野盗の埋蔵金の秘密とともにどろろに示された方向と全く同じものではなかったか。

 もちろん,武士の支配が続いたことは歴史が証明する通りだし,そもそも封建体制下における一揆はマルクス,エンゲルスの言う階級闘争とは別のものだ(だからこそコミック版の『サスケ』は一揆に敗れ,梅を死なせ小猿を見失ったサスケが茫洋と荒野をさまよい,背中に手裏剣を受けても反応できないという無惨極まりない終わり方をする)。それでも,常に革命運動は繰り返されるのだという当時の新左翼ないし左翼シンパの夢,言うなれば一種の「トロツキーと永久革命ブーム」が『どろろ』や『サスケ』に色濃く反映されていることは間違いない。

 ところが,現在から見ればこの通り新左翼にすり寄っているとしか見えない(*3)手塚作品が,バリバリの共産主義者だった宮崎駿から見るとこれはもう米帝ディズニーの手先,大衆に迎合した低俗なものと酷評されてしまう(岡田斗司夫『オタク学入門』による)。革マルが民青のビラ配りに突っ込むようなものか(今どき通じないって)。

 ともかく,アイデンティティ確立と革命への道は暗くて深い川の向こうにあったのである(*4)。

*2……ゲバ棒や投石だけでは勝てない,と腹をくくった極左がその後連合赤軍など組織して,よど号乗っ取り(1970年),浅間山荘事件,テルアビブ銃撃戦(1972年)と走っていったわけだが,彼らの生き残りももう50代後半から60代だとか。見る前に跳び続けるのも体力との闘いである。

*3……雑誌「COM」はなぜか日共系に支持された。では「ガロ」は右かといえばこれが反日共系。

*4……ここで「ナーンセンス!」の一声が欲しい。

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2000-09-17 マンガの最終回シリーズ 『どろろ』 手塚治虫 / 秋田書店(サンデーコミックス) 第2回

【おまえらみぃんな ほげたらだ】

 養老孟司は『涼しい脳味噌』(文春文庫)の中で「手塚治虫の生命観」として,「ヒトはしばしば,バラバラの部品に分解してしまい,それを自分で回復しなければならない。それは『どろろ』に見るとおりである」ということを述べている。しかし,ならば,バラバラにしなければ修復できないほどの手塚とは一体何だったのか。

 手塚のそのあたりの心理を追求するには現時点ではどうにも勉強不足で,このように作品に見られる現象を2,3挙げるのが精一杯なのだが,同じく妖怪漫画を描いた楳図かずおの作風と比較してみると興味深い。すなわち,手塚,楳図の2人ともその苛烈な妖怪漫画によって妖怪そのものよりは揺れ動く醜い人間の精神を描こうとした点は変わらないように見える。しかし,その精神において,楳図は明らかに医者の側にいるのに対し,手塚は患者の側にいる。
 養老孟司は「読み出したら,止められない。(中略)理屈を言う暇はない。そんなつまらないことをするのは,作品に対する残虐行為である。」「実際,こうした作家の作品を論じるのは,ある場合には,趣味が悪いのである。」と言って手塚作品の分析を停止する。アトム世代の1人として気持ちはよくわかるが,その気持ちがマンガ,アニメの世界に不可侵の巨大な聖域を作ってしまったこともまた事実である。そろそろ手塚の死体を切り刻む,悪趣味で残虐な作業が必要な時期なのではないか。もっとも,執刀できるだけの能力者は,いまや手塚を相手にしていないというのが実情かもしれないが。

 さて,一方,『どろろ』において注目されるのは,手塚作品にしては珍しい社会性である。
 アニメ版『どろろ』のオープニングをご記憶の方はおられるだろうか。百鬼丸や妖怪たちがフラッシュし,続いて搾取されて俯く農民たちの暗い顔が写り,やがて彼らは百姓一揆の標準装備である鍬,鎌,むしろを手に手に画面左から右に流れる。同じコンテが二度繰り返され,二度目の後,最後に前進する農民の背に,棒を手に,アジテーターとしてのどろろが1カット映ってそこで映像が静止する。
 これは,『どろろ』の背景に,当時の共産主義革命への夢が塗り込められている明確な証しではないか。

 『どろろ』の少年サンデーへの掲載は1968〜1969年。これは口車大王氏の『気まぐれコンセプト』書評にもあったように,学生運動が盛り上がり,デモに参加しない学生がノンポリとののしられた最後の時代である(*1)。少年マガジンを手に安田講堂を占拠していた東大全共闘が陥落して事実上学生運動が崩壊し,シラケ世代が始まったとされるのが1969年。
 国民栄誉賞をもらえなかったのは共産党を支持していたため,と一部でささやかれる手塚が,当時の左寄りの運動に心情的にせよ賛同していなかったはずはない。そう考えると,どろろの父が飢えて死にかけても支配階級から饅頭を恵まれることを拒否して無謀な闘いをいどみ,殺されるシーンもわかりやすい。単に支配を嫌うのではなく,彼ら(野盗)の理想を,「サムライの支配を覆し,農民を解放する」ことにあったと読み替えれば,手塚があのあたりで描きたいことがすとんと形に納まるのである。
 さらに続く。

*1……オウム真理教の早川紀代秀は,逮捕当時,テレビで何度か「学生運動にも関与し,ノンポリで恐れられていた」と報道されていた(本当)。当時恐れられ(嫌われ?)ていたのは「ノンポリ」ではなく「ノンセクトラディカル」である(早川がいずれであったかは,材料に乏しく不明)。

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