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烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2000-09-08 『もの食う人びと』 辺見 庸 / 角川書店(角川文庫)
2000-09-08 『法医学教室の午後』 西丸与一 / 朝日新聞社(朝日文庫) ほか
2000-09-08 『法医学のミステリー』 渡辺 孚 / 中央公論新社(中公文庫) ほか
2000-09-08 『法医学の現場から』 須藤武雄 / 中央公論新社(中公文庫)
2000-09-06 『中国てなもんや商社』 谷崎 光 / 文藝春秋社(文春文庫)
2000-09-06 『OLときどきネパール人』 瀬尾里枝 / 光文社(知恵の森文庫)
2000-09-06 『不思議の国の悪意』 ルーファス・キング 押田由起 訳 / 東京創元社(創元推理文庫)
2000-09-06 『レディ・プラスティック』 深谷陽/講談社(ミスターマガジンKC)
2000-09-05 『運び屋ケン』(全4巻) 深谷陽 / 集英社(SCオールマン)
2000-09-04 『アキオ無宿 ベトナム』 深谷陽 / 講談社(モーニングKC)


2000-09-08 『もの食う人びと』 辺見 庸 / 角川書店(角川文庫)


【食らう】

 検死だの解剖だの,烏丸ってばまったく。また少し,気分変えよう。

 『もの食う人びと』は,共同通信社の特派員だった著者が世界中の紛争地帯,飢餓地域を訪ね,ひたすら現地人とともに食って食って食らいまくるルポルタージュ。
 ダッカでの残飯を皮切りに,ベトナムのフォー,ベルリンの刑務所,ポーランドの炭坑,クロアチアの戦火の下の食事,ソマリアの炎熱,ウガンダのエイズ禍,チェルノブイリの放射能汚染スープ,自殺を図った慰安婦たちとの饗宴……。

 走り,笑い,眠り,座り,泣くことと同様に,食べることは生きることだ。人は,バットで殴られれば死に,サリンを吸えば死に,食べられなくなると死ぬ。それだけのことがわからなくなってしまったこの国では,「生きるために食べる」たったそれだけのことを確認するのに,このような書物が書かれないといけないのだ。
 なんてこった。

先頭 表紙

2000-09-08 『法医学教室の午後』 西丸与一 / 朝日新聞社(朝日文庫) ほか


【まだまだ,死体がいっぱい】

 もちろん,中公文庫以外にも,魅力的な法医学本はある。

◇『法医学教室の午後』
◇『続 法医学教室の午後』
◇『法医学教室との別れ』
 西丸与一,朝日新聞社(朝日文庫)

 本文1ページ目が「夜にはいると,雨は少しおさまり,霧が出始めた。白っぽい幕が,静かに流れ動く。」で始まるように,エッセイ,ドラマ色が強く,その分,法医学の学術書,啓蒙書としての色合いは薄い(3冊目の『別れ』はとくにウェット)。死体の状態から死因を究明する,といった記述もなくはないが,大学内での法医学のあり方,残された遺族の言動に比重を置く点に他の法医学本にない特徴が見られる。
 なお,1985年には本作を題材とした2時間ドラマが日本テレビ系で放映され,その後の法医学ドラマの端緒となった。監督は大森一樹,出演:菅原文太,紺野美沙子,寺尾聰,大江千里ほか。翌年には続編『法医学教室の長い1日』も放映されている。

◇『死体は生きている』
◇『死体は知っている』
◇『死体検死医』
 上野正彦,角川書店(角川文庫)

 著者は東京都監察医務院院長を1989年に退任後,法医学評論家として活躍中。ゲーテの臨終時の言葉を取り上げたり,死と魂について述べたりするなど,同じ法医学を扱いつつも,これまで挙げた他の本に比べるとかなり情緒に流れる傾向あり。その分,読み物としては読みやすいかもしれない。
 本書を原作とするドラマ『助教授一色麗子 法医学教室の女』が,日本テレビ系で1991年の夏から秋にかけて放映されている(全10回)。出演は篠ひろ子,山下真司,大鶴義丹ほか。

◇『死体の証言―死者が語る隠されたドラマ』
 上野正彦・山村正夫,光文社(光文社文庫)

 推理作家・山村正夫との対談。対談集の限界か,やや漫然とした印象。

◇『死体を語ろう』
 上野正彦,角川書店(角川文庫)

 永六輔,阿刀田高,ひろさちや,桂文珍,山本晋也,前田あんぬら10人と死体をテーマに対談。上野はすでに著書も多く,同じ内容を繰り返しがちなので,彼が聞き手に回る対談のほうが面白い。とくに「胎盤を食べてみたい」と吼える内田春菊,淡々と「江戸の海,川は死体だらけだった」と資料を語る氏家幹人との対談はテイスティ。

◇『死にかたがわからない 法医学者の検死メモ』
 柳田純一,集英社(集英社文庫)

 法医学者,東京都監察医として10000体以上の異状死体を解剖検案したという筆者による随想。ともかく「なんとも忙しい仕事」の印象が強い。他の法医学本に比べると,実際の司法解剖作業や死体各部の形状に触れるところがかなりあり,食事中の読書はお奨めしかねる。
 法医学を扱ったテレビドラマに一言あったり,某推理小説作家からの質問電話に答えるくだりがあるあたりが当世風か。

◇『検死解剖』
 トーマス・野口 著,田中 靖 訳,講談社(講談社+α文庫)

 マリリン・モンロー、ロバート・ケネディら著名人の解剖を手がけた米国の名検死官による法医学の実態。プレスリー,サル・ミネオら著名人の死が扱われていること,ヒットラーやナポレオンの死,切り裂きジャックの正体など歴史的考察にページが割かれていること以上に印象的なのは,陪審国家アメリカでは,複数の検死官による判断が裁判の議論の材料になること。正義の国アメリカでは,「真実」もバトルでもぎとるものなのである。

 以上,ざっとではあるが法医学関係の本を何点か紹介した。ミステリやサスペンスのリアリティ欠如に食傷気味な午後にはお奨めである。

先頭 表紙

烏丸殿、イチオシをご特定頂き、かたじけのうござる。一同、早速メモって書店へ出陣ぢゃ。。(おっと、夜中だ) / あの黄色い看板なに?ほにゃららです。さぶ ( 2000-09-11 00:42 )
これは大名さま,よくぞ足をお運びいただき。これっ,ものども,頭が高い! ちなみに,今回ご紹介した中では,↓の『法医学のミステリー』がとりあえずイチオシでしょうか。上野氏は,1冊読めばとりあえずしばらくはよいのでは。 / 烏丸 ( 2000-09-10 21:42 )
烏丸様こんにちは。法医学シリーズ大変参考になりました。有難うございます。以前小職の上司から薦められて、本日ご紹介にもある上野正彦の著作、『死体は語る』を読み、他にも法医学モノを読んでみたいと思っておりましたところです。。。 / ほにゃらら ( 2000-09-10 00:25 )

2000-09-08 『法医学のミステリー』 渡辺 孚 / 中央公論新社(中公文庫) ほか


【さらに,死体がいっぱい】

 引き続き烏丸の本棚から,比較的手に入りやすい法医学関係の書物を何冊か簡単に紹介してみよう。

◇『法医学ノート』
 古畑種基,中央公論新社(中公文庫)

 著者は血液型分類研究の世界的権威。ただ,血液型についてはその後さまざまなメディアで紹介されてきたためか,本書では第一章「毒および毒殺物語」における古今東西の毒についての記述,第三章「裁判と法医学」内の絞首刑についての考察がとくに印象に残る。近いうちに夫あるいは妻に毒を盛りたい,そんな予定のある方には,目を通しておくことを強くお奨めしておきたい。
 以下に紹介する各書に比べると,内容に学術書的色彩やや強し。読みにくいというわけではないが。

◇『法医学のミステリー』
 渡辺 孚,中央公論新社(中公文庫)

 お奨めの1冊。著者は警察庁科学警察研究所の初代科学捜査部長として,白鳥事件,秋田山荘事件,梅田事件,八海事件の再度差し戻し審の最終鑑定など,数々の難事件を手がけた人物。
 その文章は,「理科系的」とでもいうか,平明かつ論理的で,検査に対しては予断を持たず,少しでも疑問の残る場合はとことん究明していく厳しい姿勢が感じられる。その「疑問」や「疑点」はときには警察組織や司法機関にまで向けられる。実に厳しい。
 だからこそ,たまに垣間見られる「自他殺の別に手を焼く場合があると,文句のひとつも言いたくなる。」といった心情の発露が心に染みるのかもしれない。

◇『完全犯罪と闘う ある検死官の記録』
 芹沢常行,中央公論新社(中公文庫)

 制度発足と同時に検死官となり,検死官室長を最後に退職するまでの18年間を警視庁検死官として活躍した著者の記録。
 「完全犯罪」と言う小説まがいのタイトルとは裏腹に,ここで取り上げられた犯罪の多くは市井の人々のやむにやまれぬ行いであり,現場に残されたホースやコップ,手拭から明らかになる事実は哀しい。

 まだまだ続くよ,法医学の旅。

先頭 表紙

2000-09-08 『法医学の現場から』 須藤武雄 / 中央公論新社(中公文庫)


【現場の言葉】

 乱雑な仕事や生活を続けていると,自分の精神と肉体が微妙に噛み合わなくなってくることがある。カラー印刷でいえば,どれか1つ色の版がずれたような感じ。酒を飲んでも映画を見ても意識が上滑りし,目が冴えて眠るにも眠れない。

 そんな長い夜にぜひともお奨めしたいのが,中公文庫から何冊か発行されている法医学や警察・検察関係の随想録だ。
 そこには余計なデコレーションの施されない現場の声,それも一時の感情からでなく,何千,何万という現場での経験に裏打ちされた,確たる「事実」が淡々と積み重ねられている。死体や凶悪犯罪など,ある意味最も過激な話題を扱いながら,一字一句に事実を明らかにしていこうとする意志がこもり,それが読み手に,法医学についての啓蒙や犯罪・司法についての考察のみならず,強い鎮静作用をもたらすのである。

 『法医学の現場から』の著者須藤武雄は,大正6(1917)年,群馬県出身。警察庁科学警察研究所法医第一研究室長にして,毛髪医科学の権威。
 本書は,終戦後の30年間にわたり毛髪鑑識の仕事にたずさわった著者が,実際に起こった事件をもとに,科学的手法による物的証拠の検査についてまとめたもの。
 たとえば,「科学捜査の現場から」と題し,さまざまな科学的手法について紹介する前半の目次から,いくつか事件をひろってみよう。
   説教強盗の置きみやげ(指紋)
   化粧品セールス女性暴行殺人(血液型)
   人毛と獣毛の鑑別(毛髪)
   麻薬患者の白骨死体(スーパーインポーズ法)
   湖底の死体(復顔法)
   色魔の脅迫(声紋)
 続く「私の事件メモ」と題された後半では,著者が実際に毛髪鑑識にかかわった15の事件が詳しく紹介されている。
   陰毛に寄生する特殊なカビから,少女暴行殺人事件の犯人を特定する。
   熊を追った4人のハンターのうち1人が頭を撃ち抜かれる。脳の中に残されたフェルトの繊維から明らかになった弾丸の持ち主は……。
   暴行殺人の現場に残された毛髪の,刈られた時期,パーマネントの具合から明らかになった犯人。それは意外にも……。
   火事で焼け死んだと思われた老女は,火事の前にすでに殺されていた。凶器の手拭から発見された薄茶色の毛は,驚いたことに……。
   強姦殺人事件の現場に残されたたった1本の毛髪は,悪性の円形脱毛症を示していた。すると犯人は……。
 などなど,毛髪数本から思いがけない事実が次々に明らかになっていくさまはいっそ爽快でさえある。

 なお,そのほかの法医学関係のお奨め文庫については,次の書評に示す。……と,オチなしゴタク抜きの烏丸,シリアスモード75%であった。

先頭 表紙

なくはないでしょうが,今は情報過多なのでどのような本にどのように出会うのかは子供それぞれのようです。スーパーインポーズ法を知るとしたら,『コナン』や『金田一少年』で,ですかね。 / 烏丸 ( 2000-09-08 14:24 )
小学生の頃、『あの犯人を追え!』という子供向け本を読み、スーパー・インポーズ法を知りました。今でも、子供向けにこういう本ってあるんでしょうかね? / ぽたりん ( 2000-09-08 13:38 )
いらしゃいませ,よちみさま。この『法医学の現場から』に限らず,中公文庫の法医学・検察・警官ものはハデな演出はありませんがぎゅっと事実がこもった感じで(たまに読むぶんには)お奨めです。また,警察関係の人は,調書で鍛えているから文章がシンプルでわかりやすいんですね。このあと何冊か,続けてご紹介する予定です。 / 烏丸 ( 2000-09-08 12:22 )
はじめまして。サスペンスドラマ好きのよちみだけど、推理小説も重いのから軽いのまで好きです。これもぜひ読んでみたい! / よちみ ( 2000-09-08 11:47 )

2000-09-06 『中国てなもんや商社』 谷崎 光 / 文藝春秋社(文春文庫)


【没問題(メイウェンティ)!】

 同じアジア本でもこちらは大当たり(「旅」「紀行」モノではないが)。
 女子学生就職困難の折り,普通の会社に普通のOLのつもりで就職したら,それが中国相手の貿易商社。対中国の折衝を担当したら,首の入らないTシャツ,手の入らないポケット,ボタンより小さいボタンホール,開かぬ傘,濡れたら色落ちするトレーナー,ヤモリが丸ごと入ったジャム。次から次へとトラブルの連発。クレームつけても中国側は馬耳東風。没問題,没問題で絶対に謝罪などしない。言い訳につまると日本側の落ち度探し,さらにつまると天変地異。なにしろ工場がいきなり竜巻で吹っ飛んでしまったとFAXよこし,証拠に送ってきた新聞記事を見ればそれは遠い別の地方の竜巻というのだ。
 そんな会社で作者はひたすら上司に鍛えられ,同僚にいじめられ,中国側の担当者に責められる。トラブル,トラブル,トラブル。会話が通じない。製品が届かない。届いたら使えない。
 だけど,そうした泥沼のような仕事を繰り返すうちに,作者は少しずつ会社と仕事に慣れていく。中国人と心を交わすことに慣れていく。そうして読者にも見えてくる中国人たちのなんとも言えぬ豊かな素顔。もちろん慣れたからといってトラブルが減るわけではない。ただ,通り一遍の旅でその国のことをあだこだ言う本と違うのはここから先。
 つまり,それだけひどい目にあって,それでも好きになったのなら,本当にその仕事が好きなのだ。中国が,中国の人々が,本当に本当に好きなのだ。

 良い本については多くを語る必要なし。読むと元気が出,最後はほろりと泣ける。OLの皆さまにももちろんお奨め。
 ただし。
 これから中国とビジネス始める人は,ねえ。とりあえず,勇気と覚悟と強壮ドリンク片手にどうぞ。

先頭 表紙

中国人は、口車父が某大学にいた関係で、開放政策とってどっと中国人が留学生やら研修生やらで日本に来るようになった1978年以来、しばらくいろいろ面倒見ておりましたです。いや、すごかった。 / 口車大王 ( 2000-09-07 15:01 )
中国人相手の時は、ぎゃんぎゃんわめいて、言い負かしたほうが勝ち。日本流の「以心伝心」なんて、ぜったい通じません。それから、「月末締め、翌月末払い」なんてことやってごらんなさい。その翌月末には、相手の会社なくなっているから。品物渡すときは、絶対現金と引き換え。その点、台湾は良い。 / 口車大王 ( 2000-09-07 14:59 )
口車がポーランド行かされた、かつて勤めていた会社、大陸中国相手に赤字だしていないっす。しかも、日中国交回復前からお仕事指定たっす。すごいっす。 / 口車大王 ( 2000-09-07 14:57 )
え、小林聡美好きです。ビデオとか出てるかな。早速検索してみるっす。 / ぽた公 ( 2000-09-07 12:29 )
これ、映画になってるんですよね。小林聡美さんが主演。物凄い怪演でした。 / mishika ( 2000-09-07 11:09 )
うー,それは大変ですねえ。烏丸の場合……人さまに迷惑かけているほうが多いかな? / 烏丸 ( 2000-09-07 01:56 )
お〜。ワタシもこの没問題になやまされてるひとりでっす。 / りん ( 2000-09-06 22:38 )

2000-09-06 『OLときどきネパール人』 瀬尾里枝 / 光文社(知恵の森文庫)


【はずれ】

 インドの北,チベットとの境界にあり,エベレストをはじめとするヒマラヤ山脈で知られる高地の立憲君主国ネパール。首都はカトマンズ。
 本書は東京で勤めるOLが何度かこのネパールを訪ね,知り合った人々との交流をまとめたもの。食文化,身分制度,観光名所などについても紹介されている。

 それにしても,「ときどきネパール人」というタイトル表現はどうか。たとえば東京出身者が京都の大学に進学し,京都の企業に勤めたとして,それを京都人と言うだろうか。まして旅行者では。
 たかが旅のエッセイ本のタイトルに,そんなむきにならなくとも,と笑われるかもしれない。それでもこだわってしまうのは,こういう本では訪れた先との「タッチ」がものを言うからだ。旅の一期一会を楽しむのか,その土地にどっぷりひたって生活するのではずいぶん違うはず。著者のネパールに対する姿勢は,どうも日本人だからと免除されていることに無頓着で,かすかな苛立ちを抑えきれない。

 ところで,ご存知の方も多いと思うが,数年前の東電OL殺人事件の容疑者は最近多いという不法就労のネパール人だった。これが『OLときどきネパール人』に語られたネパールの情報やイメージにそぐわない。要するに,この著者のネパール体験は,比較的裕福な知人グループに密着するだけに,非常に狭いのではないか。インターネットでネパール紀行をざっとあたってみたが,『OLときどきネパール人』が本流という印象は得られなかった。瀬尾里枝はどこに行ってもこういう本を書く,それだけのことなのかもしれない。

 もう1つ,ネパールについて。ミュージシャン谷山浩子が,以前ネパールの高地でコンサートを開いたのをご存知だろうか。バスに揺られて危なっかしい崖っぷちの道をスタッフ一同登ったそうなのだが,これまた違和感が強い。上海とか香港,台北ならわからんでもないが,なぜにネパール。金銀ネパールプレゼント。だめ。思考がぜんぜん進まない。

先頭 表紙

これはマイケルさま,いらっしゃいませ。『旅の理不尽』,たった今,会社の近所の本屋で買ってきました。 / 烏丸 ( 2000-09-07 15:07 )
旅の理不尽 (宮田 珠己・小学館文庫)が好きなんですが / 最近ぜんぜん本読んでないマイケル ( 2000-09-07 11:31 )
アジアシリーズ、いいっすね、期待大です。追っかけようかな。 / ぽた公 ( 2000-09-06 19:02 )
で,こんな本をこきおろすのが主眼ではなくて,次に同じアジア関係でも,オススメ本を用意してあります。少々お待ちください。 / 烏丸 ( 2000-09-06 18:46 )
著者の瀬尾里枝には『ベトナム熱射病 サイゴン女ひとり歩き』という本がすでにあって(未読),次が『OLときどきネパール人』ときたらもうマユはツバでベタベタ。ただ,昔からネパール,ブータンは気になっていたのと,「ひょっとしてよい本の可能性も」と迷った末に読んだら,まあやっぱりね,という感じ。しかも解説の近藤サトのコネ付き(あるいはOLってのはテレビ局勤務?)のようだから,そりゃこの内容なら十分出版されるわな。日本語レベルでひどい本,というほどではありませんので念のため。タイトルから過大な期待はしないように,ということです。こうしてみると高橋由佳利の「トルコで……」はよい本だ。 / 烏丸 ( 2000-09-06 18:44 )
元OLの経験として。こういう本ってやっぱりOL向けなんですよね。そうするとやっぱりタイトルって一番大事。タイトルから、外国生活を垣間見れるんじゃないかと思ってみんな買っちゃいますよ。(私もイタリアものには何度だまされたことか!)案外こうい本ってすぐ出版されてしまうようで、大学時代の先輩も、自費でイギリス生活体験記を出そうと思っていたところ、あっさりどっかの出版社から出してもらえることになったらしいです。やっぱり外国モノってだけで売れるみたいですね〜。 / オーテマチエンヌ ( 2000-09-06 17:33 )
牽強付会とまでもいかないですね。単なる短慮? 無思慮? 私の周りにもいたりします。「最近の女子大生は○○なんだってさ〜」っていうので、そんなことはあるまいと思いよくよく聞いてみると、「知り合いの女子大生が○○だ」というだけのことでした。木を見て森を見ずというか、最初から森を見る気がないのか、森の存在を知らないのか。 / ぽた公 ( 2000-09-06 17:07 )
いや〜,旅日記がゾウの鼻だけ,尻尾だけでもいいと思うんですよ。問題は,「鼻だけ」「尻尾だけ」とわかって書いてるかどうか。この瀬尾って著者は,ヘンなたとえだけど,女子大生が合コンで酒代払わずにすんで,「○○大の人は親切でお金に頓着しないのでヨソの大学の人と会うより落ち着く」と書く,そんなところがありますね。 / 烏丸 ( 2000-09-06 16:35 )
真実を伝える紀行文って少ないですよね。断片的な情報は伝わってくるものの、ゾウの鼻だけ、尻尾だけ、っていう見方が多くて。やはりその土地で暮らしたことのある人の情報でないと、単なるツーリスト・インフォメーションになっちゃいますね。 / ぽた公 ( 2000-09-06 16:13 )

2000-09-06 『不思議の国の悪意』 ルーファス・キング 押田由起 訳 / 東京創元社(創元推理文庫)


【117番目の悪意】

 少し気分を変えよう。
 不勉強にして詳しくは知らないが,エラリー・クイーンの仕事に「クイーンの定員」というものがあるらしい。クイーンお得意のアンソロジーとも,ちょっと違う。
 要するに,推理小説の元祖と言われるエドガー・アラン・ポオの『Tales』(1845年)からハリー・ケメルマンの『九マイルは遠すぎる』まで,このジャンルにおいて重要とみなされる125の短編集を年代順に選び,推理小説史を語った,というものだそうな。

 ここでご紹介する『不思議の国の悪意』(1958年)は,その「クイーンの定員」の117番目に選ばれた短編集。原題の"Malice in Wonderland"はもちろん,クイーンがキングを選んだという点でもなかなかシャレが効いている。
 収録作品の多くは,フロリダの保養・観光地を舞台に,ある程度の財産を持った人々が悪意や欲望にかられたとき……というもの。ハウダニット,フーダニットが主眼の本格推理,ではなく,なぜ事件が起きたか,いかにそれが発覚したか,という人間ドラマのほうが主体。早い話が,地名を日本の観光地に変えれば,それだけで9時からの2時間サスペンスドラマはお任せ,そんな感じ。なかなか小気味よく仕上がった個々の作品にはほどほどの謎,意外でシニカルなエンディングが用意され,いずれも楽しく読むことができる。
 ただ……さすがにポオと並び称され,と言われたら小首を傾げざるを得ない。そもそも,元祖にして様式を固めてしまったポオと誰かを比較するというのが無理な話なんだが。

 もう一点。これは全く慣れの問題とは思うが,翻訳物を普段あまり読んでないと,たまに手にしたとき,そのオイルとケチャップに胃袋が驚くということはある。たとえば次のような表現だ。
 「ヘイヴァーメイは初期ニューイングランド人の良心の乏しい残骸と格闘した。かつては基本たる美徳といやしからぬ人品という産物を生む,みごとなばかりの畑だった良心と。」
 などなど。

先頭 表紙

2000-09-06 『レディ・プラスティック』 深谷陽/講談社(ミスターマガジンKC)


【……美映が 戻って来る】

「匣の中にぴったり入っている綺麗な娘とはまた」
「酷くうらやましいよねえ」
 失礼,これはこすもぽたりん氏の『魍魎の匣』評の一節であった。こちらは,匣の中でなく,プラスティックで出来ていて,自在に目の色や表情を変えることが出来る綺麗な娘の話である。
「それはまた」
「やっぱりちょっとうらやましいよねえ」

 しつこく引っ張ってきた深谷陽だが,古巣講談社に戻り,今年3月に単行本が発売された『レディ・プラスティック』では,ようやく彼のマンガ家になる以前の職業が明らかになる。なんとそれは,ゴムやプラスティックを駆使して贋の人体を作る,映画の「特殊メイク」だった。
 『レディ・プラスティック』の単行本の表紙カバーでも,彼の作った顔型の写真が使われている。女優の顔に型取り剤を塗り,その上から石膏包帯(ギプスと同じ素材)を貼る。固まったところで顔から型をはずし,それに石膏を流し込んで「オリジナル」を作る。その細部を修正してシリコン型を起こし……等々の手順を踏んでできたFRPやウレタンの顔型に,化粧,ヘアウィッグ,目玉,表情を出す装置などを加え……。
 アマリア,ミス・アン,ユリアティ,ユキコをはじめとする彼の「美人」たちが,なぜああも,鼻スジや口もとのシワのデフォルメされない,上下の睫毛までくどい顔つきをしていたのか,少しわかったような気がする。深谷陽にとって,女の笑顔は,睫毛や頬の筋肉の動きとセットでなければならなかった,多分そういうことだ。

 『レディ・プラスティック』の舞台は珍しく日本,東京。主人公は「特殊メイク」担当のアツシ,28歳。撮影で知り合った女優のリナの顔型(オリジナル)からウレタンでライフマスクを抜こうとしたとき,そこから出来上がったのは型の本人とは全く別の顔だった。そして,その顔をめぐって,世界の赤木監督のいわくつきの映画「森の瞳」が動き始める……。
 ストーリーは重厚で,スケッチ風の短く細い線を織り重ねて描くタッチは安定感がある。しかし,主演女優の死によって製作中止になった映画,その女優そっくりの人形,ホルマリン漬けの眼球と,道具はそろっているのに震えるほど怖い印象はない。読む方がこの手の設定,映像にスレてしまったせいか。いや,問題は,これでもかこれでもかと起こる事件が「誰にとって怖いのか」,それが散漫なせいではないか。そもそも,全編を通して最も言動がリアルに見えるのが,脇役に過ぎない杉田(リナのマネージャー)というのでは弱い。モダンホラーとしても,恋愛ドラマとしても,残念ながらこうしてみると不完全燃焼としか言いようがない。

 しかし,それでも,深谷陽の引き出しは面白い。
 今のところ,バリ島での生活,「特殊メイク」としての経験という作者のリアルにおぶさったかっこうだが,それを越えられる構成力があることも『運び屋ケン』では立証済みだ。出版社を変えたり雑誌が変わったり,不安定,マイナーな印象が強いが,もう一化けして,新たな系統樹の幹となってほしいとこの烏丸,勝手に期待しているのだが……。

先頭 表紙

しかし、ここまで「ですわ」を流行らせるとは、二階堂黎人恐るべしなの「ですわ」。 / ぽた公 ( 2000-09-06 17:10 )
いえいえ,毎度こちらこそご愛顧ありがとうございますなのですわ。 / 烏丸 ( 2000-09-06 16:37 )
あら、拙文をご紹介いただき、恐縮でございます。 / ぽたりん ( 2000-09-06 11:54 )

2000-09-05 『運び屋ケン』(全4巻) 深谷陽 / 集英社(SCオールマン)


【うめーな おいっ】

 講談社モーニングから,集英社のマンガオールマンに移って単行本4冊分の連載。オールマンは北条司『ファミリー・コンポ』,御厨さと美『ルサルカは還らない』など,いいスライダーは持っているんだが内角ストレートと落ちる球がなくて勝てないサイドスローのピッチャーみたいな雑誌。学生時代の同級生が編集にかんでるはずだが,そのへんどうよ,しーえーしゃのカシムラ。

 主人公ケンは貿易商,というよりは「武器と麻薬以外ならなんでも運ぶ」運び屋,29歳。舞台は台湾を皮切りにバリ,アフガニスタン,北京,カトマンドゥ,サイゴン,プノンペン,それからえーとどこだっけ,メキシコとかインドのバナラシとか。要するにアジアを中心にあちこち,行ったり来たり。
 『アキオ紀行』『アキオ無宿』と違う点は,もう殴る蹴る盗むハメる騙されるケツの穴にルビーを隠す,なんでもありのダーティーミッションインポッシブルであること。ケンは東京にオフィスを構える先輩のタカシからの連絡を受け,人や絨毯や仏像,宝石,グリーンアロワナなどを入手し,国境を越えて依頼主のところまで運ぶ。その途上,同業者や女ゲリラ,スラムの顔役などと,あるときは競い合い,あるときは共闘するのだが,往々にしてその仕事は苦い結果を招く。ことに,第4巻トルコの「ゲレネブ」をめぐる話は重すぎて「痛快アクションコミック」という範疇からはみ出し,それからしばらくして連載は終わってしまう。このへんどうなのよ,カシムラ。

 1つ1つの話は非常によく出来ていて重厚なのだが,いかんせん,モノクロの線画ではアジアのさまざまな地域を描き分けるのは難しかったのだろう。暑い国,寒い国,湿った土地,乾いた土地の違いが,少なくとも絵柄からはわかりにくい。「この作者にここまでアクションストーリーを描けるとは思えなかった」という驚きと,「この作者なら,こうしたアクション性は控えめにして,個々の話を引っ張り,その地域の食事や風習をじっくり描いてほしかった」という欲求とが入り乱れる。何人か登場するヒロインも,それぞれ役割が少しずつダブっており……。うん? これだけのシロモノに,何を贅沢言ってるんだ俺は。
 それにしても,いくら講談社からきた外様作家とはいえ,去年発売のコミックでもう品切れはないんじゃないか,どうなのよ,マンガオールマン。

先頭 表紙

2000-09-04 『アキオ無宿 ベトナム』 深谷陽 / 講談社(モーニングKC)


【君よ知るやアオザイの国】

 『アキオ紀行 バリ』から1年ほど経って掲載された続編。
 本職のよくわからない日本人青年アキオがバリ島に長期滞在していて,たまたま立ち寄ったサテワルン(串焼き食堂)の女性に恋をし──でも会話は通じない──プロポーズして,ところがそのアマリアには子供がいることがわかった──さりとて未亡人なのか未婚の母なのかもよくわからない──しかし自分としては! というあたりまでが前作。
 今度はそのアキオがベトナムを訪れて,食べて,バイクで走って,現地の女性と知り合い,やがてバリ島のアマリアのもとに戻り,ところが思いがけない怪我をしてバリ島から離れる,というところまでが本作。

 フォーボー,バインミー,ゴイクォン,チャーゾー,バインセオ,カフェスーダー,ケム,ホッビッロンなどの食べ物,飲み物の紹介をはじめ,シクロー(輪タク)ドライバーのオッくんをうまく配することで風光明媚アオザイ美少女添乗バイク的観光案内は前作以上に巧み。
 一方でメコンデルタやカンボジア国境など,重い風景や歴史も交え,さらには外国人による買春の実態やバッドでだらしない日本人青年像をそこそこ正直に描いて,その国の女性とレンアイカンケイに陥ることの意味と壁を切実に問う。まあ相手が年上の離婚子連れ女性なら,国内外を問わず内省的にならざるを得ないだろうが頑張れ青年。

 『アキオ紀行 バリ』にもちらっと登場した「若き貿易商」タカハシくんってのが,ベトナムでのアキオの旅の伴侶となり,生真面目さの抜けきらないアキオと対照的なノンシャランな言動でなかなか痛快。とか思っていたら,なんとこのタカハシくん,次作の『運び屋ケン』では堂々の主人公だ。

先頭 表紙

まだまだ続きます,深谷陽アジアコミックレポート。も少しお付き合いください。 > りんさま / 烏丸 ( 2000-09-05 11:12 )
アキオ紀行・・・このマンガの存在をしりませんでした。アジア好きとしてはぜひこのバリ編及びベトナム編読んでみたいです。 / りん ( 2000-09-05 02:26 )

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