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烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2000-08-25 『沈黙の艦隊』 かわぐちかいじ / 講談社(モーニングKC,講談社漫画文庫) 書評前編
2000-08-25 『陰陽師』 原作 夢枕獏,作画 岡野玲子 / 白泉社(Jets comics) 現在9巻まで
2000-08-25 『大阪豆ゴハン』(全12巻) サラ・イイネス / 講談社(ワイドKC)
2000-08-24 『孤独のグルメ』 原作 久住昌之,作画 谷口ジロー / 扶桑社
2000-08-24 『天使な小生意気』 西森博之/小学館(少年サンデーコミックス) 現在5巻まで
2000-08-23 『こちら葛飾区亀有公園前派出所 第98巻』 秋本 治 / 集英社(ジャンプコミックス)
2000-08-23 『カスミ伝(全)』 唐沢なをき / アスキー(アスペクトコミックス)
2000-08-23 『原子水母』 唐沢俊一,唐沢なをき / 幻冬舎(幻冬舎文庫)
2000-08-23 [書評未満] 『土居たか子グラフィティ』 樹村みのり / スコラ(バーガーSC)
2000-08-22 『大猟奇』 唐沢俊一,ソルボンヌK子 / 幻冬舎(幻冬舎文庫)


2000-08-25 『沈黙の艦隊』 かわぐちかいじ / 講談社(モーニングKC,講談社漫画文庫) 書評前編


【アップトリム30° 機関全速!】

 乗組員118人を死にいたらしめたロシア原子力潜水艦「クルスク」の沈没事故はいまだ原因不明だが,続いては「クルスク」とほぼ同規模の潜水艦「やまと」の物語を取り上げよう。

 マンガは,言うまでもないことだが2次元の静止メディアだ。紙芝居のように声が語るわけではないし,アニメのように動くわけでもない。だから,マンガの中で,登場人物のセリフは吹き出しの中に写植文字としてセメダインで貼られ,効果音の多くはコマ中に擬音(オノマトペ)として描かれるのである。
 そして,多くのマンガ作品では,このセリフや擬音に工夫をこらし,読み手の意識をその作品世界に取り込もうとする。……仰々しく書いてはいるが,誰でも知っている当たり前のことだ。

 この音の扱いを逆手にとって,読者の集中を高めるジャンルの作品がある。それが,潜水艦マンガだ。
 最新の軍事技術はさておき,ことマンガの中では,潜水艦同士の戦闘はいまだにソナーによる機関音探知が頼りだ。敵の音が聞こえず,その居所を見失うことは,即,敗北につながる。自らの沈黙は生であり,他者の沈黙は死を招くのだ(もっとも,現在にいたるまで,潜水艦同士が魚雷で打ち合うような戦闘は実は一度も記録されていないのだが)。

 『沈黙の艦隊』は,自衛官・海江田四郎とその部下たちが,隠密裏に日米で共同開発された原子力潜水艦シーバットを操って叛乱を起こし,独立国家「やまと」を名乗り,アメリカ軍との死闘を重ねて国連に出席するまでを描いた単行本32冊(文庫版16冊)におよぶ壮大な物語である。

 ともかく面白い。どのくらい面白いかといえば,これを読み始めると,徹夜明けのベッドから起き上がるために
 「アップトリム30°」
 「艦長,浮力が得られません!」
 「この眠気を突破して,初めて世界が変わるのだ。機関全速!」
と一人で雄叫びをあげる癖がつくほど面白い。ほかにも,
 「よし,探信音波(ピンガー)打て! 敵主力を失探(ロスト)するな!!」
 「艦長! 右舷20°より魚雷4本! 距離3000!」
 「全発射管,前部扉開け! 発射!!」
 などなど,ともかくあらゆる戦闘シーンのフレーズがカッコよい。最深度での敵との探り合い,冷静沈着な防御と一気呵成の攻撃があたしもうだめ,なのである。

 しかも,物語は戦術的な勝ち負けの次元に収まらず,世界各国の首脳,マスコミを巻き込んで,核の時代の世界戦略をぐりぐり追究する(後半の主人公は,やまとによって信義を問われるアメリカ大統領ベネットだと言っても過言ではない)。個々の政治的命題にどれだけリアリティがあるかと言えば,鼻で笑ってしまうような設定,セリフも少なくない。が,それを上回って思索をうながす力がこの『沈黙の艦隊』にはある。
 なにしろ,海江田がシーバットに「やまと」と命名してから最終回まで,モーニング誌上7年5か月の連載で,作品内では実は時間が2か月程度しか経過していないのだ。立派なアストロ球団だったのである。これだけで,物語の濃密さがうかがえるというものだ。
 そして,その濃さを読者に凝縮して伝えるのが,戦闘シーンの「音」,正確には「音の欠落」,なのである。やまとや敵艦の乗務員ともども,読者は必死で海底の沈黙に耳を澄ませ,物語に魅入る。だからこそ,海の底でモーツァルトを聞かせるという海江田の戦術はショッキングなのだ。

 ただし。『沈黙の艦隊』の戦闘シーンは,必ずしもオリジナリティあふれるというわけではない。

 とても3000バイトには収まりそうもないので,本稿,後編に続く。

先頭 表紙

2000-08-25 『陰陽師』 原作 夢枕獏,作画 岡野玲子 / 白泉社(Jets comics) 現在9巻まで


【だすうっっ!】

 牛車の軋み。水の涼音。殿上の管弦。羅城門にうごめく鬼どもの哭き声。さらには
  「だすっ!」(晴明が地を踏みしめる音)
  「だははははは」(雷神・菅原道真)
  「ベオン…」(唐伝来の琵琶・玄象)
  「ヒィリラ… ヒィラハ…」(三条東堀川橋の橋下にて,雅博,頭地天尾の美童より得たる笛を奏す)
  「ズズズ… ゴゴゴ…」(晴明の家に落つる雷神・道真)
など,岡野玲子の『陰陽師』各巻には瑞々しい音があふれている。以下,徒然,思いの向くままに。

 陰陽道のヒーローたる安倍晴明が今ブームだ。そこここで本や記事が目に入る。ヘタな便乗本を読むくらいなら『今昔物語』にあたったほうが,表現がさっくりしているだけ想像力をかきたてられ……などとうそぶいていたのだが,ブームのきっかけとなった夢枕獏の小説を読んでみると存外に油っ気がなくてよい。それをコミック化した岡野玲子作品もなかなか……否,とてもよい出来で,これは強くお奨めである。

 知の化け物たる安倍晴明に対し,その友人の管絃オタク・源博雅がワトスン役だが,巻が進むにつれ晴明が小賢しい苦労人(ちょっと言い過ぎ?),ピュアな博雅こそが守られた人,という構図が明らかになる。このあたりのバランスや,とぼけたギャグの風味もなかなかよい。それにしても,博雅を前にした晴明の笑顔のなんと爽やかなことか。
 晴明のライバルだったはずの葦屋道満が話に出てこないが,単なる対決譚,勧善懲悪譚にしたくなかったということか。たとえば1巻巻頭では都を呪う悪鬼として現れる菅原道真が,7巻では少女・真葛にあしらわれ,好々爺然(というほどでもないが)と描かれるなど,本作ではあらゆるものが相対的だ。雨乞いの儀式1つみても,僧と陰陽師とがさほど揉めもせず共存する(宗派の違いより個人的対立のほうがよほど大きい)。けっこう新鮮な印象だ。

 本領の陰陽道理論の美しさ,これはもう『ジョジョの奇妙な冒険』の波紋の理論以来かもしれない。「呪」(しゅ)と名をめぐるやり取りや,あやかしをあまりがんじがらめに縛ると返しが怖いので呪をわざとゆるめておくが,そのゆるみが雨漏りという形で現れる話……などなど,もう「うっとりだな」((C)晴明)。
 白と黒の勾玉形の,外側の一番大きな円が大極,中の2つの円が天の陽の気と地の陰の気の相克を表し,それが内接正五角形作図法によって木火土金水の五行の循環相生を表す五芒星に,さらには宇宙の渦に化す,という図式をぶんまわし(コンパス)と直角定規だけで証明する6巻なども圧倒的。

 また,編集者の手によるものだろうが,帯の惹句(じゃっく)がいずれも特筆モノ。
  「安倍晴明,鬼の上前はねる奴」1巻
  「黒川主,スカーフェイス」3巻
  「安倍晴明,そろりとまかりいる」5巻
  「真葛,解禁」9巻
実に素晴らしい。

 7巻の道真。コミック史上,これほど存在感が「ゴジラ」に近いキャラクタがあっただろうか。……ズズズ……。それに対する真葛,まるで宇多田ヒカルの登場を予測していたかのよう。うっきゃあだ。

 平安時代の酒や肴,菓子が再三出てくるが,小道具としてなかなか興味深い。実際は不味いのかもしれないが。

 『陰陽師』をテーマにしたCDは2枚組みで,1枚は雅楽バンド,1枚はブライアン・イーノが担当している模様。イーノといえばロキシーミュージック出身,アンビエント・ミュージック(環境音楽)の大家として知られ,最近ではWindows起動音の作曲者でもある。……ヒマなのか?

先頭 表紙

2000-08-25 『大阪豆ゴハン』(全12巻) サラ・イイネス / 講談社(ワイドKC)


【あかん,て。よう知らんけど】

 コミックと音を考える,堂々連載第3回……って,誰も期待してないってば。
 今回は擬音でなく,作品中で取り上げられる音楽の話。

 大阪市内の大きな,しかしめっぽう古い屋敷に住むお気楽な家族の日常を描く,サラ・イイネスの『大阪豆ゴハン』は,僕の知る限り,ソフト・マシーンとアラン・ホールズワース(g)の名を記した唯一のコミック作品である。そしてそれは,大阪のサザエさんと呼ばれる(呼ばれてないって)同作品のオシャレ度を示す上で(*1),そのスジでは有名な欄外の「WRCの部屋」(*2)に劣らず重要なポイントなのではないか。
 ソフト・マシーンやホールズワースの音は,シカメッツラの似合うブリティッシュプログレの中でも前衛的,かつどうやって演奏してんのかようわからんほどバカテク。なのにどこか控えめで,毎日もくもく働く技術屋さんの手作り風,しかもトコロテンのように郷愁を誘う。要するに『豆ゴハン』にえらくよく似合うのである。

 それにしても,たとえば法月綸太郎がミステリ短編の中でキング・クリムゾン持ち出して雰囲気出そうとすると「ほんにこやつは虎の威を借るアライグマのような」と不愉快になるくせに,サラ・イイネスが「フグを食べるときのBGMにはREDが最適」と書いたら喜んじゃうのはなぜか。我ながらようわからん。
 ようわからんうちに,大阪のサザエさんは突然無限ループから抜け出し,ストーリーが大きく動くと同時に最終回を迎えてしまった。

 ちなみに,オシャレ度だけなら,『豆ゴハン』以前に掲載されたコミックエッセイをまとめた『水玉生活』が上。
 最近は,従来の枠組みで分類しづらいメリハリのないモノはなんでもかんでも「癒し系」のレッテルが貼られるようだが,とりあえずそこそこ元気を出したいとき,この『水玉生活』や『大阪豆ゴハン』を選択するのは悪くない。
 気がつけば,「生活」という言葉は生きるに活きると書くのであって,『水玉生活』や『大阪豆ゴハン』は,前向きでいられなければつけられないようなタイトルなのであった。ゆうてもせんないけどナ。

*1……作者の日常を描くエッセイ風小品で,自分をしれっと美人に描ける女流作家はこのサラ・イイネスと清原なつのくらい。だから? と聞かれても困るが。

*2……WRCはWorld Rally Championship(世界ラリー選手権)の略。『大阪豆ゴハン』の登場人物の多くがラリーレーサーをモデルに描かれていることは有名。湯葉さんなんて名前もユハ・カンクネンから。

先頭 表紙

2000-08-24 『孤独のグルメ』 原作 久住昌之,作画 谷口ジロー / 扶桑社


【はふはふ むぐむぐ】

 コミックと音と言えば,野球マンガなら「ズバン」「カキーン」,スナイパーものなら「ズギューン」,F1系なら「ブロロロロォ」,アダルトなら……と,あれこれ擬音(オノマトペ)が思い浮かぶ。この擬音も,作家によってとことん凝る人,そうでもない人,多用する人,しない人など,いろいろあるようだ。
 『4P田中くん』や『風光る』『Dreams』などの長期連載で知られる(正確には,長期連載が多いわりには知られていない)高校野球マンガのスペシャリスト,川三番地はこの擬音がことのほか好きらしく,ページからはみ出さんばかりに毎試合擬音の山だ。たとえば,ピッチャーの手からボールが離れ,バッターが見逃してキャッチャーが捕球するまでのたった一動作の間に「シピイイッ」「ギャッ」「シュッ」「スンッ」「スパアンンッ」などいくつもの擬音が描き込まれることも珍しくない。球質やコースによってこの擬音が描き分けられているわけだ(たとえば4番目の「スンッ」は低めのストレートがバッターの手前で伸びる様子)。
 同様に,細部までリアリティにこだわる村上もとかや新谷かおるのF1マンガで,エンジンのメーカーや整備の具合によってエグゾーストノートすら描き分けられていると想像するのはそう無理な話ではない。

 では,リアリティを追究した食事マンガというものがあったら,擬音はどうなるのか。
 その生真面目な回答の1つが,『孤独のグルメ』にはある。この作品は,扶桑社の月刊PANJA(篠山紀信撮影による少女,幼女の水着写真が表紙に使われ,実に買いにくかった)に連載されたもので,個人輸入業者・井之頭五郎が仕事の合間に食事をとるさまが克明に描かれる,ただそれだけの作品だ。「グルメ」とタイトルにはあるが,食事先はそのあたりの,たとえば
   東京都杉並区西荻窪のおまかせ定食
   東京都練馬区石神井公園のカレー丼とおでん
   群馬県高崎市の焼きまんじゅう
といった具合。
 事件もドラマも,何もない。ただ,「腹が減った」主人公が「ここがよさそうだ」と店に入り,「このメニューはやってないのか」などと困ったあげく何かを注文し,「思ったよりうまい」と満足,店を出て「ちょっと食べ過ぎた」と後悔する,ほとんど毎回それだけの展開である。
 しかし,その食事を描くのに費やされる労力が,並ではない。商店街の風景,店内の様子,そして何より献立そのものについての妥協なき描写。作画の谷口ジローは,格闘マンガを描いて,原作の夢枕獏から「プロボクサー,アマレスラー,プロレスラーの肉体の違いを,はっきり描きわけられる稀有な作家」と言われた人。「食事処」のぶた肉いためライスを描くにも緻密な筆がふるわれる。

 それにしても,この作品の魅力はいったい何なのか。『美味しんぼ』のように薀蓄(うんちく)や勝ち負けがあるわけではない。食事をテーマにした人生訓のようなものが添えられることもあるが,作者サイドからのメッセージであるというよりは,「井之頭五郎ならこう考える」という事実の描写でしかない。
 ただただ,旺盛な食欲のまま食べる人と,それを見る読者。その先に何かあるのか,何もないのかを見定めたいと思っていたのだが,雑誌の休刊に伴ない,連載は渋谷百軒店で大盛り焼きそばと餃子を食べるシーンで終わってしまう。

   はふ はふ ほぐ ほぐ
   むしゃ むしゃ むぐ もぐ もぐ
   はふ はふ むぐ むぐ むぐ むぐ

 とりあえず,水を一杯。

先頭 表紙

『テレビ消灯時間』の1巻が売ってなかったよ〜ん。よし、就業後遠征だ。どうにも気になる「ねぇねぇ社長さん」。ちなみに2巻では、宮本知和の抑止力の話で爆笑してしまいました。 / こすもぽたりん ( 2000-08-25 13:17 )
え、これでつまらないんですか? 昨夜はあんまし寝てないから今日は早寝をしようと思い、就寝前の安らぎの読書に『テレビ消灯時間2』を読み始めて大爆笑。すっかり目も醒めてしまって、書き込みなどしている私です。あ〜面白かった。明日は1巻を買おう。でも、この人、なんでこんなにTV見る時間あるんですかね? / こすもぽたりん ( 2000-08-25 00:55 )
しかも,あいにく,『テレビ消灯時間』の2巻って1巻よりつまらないんですよ。と傷口に塩を塗る。 / 烏丸 ( 2000-08-25 00:26 )
「おいしんぼ」の書評をなくしてしまった!!!! / くっちー ( 2000-08-24 22:13 )
「ねぇねぇ社長さん」が知りたくて、『テレビ消灯時間』を買ってきてふと見たら2巻でした。しょっく。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 18:25 )
さっき、「と本」発見しました。『宇宙人ユミットからの手紙』ってえの。友人が「これ、本当にいい本だから、読んでよ」って言いつつ置いていったもの。いい「と本」という意味ではなく、本当に「いい本」だと彼は思っているらしいっす。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 18:06 )
いやー,と本はほとんど持ってないす。『後始末』も買ってないなあ。 / 烏丸 ( 2000-08-24 17:56 )
にゃるほろ、そりゃ納得。にゃるほろと書いて思い出しましたが、さっきまで読んでいた唐沢兄弟の『原子水母』のあとがきで、久々に「ニャントロ星人」の名前を発見して大笑いしてしまいました。あのモト本ってお持ちですか? / こすもぽたりん ( 2000-08-24 17:47 )
もしやあの長い長いあとがき,PANJA休刊で発表の場を失った次回分の原作(を改変したもの)だったのでは? / 久住さんに聞いとけばよかった,烏丸 ( 2000-08-24 16:33 )
しっかしこの本、あとがきが長いっすねえ。びっくり。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 16:18 )
この主人公,ぜーったいあとで成人病に苦しむと思います。あ,でもアルコール飲めないそうだからその分は長生きか。 / 烏丸 ( 2000-08-24 16:06 )
これも買わせていただきました。冒頭のあの南千住というか山谷の店が気になって気になって(ぶた肉炒めの回)。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 15:34 )

2000-08-24 『天使な小生意気』 西森博之/小学館(少年サンデーコミックス) 現在5巻まで


【信じられねェ… なんで タトンなんだ。】

 確かに,信じられない。不肖この烏丸も,思わず目を疑った。
 この「タトン」というのは,ストレートヘアのキューティクルも美しい主人公・天使恵(あまつかめぐみ)が,3階の女子トイレの窓から飛び降り,きれいに着地したシーンで用いられた擬音であり,【 】内はその場に居合わせた名も知れぬチョイ役君のセリフなのである。

 『天使な小生意気』の作者は『今日から俺は!!』『スピンナウト』の西森博之。ありきたりの不良少年異界放浪譚かと思われていた『スピンナウト』が最終回で突然化け,その好調さをそのまま持ち込んだ印象で,周辺の30代,40代のオヤジが何人も「サンデーといえば,『天使な小生意気』見てる?」状態である。大丈夫か,ニッポン。

 ストーリーは,9歳のときに河原で魔法使いに出会い,魔本の呪いによっていたずら盛りの男の子から女の子に変えられてしまった主人公が……というもの。ファンタジー系のコミック作品にはさほど珍しくもない設定だが,実のところそのあたりのいきさつは追想シーンであっさり触れられるだけで,以後はもっぱら男の子の心を持ったまま高校生になった恵とその友人・花華院美木,さらに恵にベタボレ状態の伝説のワル・蘇我源造,その他藤木たちクラスメートたちによるドタバタした高校生活が展開する。
 などと,夜中に登場人物名調べてマジメに書くのも情けないような,決して絵が巧いわけでもストーリーが斬新なわけでもないお気楽マンガだと思うのだが,これがなんというか,妙によい味を出しているのである。
 で,おそらく,『からくりサーカス』や『ARMS』をお目当てに,なんとなく付き合いでページをめくっていた読者が本作の特異性に気がついたのが,冒頭に書いた「タトン」のシーンだったのではないか。ここで初めて恵は,単なる美少女ではなく,この世にあらざる何か,しなやかで見事なものとして描かれたのではないか。
 ちなみにこれに味をしめたか,作者は,少し後では走る電車の窓から恵が飛び降りるシーンを,これまた見事にカッコよく描いている。もちろん,良い子はマネをしちゃいけないのだが。

 ファンタジーの味付けのもとにギャグを詰め込んだストーリーラブコメというと少年サンデー伝統だが,それにしてもこの『天使な小生意気』,『うる星やつら』や『GS美神極楽大作戦!!』に比べても落としどころが見えない。明日もあさってもみんなで楽しくすごしました,で最終回をまとめられる設定ではないのだ。だからといって恵が男に戻ればハッピーエンドかといえば,キャラクターの組み合わせがそういう具合にはなっていない。
 作者は,そのあたりちゃんと考えてくれているのだろうか……と恵の今後に後ろ髪引かれつつ,これからいくつか「コミックと音」というテーマで書評を重ねてみようという烏丸である。

先頭 表紙

2000-08-23 『こちら葛飾区亀有公園前派出所 第98巻』 秋本 治 / 集英社(ジャンプコミックス)


【ムネもキュウジュハッチ,オナカもキュウジュハッチ】

 単行本120巻,テレビアニメも放映中で,もはや国民標準コミックと化した『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を今さら紹介するのもなんだが,この1冊はぜひ。

 ここまで『こち亀』では,作者・秋本治ならではの執拗なまでの取材と凝りようで,ゲームやおもちゃ,車,武器などをマニアックに取り上げてきたのはご存知の通り。1996年5月に発行されたこの第98巻では,いよいよパソコンとインターネットが本格的に登場する。

 巻頭の「電脳ラブストーリーの巻」では,美少女育成ゲームを取り上げつつ,まだパソコンの機種やOSについては不明瞭なままだが,少し後の「両さんのパソコン講座の巻」では,本格的にパソコン(Windows95)と世代論がテーマとなる。両さんの

   『スイッチを入れ
   「情報」を機会に覚え
   させる為 リモコンを
   2度押す』というのを

   『パソコンを起動させて
   アプリケーションを
   インストールするため
   マウスをダブルクリックする』
   という専門用語の
   オンパレードにするな!

という名セリフが書かれたのもこのときだ。さらに「インターネット駄菓子屋の巻」「ハイテク世代V.S.オヤジ世代!!の巻」と扱いはヒートアップ。この3編にはマンガの後に詳しい用語解説のページが用意されており,マンガと合わせて読めばそこらのパソコン雑誌の入門記事よりわかりやすいことうけあいだ(本当70%)。少なくとも,何を知らないと恥ずかしい思いをするかは,両さんの部長いぢめでちゃんと教えてくれる。仕事上の必要さえなければ(社内イントラネットの担当にされちゃったとかね),今どきのパソコンなんてだいたいそれで十分だ。
 パソコンはこの後,『こち亀』の大きな題材の1つとなる。インターネットやモバイルについてさらに詳しく知りたい方は『こち亀』要チェックである。

 なお,この第98巻は,両さんの子供時代の,潜水艦のプラモをめぐる事件を描いた名作「不忍池の思い出の巻」も収録されており,お買い得。書店店頭で,「はて,烏丸の野郎が言っていたのは何巻だったかしら」と急性健忘症にとらまえられた方は,NEC PC-98の「98」,Windows98の「98」と思い出してね。

先頭 表紙

2000-08-23 『カスミ伝(全)』 唐沢なをき / アスキー(アスペクトコミックス)


【夙流変移抜刀霞切り! ……そりゃカムイ伝だって】

 唐沢商会関連では,比較的容易に入手可能ということを優先し,必ずしも万人向きとは言えない本を2冊続けてしまった。古本関係は後でまた別途紹介するとして,ここは海より深く反省し,とりあえずフォロー。

 唐沢商会の弟のほう,唐沢なをきといえば,『カスミ伝』が必携必読であろう。
 現在入手できるアスキーの『カスミ伝(全)』は,徳間書店発行の単行本『カスミ伝』に『八戒の大冒険』収録の2編を加えたもの。徳間版当時の表4〜表1にまたがったダイナミックなカバーデザインが失われたのは少々残念(添付画像は徳間版)。
 内容は,飛騨忍者くのいちカスミをまな板に乗せ,タテヨコナナメ,あらゆる角度からギャグ表現に挑むというもの。「挑む」の主語は唐沢なをき。つまり,描かれたギャグの一つひとつが面白いというよりは,作者が2次元のメディアであるコミックの中で,どこまでギャグ表現技法を極められるかという,その工程そのものがギャグとなっている。したがって実験色が非常に強く,キャラクターに対する感情移入などの入り込む余地はほとんどなく,『カスミ伝』読用中にどうき,息ぎれ,頭痛,めまい,発しん,かゆみなどの異常のあった場合はただちに読用を中止し,医師の診断をあおげば尊しホタルの光。

先頭 表紙

天井からコンブ! のギャグが大好き。 / カスミ丸 ( 2000-08-24 13:59 )
注文するっぴ! / こすもぽたりん ( 2000-08-24 01:03 )

2000-08-23 『原子水母』 唐沢俊一,唐沢なをき / 幻冬舎(幻冬舎文庫)


【乳の叫び】

 原作が『大猟奇』の唐沢俊一,作画・唐沢なをきという兄弟ユニット「唐沢商会」による作品集。
 ともかくタイトルが素晴らしい(*1)。店頭でこのタイトルに打たれ,思わずにじり寄って手に取り,レジに走った者も少なくないのではないか。……俺だ。

 ところが文庫版の表紙は唐沢兄弟(帽子は兄,弟はクルクル目)がクラゲのかっこうしてフヨフヨしているだけ。おまけに,英米語で「THE ATOMIC JELLYFISH」とサブタイトル。なぜホルスタイン柄のクラゲでないのか。なぜせめて「ATOM WATER MOTHER」ではなかったのか! などと腹を立てながら,結局唐沢商会の本だからと単行本も文庫版も両方購入してしまった者も少なくないのではないか。……だから俺だって。

 内容はといえば,言葉で説明するとハテシナクしょーもなくなってしまうような短い下ネタギャグマンガがぎゅうぎゅう詰まっていて,ところが文庫版のほうはならやたかしのグロマンガ『ケンペーくん』(幻冬舎アウトロー文庫)と全く同時期の発売で,両方買ってしまったがため郷里を捨て,ホラの穴の刺客に命を狙われるようになった者も少なくないのではないか。……って,誰だ?

*1……知ってる人は知っている,草原で美牛がにっこり振り返るジャケットも有名な,ピンク・フロイドのアルバム『原子心母』(ATOM HEART MOTHER)からのモジリ。

先頭 表紙

いやまあなんちゅうか唐沢兄弟ってえのは、なんともすんごいですなあ。読み終わって一番感心したのが、アオカン。私もてっきり「青姦」だと思ってました。まさかここに「邯鄲の夢」が出てくるとはねえ。皆さん、正しくは「青邯」だそうです。青空の下で枕をともにするからだそうな。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 17:20 )
ウシみつどきに貼り付けたのにゃ。 ← これまたさぶー / 烏丸 ( 2000-08-24 13:58 )
買ってきたっぴ〜。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 13:57 )
あれ、昨日ジャケット写真あったっけ? / ねむり ( 2000-08-24 12:24 )

2000-08-23 [書評未満] 『土居たか子グラフィティ』 樹村みのり / スコラ(バーガーSC)


【だってわたし13歳のときから】

 スコラ社が倒産して,何冊かコミックが宙に浮いたまま手に入らなくなった。いくつかは白泉社などから再販されているようだが,手に入らないものもある。発行元がつぶれなくともよくあることなので,騒ぐほどのことではないのだが。
 さて,そのスコラ社の今では入手不能な1冊,『土居たか子グラフィティ』が最寄り駅近くの古本屋の棚にあることには,もうずいぶん前から気がついていた。作者・樹村みのりは,この烏丸がこの30年間,正確にいえば1970年の夏以来,最も信頼するコミック作家の一人だ。それでも,なんとなくこの本を手に入れるには躊躇があった。コミック作家が,実在する,それも政治家の伝記を扱うということに,生理的に納得できないものがあったからだ。理屈をニ,三でっち上げるのは簡単だが,ここは気分の問題ですませたい。
 まあ,とりあえず今夜はほかに欲しい本もあり,それを購入した。表題作の「土居たか子グラフィティ」は予想を甚だしく下回るほどではなかったが,さりとて「今日まで手にしなかった自分が愚かだった!」と天を仰ぐほどのものではやはりなかった。1冊の3分の1以上を占める4コママンガ集「となりのまあちゃん」も,とりたてて言うことはない。樹村みのりの優れた作品なら,本棚にいくらでもある。だから,『土居たか子グラフィティ』は,まあ,30年来のファンの,コレクターズアイテムの1冊として烏丸の本棚の奥に沈むだろう。

 それ以外の収録作,「駆け足東ヨーロッパ」「ジョニ・ミッチェルに会った夜の私的な夢」は実話(作者の体験)に基づいたコミックエッセイだが,これらはすでに単行本に収録されたこともあって何度も読み返した記憶があった。

 ところで,烏丸は以前よりコミックを扱う出版社全般にもどかしい思いを抱えている。理由は簡単なことだ,コミック作品を単行本に収録する際には必ず初出を明らかにしてほしい。でないと,こんなに手間がかかる。「駆け足東ヨーロッパ」は1979年プチコミック11月号に掲載された作品だ。作者が30歳前後のときの作品だったろうか。
 作品中,団体グループ旅行の一員として東ヨーロッパに出かける作者は,旅行代理店でワルシャワ滞在中の1日でその場所に行くのは無理と言われる。がっかりする作者に旅行代理店の者は尋ねる。
 「なぜそうした場所へ行きたいのですか? テレビの『ホロコースト』に影響されましたか?」
 すると作者は口にこそ出せないが,心の中で小さくこう答える。

 「だってわたし13歳のときから強制収容所のことしか考えたことがありません」

 ……やっぱり,惚れてしまうよなあ,樹村みのり。

先頭 表紙

ガロとかCOMとかマンガ少年ならともかく,小学館の少女コミックで『あれ』やベトナム開放戦争の話を描きまくった樹村みのり。もううっとりです。 / 烏丸 ( 2000-08-24 12:11 )
をを、『あれ』ですね。大王様の『あれ』の話が待たれる今日この頃ですね。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 11:53 )

2000-08-22 『大猟奇』 唐沢俊一,ソルボンヌK子 / 幻冬舎(幻冬舎文庫)


【でろでろでげちょげちょ】

 唐沢商会の兄のほう,「と学会」会員としても知られる読書家唐沢俊一がネタを集め,彼の妻にしてレディコミ作家であるソルボンヌK子が作画した,グロい実話,気持ち悪いカット満載のコミックエッセイ。連続殺人鬼,人肉食,寄生虫の話,イヤな死に方,男色の話などなど,悪趣味な話がたっぷり。
 いや,それはもちろん,内臓を練り刻むのが趣味だとか,回虫がかわゆくてしかたないとか,実はデブ専でとかいう方にはとても気持ちのよい本なのかもしれないが,つまり,えー,読んでいる最中に本を持つ手からぼたぼたと蛆が落ちそうというか,ともかく古今東西のずちゃずちゃでぬたぬたなお題がそれはもうにぎにぎと。
 とくにぎっちり詰まった○○の○○○のカットはあまりにも有名で,心臓の弱い方,お年を召した方,食事中の方には決してオススメしたくない1冊ではある。ただ,そういうあなたが今食べているそれだって……いや,失敬。

 なお,続編『世界の猟奇ショー』も発売されてはいるが,内容のエグさは本『大猟奇』に空より遠く及ばない。

先頭 表紙

ひやああああああ、自分のハンドルが嫌になりましたよおおおおおお。改名しようかな… / こすも石油 ( 2000-08-22 22:35 )
ふと気がつくと,なにやら白いうねうねしたものがぽた。ぽた。ぽたりん。 / 烏丸 ( 2000-08-22 19:16 )
やだよぉ、この本やだよぉ。 / ぽたりん ( 2000-08-22 18:02 )

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