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烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2000-08-25 『大阪豆ゴハン』(全12巻) サラ・イイネス / 講談社(ワイドKC)
2000-08-24 『孤独のグルメ』 原作 久住昌之,作画 谷口ジロー / 扶桑社
2000-08-24 『天使な小生意気』 西森博之/小学館(少年サンデーコミックス) 現在5巻まで
2000-08-23 『こちら葛飾区亀有公園前派出所 第98巻』 秋本 治 / 集英社(ジャンプコミックス)
2000-08-23 『カスミ伝(全)』 唐沢なをき / アスキー(アスペクトコミックス)
2000-08-23 『原子水母』 唐沢俊一,唐沢なをき / 幻冬舎(幻冬舎文庫)
2000-08-23 [書評未満] 『土居たか子グラフィティ』 樹村みのり / スコラ(バーガーSC)
2000-08-22 『大猟奇』 唐沢俊一,ソルボンヌK子 / 幻冬舎(幻冬舎文庫)
2000-08-22 『46番目の密室』 有栖川有栖 / 講談社(講談社文庫)
2000-08-21 『サイドカー刑事』 小宮政志 / 講談社(モーニングKC)


2000-08-25 『大阪豆ゴハン』(全12巻) サラ・イイネス / 講談社(ワイドKC)


【あかん,て。よう知らんけど】

 コミックと音を考える,堂々連載第3回……って,誰も期待してないってば。
 今回は擬音でなく,作品中で取り上げられる音楽の話。

 大阪市内の大きな,しかしめっぽう古い屋敷に住むお気楽な家族の日常を描く,サラ・イイネスの『大阪豆ゴハン』は,僕の知る限り,ソフト・マシーンとアラン・ホールズワース(g)の名を記した唯一のコミック作品である。そしてそれは,大阪のサザエさんと呼ばれる(呼ばれてないって)同作品のオシャレ度を示す上で(*1),そのスジでは有名な欄外の「WRCの部屋」(*2)に劣らず重要なポイントなのではないか。
 ソフト・マシーンやホールズワースの音は,シカメッツラの似合うブリティッシュプログレの中でも前衛的,かつどうやって演奏してんのかようわからんほどバカテク。なのにどこか控えめで,毎日もくもく働く技術屋さんの手作り風,しかもトコロテンのように郷愁を誘う。要するに『豆ゴハン』にえらくよく似合うのである。

 それにしても,たとえば法月綸太郎がミステリ短編の中でキング・クリムゾン持ち出して雰囲気出そうとすると「ほんにこやつは虎の威を借るアライグマのような」と不愉快になるくせに,サラ・イイネスが「フグを食べるときのBGMにはREDが最適」と書いたら喜んじゃうのはなぜか。我ながらようわからん。
 ようわからんうちに,大阪のサザエさんは突然無限ループから抜け出し,ストーリーが大きく動くと同時に最終回を迎えてしまった。

 ちなみに,オシャレ度だけなら,『豆ゴハン』以前に掲載されたコミックエッセイをまとめた『水玉生活』が上。
 最近は,従来の枠組みで分類しづらいメリハリのないモノはなんでもかんでも「癒し系」のレッテルが貼られるようだが,とりあえずそこそこ元気を出したいとき,この『水玉生活』や『大阪豆ゴハン』を選択するのは悪くない。
 気がつけば,「生活」という言葉は生きるに活きると書くのであって,『水玉生活』や『大阪豆ゴハン』は,前向きでいられなければつけられないようなタイトルなのであった。ゆうてもせんないけどナ。

*1……作者の日常を描くエッセイ風小品で,自分をしれっと美人に描ける女流作家はこのサラ・イイネスと清原なつのくらい。だから? と聞かれても困るが。

*2……WRCはWorld Rally Championship(世界ラリー選手権)の略。『大阪豆ゴハン』の登場人物の多くがラリーレーサーをモデルに描かれていることは有名。湯葉さんなんて名前もユハ・カンクネンから。

先頭 表紙

2000-08-24 『孤独のグルメ』 原作 久住昌之,作画 谷口ジロー / 扶桑社


【はふはふ むぐむぐ】

 コミックと音と言えば,野球マンガなら「ズバン」「カキーン」,スナイパーものなら「ズギューン」,F1系なら「ブロロロロォ」,アダルトなら……と,あれこれ擬音(オノマトペ)が思い浮かぶ。この擬音も,作家によってとことん凝る人,そうでもない人,多用する人,しない人など,いろいろあるようだ。
 『4P田中くん』や『風光る』『Dreams』などの長期連載で知られる(正確には,長期連載が多いわりには知られていない)高校野球マンガのスペシャリスト,川三番地はこの擬音がことのほか好きらしく,ページからはみ出さんばかりに毎試合擬音の山だ。たとえば,ピッチャーの手からボールが離れ,バッターが見逃してキャッチャーが捕球するまでのたった一動作の間に「シピイイッ」「ギャッ」「シュッ」「スンッ」「スパアンンッ」などいくつもの擬音が描き込まれることも珍しくない。球質やコースによってこの擬音が描き分けられているわけだ(たとえば4番目の「スンッ」は低めのストレートがバッターの手前で伸びる様子)。
 同様に,細部までリアリティにこだわる村上もとかや新谷かおるのF1マンガで,エンジンのメーカーや整備の具合によってエグゾーストノートすら描き分けられていると想像するのはそう無理な話ではない。

 では,リアリティを追究した食事マンガというものがあったら,擬音はどうなるのか。
 その生真面目な回答の1つが,『孤独のグルメ』にはある。この作品は,扶桑社の月刊PANJA(篠山紀信撮影による少女,幼女の水着写真が表紙に使われ,実に買いにくかった)に連載されたもので,個人輸入業者・井之頭五郎が仕事の合間に食事をとるさまが克明に描かれる,ただそれだけの作品だ。「グルメ」とタイトルにはあるが,食事先はそのあたりの,たとえば
   東京都杉並区西荻窪のおまかせ定食
   東京都練馬区石神井公園のカレー丼とおでん
   群馬県高崎市の焼きまんじゅう
といった具合。
 事件もドラマも,何もない。ただ,「腹が減った」主人公が「ここがよさそうだ」と店に入り,「このメニューはやってないのか」などと困ったあげく何かを注文し,「思ったよりうまい」と満足,店を出て「ちょっと食べ過ぎた」と後悔する,ほとんど毎回それだけの展開である。
 しかし,その食事を描くのに費やされる労力が,並ではない。商店街の風景,店内の様子,そして何より献立そのものについての妥協なき描写。作画の谷口ジローは,格闘マンガを描いて,原作の夢枕獏から「プロボクサー,アマレスラー,プロレスラーの肉体の違いを,はっきり描きわけられる稀有な作家」と言われた人。「食事処」のぶた肉いためライスを描くにも緻密な筆がふるわれる。

 それにしても,この作品の魅力はいったい何なのか。『美味しんぼ』のように薀蓄(うんちく)や勝ち負けがあるわけではない。食事をテーマにした人生訓のようなものが添えられることもあるが,作者サイドからのメッセージであるというよりは,「井之頭五郎ならこう考える」という事実の描写でしかない。
 ただただ,旺盛な食欲のまま食べる人と,それを見る読者。その先に何かあるのか,何もないのかを見定めたいと思っていたのだが,雑誌の休刊に伴ない,連載は渋谷百軒店で大盛り焼きそばと餃子を食べるシーンで終わってしまう。

   はふ はふ ほぐ ほぐ
   むしゃ むしゃ むぐ もぐ もぐ
   はふ はふ むぐ むぐ むぐ むぐ

 とりあえず,水を一杯。

先頭 表紙

『テレビ消灯時間』の1巻が売ってなかったよ〜ん。よし、就業後遠征だ。どうにも気になる「ねぇねぇ社長さん」。ちなみに2巻では、宮本知和の抑止力の話で爆笑してしまいました。 / こすもぽたりん ( 2000-08-25 13:17 )
え、これでつまらないんですか? 昨夜はあんまし寝てないから今日は早寝をしようと思い、就寝前の安らぎの読書に『テレビ消灯時間2』を読み始めて大爆笑。すっかり目も醒めてしまって、書き込みなどしている私です。あ〜面白かった。明日は1巻を買おう。でも、この人、なんでこんなにTV見る時間あるんですかね? / こすもぽたりん ( 2000-08-25 00:55 )
しかも,あいにく,『テレビ消灯時間』の2巻って1巻よりつまらないんですよ。と傷口に塩を塗る。 / 烏丸 ( 2000-08-25 00:26 )
「おいしんぼ」の書評をなくしてしまった!!!! / くっちー ( 2000-08-24 22:13 )
「ねぇねぇ社長さん」が知りたくて、『テレビ消灯時間』を買ってきてふと見たら2巻でした。しょっく。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 18:25 )
さっき、「と本」発見しました。『宇宙人ユミットからの手紙』ってえの。友人が「これ、本当にいい本だから、読んでよ」って言いつつ置いていったもの。いい「と本」という意味ではなく、本当に「いい本」だと彼は思っているらしいっす。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 18:06 )
いやー,と本はほとんど持ってないす。『後始末』も買ってないなあ。 / 烏丸 ( 2000-08-24 17:56 )
にゃるほろ、そりゃ納得。にゃるほろと書いて思い出しましたが、さっきまで読んでいた唐沢兄弟の『原子水母』のあとがきで、久々に「ニャントロ星人」の名前を発見して大笑いしてしまいました。あのモト本ってお持ちですか? / こすもぽたりん ( 2000-08-24 17:47 )
もしやあの長い長いあとがき,PANJA休刊で発表の場を失った次回分の原作(を改変したもの)だったのでは? / 久住さんに聞いとけばよかった,烏丸 ( 2000-08-24 16:33 )
しっかしこの本、あとがきが長いっすねえ。びっくり。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 16:18 )
この主人公,ぜーったいあとで成人病に苦しむと思います。あ,でもアルコール飲めないそうだからその分は長生きか。 / 烏丸 ( 2000-08-24 16:06 )
これも買わせていただきました。冒頭のあの南千住というか山谷の店が気になって気になって(ぶた肉炒めの回)。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 15:34 )

2000-08-24 『天使な小生意気』 西森博之/小学館(少年サンデーコミックス) 現在5巻まで


【信じられねェ… なんで タトンなんだ。】

 確かに,信じられない。不肖この烏丸も,思わず目を疑った。
 この「タトン」というのは,ストレートヘアのキューティクルも美しい主人公・天使恵(あまつかめぐみ)が,3階の女子トイレの窓から飛び降り,きれいに着地したシーンで用いられた擬音であり,【 】内はその場に居合わせた名も知れぬチョイ役君のセリフなのである。

 『天使な小生意気』の作者は『今日から俺は!!』『スピンナウト』の西森博之。ありきたりの不良少年異界放浪譚かと思われていた『スピンナウト』が最終回で突然化け,その好調さをそのまま持ち込んだ印象で,周辺の30代,40代のオヤジが何人も「サンデーといえば,『天使な小生意気』見てる?」状態である。大丈夫か,ニッポン。

 ストーリーは,9歳のときに河原で魔法使いに出会い,魔本の呪いによっていたずら盛りの男の子から女の子に変えられてしまった主人公が……というもの。ファンタジー系のコミック作品にはさほど珍しくもない設定だが,実のところそのあたりのいきさつは追想シーンであっさり触れられるだけで,以後はもっぱら男の子の心を持ったまま高校生になった恵とその友人・花華院美木,さらに恵にベタボレ状態の伝説のワル・蘇我源造,その他藤木たちクラスメートたちによるドタバタした高校生活が展開する。
 などと,夜中に登場人物名調べてマジメに書くのも情けないような,決して絵が巧いわけでもストーリーが斬新なわけでもないお気楽マンガだと思うのだが,これがなんというか,妙によい味を出しているのである。
 で,おそらく,『からくりサーカス』や『ARMS』をお目当てに,なんとなく付き合いでページをめくっていた読者が本作の特異性に気がついたのが,冒頭に書いた「タトン」のシーンだったのではないか。ここで初めて恵は,単なる美少女ではなく,この世にあらざる何か,しなやかで見事なものとして描かれたのではないか。
 ちなみにこれに味をしめたか,作者は,少し後では走る電車の窓から恵が飛び降りるシーンを,これまた見事にカッコよく描いている。もちろん,良い子はマネをしちゃいけないのだが。

 ファンタジーの味付けのもとにギャグを詰め込んだストーリーラブコメというと少年サンデー伝統だが,それにしてもこの『天使な小生意気』,『うる星やつら』や『GS美神極楽大作戦!!』に比べても落としどころが見えない。明日もあさってもみんなで楽しくすごしました,で最終回をまとめられる設定ではないのだ。だからといって恵が男に戻ればハッピーエンドかといえば,キャラクターの組み合わせがそういう具合にはなっていない。
 作者は,そのあたりちゃんと考えてくれているのだろうか……と恵の今後に後ろ髪引かれつつ,これからいくつか「コミックと音」というテーマで書評を重ねてみようという烏丸である。

先頭 表紙

2000-08-23 『こちら葛飾区亀有公園前派出所 第98巻』 秋本 治 / 集英社(ジャンプコミックス)


【ムネもキュウジュハッチ,オナカもキュウジュハッチ】

 単行本120巻,テレビアニメも放映中で,もはや国民標準コミックと化した『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を今さら紹介するのもなんだが,この1冊はぜひ。

 ここまで『こち亀』では,作者・秋本治ならではの執拗なまでの取材と凝りようで,ゲームやおもちゃ,車,武器などをマニアックに取り上げてきたのはご存知の通り。1996年5月に発行されたこの第98巻では,いよいよパソコンとインターネットが本格的に登場する。

 巻頭の「電脳ラブストーリーの巻」では,美少女育成ゲームを取り上げつつ,まだパソコンの機種やOSについては不明瞭なままだが,少し後の「両さんのパソコン講座の巻」では,本格的にパソコン(Windows95)と世代論がテーマとなる。両さんの

   『スイッチを入れ
   「情報」を機会に覚え
   させる為 リモコンを
   2度押す』というのを

   『パソコンを起動させて
   アプリケーションを
   インストールするため
   マウスをダブルクリックする』
   という専門用語の
   オンパレードにするな!

という名セリフが書かれたのもこのときだ。さらに「インターネット駄菓子屋の巻」「ハイテク世代V.S.オヤジ世代!!の巻」と扱いはヒートアップ。この3編にはマンガの後に詳しい用語解説のページが用意されており,マンガと合わせて読めばそこらのパソコン雑誌の入門記事よりわかりやすいことうけあいだ(本当70%)。少なくとも,何を知らないと恥ずかしい思いをするかは,両さんの部長いぢめでちゃんと教えてくれる。仕事上の必要さえなければ(社内イントラネットの担当にされちゃったとかね),今どきのパソコンなんてだいたいそれで十分だ。
 パソコンはこの後,『こち亀』の大きな題材の1つとなる。インターネットやモバイルについてさらに詳しく知りたい方は『こち亀』要チェックである。

 なお,この第98巻は,両さんの子供時代の,潜水艦のプラモをめぐる事件を描いた名作「不忍池の思い出の巻」も収録されており,お買い得。書店店頭で,「はて,烏丸の野郎が言っていたのは何巻だったかしら」と急性健忘症にとらまえられた方は,NEC PC-98の「98」,Windows98の「98」と思い出してね。

先頭 表紙

2000-08-23 『カスミ伝(全)』 唐沢なをき / アスキー(アスペクトコミックス)


【夙流変移抜刀霞切り! ……そりゃカムイ伝だって】

 唐沢商会関連では,比較的容易に入手可能ということを優先し,必ずしも万人向きとは言えない本を2冊続けてしまった。古本関係は後でまた別途紹介するとして,ここは海より深く反省し,とりあえずフォロー。

 唐沢商会の弟のほう,唐沢なをきといえば,『カスミ伝』が必携必読であろう。
 現在入手できるアスキーの『カスミ伝(全)』は,徳間書店発行の単行本『カスミ伝』に『八戒の大冒険』収録の2編を加えたもの。徳間版当時の表4〜表1にまたがったダイナミックなカバーデザインが失われたのは少々残念(添付画像は徳間版)。
 内容は,飛騨忍者くのいちカスミをまな板に乗せ,タテヨコナナメ,あらゆる角度からギャグ表現に挑むというもの。「挑む」の主語は唐沢なをき。つまり,描かれたギャグの一つひとつが面白いというよりは,作者が2次元のメディアであるコミックの中で,どこまでギャグ表現技法を極められるかという,その工程そのものがギャグとなっている。したがって実験色が非常に強く,キャラクターに対する感情移入などの入り込む余地はほとんどなく,『カスミ伝』読用中にどうき,息ぎれ,頭痛,めまい,発しん,かゆみなどの異常のあった場合はただちに読用を中止し,医師の診断をあおげば尊しホタルの光。

先頭 表紙

天井からコンブ! のギャグが大好き。 / カスミ丸 ( 2000-08-24 13:59 )
注文するっぴ! / こすもぽたりん ( 2000-08-24 01:03 )

2000-08-23 『原子水母』 唐沢俊一,唐沢なをき / 幻冬舎(幻冬舎文庫)


【乳の叫び】

 原作が『大猟奇』の唐沢俊一,作画・唐沢なをきという兄弟ユニット「唐沢商会」による作品集。
 ともかくタイトルが素晴らしい(*1)。店頭でこのタイトルに打たれ,思わずにじり寄って手に取り,レジに走った者も少なくないのではないか。……俺だ。

 ところが文庫版の表紙は唐沢兄弟(帽子は兄,弟はクルクル目)がクラゲのかっこうしてフヨフヨしているだけ。おまけに,英米語で「THE ATOMIC JELLYFISH」とサブタイトル。なぜホルスタイン柄のクラゲでないのか。なぜせめて「ATOM WATER MOTHER」ではなかったのか! などと腹を立てながら,結局唐沢商会の本だからと単行本も文庫版も両方購入してしまった者も少なくないのではないか。……だから俺だって。

 内容はといえば,言葉で説明するとハテシナクしょーもなくなってしまうような短い下ネタギャグマンガがぎゅうぎゅう詰まっていて,ところが文庫版のほうはならやたかしのグロマンガ『ケンペーくん』(幻冬舎アウトロー文庫)と全く同時期の発売で,両方買ってしまったがため郷里を捨て,ホラの穴の刺客に命を狙われるようになった者も少なくないのではないか。……って,誰だ?

*1……知ってる人は知っている,草原で美牛がにっこり振り返るジャケットも有名な,ピンク・フロイドのアルバム『原子心母』(ATOM HEART MOTHER)からのモジリ。

先頭 表紙

いやまあなんちゅうか唐沢兄弟ってえのは、なんともすんごいですなあ。読み終わって一番感心したのが、アオカン。私もてっきり「青姦」だと思ってました。まさかここに「邯鄲の夢」が出てくるとはねえ。皆さん、正しくは「青邯」だそうです。青空の下で枕をともにするからだそうな。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 17:20 )
ウシみつどきに貼り付けたのにゃ。 ← これまたさぶー / 烏丸 ( 2000-08-24 13:58 )
買ってきたっぴ〜。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 13:57 )
あれ、昨日ジャケット写真あったっけ? / ねむり ( 2000-08-24 12:24 )

2000-08-23 [書評未満] 『土居たか子グラフィティ』 樹村みのり / スコラ(バーガーSC)


【だってわたし13歳のときから】

 スコラ社が倒産して,何冊かコミックが宙に浮いたまま手に入らなくなった。いくつかは白泉社などから再販されているようだが,手に入らないものもある。発行元がつぶれなくともよくあることなので,騒ぐほどのことではないのだが。
 さて,そのスコラ社の今では入手不能な1冊,『土居たか子グラフィティ』が最寄り駅近くの古本屋の棚にあることには,もうずいぶん前から気がついていた。作者・樹村みのりは,この烏丸がこの30年間,正確にいえば1970年の夏以来,最も信頼するコミック作家の一人だ。それでも,なんとなくこの本を手に入れるには躊躇があった。コミック作家が,実在する,それも政治家の伝記を扱うということに,生理的に納得できないものがあったからだ。理屈をニ,三でっち上げるのは簡単だが,ここは気分の問題ですませたい。
 まあ,とりあえず今夜はほかに欲しい本もあり,それを購入した。表題作の「土居たか子グラフィティ」は予想を甚だしく下回るほどではなかったが,さりとて「今日まで手にしなかった自分が愚かだった!」と天を仰ぐほどのものではやはりなかった。1冊の3分の1以上を占める4コママンガ集「となりのまあちゃん」も,とりたてて言うことはない。樹村みのりの優れた作品なら,本棚にいくらでもある。だから,『土居たか子グラフィティ』は,まあ,30年来のファンの,コレクターズアイテムの1冊として烏丸の本棚の奥に沈むだろう。

 それ以外の収録作,「駆け足東ヨーロッパ」「ジョニ・ミッチェルに会った夜の私的な夢」は実話(作者の体験)に基づいたコミックエッセイだが,これらはすでに単行本に収録されたこともあって何度も読み返した記憶があった。

 ところで,烏丸は以前よりコミックを扱う出版社全般にもどかしい思いを抱えている。理由は簡単なことだ,コミック作品を単行本に収録する際には必ず初出を明らかにしてほしい。でないと,こんなに手間がかかる。「駆け足東ヨーロッパ」は1979年プチコミック11月号に掲載された作品だ。作者が30歳前後のときの作品だったろうか。
 作品中,団体グループ旅行の一員として東ヨーロッパに出かける作者は,旅行代理店でワルシャワ滞在中の1日でその場所に行くのは無理と言われる。がっかりする作者に旅行代理店の者は尋ねる。
 「なぜそうした場所へ行きたいのですか? テレビの『ホロコースト』に影響されましたか?」
 すると作者は口にこそ出せないが,心の中で小さくこう答える。

 「だってわたし13歳のときから強制収容所のことしか考えたことがありません」

 ……やっぱり,惚れてしまうよなあ,樹村みのり。

先頭 表紙

ガロとかCOMとかマンガ少年ならともかく,小学館の少女コミックで『あれ』やベトナム開放戦争の話を描きまくった樹村みのり。もううっとりです。 / 烏丸 ( 2000-08-24 12:11 )
をを、『あれ』ですね。大王様の『あれ』の話が待たれる今日この頃ですね。 / こすもぽたりん ( 2000-08-24 11:53 )

2000-08-22 『大猟奇』 唐沢俊一,ソルボンヌK子 / 幻冬舎(幻冬舎文庫)


【でろでろでげちょげちょ】

 唐沢商会の兄のほう,「と学会」会員としても知られる読書家唐沢俊一がネタを集め,彼の妻にしてレディコミ作家であるソルボンヌK子が作画した,グロい実話,気持ち悪いカット満載のコミックエッセイ。連続殺人鬼,人肉食,寄生虫の話,イヤな死に方,男色の話などなど,悪趣味な話がたっぷり。
 いや,それはもちろん,内臓を練り刻むのが趣味だとか,回虫がかわゆくてしかたないとか,実はデブ専でとかいう方にはとても気持ちのよい本なのかもしれないが,つまり,えー,読んでいる最中に本を持つ手からぼたぼたと蛆が落ちそうというか,ともかく古今東西のずちゃずちゃでぬたぬたなお題がそれはもうにぎにぎと。
 とくにぎっちり詰まった○○の○○○のカットはあまりにも有名で,心臓の弱い方,お年を召した方,食事中の方には決してオススメしたくない1冊ではある。ただ,そういうあなたが今食べているそれだって……いや,失敬。

 なお,続編『世界の猟奇ショー』も発売されてはいるが,内容のエグさは本『大猟奇』に空より遠く及ばない。

先頭 表紙

ひやああああああ、自分のハンドルが嫌になりましたよおおおおおお。改名しようかな… / こすも石油 ( 2000-08-22 22:35 )
ふと気がつくと,なにやら白いうねうねしたものがぽた。ぽた。ぽたりん。 / 烏丸 ( 2000-08-22 19:16 )
やだよぉ、この本やだよぉ。 / ぽたりん ( 2000-08-22 18:02 )

2000-08-22 『46番目の密室』 有栖川有栖 / 講談社(講談社文庫)


【だから新本格ってやつぁ】

 『46番目の密室』は必ずしも著者の代表作とは言い難いが,1987年の綾辻行人デビュー以来ミステリ界の一潮流となった「新本格」のエッセンスを束ねたような作品であり,新本格ファンにはぜひともお奨めしたい。

 著者・有栖川有栖は関西出身(*1),学生時代からのミステリファンにして投稿者。
 本作の舞台は軽井沢。本格推理小説の大家,真壁聖一の家に推理小説作家,編集者等が招かれ,そこで事件が起こる。真壁が密室と化した地下の書庫の暖炉に上半身を突っ込むという悲惨な姿で発見されたのだ。居合わせた犯罪社会学者,火村英生が暴いてみせるトリックとは! 文庫版での解説は綾辻行人が担当。
 ……すでにうんざりしている方もおられるかもしれない。気にせず進めよう。

 さて,「人間が描けていない」とはミステリ作品を批判する際の常套句だが,実は言葉通りに読んではいけない。これは逆さに振っても「自分には面白くなかった」という意味しかないのだ(だから意外かもしれないが○○○○や*****については,わざわざ「人間が描かれていない」とは言わない。説くまでもなく明らかだからだ)。
 もちろん,ごく普通の感性からいえば『46番目の密室』に描かれた人間模様は薄っぺらで,リアリティの欠如は明らかである(本当)。しかし,諸作家と編集者が集うということは,つまるところこの程度のことなのだ。要するに,本作の舞台こそは新本格にあって最もリアリティあふれた設定であり,それ以外の社会を描いた作品のほうが背伸びしたフィクションなのである(本当)。
 以降,人間が描けているかどうかなどほっといて,本作の密室トリックに絞って考えてみたい。

 『46番目の密室』では,動機については実に1ページしか割かれていない。ある秘密の隠蔽である。
 犯人と一緒に,冷静に考えてみよう。怒りや絶望にかられた衝動的な犯行でない限り,犯人はいくら1ページ分とはいえ,その動機から計画を起こしていくはずである。したがって彼ないし彼女は,被害者に確実に死をもたらし,それを確認できる手段を考えるに違いない。重症を負うものの意識は確か,となりかねない手段など間違っても選ばないだろう。
 さらに被害者が作家であることも無視できない。その秘密がノートや原稿用紙に書き残されていないとは限らないからだ。そういった記述があるか否かを確認し,それらすべてを消却することが殺人に次ぐ大きな目的の1つとなるはずである。

 ああ,それなのにそれなのに,探偵火村が解き明かす密室殺人の手段は,これらの要点を一顧だにしていない。試してみればすぐわかるが(試さないように)この手段で被害者が死ぬ確率は必ずしも高くない。おまけに,実行後,犯人は密室に入れないのだから,被害者が死ななかったり,日記や書き置きがあったりしても文字通り手も足も出ない。なーにが「トリックよりロジック」でぃ。

 ……などと,マジメに相手するほうが馬鹿。
 Webサイトを検索してみればすぐわかる。やれ「アリスと火村がアヤシイ。ゼッタイアレよね。きゃあ」だの「火村クンにはもっとアリスをいぢめてほしい(はあと)」だの。ああ,そう。そういう本だったの。ごめんごめん,お楽しみ中,お邪魔しました。

*1……ワトスン役の有栖川有栖が学生であるシリーズと,推理小説家になった後のシリーズに分かれる。前者では殺人事件の謎が解けた後,むさくるしい大学生が「犯人がわかったからゆうて,何がよかったというんや!」などと口走る油ぎったシチュエーションに耐えねばならない。うう。

先頭 表紙

そ,そうくるか(動揺,46%増量中)。 / 烏丸 ( 2000-08-22 19:17 )
ああ、それで46%増量なんだ! / こすもぽたりん ( 2000-08-22 19:15 )
ということで、意味作ってみました。 / 口車大王 ( 2000-08-22 18:08 )
岸辺シロー、もしくは伊東シローの暗喩「ですわ」(うそ) / こすもぽたりん ( 2000-08-22 16:33 )
ところでふべんきょにして知りませんが,この「46」って数字,なんか意味あるんですかねえ? / 烏丸 ( 2000-08-22 16:19 )
ううう、なんか、本格を叩きたくなってきたの「ですわ」。 / こすもぽたりん ( 2000-08-22 01:20 )

2000-08-21 『サイドカー刑事』 小宮政志 / 講談社(モーニングKC)


【ある日男は 笑顔を棄てた。】

 95年から96年にかけて,モーニング増刊OPENに断続的に掲載された『サイドカー刑事』が単行本化されているのをご存知だろうか。作者の小宮政志は『世界はじめて物語』という,コーヒーやタバコなどの歴史を題材にした作品で知られる寡作な作家である。

 国際犯罪組織「マウンテン」,その真の姿は誰も知らない。暗殺,麻薬密売,重婚罪,風営法違反,建築基準法違反,神奈川県青年条例違反……あらゆる犯罪が彼らの名のもとに行われていた。
 8年前,主人公・結城がまだ新米の刑事だったころ,「マウンテン」の核心に迫った先輩の本庄部長刑事は組織の暗殺者に殺された。さらに悪の手は結城の妻・美津子,娘・多美にも及び,二人は結城の目の前で爆死してしまう。傷だらけの結城は復讐のサイドカー刑事と化し,組織への復讐を誓う。

 随所に五線譜で織り込まれたメロディが胸を打ち,妻・美津子が結城に微笑みかけながら爆死するシーン,結城を愛してしまった暗殺者の死,ロックフェスティバルにおける孤独なバンドマンたちとの友情など,涙なしには読み通せないシーンが続く。
 行く手には何の希望も幸福もない。哀しく,美しく,ただ復讐のためにサイドカーを駆使する。そしてサイドカー刑事はギャグ漫画の伝説となった。

   ロッケンン
     ロ〜〜オ〜〜
     オ〜〜オ〜〜

先頭 表紙

名物に旨いものなし,伝説に巧いものなし。過大な期待はほにゃららかも。烏丸的にはお気に入りですけど。 / 烏丸 ( 2000-08-22 16:20 )
おお出た、『サイドカー刑事』。未だにマン喫でも出会わないの「ですわ」。 / こすもぽたりん ( 2000-08-22 01:19 )
ですわですわ。姓でしたらカラスマのほうが一般的なのでございましょうが,何を隠そう「烏丸」はファーストネームなのですわ。どちらかといえば,京都のお公家さまより仮面の忍玉のイメージなのですわ。 / でもキー入力は「カラスマ」変換,烏丸 ( 2000-08-22 00:31 )
突然ですが、烏丸って京都の烏丸通りみたく「カラスマ」だと思ってましたが、カラスマルなのね。 / ねむり猫 ( 2000-08-21 23:56 )

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