himajin top
烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2000-08-11 『ミステリー大全集』 赤川次郎 ほか / 新潮社(新潮文庫)
2000-08-10 まだまだ 『誤植読本』 高橋輝次 編著 / 東京書籍
2000-08-10 Rare! 『蛾』 ロザリンド・アッシュ,工藤政司 訳 / サンリオ(サンリオSF文庫)
2000-08-10 [非書評] 究極変態!? ひまじん日記
2000-08-10 『図説 剣技・剣術』 牧 秀彦 / 新紀元社
2000-08-09 『鬼平犯科帳』 池波正太郎 / 文藝春秋社(文春文庫版は24巻まで)
2000-08-09 『「巨人の星」に必要なことはすべて人生から学んだ。あ。逆だ。』 堀井憲一郎 / 双葉社
2000-08-09 『黒後家蜘蛛の会』 アイザク・アシモフ,池 央耿 訳 / 東京創元社(創元推理文庫)
2000-08-09 『みるなの木』 椎名 誠 / 早川書房(ハヤカワ文庫JA)
2000-08-09 『代打屋トーゴー』 たかもちげん / 講談社


2000-08-11 『ミステリー大全集』 赤川次郎 ほか / 新潮社(新潮文庫)


【昭和二十六年のミステリー】

 せっかくだから,もう1冊だけ,誤植をご紹介しよう。
 新潮文庫『ミステリー大全集』は,赤川次郎,泡坂妻夫,栗本薫,佐野洋,島田荘司,森村誠一ら,ベテラン,中堅のミステリ作家13人の短編を集めた好オムニバス。収録作品もよく練れていて,読み応えがある。……だが,問題はその奥付けだ。昭和二十六年発行って,いったいいつの話?

先頭 表紙

2000-08-10 まだまだ 『誤植読本』 高橋輝次 編著 / 東京書籍


【アラブゼミ】

 先ほど紹介した『蛾』は巻末の誤植がウリだが(そうか?),こちらは1冊まるごと誤植をテーマにした本……と思って買ってしまったが,あいにく「誤植」そのものについては全体の2割か3割程度で,さすが教科書会社,どちらかというとこれは出版の現場での「校正」苦労譚についての古今の随筆を集めたものという趣である。
 要するに,残念ながら帯に「ここだけの恥ずかしい話しに思わずニヤリ。失敗は成功の墓。この本でしか味わえないあの作家達の告白」とうたわれているほどには笑えない。確かに妙な誤植を出して青恥赤っ恥,という話もなくはないが,むしろ「原稿には間違いないよう書いたつもりなのにベテランの校正者に指摘され毎度赤面」「苦心の作語を校正で勝手に直されて不本意」「漱石の全集を校正したときはこんなことに苦労」といった,まあ古風というか純文学的というか。「同じトクトミ兄弟でも、兄の蘇峰は徳富と点あり、弟の蘆花は徳冨と点なし、それぐらいのことなら、たいがいのものがわきまえて」いる読者を想定しているということである。唐沢兄弟のどちらが原作でどちらが作画か,という読者はあんまりお呼びでない。
 であるから,本書を購入する際には,帯や目次で著者一覧に目を通してからのほうがよいだろう。

 と,これだけでは面白くもなんともないので,この烏丸が出合った誤植について一つだけご紹介しよう。
 以前担当したある雑誌記事に,「アブラムシと共存するアリマキ」という表現があった。どういう内容の文章だったかはもう思い出せない。ともかくその「アブラムシ」である。これが,初校のゲラ(校正刷り)では,なぜか「アブラゼミ」となっていた。活字を組んだ(正確には写植だが)者の思い込みだろう。無造作に赤を入れ,訂正した。すると,何をどう勘違いされたのか,再校では「アラブムシ」になってしまった。なんとも楽しい言葉だが,笑って通すわけにはいかない。赤を入れ,その折に訂正はほとんどそれだけだったので少し考えて責了ということにした。刷り上がったものは,「アラブゼミと共存するアリマキ」。
 ……その写植オペレーターは「アブラムシ」という言葉に,何かよっぽどつらい思い出でもあったのだろうか?

 パソコン,ワープロが普及した昨今では,手書きでは考えられない誤植も頻発する。「以外」と「意外」,「内蔵」と「内臓」の混同など,インターネットの掲示板では日常茶飯事。ついでに「敷居が高い」「役不足」なども使い方には要注意だ。

先頭 表紙

しばらくは,ヘンな誤植を出しても「アラブゼミよりはマシかも」と誰もが優しい気持ちになりました。 / 烏丸 ( 2000-08-10 20:01 )
笑いが止りませぬ。 / こすもぽたりん ( 2000-08-10 19:51 )

2000-08-10 Rare! 『蛾』 ロザリンド・アッシュ,工藤政司 訳 / サンリオ(サンリオSF文庫)


【誤爆】

 不肖この烏丸,本好きながらコレクターとうそぶけるほどでなく,珍本・稀本,初版・サイン本のたぐいを求めて神保町界隈を散策する域には至っていない。そんな烏丸の凡庸極まりない本棚だが,それでも永年本の虫をやっていれば珍本と目される本の1冊2冊は向こうからやってくる。

 ロザリンド・アッシュの『蛾』は今は亡き──もっとカゴ一杯買っておくのだったと日本中のSFファン,ミステリマニアを泣かせた──かのサンリオSF文庫中の1冊。サンリオSF文庫については書きたいことのなくもないが,今はさておき,この『蛾』である。内容そのものは,いわゆる1つのゴシックホラーとしか言いようのないもの。映画化の話は寡聞にして聞かないが,あってもなんら不思議のない。それより本書巻末に添付されている自社の文庫本を広告する解説目録,これがいやもう,もの凄い。
 そこにはモルデカイ・ロシュワルトの『レベル・セブン』,ケイト・ウイルヘルムの『カイン市』にはさまれてレイ・ブラッドベリの『万華鏡』一巻が紹介されているのだが,なんとその著者たるや

    レイ・ブラッドベリ 川本三郎=誤訳

となっているのである。「誤訳」!
 故意か偶然か小さな漢字1文字(*1)。たかが誤植,されど誤訳。このページを担当した編集者のあとさきの心持ちをおもんばかるだに,底知れず味わい深い誤植中の誤植,名品といえよう。

 ちなみにこの解説目録部,書店店頭に置かれた折りには数センチの(正しく?印刷された)紙が上からペイパアセメントで貼り付けてあった。もし古書店などで首尾よく本書を入手できた暁には無理やりはがそうとせず,ソルベックスなど用いそっと優しく引っぱがしてやることを強くお奨めしたい。

*1……版下業務にかかわった経験のある方なら,写植オペレーターがうっかり誤字を入力したことに気づいたのち,正しい文字を近隣にバラ打ちする場合があることをご存知だろう。

先頭 表紙

2000-08-10 [非書評] 究極変態!? ひまじん日記

 BBSに要望を書いたところ,さっそく日記検索を付けていただいた。もうなにをかいわんや,感謝感激である。

 思わずイケナイ遊びにふけってしまうのがこの烏丸。さっそくあれこれ検索してみよう(8月10日14:10現在)。
 まずは,句読点だ。
  「。」1231件は「.」の170件を大きくリード。
  「、」1139件は「,」の185件を大きくリード。
つまり,ひまじんネットでは句読点の設定を「、。」にしている方が圧倒的に多い,ということだ。

 次に,個別の文字を調べてみよう。まず,おそらく圧倒的に多いと思われるひらがなの「てにをは」。
  「て」 1326件
  「に」 1307件
  「を」 1225件
  「は」 1308件
 ふーむ,すると「て」が1等賞か? いや,待て。
  「が」 1314件
  「で」 1317件
  「な」 1332件
  「の」 1337件

 ということで,思いつく限りでは「の」が最も多い。全日記数がわからないので不明だが,この「の」すら使っていない日記というのははたしてアリなのか?

 逆に,少ない文字を見てみよう。
  「ぬ」 86件
 いや,待て。多分,これだろう。ひらがなの
  「ぺ」 26件
 ところで1300数十件のうち,ひらがなの「ぺ」が26件登場する,というのははたして多いのか少ないのか。

 なお,これは,あくまでその文字を使った日記の件数であって,日記全体における頻度ではない。そもそも,本来検索機能はこんな用途に使うものではない。そのあたり,くれぐれもお間違えなきよう……って,間違えてるのは烏丸,てめーだ。

先頭 表紙

わぁ〜い!勝ったぁ!!! って、私たち、ホント、ひまじんですね。 / Uちゃん ( 2000-08-10 14:59 )
↓&↓↓ ……あう。分単位で負け(って,なんの勝負?)。 / 烏丸 ( 2000-08-10 14:50 )
あと,少ないほうは「ぢ」5件というのがありました。ちなみにその5件中4件は口車大王様。 / 烏丸 ( 2000-08-10 14:46 )
早速影響されて私も遊んでしまいました。必死で「ぺ」より少ないものを探したら、あった!それは、「ぢ」で5件でした。  / Uちゃん ( 2000-08-10 14:46 )
何でそんなに差が……? あ,そうか。たとえばタズラさんの「トマト日記」「えだまめ日記」を拝見すれば,「の」の出てこない日がいっぱいあっても不思議ではございませんねえ。 / 烏丸 ( 2000-08-10 14:39 )
全日記数は1425でございます。 / 管理者 ( 2000-08-10 14:26 )

2000-08-10 『図説 剣技・剣術』 牧 秀彦 / 新紀元社

【冥府魔道 修羅の道】

 この『図説 剣技・剣術』,実は大変な本なのではないかと思う。内容はタイトル通り,あらゆる「剣技・剣術」を図解して説明するというもの。A5版297ページ,1,900円。お買い得だ(多分)。
 とりあえず,帯の内容紹介から引用しよう。
------------------------------
「一の太刀」(一刀で勝敗を決する豪快な示現流剣術),「惣捲・そうまくり」(5人の敵をなで斬りにする連続技),「信夫・しのぶ」(暗闇の敵を倒す技),「暇乞・いとまごい」(暗殺剣)など,剣の技を中心に長刀(薙刀,槍,棒・杖)や暗殺・護身用に使われた仕込み刀の技も紹介します。
------------------------------
 むう。PCの前で曲がった背筋もピンシャンとしてくるようではないか。

 紹介されている剣技・剣術のそれぞれには,(決して巧みとは言えないが)誠実なイラストが添えられ,それがいかなる技かコマ落ちながら見て取れる。その他,剣術の歴史や作法,刀剣の形状・系譜など,テキストもいたれりつくせり。僕は軍刀を一振り所有してはいるものの,刀剣については全くの素人で,この書物の内容がこのジャンルのものとして充実しているのか否かの判断は正直つかない。しかし,コンビニエンスな品揃えへの情熱は本物であり,さらに「眠狂四郎の円月殺法」「木枯し紋次郎の長脇差剣法」「拝一刀の水〓流」(〓は「鴎」の「メ」部を「品」にしたもの)など,フィクションも並び扱うなど,その柔軟な姿勢も魅力的だ(ないものねだりだが,コミックまで扱うのなら,白土三平の剣豪マンガに出てくる剣技の数々を,コラムでもよいから取り上げて欲しかった……)。

 本誌を,たとえば「全国剣道なんとか大会」出場者や居合の有段云々な方々が参考にして,さてどうなるか……ということについては,想像の及ぶところではない。得られるものもなくはないだろうが,やはり実技としての剣技はまた別のものだろう。
 これは全くの想像だが,本誌の出現を待ち焦がれていたのは,これから時代劇をものしようとする小説家,漫画家,さらにはテレビディレクターや脚本家の卵たちではないか。その意味で,著者の「あとがき」が,また味わい深い。
------------------------------
今後はマンガの殺陣に関する(絵コンテを切る)お仕事や,ポーズ写真集の刀剣インストラクターといった業務も手がけていく予定なのだが
------------------------------
 なるほど……。こうなってはもはや忍術漫画に出てくる白髪白髭の服部半蔵のごとく,縁側に立って「フーム」とうなり,著者・牧氏の活躍を祈るしかあるまい。

先頭 表紙

2000-08-09 『鬼平犯科帳』 池波正太郎 / 文藝春秋社(文春文庫版は24巻まで)


【ごめん】

 千住大橋をすぎて上野,人形町,八丁堀とめぐる電車に揺られながら,目は左手の池波正太郎を追っている。
 火付盗賊改方の長官「鬼平」こと長谷川平蔵と配下の与力,同心,密偵たちの,あるときはサスペンス,あるときは義理人情あふれるやり取りに心を躍らせ,気がむけば女房に軍鶏鍋,柚子切り蕎麦,根深汁など用意させて酒を楽しむというのは,十代二十代のころにはなかなかわからなかった
  (これは,もう,たまらぬ)
よろこびである。

 ちなみに「火付盗賊改方」は徳川幕府,若年寄直属の一種の軍隊で,奉行所に比べて特別の機動性を許され,兇悪犯に対しては取り調べをせずとも成敗することができた。
 妾腹に生まれ,若いころには無頼に走り,火付盗賊改方の長官となった今も
  「血を流さず,女をてごめにせず,盗られて難儀する所へは入らず」
を身上として本格のつとめ(盗み)をする者には温かく,兇悪犯にはとことん厳しく向かう鬼平の姿に,平成のサラリーマンの通勤電車と池波正太郎は
  「もう切っても切れぬ間柄」
になってしまったといってよい。

 鬼平は公務によく舟を使う。毎日とは言わないまでも会社勤めもそのようにはならないものか。
  「全く人間とは奇妙なものよ」
とため息をつきつつ,文庫を片手に思いはあれこれとどまらぬ。

 たとえば,読み進めるうちに,当時の役職をまとめた表のようなものがあれば,と思う。
 吉宗はなにしろ暴れん坊とはいえ将軍である。水戸黄門も先の副将軍。田沼意次が老中,遠山の金さんは北町奉行で,奉行といえばこれはもう本来市井に姿を現さないくらい偉いお殿様である。
 長谷川平蔵は四百石の旗本。役職として火付盗賊改方の長官を務めている。だから,盗賊の一味に旗本がいても,
  「やりにくい」
程度であって,
  「手が出せぬ」
ほどではない。
 さて,与力といえば奉行や火付盗賊改方の長官にはアゴで使われる身分。ところがこの与力が,平岩弓枝『御宿かわせみ』では「殿様」扱いで,だから侍の娘とはいえ宿屋の女将るいと与力の弟たる東吾はなかなか夫婦になれない。
 さらに与力の下に,半七や銭形平次らの岡っ引き。このあたりになると,犯罪に旗本が参画していたら
  「何も見なかった」
ことにせざるを得ない。さらには八五郎ら下っ引き。
 これら役職をきちんとツリー構造にして,それぞれにテレビドラマのキャストの写真をリンクといったホームページ,誰か作ってくれぬものか。

 あるいは,「お上の御用」。考えてみれば奇妙な言葉である。「用」とは英語でいえばbusiness,あるいはmatterであろうか。別に何をさすわけでもない。「御用」のポイントは「御」のほうである。つまり,
  「上のほうの,やんごとない」
ことだから,おぬしら悪党どももここはひとつ神妙に,ということなのである。こうしたことに
  「おもしろい……」
などとまるでひとごとのように
  「溜飲を下げて」
しまうのは,読者とはいえまことに
  「盗人たけだけしい」
といえよう。

 満員電車の乗り越しついでにもうひとつ。
 『鬼平犯科帳』を読んでいると,鬼平が居酒屋や小間物屋などに入るときは,塗笠をとりながら
  「ゆるせ」
と言ってつかつかと入る。シブい。
 現代なら「失礼」「おじゃまします」「ごめんください」か。コンビニで店員が奥にいたりすると「すみませーん」。

 それにつけても,なぜ客というもの,このように謝ってばかりいなければならないのだろう。

先頭 表紙

ネギの味噌汁とな! あんまし好きじゃないなあ。やはり味噌汁はアサリかナメコでありますことよなあ。 / こすもぽたりん ( 2000-08-09 18:39 )
「根深汁」とは,なんてことのないネギの味噌汁。鬼平では一,二度出てくる程度? 『剣客商売』のほうでは秋山大治郎がこれに大根の漬物という組み合わせでよく朝飯を食べていて,これがもう実に旨そう。 / 烏丸 ( 2000-08-09 18:04 )
『根深汁』たあどんなもんでやんす? しかし、池正を読むと腹が減りますなあ。 / こすもぽたりん ( 2000-08-09 17:45 )
長谷川平蔵はもちろん良いけれど、片方に白子屋菊衛門とかいるから話がシマルのよねぇ。 / ねむり猫 ( 2000-08-09 17:44 )
こすもぽたりんさんの 『江戸古地図散歩』(池波正太郎)の書評に反応してみました。 / 烏丸 ( 2000-08-09 17:36 )

2000-08-09 『「巨人の星」に必要なことはすべて人生から学んだ。あ。逆だ。』 堀井憲一郎 / 双葉社

【ホリイディ・オー・ホリイディ】

 週刊文春の『ホリイのずんずん調査』という1ページ連載をご存じだろうか。フリーライターの堀井憲一郎が,
   チョコボールを1000個買うと金,銀のエンゼルはいくつ当たるか
   バットを最も遠くに放り投げるプロ野球選手は誰か
   人はSMAPのメンバーをどれだけ言えるか
   覚えている語呂合わせ年号暗記
   「ジパングあさ6」と「めざましテレビ」の星占いはどちらが正しいか
   野球中継延長で一番泣いた番組は何か
   キャッシュカードの暗証番号は
   お笑いタレントでツッコミが早いのは誰か
など,どうでもよさそうな,だが気になるといえば気になるテーマを恐ろしいばかりの手間ヒマかけて調べ上げる,というものだ。
 その成果は『この役立たず! ホリイのずんずん調査』というタイトルで文藝春秋社から単行本にまとめられている。続刊も楽しみだ。

 その堀井憲一郎が,そのあくなき調査精神で,あのスポ根マンガの帝王『巨人の星』にツッコミ入れまくった本が,『「巨人の星」に必要なことはすべて人生から学んだ。あ。逆だ。』である。小説推理に連載されたもので,あの星家の家計収支や,飛雄馬の住んだマンション探し,張作霖も食べていた九竜虫,巨人軍入団テスト遠投50mの謎,飛雄馬には空白の1年がある,など,執拗にツッコミを入れまくる。
 いや,そもそも,内容以前に,タイトルがすごい。なにしろ,小説推理連載時は『が〜んの時代』だったものが,なんと『「巨人の星」に必要なことはすべて人生から学んだ。あ。逆だ。』なのである。『「巨人の星」に必要なことはすべて人生から学んだ。あ。逆だ。』。

 タイトルにこれだけウケたのは,伊藤理佐のコミック『いいようにはしないから』以来かもしれない。あ,発行はそっちが後か。

先頭 表紙

今日8月9日は,8・9で「野球の日」だそうです……って,誰が決めたんだか。 / 烏丸 ( 2000-08-09 17:38 )

2000-08-09 『黒後家蜘蛛の会』 アイザク・アシモフ,池 央耿 訳 / 東京創元社(創元推理文庫)


【心地よい椅子で読みたい】

 創元推理文庫のロングセラーの1つに,アシモフの『黒後家蜘蛛の会』というシリーズ(全5冊)がある。雑誌等の海外ミステリ人気投票の常連でもあり,ご存知の方も多いかと思う。
 『黒後家蜘蛛の会』(ブラック・ウィドワーズ)という女人禁制のクラブがあり,そこには毎月1人ゲストが呼ばれ,食後の楽しみとして,その人物がずっと昔から気になってきたことや最近出遭った他愛ない謎が提出される。その意味を解読しようと,個性的なクラブ員が侃侃諤諤(かんかんがくがく)知恵を出し合うが,最後は毎回,給仕のヘンリーが鋭い洞察力で正解を見抜くという,典型的なアームチェアディテクティブストーリー(SFではない)。

 最初に手にしたのはもう20年以上昔のことで,個々の謎や推理などすっかり忘れており,最近通勤路の読み物に久しぶりに手にしてふと気がついた。この「黒後家蜘蛛」というのは,数年前に関西で繁殖して話題になった毒グモ,セアカゴケグモの親戚ではないか! ブラック・ウィドワーズというカタカナがサブタイトルにあったため,なんとなくそういう(ちょっと悪趣味な)クラブ名,と頭の中で記号化してしまい,実在するクモの名だとは夢にも思っていなかった。赤面。

 いずれにせよ,バラエティに富んだパズル的プロット,ほどほどの人情,そしてもちろんヘンリーの快刀乱麻な推理の冴えがまことにおもしろく,気分転換には心からお奨め。アシモフ当人のシリーズへの愛着もあり,巻が進んでもクオリティがさほど落ちないところもポイントが高い。
 なお,アシモフには,本シリーズとかなり似通った設定の『ユニオン・クラブ綺談』という短編集があり,そちらもよくできている……まあ,さすがにヘンリーの魅力には及ばないのだが。

先頭 表紙

2000-08-09 『みるなの木』 椎名 誠 / 早川書房(ハヤカワ文庫JA)


【SFゴコロと言葉について】

 少なくとも日本国内では,「SF」というもののスピリッツが,ゲームやアニメ作品のほうに拡散してしまい,テキストとしての力を失ってしまったかのように見えて久しい。そんな中,久しぶりに「どの1行を切ってもSFのキンタロアメ」と言うべき言葉の力と魅力を堪能させてくれる短編集がこれだ。
 とくに,どこか違う惑星,あるいはよしんば地球(日本)だとしても相当破天荒なバイオ大戦勃発後と思われるジャンキーでクラッキーな世界の生態を描く『みるなの木』『赤腹のむし』は傑作で,この2編,併せて40ページ程度を読む(それも,できれば音読をお奨めしたい)ためだけにこの1冊を買ってもまず損はない。さらに,本作で椎名SFの「性悪で放っておくと卵の殻ぐれい食い破ってしまう」が「茹でたらそのむしがうまいという」魅力に捕えられてしまったら,そのときは新潮文庫で既刊の『武装島田倉庫』にさかのぼるとよいだろう。

 ただ……,収録作の1つ,『対岸の繁栄』に見られるプロットは,明らかに筒井康隆の短編『佇む人』から想を得たものであり,さりとてかつて日本中のSFファンを泣かせた『佇む人』ほどの冷たい叙情性,寂寥感に至っていると思えないのだが,どうだろう。「あの」ハヤカワからの単行本化の折に,誰もこの点に気がつかなかったとは思えないのだが。
 あるいは,(『佇む人』未読の方のためにもここには書けない)この妻の扱いというのは,タイムマシーンやタコ足火星人の侵略同様,もはやパブリックドメインな設定と化しているということなのか。

 それにしても,巻末の初出一覧に目をやって,少々しみじみとしてしまった。全14短編のうち,5作が「海燕」,3作が「小説新潮」で「S-Fマガジン」は1作だけ。いかにもなし崩しというか,もはやSFは,文芸誌や中間小説誌からリジェクトされさえしないのか。著者のボーダーレスな人気によるものとは思うが,純文学と中間小説とSFとが互いにぎりぎり軋むように対峙していた時代を思い起こせば,若干情けない,かなたこなたの頼りなさよ。

先頭 表紙

2000-08-09 『代打屋トーゴー』 たかもちげん / 講談社


【さらばトーゴー】

 先週発売されたモーニングの告知によると,『代打屋トーゴー』『祝福王』の作者・たかもちげんが7月5日,都内の病院でガンで亡くなったとのこと。享年51歳。
 千代田線の中でこの告知ページを目にし,不覚にも涙がこみ上げてしまった。

 たかもちげんは,必ずしも最上のコミック作家というわけではないかもしれない。『代打屋トーゴー』をはじめとする彼の作品が最も高い水準にある,というつもりもない。
 しかし。
 以前にもある書評で「週刊で毎週ワントラブルクリア物のマンガというのは,ありそうで案外ない。」ということを書いたが,彼の作品に共通した「ちから」は,単にそういうアイデアをひねり出す労力,あるいはそれを読むことの快感,ということだけではすまない。こういったコミック作品が,純文学の陥った安直で愚鈍なペシミスムに対する爽やかで力強いアンチテーゼとなっている,それが大切なのである。彼ら以外に,この技術や労力をとことん軽んじるようになってしまった国で,誰が「なせばなる」(かもしれない)ということを教えられるというのか。
 今や純文学が掬えるものは脆弱で,時間軸的にも情報軸的にも,世界にはからめない。優れた人材はそれ以外のメディアに流れているのだから,それは当然である。

 ……などと言う言葉も今は虚しい。
 あのころ,あのとき,殺人と営利誘拐以外のどんな依頼も完璧にこなすパーフェクト・ピンチフォロー・オフィス,略してパーピンの代打屋に救われたのは登場人物たちだけでなかった。
 それがすべてである。

先頭 表紙


[次の10件を表示] (総目次)