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烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [最新の10件を表示]   表紙

2000-08-09 『みるなの木』 椎名 誠 / 早川書房(ハヤカワ文庫JA)
2000-08-09 『代打屋トーゴー』 たかもちげん / 講談社
2000-08-08 『頭文字D 第19巻』 しげの秀一 / 講談社(ヤングマガジンKC)
2000-08-08 『ストーカーの心理学』 福島 章 / PHP研究所(PHP新書)
2000-08-08 『人はなぜストーカーになるのか』 岩下久美子 / 小学館
2000-08-08 本の少々


2000-08-09 『みるなの木』 椎名 誠 / 早川書房(ハヤカワ文庫JA)


【SFゴコロと言葉について】

 少なくとも日本国内では,「SF」というもののスピリッツが,ゲームやアニメ作品のほうに拡散してしまい,テキストとしての力を失ってしまったかのように見えて久しい。そんな中,久しぶりに「どの1行を切ってもSFのキンタロアメ」と言うべき言葉の力と魅力を堪能させてくれる短編集がこれだ。
 とくに,どこか違う惑星,あるいはよしんば地球(日本)だとしても相当破天荒なバイオ大戦勃発後と思われるジャンキーでクラッキーな世界の生態を描く『みるなの木』『赤腹のむし』は傑作で,この2編,併せて40ページ程度を読む(それも,できれば音読をお奨めしたい)ためだけにこの1冊を買ってもまず損はない。さらに,本作で椎名SFの「性悪で放っておくと卵の殻ぐれい食い破ってしまう」が「茹でたらそのむしがうまいという」魅力に捕えられてしまったら,そのときは新潮文庫で既刊の『武装島田倉庫』にさかのぼるとよいだろう。

 ただ……,収録作の1つ,『対岸の繁栄』に見られるプロットは,明らかに筒井康隆の短編『佇む人』から想を得たものであり,さりとてかつて日本中のSFファンを泣かせた『佇む人』ほどの冷たい叙情性,寂寥感に至っていると思えないのだが,どうだろう。「あの」ハヤカワからの単行本化の折に,誰もこの点に気がつかなかったとは思えないのだが。
 あるいは,(『佇む人』未読の方のためにもここには書けない)この妻の扱いというのは,タイムマシーンやタコ足火星人の侵略同様,もはやパブリックドメインな設定と化しているということなのか。

 それにしても,巻末の初出一覧に目をやって,少々しみじみとしてしまった。全14短編のうち,5作が「海燕」,3作が「小説新潮」で「S-Fマガジン」は1作だけ。いかにもなし崩しというか,もはやSFは,文芸誌や中間小説誌からリジェクトされさえしないのか。著者のボーダーレスな人気によるものとは思うが,純文学と中間小説とSFとが互いにぎりぎり軋むように対峙していた時代を思い起こせば,若干情けない,かなたこなたの頼りなさよ。

先頭 表紙

2000-08-09 『代打屋トーゴー』 たかもちげん / 講談社


【さらばトーゴー】

 先週発売されたモーニングの告知によると,『代打屋トーゴー』『祝福王』の作者・たかもちげんが7月5日,都内の病院でガンで亡くなったとのこと。享年51歳。
 千代田線の中でこの告知ページを目にし,不覚にも涙がこみ上げてしまった。

 たかもちげんは,必ずしも最上のコミック作家というわけではないかもしれない。『代打屋トーゴー』をはじめとする彼の作品が最も高い水準にある,というつもりもない。
 しかし。
 以前にもある書評で「週刊で毎週ワントラブルクリア物のマンガというのは,ありそうで案外ない。」ということを書いたが,彼の作品に共通した「ちから」は,単にそういうアイデアをひねり出す労力,あるいはそれを読むことの快感,ということだけではすまない。こういったコミック作品が,純文学の陥った安直で愚鈍なペシミスムに対する爽やかで力強いアンチテーゼとなっている,それが大切なのである。彼ら以外に,この技術や労力をとことん軽んじるようになってしまった国で,誰が「なせばなる」(かもしれない)ということを教えられるというのか。
 今や純文学が掬えるものは脆弱で,時間軸的にも情報軸的にも,世界にはからめない。優れた人材はそれ以外のメディアに流れているのだから,それは当然である。

 ……などと言う言葉も今は虚しい。
 あのころ,あのとき,殺人と営利誘拐以外のどんな依頼も完璧にこなすパーフェクト・ピンチフォロー・オフィス,略してパーピンの代打屋に救われたのは登場人物たちだけでなかった。
 それがすべてである。

先頭 表紙

2000-08-08 『頭文字D 第19巻』 しげの秀一 / 講談社(ヤングマガジンKC)


【いいか藤原 後ろは・・ 絶対にふりかえるな!!】

 こちらは,数日前に発売されたばかりのコミック。
 19巻は東堂塾とのダウンヒルバトルの,ほぼ全貌。あとほんの数ページで決着,なんだけど……まあ,この切れ目は納得でごんす。
 拓海がボケーッとしていられるのが1コマだけ,イツキも池谷先輩も出番なしってことから明らかなように,今回はさすがに強敵相手,緊張感あふれるバトルざんす。で,実際に走るのはハチロクの拓海(ううめんどくさい。拓海=たくみでMS-IME単語登録するざます)と東堂塾の二宮大輝(EK-9)なんざんすが,19巻の本当の主人公,これはもうプロジェクトDを率いる高橋涼介の頭脳なんざんす。なにしろ,主人公の拓海さしおいて『頭文字D 高橋涼介のタイピング最速理論』(イーフロンティア,Win&Macハイブリッド)なんてタイピングソフトが発売されてるくらいざますからして。

 ちなみに,『頭文字D』は累計2千5百万部達成,「藤原豆腐店」のステッカーも群馬県内のオートバックスなら入手可能との噂。

*……のちに,この第19巻では,ページ総数の都合からか,ヤングマガジン掲載時の原稿から4ページ分がカットされていることが判明。それも,バトル展開を登場人物たちが評する,けっこうポイントの高い4ページらしい。参った。

先頭 表紙

「頭文字D」関連のプラモデルは秀逸で,主人公のハチロクのみならず,池谷先輩ら,脇役,ちょい役の車まであるようです。 / 烏丸 ( 2000-08-09 14:52 )
さっき確認しましたところ、うちのバイト君の東大君のステッカーは、「プラモデルについていた」そうです。 / こすもぽたりん ( 2000-08-08 22:42 )
うちのバイトの東大君のバイクには、すでに「藤原とうふ店」のステッカーが貼ってあるざます。会社のある人間はそのバイクを見て、「バイクで配達する豆腐屋とはまた、珍しい」と感心しておりました。 / こすもぽたりん ( 2000-08-08 19:17 )

2000-08-08 『ストーカーの心理学』 福島 章 / PHP研究所(PHP新書)


【《甘え》に支配された幼児的な世界】

 ストーカーについて,もう1冊。
 著者は精神医学博士。東京医科歯科大学助教授を経て,現在上智大学教授。病跡学の権威として知られるほか,精神鑑定医として多くの経験を持つ。

 おりしも米俳優ブラッド・ピットの邸宅に不法侵入して有罪判決を受けた女性ストーカーが,カウンセリングの成果を報告する審理を欠席,行方をくらましたと言う。ブラッドは女優ジェニファー・アニストンと7月29日に結婚式を挙げたばかり。この女性ストーカーの次の行動が注目される。

 福島章氏によれば,ストーカーはその行為類型から5つに分類される。
1.イノセント・タイプ
2.挫折愛タイプ
3.破婚タイプ
4.スター・ストーカー
5.エグゼクティブ・ストーカー
 ブラッド・ピッドにつきまとうアシーナ・マリー・ローランド(21歳)は明らかに4.のスター・ストーカーだが,それでは彼女は精神病理的にはいかなる状態にあるのだろうか。
 福島氏は,行為類型や《加害者=被害者関係》による分類だけでなく,ストーカーの心理的状態に焦点を当てた分類を試みる。
1.精神病系
2.パラノイド系
3.ボーダーライン系
4.ナルシスト系
5.サイコパス系
(アシーナがいずれに含まれるかは,烏丸にはデータ不足で不明)

 さて,このように本『ストーカーの心理学』は,先に紹介した岩下久美子の『人はなぜストーカーになるのか』に比べても,精神医学の専門家ならではの説得力溢れる分類や例証が丁寧に重ねられる。著者本人がエロトマニア(恋愛妄想)タイプの「エグゼクティブ・ストーカー」に追われた経験があり,それが随所で説得力をいやます要因ともなっている。また,ストーキングにいたる心理の全貌は明らかになっていないものの,背景として,乳児的完全依存から相手への攻撃に至る人間としての未熟さがある,という解説もわかりやすい。

 本書を読みながら痛感したのは,いかに注意しているつもりでも,人は常に思い込みにとらわれがちだということ。
 たとえば上記の如くストーカーを行動類型から5つ,精神病理的に5つと分類されると,ついついその5つのタイプが必ずおり,それぞれそれなりに多く,しかも最初に書かれたほう(3.よりは2.,2.よりは1.)が多いようになんとなく想像してしまう。そもそも,マスコミがこれだけストーカーという言葉を連発する以上,ストーキングやストーカー殺人が増えているに違いない……。
 しかし,本書では,数字的な裏付けがないためそれらは何とも言えない,と注意を喚起している。しかもこの数十年,日本国内の殺人事件は激減し,さらに社会病理現象そのものが──終戦直後に生まれた現在50歳代の世代をピークに──減ってきていると指摘する。とかく問題にされがちな最近の若い世代が,実は「集団として見ると,社会病理現象・問題行動にあまりかかわることの少ない,《やさしい》《おとなしい》《情緒的に安定した》《非攻撃的な》世代」だというのである。

 こうして見ると「ストーカー」は,「セクシャル・ハラスメント」同様,従来から見られた行為について,社会の認識や生活パターンが変わり,大きく取り上げられるようになったという面も少なくないに違いない。
 いずれにせよ,「ストーカー行為等の規制等に関する法律」施行に伴ない,今後はストーキングについてもデータが充実してくるに違いない。その上でさらにじっくりと考えてみたいテーマではある。

先頭 表紙

2000-08-08 『人はなぜストーカーになるのか』 岩下久美子 / 小学館


【悪いのはあの女のほうなんだ】

 Bは自社製品の広報に雑誌社を訪ねてAと知り合い,メールのやり取りから,一度だけ昼食を一緒にしたことがある。

A「昨日は楽しかった。過去なんか振り返らず,もっと前向きに生きたほうがいいと思うよ」
B「そうですね。昨夜も一人になるとうっかり泣いてしまいました。Aさんにいろいろ聞いてもらって,ずいぶん気が楽になりました」
A「僕はAさんさえよければいい。言ってくれればいつでもどこへでも飛んでいくから」
B「お忙しいでしょうに,こんなに毎日慰めのメールをありがとう。もう当分男の人を好きになったりしないと思うけど,これからもよい友達でいてくださいね」
A「それでいつにしよう,君のご両親に挨拶にいくのは」
B「両親は,郷里で元気にしてますけど?」

 自分がどんな地雷を踏んでしまったのかにBが気がついたのは,もう少し後のこと。これは1996年の出来事だが,AもBも勤めていた会社を辞めており,今は音信不通。

 昔も,もちろん色恋にまつわる「つきまとい」行為はあった。ふられた女の家に毎晩無言電話を掛ける男はいたし,別れた男の行く先々に現れ,新しい恋や結婚を邪魔して歩いた女も知っている。しかし彼らは,相手が自分を疎ましく思っていることを知っており,その上で「いやがらせ」をしている,しかしやめられない,という自意識は持っていたように思う。
 しかし,最初に紹介したAの雰囲気は,明らかに違う。彼はどこまでも善意のつもりだし,自分がBを愛し,Bも自分を愛し,必要としていることになんら疑いを持っていない。少なくとも彼の言動はそのような認識の上に立っており,先のメールの数々は彼が「ようやく自分にも恋人ができた」と知人に見せびらかしたものである。ただし,Bとの付き合い(?)について彼がオープンだったのはこの頃まで,その後は自分に都合のよい偽情報ばかり撒き散らすようになり,一方,BはAからの際限ないメールや電話にどんどん追い詰められていったらしい(Bとは直接の面識がなかったため,そのあたりはつまびらかでない)。

 本書『人はなぜストーカーになるのか』は,ある種の人々が,相手に一方的かつ病的な執着を寄せて追い掛け回し,相手の気持ちを全く無視して支配しようとする行為をストーキングと定義し,それが被害者にどれほどのダメージを与えるか,どう対処すべきか,さらには現実に被害があるにもかかわらず「被害妄想だろう」「被害者の側になんらかの落ち度があったに違いない」とする考え方が被害者を余計に追い詰めることを訴える。
 1997年8月の発行ということもあり,内容は実によくまとまっているものの,3年経った現在から見れば若干穏やかという気さえする。この3年の間には,桶川の女子大生殺人事件や西尾の女子高生殺人事件など,いわゆる「ストーカー殺人事件」が相次ぎ,新潟の女児監禁のように形態こそ別ものだが,明らかに精神的に通底する事件も多発する。

 本書などによる啓蒙がきっかけとなり,1998年2月にNTTがナンバー・ディスプレイサービスを導入,また,2000年5月には「ストーカー行為等の規制等に関する法律」公布。社会はストーカーによる犯罪をそれと認識し,対処する方向に向かっている。
 しかし,「ストーカー」「アダルト・チルドレン」「平気でうそをつく人たち」「EQ」など,キーワードは異なれど,病的なまでに身勝手,自己中心的な「大人」が増えているという実情そのものにはなんら手が打てていないというのが実情だろう。そして,それ以外の面では病的でなく,むしろ頭のいいストーカーたちにとって…………ああいけない,もう彼女に電話する時間だ。

先頭 表紙

2000-08-08 本の少々

 本について,少しずつ書いてみようと思います。
 その読み方はヘン! とか,その手の本ならこれがオススメ! とか,ツッコミお待ちしています。

先頭 表紙

ようやく駅前店オープン。開店セールでいつもよりたくさん回っております。ふと気がつけば,本に限ることはないわけで,あのネタやあのネタも扱えるかとふふふ。 / 烏丸 ( 2000-08-08 19:38 )
待ちわびました。 / こすもぽたりん ( 2000-08-08 19:18 )
いらっしゃいませ。どうぞ末永くよろしくお願いいたします。 / システム管理者1号 ( 2000-08-08 19:12 )

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