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烏●の「学園祭焼きソバ模擬図書館」

本家「くるくる回転図書館 駅前店」と違って,こちらは架空図書館です。
ここで紹介される本はフィクションであり,いや本の内容がフィクションなのではなくて,存在そのものがフィクションであり,タイトル,著者名,出版社名は実在するものとはいっさい関係ありません。似ていてもきっと気のせいですって。

目次 表紙

2002-08-19 手紙文学 『シンシアリー』(1977年8月)
2001-07-05 空想科学映画 『コケコッコー となりの山駄くん』 スタジオカシシブリー
2001-06-12 少々苦めのSF黙示録 『堕落天』 鈴木 潮 / 諸学館
2001-06-08 サポート電話の向こうに燃える青い炎 『暴走』 神保裕子 / 公団舎
2001-06-07 午睡の悪夢 『ドジを踏む』 河下広見 / 文秋文庫
2001-06-04 岡山弁で描き上げるスポーツノンフィクション 『ほっけぇ、きょうてえ』 岩城志麻子 / ツノ川書店
2001-06-04 歴史の真実が今暴かれる! 『戦国自閉隊』(上・下) ヨイデス・ハンソン / ツノ川書店
2001-06-01 歪んだ時代,魔神の怒りはどこに向かうか 『大魔神泳ぐ』 百倉良治 / 烏丸書房


2002-08-19 手紙文学 『シンシアリー』(1977年8月)

 
 8月8日

お手紙有難う。
「水死者」入選おめでとう。本当はユリイカにあなたの作品が入選した時に 祝杯でもあげて 華々しく祝ってあげるべきでしたのに、不器用なために 「よかったね」位しか言えませんでした。今度も「おめでとう」位しか言えなくてすみません。

奈良に帰西してから 翌々月 徳島へ行き、今もなおここに滞在しております。あなたのお手紙は、裁判所の職員がここへ送って下さってきょう(8月8日)着きました。いつまでここにいるか まだ決めていません。

きょう新聞を見たら樫山欽四郎先生(哲学)が亡くなっていました。
私はあの人の最後の講義を聞いた学生なのでした。

去年も心理学の相場均先生が亡くなり 私はあの人の最後の講義を受けた学生だったのだ

あの人の(樫山さん)コウギはよかったから もう一度盗聴に行こうと思っていたのに
新聞にはヘーゲル哲学の第一人者とかいてあったけれど、ヘーゲルヘーゲルと偉そうに振り回したりしなかった
北村実なんかとは違う、本物性があった

中村紘子さんがコマーシャルでショパンのグランドワルツをひいているのを見たから、私もまねしてひいてみた。私がひいたらいかにも練習曲という感じでがっかりです。

こういう世間話めいたことを書くつもりはなく、いろいろと溜まっていたことがあったのですが、霧散してしまって 今はぽつり ぽつり と こんなことしかでてこないのです。

あなたは各地に友だちがいていいですね。
私は徳島の友人とも兵庫の友人とも大阪の友人とも もう 二度と会わないことにしました。

勉強するのは苦しいです。向こう(著者)の知性のほうが圧倒的に上だという思い込みがあるので、(なんの、同じ人間が書いたものではないかと自分を励ますのですが)自分は頭脳が悪いのだ と思って絶望に陥ります。
ここ数日体の具合が悪くてともすれば悲観的な気分になります。
では。


 8月9日

きのうはぼろぞうきんのようにくたびれていたがきょうは少し元気
大学病院へ行ってきました。

まだ体の変わりめ(普通は中学高校にこういう症状になるのだそうだけど、私はどういうわけか20歳にしてまだ体の変わりめらしい)なので いろんなものがうまく調整がとれなくてしんどいのだろう。年数がたてば元気になるだろうとそのお医者さんはいいました。
主に血圧の調整がとれなくて、7つの血液検査のうち4つはノーマルで後の3つはアブノーマル。ノーマルのものもアブノーマルすれすれ、アブノーマルなものもノーマルすれすれ で 病気だとも病気でないとも言い難く、ただ活動水準が普通の人より非常に低いとだけは言えるわけです。

まだまだ未成熟だと言うので、きっと成熟したあかつきには非常にグラマーになるでしょう。楽しみにしていて下さい。(冗談です。本気にしないでください)

一週間後に生化学検査の結果がでるので 少なくともきょうから一週間後(だいたいお盆頃まで)こちらにいなければなりません。


 8月10日

きょうこそは散歩ついでにこの手紙をいれて来ましょう。
ハイビスカス・ティーもきょうこそ飲もう。

小説今まで書いてたのと別のを書いています。もうほとんど完成です。見ていると胸がむかむかして破り捨てたくなるので、あなたにでも預かってもらっとこうかしら。
でも初めから手厳しく批評されたりしたら、ショックで死んでしまう。

午後です。憂鬱になってきました。

つっこみ 先頭 表紙

2001-07-05 空想科学映画 『コケコッコー となりの山駄くん』 スタジオカシシブリー

 
【ホーホケキョ】

 そんな某月某日,都内某所にて。
「ところで高○さん,貯金はどれほどありますか」
「数年逃げて,それから小物を1作こしらえる程度には,ありますなあ」
「不肖宮○も,その程度ですな」
「やる気ですか,宮ちゃん」
「やる気です,はい」
「……(隣りで寝ていた酔漢,身を起こして)あー,やりまっか。そんなら私のを使ってほしいなあ」
「ええっ。それはいけません。いしい先生に,ご迷惑が」
「いや,私もね,徳魔はともかく,朝○にはちょっといろいろ,むにゃむにゃ」
「では,次回作はとなりの山駄くん,ということで」
「はあ,請求書はばんばん多めに発行しましょう。どうせ,徳魔の連中は,どうやったらアニメができるのかわかっちゃおらんのだから」
「史上最高の制作費,いいですねえ」
「しかし,コンテを出すのはいいですが,まさか,本当に作ることにはならんでしょうね」
「いやー,徳魔の連中なら,我々が売れる,いける,と連発すれば,わかりませんぞ」
「ひやー。あはは」
「では,契約書は注意して,もし売れなくても我々に責任がこないように。また,コンテの中に,これはあんたらに対するイジワルですぞ,と,ちゃんと埋め込んでおいて,企画会議までにはわかるように」
「たとえば,テーマは,てきとー,ということで,それを何度も」
「いいですねえ,ジリフリらしくて」
「サブタイトルに,コケコッコー,なんてどうでしょう」
「やや。いしい先生,そこまで言っていただける」
「うむ,やせても枯れてもこのいしい,オウムの石井久子と一文字違い」
「では,いしい先生を大蔵大臣」
「私は危ないM君ということで」
「それじゃあ,私は……つまらないなあ。高○なんて,とくにシャレにならないしなあ」
「その歳で太陽の王子でもないでしょうしねえ。まあ,ホルスの墓,ということで」
「では,まず,絵コンテから……」
「ごそごそ」
「いしい先生,なるほど噂どおりコンテと仕上げがほとんど同レベル」
「ぐぅ」
「いや,これが本当に通って,作ることになったら,大赤字必至」
「しかし,ま,そこまで徳魔が馬鹿だとは……」
「いや,あるかもしれませんよ」
「『もののけ殿』の版権,一人分,賭けますか」
「あ,じゃあ,私はドーナツブックス1冊」
「徳魔が真に受けるほうに」
「私ものるほう」
「私も……困った。賭けになりませんな」
「うひひ」
「うひひ」
「うひひ」

 結果は皆様ご存知のとおり。

つっこみ 先頭 表紙

こ、こりは面白すぎる(爆)悪代官と越後屋でこんな密談が行われていても、私は驚かないぞ。 / まやひこ ( 2001-09-10 00:04 )
YAMAHAと並ぶキーボードの大手……それはローランド。ぺし! / 烏○ ( 2001-07-16 23:48 )
そうそう、ケネディ・スペースセンターとかディズニーワールドのある。それはフロリダ州オーランド。ぺし! / ミナ嶋@ひさびさの「ぺし」 ( 2001-07-16 20:51 )
あらあらミナ嶋さま,ちゃんと読んでいますわよ。あれでしょ,スタックを積むアルゴリズムで。それはポーランドじゃなくて逆ボーランド記法。ぺし! / 烏○ ( 2001-07-16 12:23 )
あ、すみません、これ↓私でした(ログイン忘れ)。今後ともよろしくお願いします。 / ミナ嶋 ( 2001-07-16 07:08 )
不肖○○嶋、ようやくやる気になってきたみたいよ。 / よかったら覗いてやって ( 2001-07-15 23:18 )
ほほほ,そ,それは気のせいに違いありません。暑いし。 > Hikaru / 烏○@あせあせ ( 2001-07-06 11:46 )
う〜む いつかどこかで通った道:-) / Hikaru ( 2001-07-05 22:38 )

2001-06-12 少々苦めのSF黙示録 『堕落天』 鈴木 潮 / 諸学館

 
【天国に堕ちたいに決まってるじゃないか】

 SFというジャンルは小説,専門誌の世界では息たえだえといっていいような実情だが,ゲームやアニメ,コミックに目をやればむしろ花盛りといってよい。ただ,未来を舞台にしたならなんでもSFかというとやはり旧タイプのSFファンとしてはそうは認めたくないところがなきにしもあらず,やはり同じ拡散と浸透といってもスピリチュアルな面でアグレッシブでなければただの未来を舞台にしたファンタジーなのである。

 さて,そんな中,佳作とはいえ常に予想を上回る,あるいは予想を覆す作品を発表し続けてきたコミック作家・鈴木潮。硬質なタッチで淡々と描かれたその未来社会はハインラインともクラークとも小松とも光瀬とも異なる独特の金属的な肌触りでありながら,SFとしか言いようのない思索とアイデアに満ちた空間となっている。今回単行本としてまとめられた『堕落天』は,いくつかのコミック誌に断片的に発表された作品をまとめたものだが,人類の一部が再び海に戻ることを選択した時代の別れを描くたった7ページの掌編「肺のない小人」にいたるまで,実は数万年にわたる壮大なスズキ年代記の一角を占めていたことが伺えて今さらながら驚かされる。

 表題作『堕落天』では,人類が種族として大きな変遷を向かえるミレニアムの始まりが描かれる。恒星間を亜空間航法で往復した大型宇宙船「外庭の竹ボウキ」が地球の傍まで帰還したとき,出迎えるシャトルの乗組員が発見したのは,人類とは似ても似つかぬ異形の美しい生物たちだった。彼らはほんの数世代の間に起こった自らの変身を認識することができない。彼らの覗き込む鏡の中では我は我であり,なんら出迎える者とは変わらないのである。
 「外庭の竹ボウキ」はシャトルの乗組員もろとも衛星軌道で待機を命じられ,地球からは研究機関が派遣される。しかし,遺伝子の異常も新たなウイルスも発見されず,彼らを人類ではないと証明することができない。彼らは母なる地球への帰還を申請するが,着陸許可はおりない。そのうちに,彼らを派遣した国家そのものが崩壊し,彼らの存在は文字通り宙に浮いてしまう。しかし,やはり着陸許可はおりない。宇宙船の中ではさらなる世代交代が進み,デジタルな通信網を通した文化交換はなされるにもかかわらず,それでも着陸許可はおりない。
 そして,帰還から三世代めに,「外庭の竹ボウキ」は穏やかな青い尻尾の青年をリーダーとして選出する。彼,ヤンは議会でこう宣言して触手を振るわせた。
「着陸許可がおりないなら……墜落すればよいのだ」

 本書に貫かれているのは,より低いところ,つまり宇宙よりは地上,地上よりは海底の安息を求める心だ。作者はあとがきの中で日々の生活について「深海の闇の中に棲息する名も知れぬナマコのように」という表現で語っているが,連作の最後は文字通り冷たく真っ黒いコマで終わる。
 この黒いコマを閉塞感の深まる現代社会に対する風刺と見るか,新しい時代の黙示録と読むかは無論読み手次第なのだが,いずれにしてもかなり猟奇色豊かな中盤といい,ニヒリズムたちこめる後半といい,少々ビターな味付けであることだけは前もってお断りしておくべきだろう。

つっこみ 先頭 表紙

「あ,これ,ちょっといいかも!」と思いついたネタが,存外に確認手間のかかるもので……いや,つまり,古いマンガを取り出して読み始めたら次から次へと手がとまらないだけなんですが。 / 烏○ ( 2001-06-26 12:32 )
もう息切れですかい?これじゃあレムとは勝負になりませんぜ。 / ホラ数寄 ( 2001-06-22 20:04 )
佳作というより寡作でしょうか。 / salty sugar ( 2001-06-22 20:03 )

2001-06-08 サポート電話の向こうに燃える青い炎 『暴走』 神保裕子 / 公団舎

 
【お客さま,もう一度お名前をうかがってよろしいでしょうか】

 テクニカルライターと締め切りをめぐるサスペンス『連載』,中古PCショップベテラン店員の暗闘を描く『引取』,オペレーティングシステムをめぐる国際的な陰謀をテーマにした『資源』と,年1作ペースで発表されてきた神保裕子の「パソコンではたらくおねえさん」シリーズ第4弾が本作『暴走』である。前作までと同様,綿密な調査に基くリアルな長編ハードボイルドだ。

 今回の舞台は大手インターネットサービスプロバイダ(ISP)サポートセンター。前作『資源』執筆中には取材のためにビル・ゲイツの屋敷に忍び込んだとまで言われる神保裕子だけに,今回もクレーマーのふりをして各社サポートセンターに再三電話をかけるなど,徹底的な取材を重ねたようだ。
 主人公が出社してサポート電話を受け,午後4時を迎えた時点でまだ40頁。画面が青くなって戻らない,電話工事担当者がADSLについて何一つ知らない,など,よくある「そんなことをISPに言っても」の問い合わせ数件にマニュアル通りの対応でしのぎ,そこに1本のフリーダイヤルコールが鳴る。それこそがパソコンメーカー,ソフトハウス,ショップ,ISP各社のサポートセンターを震撼とさせる一大クレーマー事件の幕開けだった。

「どないなっとんや!」
「は?」
「おまえとこは,不良品で金だけむしり取る気か」

 電話の向こうの怒号は,パソコンショップ店頭で配布されていたその会社の簡単インストールソフトのCD-ROMを使おうとすると,Windowsの最新バージョンや十分なメモリが必要らしい,そんなことはパッケージには書いてなかった(もちろん書いてある)と吠える。ISPがWindowsやメモリを保障すべきだ,というのである。主人公が答えよどむと「ヒラでは話にならん,上のもんと変われ」と怒鳴り,話にならないので上司と変わったところ,今度は「さっきの女の対応はなんだ」と難癖を重ねる。
 執拗なクレームは何時間にも及び,やがて恐るべきことが明らかになってくる。男は筋金入りのクレーマーで,15年ばかり前にポータブルワープロを1台購入したのだが,その仕様やマニュアルにクレームをつけ,代金を支払わなかったどころか,その後そのメーカーから最新型のパソコンが発売されるたびにその一式と交換させ,なおもクレームを吐き続けているというのだ。マンション購入後も管理費,自治会費を払わず,共有スペースにワゴン車を置き続け(無論,車そのものも他人名義のものだ),花壇に無断で物置を設置し,深夜大音量でテレビの音を流しながら,上のフロアの子供の歩く音がうるさいと結局上の部屋の住人を追い出した,などの言動まで明らかになってくる。
 被害にあったショップで,たまたま男に対応したためにノイローゼになるまで攻められ続け,退職して自殺した店員がかつての友人であることを知ったとき,主人公の怒りは爆発する。男の言うままにその場しのぎを繰り返すメーカー,ショップの男たちの中,たった1人の女の復讐が始まった。

「お客さま,その先はわが社の業務ではございません」

 そして「いやな客に,こんな手があったか」と全国のサポセン担当者が狂喜した驚愕のエンディング……。ネタばれになるため全貌を書けないのが残念だ。ぜひ書店で手にとってお読みいただきたい。

 なお,本書で「バージョンアップした」「64ビット化した」と評価を高めた神保裕子だが,その後も着実に傑作を発表し続け,映画化が話題になった『ログアウト』『基板の人』がベストセラーとして話題になったのは説明するまでもないだろう。

つっこみ 先頭 表紙

ちなみに神保裕子の新刊は,DNS攻撃をはかるクラッカー集団と,連休の温泉旅行を捨ててサイト保守に奔走するヒロインの孤独で絶望的な闘いを描く『侵入』,近日発刊予定。 / 烏○ ( 2001-06-09 02:37 )
「ああ、知りたい驚愕のエンディング」,カラスもぜひ知りたい(笑)。「清原なつのの新刊、たった8ページのために800円出して」,カラスも帰りに買ってしまいました。後悔はしてませんが。しかし1ページ100円と思うと。「本とコンピュータ」なんて,チェックしないわなぁ。 / 烏○ ( 2001-06-09 02:33 )
これはシリーズ全部読んでみたいです。ああ、知りたい驚愕のエンディング!清原なつのの新刊、たった8ページのために800円出して買ってしまいました。トホホ。 / けろりん ( 2001-06-09 01:56 )
しまった,「パソコンではたらくおねえさん」シリーズなら,『基盤の人』ではなくて『基板の人』であるべきですね。本文は直してしまいました。 / 烏○ ( 2001-06-08 12:20 )
これはぜひ読んでみたい!(笑)  「基盤の人」の原本?はいただけないと思ったのですがいかがでしょ。 / ミステリには無縁の人 ( 2001-06-08 06:33 )

2001-06-07 午睡の悪夢 『ドジを踏む』 河下広見 / 文秋文庫

 
【ドジは柔らかく,踏んでも踏んでもオチがない感じだった】

 あまたの想念が動植物のように息づく河下作品では,抽象的な概念が行間からいきなりどろりと溶け出して,読み手と本のページの中にしっけたフランスパンのような壁をこしらえる。

 たとえば,ドジを踏むということ。
 物語は「ミドリ公園に行く途中の藪で,ドジを踏んでしまった」という1行で始まる。踏まれたドジは長い触角を震わせ,青い腹を見せて逃れようとするのだが,逃れられないとみればやにわに人の形をとって主人公の生活の中に押しかける。それもその場はいったん消えうせながら,夜になって主人公の部屋で待ちかまえる周到さである。
 ドジは和服を身につけエラの張ったおかまの姿で現れ,夕餉の支度をし,ビールの栓を開けながら「誰だなんてひどいわ。あなたのママじゃないの」と身をくねらせ,主人公のほほにエラを摺り寄せる。「青い髭剃りあとがチョリチョリ」というあたりに主人公の踏んでしまったドジがいかに立派なドジであったかが読み取れ,前日まで安息の場であった部屋がどんどん救いのない空間として変質していったかがうかがえる。

 物語の終盤,勤め先から帰った主人公が小さな,ぬるぬるとしたドジの群れに覆われていくシーンは淡々と描かれてはいるが実に恐ろしい。主人公の皮膚のぬくもりに茶色い薄皮を脱ぎ捨てると,ドジの群れはハジの幼生となって主人公の顔を覆い,目や耳や口,鼻の穴からもぐり込み,主人公の皮下脂肪をハジの色に染め抜いていく。油断してはいけない。ドジは外から宿り主を痩せさせるが,ハジは内にこもってその皮膚を桃色の肉襦袢に変えるのである。

つっこみ 先頭 表紙

2001-06-04 岡山弁で描き上げるスポーツノンフィクション 『ほっけぇ、きょうてえ』 岩城志麻子 / ツノ川書店

 
【あんばよーみとけーよー】

 ──「ほっけぇ、きょうてえ」は「ホッケー,競艇」の岡山弁である。

 日本スポーツドキュメンタリー大賞(第6回)受賞作の本作は,昨今のスポーツノンフィクション作品の多くが映像志向であるのに対し,岡山弁と一人称を駆使することで言葉と言葉の間にスポーツに没頭する女性の情熱と苦闘をじわりじわりと描き上げ,他の作品をおさえての受賞となった。ホッケー,競艇という,ややマイナーなスポーツを選び,あまり知られていないテクニカルな内容を盛り込んだことも力となった。
 とくにラストの,選手が髪を解き,姉妹の関係が明らかになるシーンは圧巻。選考委員の荒又博は『結末の優勝は,遊女の厚化粧に類した過剰サービスに思えた』と評しているが,ここは事実に即したドキュメンタリーであることをふまえ,作者の表現力を素直に評価したい。

 続編『岡山男』もスポーツ紙に連載中だが,こちらはいしいひさいちをはじめ,岡山出身の著名人の日々の生活を追う,また一味違ったルポとなっている。

先頭 表紙

『ぼっけえ、きょうてえ』の岩井志麻子は『花より男子』のノベライズを手がけた人だそうです。……なんか,あのおどろホラーと学園ラブコメ(コメディではないか)が頭の中で結びつきません。 / 烏○ ( 2001-06-08 12:25 )
【あんば】はわからんけど【あんばい】は調子よく、【ほっけぇ】はわからんけど【ぼっけぇ】は凄い【ほ〜けぇ】はそうかい【きょうてぇ】は怖いです♪ / たかぱぱ@はじめまして岡山県人です。 ( 2001-06-04 17:47 )
たらママさま,実のところカラスめはおきゃーま弁には詳しくないので,【 】内は岡山弁サイトからの適当な流用です。「あんば」は「按配」からでしょうか。ま,こちらの日記はシャレということで,ご容赦くださいまし〜。 / 烏○ ( 2001-06-04 14:11 )
ぼっけえきょうてえ、じゃないすか?あんば、というのは聞いたことないなあ。地元の人に聞いてみよ。 / たらママ@まじに考える事ない? ( 2001-06-04 13:12 )

2001-06-04 歴史の真実が今暴かれる! 『戦国自閉隊』(上・下) ヨイデス・ハンソン / ツノ川書店

 
【歴史はオタクに何をさせようというのか】

 元亀2年(1571年),信長は比叡山に逃げ込んだ浅井・朝倉軍を討つために山麓の坂本から火を放ち,老若男女を問わず数千人を殺戮した。日本史上空前のジェノサイド,比叡山の焼き討ちである。
 しかし,延暦寺にこもる僧侶の一部にはこの歴史的事実を前もって予知する者がおり,徒党を組んで比叡山を抜け出し,各地に密教文化を伝え残した。彼らこそは現代から戦国時代にタイムスリップしたオタクたちだったのだ!

 本書『戦国自閉隊』は,高名なSF作家のペンネームとされ,過去にも何冊か傑作,怪作を上梓したヨイデス・ハンソンの手による久々の長編である。「ひきこもり」のオタクたちが通販でアニメビデオや写真集を購入して自室内に積み上げていった結果,全国で同時多発的にブラックボックスが発生してタイムスリップを起こす超時空理論,比叡山の焼き討ちに際して独自のフィギュア技術で焼死体に見せかけるサスペンスなど,オタク文化に対する取材は綿密で,毎度のことながら重厚なリアリティあふれる作風は現代作家の中でも抜きん出ているといえよう。

 比叡山焼き討ちの真相を解明する上巻に対し,安土桃山〜江戸前期にかけて展開した文化のことごとくが二番屋網介なる壷屋を中心にしたオタク一派の影響下にあると喝破する下巻はまた別の意味で読み応えがある。江戸期の鎖国政策そのものの根幹に,彼らの「ひきこもり」体質があったという著者の指摘には力があり,江戸文化に対する見方そのものを覆しかねない衝撃を受けたのは私一人だろうか。ただ,江戸期の春本にロリものが少ない理由として,タイムスリップしたのがマニアばかりで,実作者がいなかったため,というのは多少こじつけが過ぎるように思われた。むしろ素直に,やおい系の作家が歌舞伎における男ばかりの世界を助長した,とすべきだったのではないか。
 いずれにしても,長らく不調と言われ続けた日本SFに久々の大作が登場したことで,読書界の反響が楽しみである。

 なお,本作はツノ川書店から映画化されており,本能寺の変で加藤あい扮する森蘭丸が秀吉に携帯で危急を伝えようとして果たせず,炎の中で「電波圏外だ」と嘆く場面など,数々のシーンが話題を呼んでいる。同時上映は「原宿無情 ルーズのピッピ」。

先頭 表紙

キャロルはシュミでなく,キョウヨウなのでございます。 / 烏○@なんのこっちゃ ( 2001-06-08 12:22 )
おや? キャロルがご専門では? / 実はマニアとみた ( 2001-06-08 06:35 )
ちなみに,カラスが大好きなブラックホールと時間軸を扱ったハードSF作品に,トム笠原(笠原俊夫)が20年ほど前に少年ジャンプに掲載した『コスモス・エンド』というのがあります。ジャンプ・コミックス版,ボム・コミックス(日本出版社)版ともに絶版のようですが,古本屋で探すだけの価値ありです。 / 烏丸 ( 2001-06-06 17:46 )
超時空で検索しても,多分「マクロス」が出てくるばかり。おたっきーな理論には,ホワイトホール,白い明日が待っているのであります。一方,ロリなマニアというのは……烏○は沢渡のアリスくらいしか持ってなくて(とはいえあれを配信したら国際的にやばそう),詳しくないのでございます。 / おっと,○じゃなくて丸で入っちゃった ( 2001-06-06 12:49 )
「鎖国=ひきこもり」説、深い(笑)。「超時空理論」というのは本当にありそうですが、参照サイトなどご存知でしたら教えていただけますか。 / ロリもののマニアとは? ( 2001-06-06 06:56 )

2001-06-01 歪んだ時代,魔神の怒りはどこに向かうか 『大魔神泳ぐ』 百倉良治 / 烏丸書房

 
【だ,大魔神さまだ! 大魔神さまがお笑いになったのだ!】

 2001年秋に公開され,迫力溢れる時代劇と特撮の組み合わせに一部で高い評価は受けたものの興行的には惨敗で終わった映画「大魔神」。原作シナリオについても,「現代において大魔神とは」という点で議論を巻き起こしたことが記憶に新しい。

 本書の著者・百倉良治はもともと某著名ルポライターのデータマンとして活躍,税金を湯水のように無駄遣いする一部財団法人の不正をレポートし,国会でも取り上げられた著書『虎ノ門に鉄槌を』でも知られているが,今回は初の小説集。
 当初大映の了解が得られず,ペンネームを変えてゲリラ的にいくつかの(決してメジャーとはいえない)雑誌で発表してきた,いわゆる「平成大魔神」シリーズがようやく単行本にまとまったもので,こっそりコンビニで風俗雑誌にその続編を探し続けてきたファンとしてはまことに喜ばしい限りである。

 内容は,巨悪に耐え忍んだヒロインの祈りが魔人に届き……という点では旧来の「大魔神」となんら変わらないが,さすがにルポライターとしてならす百倉だけあって舞台を現代におき,一ひねりも二ひねりもした新(真?)大魔神の姿を描いてくれている。

 巻頭の「大魔神泳ぐ」は,月刊エロジャグジー2002年3月号に掲載された第1作。まだ勧善懲悪の構図が残っており,いわば直球勝負なストーリーとなっている。ヒロインは大手銀行に勤める花房美和子。彼女の父親は不良債権の責任を取らされ自殺してしまうのだが,実はその死の裏には彼女の元恋人・大館陽介の打算があり,頭取の姪に鞍替えした陽介や銀行の役員たちに,テーマパークの飾り物と思われていた大魔神の怒りが爆発する。感動的なのは,銀行の本社・支店を踏み潰した後,飛行機で逃亡する陽介を追わんと大魔神が抜き手をきって東京湾を泳ぎ進むダイナミックなラストシーン。直接陽介を成敗する場面を描かず,「ざばり。ざばり。」という音で一編を締めくくるあたりに作者の並々ならぬセンスを感じる。

 続く「火車の大魔神」は,個人向け金融と自己破産がテーマだが,サラリーマン金融のあくどい取り立てにあえぐヒロインに,同じパターンのエンディングか……と読み進むと,これがそうならない。テレビ局に勤めるこのヒロインはローンで高層マンションの一室を購入しているのだが,ブランド品を購入するための借入とそのローンは別とばかり,「マンションは私のもの」と口走ってみたり,まっとうな指摘をする弁護士を「悪徳弁護士」と知人に訴えたり,当人の姿勢にも問題があることが徐々に明らかになってくる。任意整理に応じてもらえない彼女の悔し涙に呼び出された大魔神が,テレビ局を見下ろす岡の上で憤怒に燃えながらも一歩も動こうとしないさまがむしろ圧巻だ。

 そのほか,浜松のウナギ問屋の若夫婦の穏やかな午後を描いたほほえましい掌編「夜の大魔神」,インターネットの匿名掲示板の会員に長年こつこつと営んできたホームページを荒らされた少年のために立ち上がる「大魔神電送」(大魔神が相手のコンピュータに入り込む前に「もっと見たい人はこちら」をクリックさせて動画ビュアーをインストールさせるあたり,なかなか芸が細かい)など,さまざまな切り口の大魔神譚全8話。経済小説からギャグ,エロ,ホラーまで,いずれも大人の味付けである。
 苦い酒を片手に,いかがだろうか。

先頭 表紙

ジャイアント・ロボとどっちがノロイか,25メートルプールで勝負なのであります。 / 烏○ ( 2001-06-04 01:58 )
石の塊が泳ぐとこ見たいですね。津波が起きそうだけど、滅茶苦茶ノロイ気がする。。 / okka ( 2001-06-03 22:06 )
エルさま,実は烏に○でカラスマル,は,以前okkaさまにご教授いただいたHNなのです。 / 烏○ ( 2001-06-03 02:59 )
けろりんさま,おまかせあれい(←勘定奉行2000の口調),実はネタはすでにいくつか用意してあるのです。 / 烏○ ( 2001-06-03 02:58 )
TAKEさま,大魔神を主人公にして,ウルトラQのような30分シリーズなんていかがでしょう。遺跡から発掘される大魔神,宇宙からガラダマで落ちてくる大魔神,未来から挑戦してくる大魔神,8分の1の大きさになる大魔神……。喉のかわいた大魔神が飲むのはプラッシー。 / 烏○ ( 2001-06-03 02:57 )
(まじめな話)新作の映画「大魔神」の音楽は誰になるのかしらん。伊福部昭のだといいな。 / 烏○ ( 2001-06-03 02:57 )
ニューHNもちゃんと「カラスマル」なんですね!さすがだわ! / ムフフ・・ ( 2001-06-02 15:11 )
楽しすぎ。もっとやっちゃってください。 / けろりん ( 2001-06-02 13:12 )
^^(笑) さっそく企画書も書いて売り込みにいきましょう〜。 / たけ坊 ( 2001-06-02 01:10 )
ほほう,これはなかなか。付録CD-ROMはとーぜん伊服部明の楽曲入りで。 / 烏●(偽) ( 2001-06-01 21:36 )
はい,こちらでもどうぞよろしくお願いいたします。 > システム管理の皆様 / スネークマン烏○ ( 2001-06-01 20:36 )
いかがでせう。なかなかアレでレアでましょ? > やられた〜 / ホラ吹き烏○ ( 2001-06-01 20:32 )
こんにちは。こちらでも末永くよろしくお願いいたします。 / システム管理者4号 ( 2001-06-01 20:06 )
やっだ!なにこれ。信じらんない。絶句 / やられた〜 ( 2001-06-01 16:10 )

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