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烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2001-05-06 ♪メスを持ってはアメリカ一の 『Dr.検死官』 トーマス野口,ジョゼフ・ディモーナ,佐瀬 稔 訳 / 講談社+α文庫
2001-05-03 背中に重荷,前後左右に敵 『監督たちの戦い[決定版]』(上・下) 浜田昭八 / 日経ビジネス人文庫
2001-04-23 本の中の強い女,弱い女 その十五 『巴里・妖都変 薬師寺涼子の怪奇事件簿』 田中芳樹 / 光文社カッパ・ノベルス
2001-04-20 マッドサイエンティストは永遠の夢 『空想科学エジソン(1)』 立案 柳田理科雄,画 カサハラテツロー / ソニー・マガジンズ
2001-04-16 [続報] マスコミのインターネット報道
2001-04-15 最近読んだ本 その三 『新・本格推理01 モルグ街の住人たち』『絹の変容』『オウムガイの謎』
2001-04-15 最近読んだ本 その二 『エラン』『バカのための読書術』『辺境警備』ほか
2001-04-15 最近読んだ本 その一 『九マイルは遠すぎる』『ストーカーの心理』『春の高瀬舟 御宿かわせみ24』『私たちは繁殖しているピンク』
2001-04-14 マスコミの誤報について 最終回 報道という名のバラエティショウ
2001-04-13 マスコミの誤報について その六 蓼喰うバグも好き好き


2001-05-06 ♪メスを持ってはアメリカ一の 『Dr.検死官』 トーマス野口,ジョゼフ・ディモーナ,佐瀬 稔 訳 / 講談社+α文庫


【検死官はガッツを必要とする】

 これまで,読み手の迷惑顧みず(?)須藤武雄『法医学の現場から』,渡辺孚『法医学のミステリー』など,法医学,検死関係の書籍を何冊か紹介してきた。実は本書もぜひ読んでみたいと思っていた1冊なのだが,1995年の文庫化の後,早々に品切れになってしまい,最近ようやく発見できたものである。その内容,手応えたるや,ブックオフをハシゴした労力に十分見合うものであった。

 トーマス野口氏はロサンゼルス郡検死局(ロス疑惑のアレである)の前局長であり,テレビの「Dr刑事クインシー」のモデルとしても知られている。ロサンゼルスという場所柄もあって,彼が検死に関わった人物にはマリリン・モンロー,ロバート・F・ケネディ,シャロン・テート,ジャニス・ジョプリン,パティ・ハースト誘拐犯,ウィリアム・ホールデン,ナタリー・ウッド,ジョン・ベルーシ……とビッグネームが並び,その死を巡る謎もまた興味深い。たとえばジャニス・ジョプリンの死が,普段は粗悪なヘロインになじんでいたのが,たまたまそのとき手に入れたヘロインが高純度のものであったためというのは初めて知った。

 しかし,本書のキモはそれだけではない。
 日本の検死官の多くが警察機構の奥に隠れ,職務をまっとうしたのちようやく書籍で心情を吐露するのに比べ,トーマス野口氏は,ロサンゼルス郡検死局長に登りつめ,新しく法医学センター・ビルをオープンして法医学の世界に数々の金字塔を打ち立てる一方,再三マスコミやハリウッドを敵に回し,「スター専属コロナー(検死官)」としてスキャンダラスに攻撃される。曰く,「うぬぼれ,エゴ,野心,いつも大物でいたいという欲求……」。

 そのあたりのうかがえる,たとえば以下のような一節。
「以来,私は検死局長の職に留まり,一三年の間に,ロサンゼルスにおける法医学を隆盛に導いたのである」
「彼らは『演技過剰』とか『自分の名を売るために話をふくらます』などと批判した。私はただ,検死官としての信念を貫こうとしただけなのに,である」
「私の性格にいかにクセがあろうとも,プロとしての私の能力に,郡参事会,行政府が,一片の疑いさえ投げつけることは不可能だったのである」

 検死という仕事がキャリアの1つの階段であり,上司やマスコミと闘うという構図においては,パトリシア・コーンウェルの『検屍官』シリーズの主人公ケイ・スカーペッタを思わせる。コーンウェルの作品は,あれはあれでリアリズムにのっとったものだということか。
 さすが主張と裁判の国アメリカ……と感心したところでやっかいなことに気がつく。トーマス野口氏は決してアメリカに育ったわけではなく,実は戦前の教育を受け,日本医科大学に学んだ,生粋の日本人なのだ(1952年渡米)。
 つまり,いかにもアメリカ的に見える彼の闘いは,強烈なモチベーションと主張をみなぎらせた日本人に対するロサンゼルスエスタブリッシュメントの異化作用である,とみなすこともできなくはない。

 本書は,マリリン・モンローら著名人の死の謎を描くハードボイルドなドキュメンタリーであると同時に,そういった彼我の違いにいやおうなく向きあわさせられる文化論でもある。とりたてて「検死官本」に興味のない方にもぜひご一読をお奨めしたい(その意味で品切れはまことに残念)。

先頭 表紙

星くずさま,いらっしゃいませ。感動的,感銘を受ける……という本ではないかもしれませんが,自伝として「こんな人がいたのか」「こんな事実があったのか」という意味でなかなか面白い本でありました。 / 烏丸 ( 2001-05-07 15:08 )
いやしかし,後半の「ほかにもこんないろいろな事件が」の中の「大雨で墓地が流され,街中いたるところに『くさったしたい』が」というあたりを読んでしまうと,胃潰瘍がますます悪化してしまうのでは。ちなみに,「女優の卵が殺された。額には銃創があるが弾はなく,後頭部から弾が出た気配もない」という状況とその結末は,最近どこかのミステリ短編だかにパクられていたような気がします。 / お大事に ( 2001-05-07 15:08 )
こんにちは。初めまして。ふむふむなるほど・・。 / 星くず ( 2001-05-07 10:38 )
むむむ、死体と寄生虫が嫌いな私でも読んでみたくなったであります。しかし、品切れですか。これはやはり、死体ものは読むなという天のお告げか…。 / こすもぽたりん ( 2001-05-06 20:55 )

2001-05-03 背中に重荷,前後左右に敵 『監督たちの戦い[決定版]』(上・下) 浜田昭八 / 日経ビジネス人文庫


【解雇(ファイヤ)されるために雇われる(ハイヤ)】

 スポーツの記録に人生の意味を重ねるのはオヤジの悪い癖だ。だが,自らを木鶏たり得ずと語った双葉山以来,スポーツを語るのはプレイヤー,マスコミ,オヤジが一体となってルールを取り交わした大いなる頭脳戦であり,居酒屋のカウンターで自らの薀蓄を傾けるのはオヤジ及びオヤジ予備軍にとってこの上ない楽しみの1つであった。
曰く「トンビは内外角の投げ分けが身上なんだから,あのスライダーが外れた後にヒットエンドランは無謀だったね」
曰く「千代は相撲が大きすぎた。前ミツを取るようにしたら伸びると俺は前から言ってたわけよ」
曰く……。

 そうして全国5000万のオヤジが浅漬の評論家と化す中,酷い目にあうのはプロ野球の監督だ。
 プレイヤーはまだよい。10勝すれば,3割打てば胸を張れるし,そうでない場合は実力が足りないだけ。レギュラーにしてもらえない,いい場面で使ってもらえない,ちょっと打たれただけで変えられる……言いたいことは山ほどあるだろうが,それなりに活躍すれば評価も給料もついて回る。
 それに比べて,監督は大変だ。敵は相手チームだけではない。身勝手なオーナー,機能しないフロント,無能なコーチに雄弁すぎるコーチ,そして覇気がありすぎるかなさすぎる現役プレイヤーたち。年が近ければなめられ,離れすぎると会話が通じない。
 優勝すれば親分,マジックと持ち上げるマスコミも,翌年勝てなければ無能扱い(なにしろマスコミに巣食うのはヌカ漬レベルの評論家どもだ),6球団のうち2位,3位なら上出来,とは誰も言わない。リーグ優勝できても,たった7試合の日本シリーズに勝てなければ評価はBクラスである。

 本書は,上巻に王貞治,仰木彬,野村克也,上田利治,西本幸雄,吉田義男,近藤貞雄,三原脩,下巻に長嶋茂雄,星野仙一,森祗晶,広岡達郎,大沢啓二,川上哲治,藤田元司,鶴岡一人という歴代の名監督の苦闘を語るノンフィクション。
 ここしばらくの野球本の中では,実に読み応えのあるもので,上下巻合わせて800ページ弱の野球本など電車の行き帰り,2日もあれば読み終えるのが通常だが,ほかの本に浮気しつつぽつぽつ拾い読むのに10日近くかかった。重い。切ない。辛い。あのV9監督の川上でさえ気の毒に思われると言えばおわりいただけるだろうか。
 いたずらに人生論に翻訳しているわけではない。むしろ,数字に残る記録や,当時のマスコミの報道,さらに当時あるいは現在の監督当人,あるいは周辺のプレイヤーへのインタビューをこつこつと積み上げただけなのだが,1つの試合,1つの采配についての記述が実に重い。とても読み流すことができないのだ。

 しかし,悲劇の闘将西本とか稲尾4連投とか,そういった共通の知識,認識を持たない非野球ファン,あるいは最近の野球ファンにこの本の面白さ,切なさがどれだけ伝わるのだろう。よくもあしくも日本プロ野球はスポーツではなく,プロレス同様,記憶と認識のゲームなのである。その意味ではサッカーよりは能,歌舞伎に近いと言ったら言いすぎか。

 おりしも1日の読売中日戦の視聴率は11.9%と低迷,同じ日の近鉄日ハム戦では1回表の先頭打者初球本塁打が決勝点となるというプロ野球史上初の珍記録が生まれたにもかかわらず反響はないに等しい。エース,首位打者の抜けた日本プロ野球はこのまま大リーグの二軍と化し,オールドファンは昔の記録と記憶に溜息をつくしかないのか。……さらにマイナーなスポーツのファンに比べれば,こうして素晴らしい本にめぐり合えるだけマシではあるのだが。

先頭 表紙

いや〜,この本は,ここしばらくの野球本の中ではかなり重みがありました(実は野球関連の文庫オタク)。ただ,昔に比べると,身近にプロ野球の薀蓄で盛り上がれる相手が減っているのは残念。そういう烏丸も,昔と違って,12球団のレギュラーを全部そらんじる,なんて到底できなくなってしまいましたが。 / 烏丸 ( 2001-05-06 02:00 )
おおっ、そうそうたる顔ぶれ。鶴岡氏、三原氏はリアルタイムでの監督時代は知らないのですが、あとは思い出深い方ばかり。本屋で探してみます。 / TAKE ( 2001-05-03 09:27 )

2001-04-23 本の中の強い女,弱い女 その十五 『巴里・妖都変 薬師寺涼子の怪奇事件簿』 田中芳樹 / 光文社カッパ・ノベルス


【あたしは,あたし以外の女が世界を支配するなんて,ガマンできないの!】

 ナンシー関と町山広美の対談『隣家全焼』を読んでいたら,「胸や乳首を見せるのが仕事で,しゃべるのは仕事じゃない」セクシータレント反町隆史という話が出てきた。「見映えのする男は今は,とりあえず乳首を出してぶすっとしていれば,女にウケておこづかいすらもらえる」,この手の男女の役割逆転の話題は当節あちこちでお目にかかる。
 だが,実際のところ,弱い男は確かにボウフラ同様どこにでも沸いてくるが,本当に強い,とため息の出るような女にはなかなかお目にかかれない。そもそも強い弱い,偉い偉くないという価値観そのものが細分化,相対化してしまい,「強いってなんですか」(©幕之内一歩)なご時世ではある。

 そしてそうなると「強さ」の1つの側面はいかに我儘であるか,その我儘をどれほど押し通せるかがバロメーターとならざるを得ない。強いことは必ずしもプラスの価値とは言えないのだ。その結果,強くてなおかつ魅力的なヒーロー,ヒロインは,荒唐無稽な本やマンガの中でしか成立しなくなる。いや,マンガの中ですらなかなか成立しない。

 というわけで,めっぽう強い女を描く本シリーズはそれはもう,十分に馬鹿馬鹿しい。
 主人公・薬師寺涼子は二十七歳,警視庁刑事部参事官を務め,階級は警視。東大法学部をオール優で卒業したいわゆるキャリア官僚,しかもアジア最大の警備会社JACESの社長令嬢であることを悪用して官僚や政治家の弱みを握り,権力を欲しいがままにしている。絶世の美女でスタイルも抜群だがその性格は傍若無人かつ傲岸不遜,天衣無縫にして唯我独尊,ドラキュラもよけて通る最強にして最凶の女性官僚「ドラよけお涼」,ついでに「桜田門の黒バラ」「霞が関の人間原子炉」とは彼女のことだ。

 今回舞台は冬のパリ。もちろん“私”こと泉田準一郎警部補もいやいやつき従い,二人がパリに舞い降りるやいなや人の脳ミソを吸い取る奇怪な獣が現れて涼子の目が光る。あとはいつものように室町由紀子警視,岸本明警部補らも巻き込んで,一気呵成。情報通信産業だとかネオナチだとか錬金術とかの文字が通り過ぎたような気がしないでもないが,細かいことはどうでもよろしい,要はドラよけお涼が気がすむまで暴れた,日誌に書くのはそれで十分。読み手は泉田警部補と供にお涼の罵詈雑言のシャワーを浴びて真っ白に燃え尽きる。
曰く「よろしい,さすがにあたしの忠臣ね。あたしが不愉快になったときには,君も不愉快になって,あたしが行けと命じたら突進するのよ」
曰く「そう,だからあたしがパリに行くときには,君もパリに行くの。あたしが冥王星に行くときには,君も冥王星に行くの。あたしが地底王国に行くときには,君も地底王国に行くのよ」
曰く「常識の通じない日本人のオソロシサを、たっぷり思い知らせてやるから覚悟おし!」
 これらの言葉に淡々と「ごもっともです」と答えられるようになったらあなたも立派な忠臣である。「田中芳樹のほかの作品に比べてまるで」とか「錬金術といってもこれでは」「前作の敵のほうがまだ」などとは間違っても口にしてはいけない。そんな口は,JACES開発の特製スカーフ兵器で,こうだ。べしべし。

 ちなみに,本薬師寺涼子シリーズは,第1作『摩天楼』が講談社文庫,のちに書き下ろし短編を加えて講談社ノベルス,第2作『東京ナイトメア』が講談社ノベルス,この第3作『巴里・妖都変』がカッパ・ノベルスと,発行元,版形からしてやりたい放題。次はそろそろハードカバーか。それも日経BPなんてどうよ。

先頭 表紙

不思議なことに,あすなひろしは誰にも似ていませんし,誰も真似していないように思います。絵柄もそうですが,あの独特の「間」がなんとも。烏丸が推すのは,やはり『哀しい人々』でしょうか。 / 烏丸 ( 2001-05-06 01:57 )
遅くなりましたが、あすなひろし氏、亡くなられたのですね。残念です。「青い空に白い雲がかけてった」などを愛読してました。(黙祷)。 / TAKE ( 2001-05-03 09:32 )
さいか140。さま,修復されたようでなにより。ちなみにttfCacheはTrueTypeFontのCacheの意味で,要するに表示を高速化するために展開したフォントをそこにためておく倉庫のようなものです。その倉庫の中がこんがらがると,ああなってしまうのですね。 / 烏丸 ( 2001-05-03 02:53 )
表示のこといろいろ教えてくださってありがとうございました♪ / さいか140。 ( 2001-04-27 01:23 )
巴里。あたしが小学生のときに行っていた美容院の名前・・・懐かしい記憶がよみがえりました〜。田中芳樹さんは創竜伝しか読んだことないです〜。 / さいか140。 ( 2001-04-27 01:22 )
男ですか。男はハナから相手にもされておりません。……もっとも,泉田警部補は毎話,最後にちょこっとご褒美をもらえるようですが。 / 烏丸 ( 2001-04-24 18:10 )
おっ!待望の女シリーズですね。しかし「黒バラ」はいいとして、「ドラよけ」「人間原子炉」は・・。「あたし以外の女が世界を・・」って、女の敵は女って事ですか。男は・・・ / カエル ( 2001-04-24 17:13 )
『哀しい人々』等の漫画家あすなひろし氏が亡くなったそうです。クセがあるが清潔な線,セリフやコマの独特の間合いが好きでした。黙祷。 / 烏丸 ( 2001-04-23 12:02 )

2001-04-20 マッドサイエンティストは永遠の夢 『空想科学エジソン(1)』 立案 柳田理科雄,画 カサハラテツロー / ソニー・マガジンズ


【ザットンの言う通り 頭の回転が早く 猛々しい娘じゃ】

 素晴らしい夏だった。もう30年以上前のことだ。
 小学校の理科実験室の主として君臨して2年目の夏,鏡とレンズを利用した距離計(1人で対象物までの距離を3〜40メートルまで測れるもの)に続いて着手したのは,3つのスイッチで7つの動作をリモートコントロールできる手製の戦車だった。糸ノコで切り出した板の上にマブチ15モーターやら豆電球やらを所狭しと並べ,キャタピラー前進,ドリル回転,ブザー,左ランプ点灯,中央ランプ点灯,右ランプ点灯,ミニプロペラ発射を操作。
 設計図だけで2か月かかった。それから製作に1か月。楽しかった。本当に,夢のように楽しかった。
 それから灰色の雨が降って,あの設計図,糸ノコ,テスター,ハンダゴテ,水中モーター,「科学」の付録,2号とジェットモグラ,それら全部がおさまった工具箱はどこに消えたのだろう。

 マッドサイエンティストは永遠の夢だ。秘密兵器を満載した水陸両用車,湖底の秘密基地,暗号と地図,言葉を解する愛犬,謎の敵に幽閉されたテレパシー少女。

 ……目が覚めると,水陸両用車はトランクに子供のローラーブレードを積んだファミリアだし,秘密基地は郊外のありふれた一戸建て,謎の敵はどこかで道くさをくっていまだ現れない。
 だから,今日も元マッドサイエンティスト志願者はため息をつきながら本を開くのだ,そこにいたはずの自分,自分の手によって作られたはずの機械。機械。大量生産でなく,手作りの,機械。

 そんな気分を久々に楽しめたのが今年3月末に発売されたばかりのコミック『空想科学エジソン』。
 ノストラジアは四方を高さ500メートルの断崖に囲われた聖なる楽園。主人公の田中麗奈,ぢゃなくて少女ミロは父ドクトル・ロマンの残した万能工具バルカンを手に,今日も大水車の支柱傾斜調整の仕事に励む職工だ。そんなある日,ミロは滝壷で発見された不思議な球体エジソン=シュタインと出会う。そして滝の上から落ちてきた自動戦車。世界は動き始めた,滝の上,外の世界へ。

 絵のヘタな鶴田謙二の弟子が『風の谷のナウシカ』を描こうとしたら『未来少年コナン』になってしまった,そんな感じだろうか。立案は『空想科学読本』の柳田理科雄,絵も話も荒っぽいが,まだ1巻,これからの展開を楽しみにしよう。万能工具とはいわないまでも,プラスドライバー片手に。

先頭 表紙

けろりんさま、こちらこそよろしくお願いします。荒馬宗海(だったかな?)、私も好きでした。今でもそこいらの本から自分で作った”荒馬さんしおり”が出てきます〜 / Hikaru ( 2001-05-07 18:05 )
つづき>のも、好きでした。単行本になったら買うのに〜。 / けろりん ( 2001-05-07 15:56 )
Hikaruさん>はじめまして。そうです、「アスガード7」!きっと年代近いですね。学年変わると別の人が描いてたりもしてたなあ。オールカラーマンガだったからゴージャスだった記憶があります。私は「学習」の方も読んでいたので、「名探偵荒馬そうかい(漢字失念)」なんて / けろりん ( 2001-05-07 15:53 )
アスガード7ネタは、けろりんさまが同世代かな〜?と思って振ったのでした_(..)_ 009とレインボー戦隊を混ぜたような、空想科学劇画でございました / Hikaru ( 2001-05-07 12:45 )
Hikaruさま,『アスガード7』という作品は残念ながら全然存じません。烏丸のころの「科学」「学習」のマンガの掲載は……記憶にないところみると,なかったのでしょうか。 / 烏丸 ( 2001-05-03 02:50 )
けろりんさま,おっしゃるとおり,後半は若干気になります。どんどんバタバタしてつまらなくなる可能性はなくはありませんね。よくある冒険アクションより,あくまで機械工作がポイントのマンガであってほしい,と願っているのですが。ともかく2巻に注目です。 / 烏丸 ( 2001-05-03 02:47 )
私が子供のころの科学のマンガといえば やっぱ「アスガード7」ですね / Hikaru ( 2001-04-28 17:52 )
私も買っちゃいました。好みです。後半、ちょっとドタバタしすぎているような気がしますがこれからの展開次第ですね。私の小学校時代には石森章太郎が「科学」に連載してました。結構いい時代だったかもしれません。 / けろりん ( 2001-04-28 13:31 )
買ってきました。これはハマりますね。クロノスの方は教材連動だから単行本になるかどうかは謎ですが。 / Hikaru ( 2001-04-27 22:21 )
セスさま,プラスドライバーの別の道具というと,マイナスドライバー。…………いや,マジでこういうものの購入を検討中。 / 烏丸 ( 2001-04-24 12:13 )
うむっ,やっぱりこのテイストは学研の科学がらみですか。なんかすっごくよくわかるなー。鉄粉の匂いが共通するというか。科学の連載マンガといえばこの「くるくる」でも何度も取り上げたあさりよしとおの『まんがサイエンス』ですが,その『クロノスの迷宮』というのも単行本が待ち遠しいですね。 / 烏丸 ( 2001-04-24 12:13 )
お作りになればいいのに。マッドサイエンティストと機械が冒険を繰り広げる世界を。工具箱は夢の中に消えてしまったかもしれませんが、今は別の道具をお持ちなのだから。 / セス ( 2001-04-24 06:42 )
わざわざお調べいただき、恐縮の至りです〜。児童書かって事で子供の本棚を見たら、昨年から引き続き4年の科学に連載してました。3年の時の「クロノスの迷宮」がとてもよかったです。これは、本屋にゴ〜ですね。 / Hikaru ( 2001-04-23 20:43 )
Hikaruさま,カサハラテツローで検索すると,旺文社『竜の谷のひみつ』,鈴木出版『めいろなぞなぞまちがいさがし カキクケコ』と,児童向けの本がひっかかるようです。あと,似た名前で,少年ジャンプでハードSF『コスモスエンド』(お奨め!),最近は本名(笠原俊夫だったかな)で架空戦記物を書いているトム笠原とか。 / 烏丸 ( 2001-04-22 22:12 )
「スーパー巨人」(ジャイアンツ じゃないよ)の本田工作くんも好きっす / Hikaru ( 2001-04-21 13:54 )
「カサハラテツロー」っと他に何描いてました? どこかで見た名前。 / Hikaru ( 2001-04-21 13:53 )

2001-04-16 [続報] マスコミのインターネット報道

 
 先のマスコミの誤報についての一連の書き込みの中で,朝日新聞のインターネット報道に漂う悪意について簡単に取り上げたが,14日朝刊にその典型的な例を見かけたので簡単に紹介したい。

 まず,1面にいきなり「くらし ネット常時接続の落とし穴」。常時インターネット接続された自分のパソコンを経由して,誰かが米国海軍のネットワークに侵入しようとしていた,というものである。
 常時接続の無防備なシステムが不正アクセスの温床になるというこの記事の指摘そのものは間違いではない。しかし,「攻撃先に被害が出た場合は損害賠償を請求される可能性もある」という一種の脅し(まぁでもそのくらいの認識はあったほうがよいが)や「記者も不正侵入された……見覚えのない検索ソフトが走っていた。……その後パソコンの動作は次第に緩慢になり,壊れてしまった」という意味不明な一節(侵入してきたソフトが「検索ソフト」であると識別できて,壊れてしまう(何が?)まで放っておくとは?)など,インターネット初心者に対し「インターネットは怖そう」としり込みさせかねない書き方ではないか。

 政治面(4面),自民党総裁選についての記事で,「小泉氏,ネット使い対話も」。
 インターネットが浮動票と結びついているという認識に基づいた記事で,とくに異論なし。

 経済面(11面),「『パソコン拝借』新商売 何万台もつなげばスパコン級」。インターネットを用いて何万台というパソコンに分散処理をさせ新薬開発などに利用する,という内容。「スパコン」という略語が不快だが,内容に異論なし。
(ちなみに,朝日新聞の科学欄担当者は「分散処理」というキーワードが大好きらしい。なぜこんなに似たような内容の記事を何度も,というほど紹介されている。)

 同じく経済面(12面),「携帯メール一発OK ジャストシステムがソフト開発」,見ての通りの内容で異論なし。ただ,「こんな超ムカツク変換なくしました」という写真キャプションは少々悪ノリ。

 さて,問題の社会面(39面),「ネット掲示板 日生,管理者に削除要求 東京地裁に仮処分申請『社員を中傷』」。
 匿名掲示板「2ちゃんねる」の内容に対し,日本生命が記載の削除を求める仮処分を東京地裁に申請した,というもので,管理者のひろゆき氏の対応が注目されている一件だが,記事は「匿名性が強いネット上の書き込みには……一定の規制を求める声が出ているが,表現の自由との関係もあって,書かれた側がとれる有効な対抗手段は現在少ない」と,ニュートラルから微妙に日生寄りである。
 ところが,まったく偶然,社会面(37面)の特集は,自民党のメディア規制に対するアンチ記事で,「『有害番組」法規制狙う自民 『子ども』旗印に攻勢」「矢面の民法連懸念『ヒトラーのよう』」「文科相,PTAに『広告主不買の勧め』」と法規制に対するアレルギー剥き出しだ(さらに偶然だが,25面の天野祐吉の連載コラム「CM天気図」も自民党の報道番組検証委員会に対する揶揄がメインとなっている)。
 つまり,これらからうかがえる朝日新聞の表現の自由についてのスタンスはこうだ,「新聞やテレビ局に対する法規制は止めるべきだが,インターネット上の匿名発言は法で取り仕切れ」……。ちょっと手前勝手が過ぎないか。

 なんてね,しゃっちょこばって書いているが,この日の朝日新聞朝刊の最大ヒットは社会面(39面)トップの「『日本の顔』何点? 自民総裁選,専門家が採点」だろう。
 4候補の採点表に並ぶ「専門家」のトップ,誰かと思えば漫画家のやくみつる(=はた山ハッチ)氏だ。専門家? なんの?

先頭 表紙

三茶さま,いらっしゃいませ。謙虚さが必要,というご指摘なら異論はありませんが,検証や批評に対してそれを持ち出すのはどうでしょうか。ちなみに烏丸はあらゆる宗教と宗教家のセリフがうさんくさくて苦手,石をもっての殴り合いのほうがまだしもです。 / 烏丸 ( 2001-05-06 01:53 )
「汝、過ちを犯したことなき者のみ、石もてこの女を打て」でしょう。 / 三茶 ( 2001-05-03 00:26 )
いえ,主義主張というのは多かれ少なかれそんなものであって,狂っているとかいないとか,そういう問題ではないと思います。問題なのは,スポーツ新聞やTVワイドショーはエンターテイメントであって,大手新聞はかっちりフェアな報道である,という受け手のほうの認識ではないでしょうか。教科書認定関連については,苦笑いするしかありません。 / 烏丸 ( 2001-04-17 11:16 )
烏丸さん、はじめまして。朝日新聞の見事な狂いっぷり(w はある意味、すごいと思います。最近でいうと教科書検定問題ですか。あそこまでいくともはや「赤旗」みたいな機関誌と変わらないレベルですな・・・。いや恐ろしい。 / ZephyrFalcon ( 2001-04-16 20:09 )
誤報ともコンピュータともぜんぜん関係ないけど,河島英五が死んでしまったなあ。 / 烏丸 ( 2001-04-16 15:52 )
最後の「専門家」というのは,つまり,「各界の専門家に,首相候補4人のアピールを(ファッションなど)その分野から採点してもらう」という意味なのはわかっちゃいるのですが,タイトルだけ見ると。 / 烏丸 ( 2001-04-16 11:44 )

2001-04-15 最近読んだ本 その三 『新・本格推理01 モルグ街の住人たち』『絹の変容』『オウムガイの謎』


『新・本格推理01 モルグ街の住人たち』 監修 鮎川哲也,編集長 二階堂黎人 / 光文社文庫
 編集長が『本格推理1 新しい挑戦者たち』以来の鮎川哲也から二階堂黎人に変わって第1冊目。掲載された作品はいずれもまぁまぁの出来で,たとえば20世紀初頭のロシア革命を背景にした「暗号名『マトリョーシュカ』 ─ウリャーノフ暗殺指令─」など,アマチュアの手による本格ミステリとしてはこれ以上望むべくもない労作。しかし,応募原稿の枚数の上限が増えたことにもよるのか,全体に「労作」志向が強いこともまた確かで,小粒でぴりり,という手応えはなかった。
 それ以上にうんざりするのは,二階堂黎人の解説というか,お説教。ミステリを読みたいのであって,新興宗教のお勉強会に参加したいわけではないのだが。

『絹の変容』 篠田節子 / 集英社文庫
 寄生虫の本を何冊か紹介したら,どうやらそういうモノが好きと思われたらしい(好きなわけではない,と思うよ……多分),「この本は知ってた?」と知人が勧めてくれたのが本書である。レーザーディスクのように輝く絹織物,それは蚕の野種によるものだった……。バイオテクノロジー,アレルギーなど,当節風味を加味したパニックものだが,急いで書いたのか,なんだかさまざまな要素があわただしく駆け足でかき混ぜられた印象。この虫がなぜ怖いかも,ちょっとあれこれありすぎる。
 烏丸は大昔,貰い受けた蚕を育てたことがあるが,わしわしと桑をはむその底知れぬ食欲,成長,そして繭から出て飛ぶこともできずただまぐわって卵を産んで死んでいく虫の一生……本書の虫は危険,かつグロテスクだが,本当の恐怖とは,それが危険なのだからではなく,それが存在するからなのではないか。
 などとぶつぶつ言いつつも,なかなか面白い1冊であった。感謝。

『オウムガイの謎』 小畠郁夫・加藤 秀 / ちくまプリマーブックス
 オウムガイの本がそうそうあるとも思えないのに,ピーター・D・ウォード『オウムガイの謎』と同じタイトル。これは筑摩書房でなく,後から出した河出書房新社が悪い(しかも,同じ小畠郁夫監訳。なにやってんだか)。
 筑摩書房版は中・高校生向けに日本でのオウムガイの飼育の苦労をまとめたもの。ウォードの説と噛み合わない部分もあって興味深いが,青少年向けということを抜きにしても,ドキュメンタリーとしては圧倒的にウォード版のが上。

 ところで,オウムガイは鳥羽水族館(三重)での飼育が有名だが,池袋のサンシャイン国際水族館では先月来シーラカンスの標本が公開されている。これは,『寄生虫館物語 可愛く奇妙な虫たちの暮らし』の亀谷了先生が解剖に立ち合い,エラで手に裂傷を負いながらも新種の寄生虫を発見した標本が,よみうりランド海水水族館の閉館にともなってサンシャイン国際水族館に譲渡されたもの。
 家庭サービスかねて,明日はそのシーラカンスを見にいく予定。サンシャイン国際水族館は入り口のところに4.8メートルのリュウグウノツカイの標本もあって,それと再会できるのもまた楽しみ楽しみ。

先頭 表紙

まだまだいっぱいあったのだけど,時間切れ。またの機会に……。 / 烏丸 ( 2001-04-15 03:28 )

2001-04-15 最近読んだ本 その二 『エラン』『バカのための読書術』『辺境警備』ほか


『エラン』全2巻 新谷かおる / メディアファクトリー
 1989年,つまりバブルがはじける直前に連載された,「貿易」を題材にした作品である。「夢の独立国家をつくるため,少年少女が設立した世界最小の貿易商社」という設定が窮屈すぎたせいか,本格的に話が転がりだす前に終わってしまうが,新谷らしい大手商社との知恵合戦は見もの。
 以前,『砂の薔薇』の解説に宮嶋茂樹が登用されたという話を紹介したが,この『エラン』2巻の木原浩勝(怪異蒐集家)の解説がまた秀逸。その切れ味にはさっと鳥肌が立った。新谷という作家,一見,豪快な勝ち負けテーマの少年マンガに見えるが,実のところは掘り下げ可能な,複合的な作風なのだろう。とりあえず『クレオパトラD.C.』は必読。

『バカのための読書術』 小谷野 敦 / ちくま新書
 難しい本をどう読むか,どう選ぶか,といったテーマについてまとめた本である。とりあえず,この本に「バカ」にされる領域にいたるまでが大変だ。普通は,この本を読んでも,何を言われているかわからないだろう。
 本邦初「読んではいけない本」ブックガイドには爆笑。小林秀雄のほとんどすべて,とか,バタイユ,ブランショなんて確かに読みたがる時期があったよな,と顔が赤らむ(ただし,ここで「読んではいけない」とされているバタイユの『エロティシズム』は,中国人の処刑(広場で阿片をかがせてからよってたかって足をもぎ,胸をそぐ)の写真がそのまま掲載されていて,立ち読みする価値はあると思う)。『黒死館殺人事件』『ドグラ・マグラ』『虚無への供物』も「読んではいけない」そうだ。まぁ,先に読んでおくべき本は多いかな。
 とりあえず,読書家を自認する人は読んでみるとよいだろう。ただし,これを読んだバカの一部が,自分をバカと思わなかった場合は問題だ。こじれたバカは無敵。

『辺境警備』 紫堂恭子 / 角川書店あすかコミックス
 先の『バカのための読書術』で大島弓子,山岸凉子と並んでお奨めされていたので買って読んでみた。悪くはないが,これに「しびれる」には少し年をとりすぎたか,あるいは逆にまだ若すぎるようだ。

『なんでもツルカメ(上・下)』 犬丸りん / 幻冬舎文庫
 いわずとしれたおじゃる丸の作者のデビュー当時の作品。しかし,烏丸の好みはおじゃる丸よりむしろこの『なんでもツルカメ』のりんちゃんだ。連載当時のことがあれこれ思い起こされて懐かしい。

『写真美術館へようこそ』 飯沢耕太郎 / 講談社現代新書
 中断している「本の中の名画たち」のための資料,あるいは紹介する本の候補として選んだもの。悪い本ではないが,内容をだらだら紹介する以外に,取り上げる切り口見つからず。

『活字でみるオルセー美術館 近代美の回廊をゆく』 小島英熙 / 丸善ライブラリー
 同上。

『フローラ逍遥』 澁澤龍彦 / 平凡社ライブラリー
 同上,なのだけれど,ただもううっとり。著者晩年の作業,古今東西の花の図版75点を取り上げ,それぞれに典雅な文章を付したもの。
(つづく)

先頭 表紙

ふと,本文読み返して……中国人の処刑は『エロスの涙』ですね。なにをお馬鹿。 / 烏丸 ( 2001-04-19 12:15 )
あ,そういう意味なら納得ですが,逆に心配もないように思います。あれは明らかに写真の歴史における大物,大事件の羅列であって,自分がその域にすぐ達するようには思えません。絵を始めようという人が世界美術全集を見ても大丈夫,みたいなもんでは。 / 烏丸 ( 2001-04-19 12:14 )
どもども。大変なこととかどうとかというより、これから写真始めよっかな〜とい人が読むには作品がハイエンド。入門というより中堅向けかという印象がありまする / Hikaru ( 2001-04-18 13:25 )
Hikaruさま,いらっしゃいませ。……烏丸は歴史の教科書的に「ふんふんなるほど」と読んでしまいました。書かれていることがどんなに大変なことなのかわかっていないものと思われますが……。 / 烏丸 ( 2001-04-18 12:38 )
アカウントなくても、つっこみ書けるかな?「写真美術館へようこそ」は入門書と銘打ってますが、それにはちと強烈かも / Hikaru ( 2001-04-18 10:35 )
そうそう,『エラン』の解説を書いたという木原浩勝氏は,かの『新耳袋』の編者の1人であります。 / 烏丸 ( 2001-04-17 11:11 )
けろりんさま,とてもよい作品だとは思ったのですよ。ほかの作品も少しずつ読んでいくつもりですので,紹介していただけると幸い……。 / 烏丸 ( 2001-04-16 19:54 )
紫堂恭子はそのうち私も紹介しようかな〜なんて思っていたんですが。それなら「グランローヴァ物語」の方をいつか取り上げるかなぁ。 / けろりん ( 2001-04-16 17:05 )

2001-04-15 最近読んだ本 その一 『九マイルは遠すぎる』『ストーカーの心理』『春の高瀬舟 御宿かわせみ24』『私たちは繁殖しているピンク』


 新聞報道について寄り道したりしているうちに,取り上げるタイミングを逃した本がたまってしまった。いずれ機会をあらためてきちんと紹介したい本(およびイナズマ落としでゴミ箱に投げ捨てた本)を除いて,ざざざっと駆け足で紹介しておこう。

『九マイルは遠すぎる』 ハリイ・ケメルマン,永井 淳・深町真理子 訳 / ハヤカワ文庫
 ふと耳にした「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない,まして雨の中となるとなおさらだ」という言葉から推論を展開し,なんと前夜起きた殺人事件の真相を暴き出す……という表題作でかねて有名な短編集なのだが,どういうわけか読もうと思い立つと書店店頭にない,そのうち失念する,ということの繰り返しでこの十数年すれ違いが続いていた。
 場末の小さな書店でようやくお目にかかれたのだが……。なァんだ,その短文だけじゃなくていろいろ推論の材料があったのね。おまけにその材料たるや,極東の島国の読み手にはまずわからないであろうシロモノ。
 まぁ,これは長年の期待が勝手に膨れ上がったせいだろう,アシモフ『黒後家蜘蛛の会』にも匹敵する佳編ぞろいではある。

『ストーカーの心理』 荒木創造 / 講談社+α新書
 腹帯の惹句(添付画像参照)が,「ストーカー自身が告白した赤裸々な深層心理!!」。……当人が自覚しているなら,すでにそれは深層心理とは言わないのでは?
 それはともかく,男性ストーカー2人,女性ストーカー2人との対話を詳細に紹介した本書,岩下久美子『人はなぜストーカーになるのか』,福島章『ストーカーの心理学』に比べるとストーカー心理の分類,抽出が荒っぽく,しかもどうも被害者よりストーカー寄りというか,どこかその言動を容認している気配があって少々ひっかかる。
 この3冊の中では『ストーカーの心理学』が一番お奨め。

『春の高瀬舟 御宿かわせみ24』 平岩弓枝 / 文春文庫
 神林東吾がうっかり外にこしらえてしまった(らしい)隠し子・麻太郎と再会し,その事件で母・琴江を亡くした麻太郎は後継ぎを得られない兄・神林通之進の養子となる……四方八方まるくおさまってご都合主義としても少々やりすぎではないか。あのご都合主義の権化,島耕作ですら隠し子ナンシーに自分が父であると告白しなかったというのに。
 とかいいながらはらはらお付き合いしてこれで24冊目,あと何冊読めるのやら。

『私たちは繁殖しているピンク』 内田春菊 / 角川文庫
 子育ては百人百色,細かいことにこだわらない親にはあれこれ参考になったりリフレッシュになったり。こだわる人は……お好きなように。
 食後すぐに濃いコーヒーや緑茶を飲むのは鉄分が破壊されてよくないのだそうだ。麦茶,ほうじ茶,番茶ならOKとのこと。なるほどね。
(つづく)

先頭 表紙

2001-04-14 マスコミの誤報について 最終回 報道という名のバラエティショウ

 
 このほか,コンピュータを扱った報道を見渡すと,実際,明らかな誤報,首を傾げざるを得ない記事が少なくない。というより,専門家が直接ペンを執った文章は別にして,ある程度突っ込んだ内容を記者がまとめた記事を見た場合,かなりの確立で奇妙な誤解や微妙なズレ,さらにいえばほのかな毒を感じることが少なくない(とくに,朝日新聞の「ネット」に対する悪意はかなり露骨だ)。

 気になるのは,コンピュータを扱った記事の場合,比較的オープンな業界ゆえ事件の結果がしばらくして明らかになることが多く,そのために読み手から記事の内容チェックがしやすいのではないか,ということである。
 そして,もし大手新聞社の記者の水準がコンピュータ関連記事にうかがえる程度のものしかないとしたら,それ以外の,記事の是非が明らかになりにくいジャンルの記事の内容の水準は果たしてどうなのか。たとえば,経済,金融,政治,外交……。

 衰えたといえども大部数を誇る新聞の影響力はいまだ大きい。駆け出しの記者でも取材相手に「公器」として恫喝まがいのことを口にできるほどその権力は小さくない。ワイドショーや週刊誌とは次元の異なる,何かきちんとしたもの,確かなスジによる情報,といったものを想像する読み手もいまだ少なくないに違いない。
 しかし,本当にワイドショーや週刊誌,スポーツ新聞とは違うのだろうか?

 とりあえず,我々読み手は,インターネットという複合的な情報源を得た。従来は時間的にも金銭的にも容易でなかった複数の新聞の記事,通信社のナマの情報,場合によっては事件の当事者のナマの声に触れることすら可能になった。

 2つの新聞の記事を読んで,もしその内容に違いがあるなら,どちらかは(あるいは両方とも)事実と異なっている可能性があるということだ。逆に,内容が全く同じなら,どこかからの,同じニュースソースからの(なんらかの意図のこもった)情報を引き写しただけかもしれない。

 見抜くのは読み手側の義務なのである。

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 ……と書いて〆られるとなかなかカッコよかったのだが,知人から,昨日の書き込みの,顧客データをプリントアウトした銀行についてのご指摘をいただいた。
 曰く,「プリントアウトは結果的にムダにはなったが,保険金と同じく万一に備えたリスクヘッジであり,ムダになるよう努力し,その努力がうまくいったということではないか。そもそも派手にプリントアウトを積み上げても預金全額から見ればたいしたコストではない。銀行の取り組み姿勢のパフォーマンスだったのではないか」(要約,烏丸)
 うーん,磁気ディスク等への保存で十分なところを,紙に印字しないとアピールにならないという構造自体が前近代的な印象だったのだが,こうして指摘をいただくとどうも反論できない。

 というわけで,新潮社から函入り著作集全35巻を発行する折には,昨日の書き込みの最後の段落は削除することにしたい……って,こらっ。

(本シリーズ,これでオシマイ)

先頭 表紙

ふみふみ。さま,いらっしゃいませ。難しいのではなくて,烏丸の書き方がヘタなだけなんですよ。 / 烏丸 ( 2001-04-15 03:27 )
すっごい難しい内容かな?ナンテ思いながら、読んでて、最後の一行があって、ホッとしてます〜♪^^ / ふみふみ。@はじめまして〜♪ ( 2001-04-14 08:16 )

2001-04-13 マスコミの誤報について その六 蓼喰うバグも好き好き

 
 以下,朝日新聞のコンピュータ関連報道をざっと駆け足で見ていこう。

 1987年9月,「日本IBM,一般家庭向けパソコンから撤退 日電などに押され」。
 何かといえば,あの,IBM5550の家庭向けとして森進一まで使って発売された,上にバカが付くほど価格が高くて,遅くて,ソフトがなくて,販売チャネルもないためさっぱり売れなくて,倉庫に余りに余って,数度にわたって社員に押し付けたがそれでも処理しきれなかった16ビット機「JX」の撤退記事である。撤退もなにも,コンシューマ市場では参入できてない次元だったと思うが。
 ……過去,ほとんどのパソコン,家電製品の製造終了を記事にしなかった朝日新聞,なにもよりによってそんなものの撤退記事を載せることもあるまいに,やはりIBMの名前に「ゆゆしきことらしい」と反応してしまうのだろうか。しかも記事をよく読むと,「家庭向けの中でも教育用としては,上位機種を中心に販売を続ける意向」,なんだ撤退ですらない。在庫を処理したいので,もう一度だけ記事にしてくれないかと頼まれでもしたのかしらん。
(仕事でしばらく5550を使っていた烏丸,JX発売当時,個人で購入しないかとIBMの営業マンに持ちかけられたが,今思うと断ってまことに惜しいことをした。インターネットを探しても,個人でJXを購入した経験談などほとんどないのである。)

 1996年12月,科学欄のJPEG技術を紹介する記事。
 「JPEGは,画像の細かい部分が少しぐらい変化しても人間の目が気づかないことを利用する。画像に離散コサイン変換(DCT)という細工をし、大きな構造と細かい構造に分解し、画像の全体にあまり関係がない細かい構造は捨てる。」
 ふむふむ,なるほど。問題はその続き。
 「顔の画像なら,顔の輪郭や髪形などの情報は間違いなく残し,細かいニキビや髪の毛一本ずつの情報は,思い切って減らす。」
 思い切っても,離散コサイン変換ではニキビは減らないと思うが。傍には牛の図があって,DCT変換をすると地面の情報,空の情報が「粗い」,牛の情報,雲の情報,牧草の情報が「細かい」。……いや,あの,その。
 画像変換についての知識のない文系の記者が,専門家に説明を仰いだ際に説明のための比喩を真に受けた,といったあたりか。
 ちなみに,なぜすでに技術として(よい意味で)枯れたJPEGを取り上げたかいえば,NTT情報通信研究所の所長安田浩氏がエミー賞の科学技術賞を受賞したため。記事にするのはともかく,1996年にもなって「画像圧縮に熱い視線」の記事タイトルはいかがなものか。

 これは比較的最近の記事。1999年10月の夕刊,社会面トップ。
 「ソフト『一太郎10』成人の日はいつ? 祝日改正知らず」,つまりジャストシステムが祝日の改正を知らないで,2000年の成人の日を15日にしたままだった……そりゃ,障害といえば障害だが,ワープロソフトのカレンダー出力機能なんていったい誰が使うんだか。コンピュータの「2000年問題」関連の話題を探していた記者の目にたまたまとまったのだろうが,オマケソフトに社会面のトップ費やして「ユーザーの1人は『欠陥があるのに,修正はおろか問題点を知らせもしないのは不親切』」ではさすがにジャストシステムがお気の毒。

 そんなことより,2000年問題に怯えて「データが読めなくなるといけないから」と数万枚の紙に預金データをプリントアウトしたどこかの銀行のおまぬーを指摘するほうがまだ有意義だったと思うのだけれど。2000年になってコンピュータが壊れたら,プリントアウトからデータを入力し直すつもりだったんでしょうか。
(つづく)

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