himajin top
烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2001-03-22 カゴメ
2001-03-21 アビシニア
2001-03-20 ラビロウ村の倒錯
2001-03-19 舞 姫
2001-03-18 そしてごらん今は
2001-03-17 抱 擁
2001-03-16 夢裁判
2001-03-15 消えたマンガ家 その四 『ヴィクトローラきこゆ』 三岸せいこ / 集英社ぶ〜けコミックス
2001-03-11 消えたマンガ家 その三 『白いトロイカ』 水野英子 / 白泉社
2001-03-09 消えたマンガ家 そのニ 『陽だまりの風景』 阿保美代 / 講談社コミックスフレンド


2001-03-22 カゴメ

 
  さっきまで坂のくだりで鬼から逃げて笑っていた
  子どもたちが
  今はしゃがんで歌っている
  甘やかな輪 をえがき

  その輪の中で
  妻は一人
  目をおさえて泣き出してしまったのだ
 

先頭 表紙

あと一作だなんて。勿体無い。。 / カエル ( 2001-03-22 16:49 )
カラスマル・世界ツアー,日本に戻りまして,あと1作で通常モードに戻ります。 / 烏丸 ( 2001-03-22 12:50 )
情景を想像しました。何で泣き出したのかもいろいろ考えてみました。 / たらママ ( 2001-03-22 08:30 )
ある、小春日和の夕焼けがきれいな日のことであった。。。(勝手に続き書いている(自爆)) / おりと ( 2001-03-22 01:39 )

2001-03-21 アビシニア

 
  祭りの渦を抜けて
  薔薇色の髪飾りをつけたまま眠りました
  あれはわたしでした 愛しい人よ
  あなたのそばで踊っていた
  あの舞姫はわたしだったのです
 

先頭 表紙

アビシニアと聞いて真っ先に思い出すのが、猫の種類。。ぜんぜん風流でないですね。。 / カエル ( 2001-03-21 22:01 )
美しすぎる。その通りです。 / secret admirer ( 2001-03-21 13:36 )
なんと、、、(感動) / おりと ( 2001-03-21 00:41 )

2001-03-20 ラビロウ村の倒錯

 
  永い 永いいつわりの時が熔けて。
  ラビロウの屋敷にライラックの花が揺れる日。
  エピィ おまえは白い花嫁になる。
  十六年経ったら本当のことを言うから
  本当のことがわかるからエピィ
  でも今はむり とても言えそうもない
  今は金貨を待っていよう
  それから虹屋で一杯ひっかけてこよう
  エピィお幸せに
  どうかエピィお幸せに
  少しおかしいって? いいやなんでもない
  ちょっと酔ってるだけぼくを
  笑わないでぼくに
  驚かないでほんの少し今日は
  酔っているだけなんだから。

  その昔この村には寂しい男がいた。
  それから嘘つきが一人。
  おまえの父親と エピィ
  エピィ エピィ このぼくと。

  酔ってるだけ酔ってるだけ酔 っているだけ
  泣いてなんかいないほら笑ってるだろ
  エピィそんなにのぞきこまないでぼくを
  笑わないでぼくに
  苦しまないでぼくの
  エピィ今日はよいお天気。
  今日は本当によいお天気。
  花盛りのラビロウ村。
  結婚式。
  エピィ。
 

先頭 表紙

美奈子さま,ご存知かと思いますが固有名詞はエリオットの『サイラス・マーナー』から借りております……が,その作中にはこの「ぼく」にあたる男などおりません。だから「倒錯」なのかもしれません。 / 烏丸 ( 2001-03-21 01:03 )
カエルさま,そちらの倒錯といえば,そういえば……(以下355文字自粛)。 / 烏丸 ( 2001-03-21 01:02 )
アナイスさま,なんとなくですが,お目出度いお話にはライラック,悲劇にはリラという言葉が似合うようです。 / 烏丸 ( 2001-03-21 01:02 )
やや。akemiさまは見返りが絵になる大人の魅力,ということでこの烏丸,分類,分析,認識しておりましたが。 / 烏丸 ( 2001-03-21 01:02 )
こっこさま,たまにはダイスを振りなおしてほかの目を出してみたくなる,ということもございますよね。 / 烏丸 ( 2001-03-21 01:01 )
おりとさま,申し訳ありません,ややっこしい内容で。ご覧のとおり,呂律のまわらない酔っ払いがぐだぐだ愚痴上戸やってる,というだけのお話です。あまり深くお考えいただきませんよう……。 / 烏丸 ( 2001-03-21 01:00 )
ごめんなさい、私にはよくわかりません。つっこみでお尋ねしてしまってもいいのかしら。失礼かしら。 / 美奈子 ( 2001-03-20 15:00 )
倒錯という字を見てすっ飛んで来た自分が恥ずかしくなる・・。 / カエル ( 2001-03-20 14:44 )
ライラック 大好き! / アナイス ( 2001-03-20 10:03 )
akemiも大人になりたい…。 / akemi ( 2001-03-20 02:48 )
いつもと違った烏丸の日記にドキドキ / こっこ ( 2001-03-20 02:12 )
この話を理解するのに少し時間かかりました。 / おりと ( 2001-03-20 01:12 )

2001-03-19 舞 姫

 
  ぺるしあの酒は強い
  我々は酔うて沙場に臥していた
  もるぎあなお前は
  何を想うておるのか
  何時まで
  さうして踊つているのか
  皆が眠つてしまつたあとも
  もるぎあなお前は
  一人舞う炎が照らす薄絹の
  紅切れと一振りの短剣指に絡ませ
  鈴の瞳幼さの火照る頬
  あらべすくの刺繍の隠す小さな胸が
  踊る
  踊るもるぎあなお前は
  何を想うておるのか
  何時まで
  さうして踊つているのか
  砂漠の夜は静かなので
  舞姫の想いは熔けることがない
  もるぎあな踊る
  ぺるしあの酒は苦い
 

先頭 表紙

TAKEさま,なんとなく引っ込みがつかなくなって,読了した本ばかりがたまっていきます。どうすればよいのやら。 / 烏丸 ( 2001-03-21 01:00 )
冬華さま,つっこみができたかどうか怪しい場合は,ブラウザの「更新」ボタンをクリックして,そのページを再表示させてみるとよろしいようですよ。 / 烏丸 ( 2001-03-21 01:00 )
ぴりりとした、あの「時間」「瞬間」の感じをコトバに出来る烏丸さま、さすがです。 せひぜひ今後もこうした「創作編」も続けていただけると嬉しいです。 / TAKE ( 2001-03-19 23:52 )
どの作品もほんわかした雰囲気が漂っていて素敵ですね。烏丸さんのお人柄がにじみ出ているようです。他の方の作品を見せていただくのはとっても勉強になります。私も精進せねば。(一度突っ込んだら消えてしまいました(??)2回突っ込んでしまってたらごめんなさい。) / 冬華 ( 2001-03-19 23:23 )
どの作品にもほんわかした雰囲気が漂ってて良いですねぇ〜。烏丸さんのお人柄がにじみ出ているようです。他の方の作品を読ませていただくととっても勉強になります。私も精進せねば。 / 冬華 ( 2001-03-19 23:19 )
みなさま,このようなものに過分なご評価,ありがとうございます。ひとつひとつにちゃんとつっこみ返しすべきところではございますが,カラスがテングになってはシャレになりません。ときどきしかつっこみ返ししなくなっても,それは自戒をこめてのものだということで,ご容赦ください。 / 烏丸 ( 2001-03-19 17:06 )
評論でなく創作。こちらの烏丸様もなかなかでございます。 / たらママ ( 2001-03-19 15:26 )
光景を思い浮かべて、うっとりです。。 / カエル ( 2001-03-19 15:01 )
このシリーズ、和紙に淡彩でふんわりと色をのせてみたい感じです。ああっ、でも私の才能ではだめですわ。 / けろりん ( 2001-03-19 03:29 )
うっとりしてしまいます。。。 / おりと ( 2001-03-19 03:20 )
うっとり。。。こちらバージョンの烏丸さまがいいですわ。。 / しっぽな ( 2001-03-19 02:42 )
うん。わたしも。 / アナイス ( 2001-03-19 02:33 )
ここ数日の展開に、つっこみはいれずとも心待ちで味わっておりますゆえ続編希望です。 / あやや ( 2001-03-19 02:18 )

2001-03-18 そしてごらん今は

 
  そしてごらん今は
  冬
  花も獣も蜜蜂の羽音も
  暗い土の奥底深く眠って
  枯れ草の残り香さえ絶えてしまった
  だけどごらん風が
  優しく
  おまえの肩に触れる
  淡い緑の芽にこがれて
  土を見つめて首をかしげるひとよ
  どうかごらんぼくの
  生命が弧を描いておまえの空を飛んでいる
  夢なのね
  とおまえは風にささやいた(もう一度)
  夢なのよ
  (夢ではない)
  ああそのかぼそい声の陰影に
  ぼくの生命が揺れる
  揺れる
  (夢なはずがない)
  だからごらんやがて
  ひと朝の雪解け水の甘さに
  ぼくは芽生えうたうだろう
  おまえの目のもと
  揺るぎないウクライナの黒土のうえに
  だからごらん今は
  冬
  だけれどもおまえの胸にはほうら
  ふるえるものが宿りはじめる
  ふるえるものが宿りはじめる
 

先頭 表紙

メロディーつけてみたいな。。。 / おりと ( 2001-03-19 03:21 )
春ですから,カエルさま。同じ舞台,同じキャラで夏の終わりを描いてみたら,ニューシネマふうになってしまいました……。 / 烏丸 ( 2001-03-19 00:49 )
はい,しっぽなさま,ロマンチストです。ときどきあとで舌を噛みたくなります。 / 烏丸 ( 2001-03-19 00:46 )
心が温かく、優しくなる感じ。。いいなあ・・・。 / カエル ( 2001-03-18 23:58 )
読み切り一本描けそうです、って感じの一篇ですね。ロマンチストな烏丸様。。。 / しっぽな・32ページ描きたい ( 2001-03-18 12:27 )

2001-03-17 抱 擁

 
  抱きしめるということ。
  ひたすら抱きしめる ということ。
  この両腕をそのしなやかな背にからませ
  二度と放しはしないということ。
  はなればなれな有りようを押し合わせ
  うめくまで強く
  きつく しめあげるということ。
  具体的に 女は かならずセエタアを着ていること。
  顔の
  とくに左半分を相手の胸に押しつけること。
  頬に 熱く激しい鼓動を
  額に 乱れた息のしめりけを
  髪に まさぐる
  冷たくとがった白い指を感じるということ。
  そして何より おのれの腕の中に
  こわれそうな胸をつなぎとめること。
  叫ぶより
  泣くより
  抱きしめるということ。
  ひたすら 抱きしめるということ。
  二人そのまま
  石
  になってしまう
  抱きしめるということ。
 

先頭 表紙

アナイスさま,いらっしゃいませ。烏丸は本当は遠くから見つめるのが一番好きなのですが,たまにこういうのも書いてしまいます。 / 烏丸 ( 2001-03-19 00:44 )
あややさま,サンクス。 / 烏丸 ( 2001-03-19 00:43 )
ぎゅうっと抱きしめられるの好き。素敵。 / アナイス ( 2001-03-18 07:59 )
素敵と言うより、泣ける。うまくいえん・・。(おもうところあり) / あやや ( 2001-03-18 03:02 )
フィー子さま,烏丸はなんだかんだ言って,きっと人間が好きなんですよ。とてもともて好きなんですよ。だから困ってしまうのです。 / 烏丸 ( 2001-03-18 02:07 )
カエルさま,人生には三度,「時間よとまれ」と願う瞬間が訪れるそうです。 / 烏丸 ( 2001-03-18 02:04 )
akemiさま,そのうちakemiさまのに負けないアダルトなうにゃうにゃも……どんなのか,といえば,それはもううにゃうにゃ。 / 烏丸 ( 2001-03-18 02:03 )
しっぽなさまがオリジナル美少女で攻めているのを拝見して,では烏丸もひとつ及ばずながら書評でなく……たまにはこういうのも。 / 烏丸 ( 2001-03-18 02:01 )
おりとさま,ちなみに烏丸は,あまりべたべたしたお付き合いは苦手なのです。ビジネスのお友達どうしが,5年に一度くらいそっと腕を組んで歩く,そういうお話が大好き。 / 烏丸 ( 2001-03-18 02:00 )
ドキドキしました。烏丸様ったら・・・ / ほぅ ( 2001-03-17 14:53 )
せつなくて官能的・・・。私もこんな素敵な詩が書きたい・・。 / カエル ( 2001-03-17 11:10 )
…そうして、涙こぼれそうなせつないくちづけを…。「ほほを寄せ合ったあなたの匂いが、私の一番好きな匂いよ。目を閉じていつまでも踊っていたい愛に酔う心。泣きたくなるほどあなたが好きよ。」 / akemi ( 2001-03-17 07:49 )
素敵、なんてコトバは陳腐な感嘆符より哀れな存在となりそうな。烏丸さま、詩人。 / しっぽ ( 2001-03-17 02:42 )
抱きしめたいんだけど、抱きしめて欲しい。 / おりと ( 2001-03-17 02:40 )

2001-03-16 夢裁判

 
  少女A,ある日少年Bを告訴します。
  無断でわたしのこと,夢に見るなんて酷いわ
  肖像権の侵害よ,基本的人権の冒涜だわ
  と,いうのです。
  少年B,腹を立てます。
  逆に提訴の申し立て。
  ぼくの夢に勝手に出てきたのは君のほうじゃないか
  不法侵入罪の適用がなされるべきだ
  と,いうのです。
  喧々囂々裁判は長引きます。
  少女Aやがてふっくら美しい娘となります
  少年Bいつの間にか,たくましい青年になってしまいました。
  今日は新任の裁判長のやってくる日
  裁判長,長女の三つの誕生日なので早く帰りたい
  そこで早々に決着をつけることにしました。
  コンコン,静粛に!
  判決を下す!
  少女A,少年B,二人の罪はともに重く許しがたい
  よって二人とも無期懲役の刑を課す
  死ぬまで互いの手を放さず
  一生しっかり見つめ合うこと!
  閉廷!
  花吹雪舞い散る中
  第一書記ここに記します。
 

先頭 表紙

おりとさま,いらっしゃいませ。過分なご評価,ありがとうございます。映画といえば……1時間30分までばかばかしくつまらないギャグの連発で,最後の10分でそれが全部説明されて泣きたくなるような,そんな映画ならこしらえてみたいものです。 / 烏丸 ( 2001-03-18 01:58 )
こういう世界観に憧れます。こういう世界を作れるようになりたい。。。(泣) / おりと ( 2001-03-17 13:17 )
すごく、いいお話ですね。映画にできそう。。 / おりと ( 2001-03-17 02:39 )
……で,思ったよりつっこみも多かったことだし,つたない芸ではございますが,ここはもう1つ2つ続けてアップしてみましょうか。 / 烏丸 ( 2001-03-17 02:37 )
しっぽなさま,こちらこそ失礼……。この手のものは,アップしてしまえばどう読まれようともう読み手の方のまないたの上。3枚におろすも千本に刻むも,本来書き手のうんぬんすべきことではございません。 / 烏丸 ( 2001-03-17 02:36 )
よこさま,そういえば烏丸,寺山修司は1冊通してちゃんと読んだことがありません。なぜだろう……? 好みは近そうな気もするのですが。「草迷宮」(って映画ありましたよね。違いましたっけ)も,結局見たい見たいと切望しつつ今日の今日まで失念しておりました。 / 烏丸 ( 2001-03-17 02:33 )
たばかり少年Eさま,なんの記念日だったやら,当人ももう忘れてしまいました。 / 烏丸 ( 2001-03-17 02:30 )
カエルさま,どんな犯罪かといえば……驚喜準備集合罪とか。未必の恋とか。 / 烏丸 ( 2001-03-17 02:28 )
やはり、深読みだったのdすね。。。くすん。ごめんなさいね、烏丸様。 / しっぽ ( 2001-03-17 02:07 )
寺山修司の寓話のようだわ・・うっとり。 / よこ ( 2001-03-16 19:44 )
いったい何の記念日なんだろう。気になるなあ。 / たばかり少年E ( 2001-03-16 14:07 )
よ〜し、私もこの手を使って片思いの少年C君をモノに・・・!(これは一体どんな犯罪になるのでしょう・・?) / 清純とは程遠い少女D ( 2001-03-16 13:45 )
ああ,しっぽなさま,すみません。うちの子は男ばかりですし,そもそも今日が誕生日というわけでもありません。今日は,まぁ,ちょっとした記念日ではあるのですが……。いちおう,昨日のテレビの「今年の桜の開花日は例年より」云々というニュースに反応した,とかいうことにしておいてください。 / 烏丸 ( 2001-03-16 12:07 )
小枝さま,それはびゅーてほー。まことによいお話でございます。烏丸は,家人と知り合ったときにはもうさかさにふっても少年とたばかれる年齢ではなく,ちょっと残念。 / 烏丸 ( 2001-03-16 12:05 )
あややさま,烏丸はいつもミケンにタテジワなことばかり書いておりますが,たまには「それだけでもないんですよ」と。 / 烏丸 ( 2001-03-16 12:02 )
お嬢様のお誕生日。。おめでとうございます!すこやかに、またうつくしく育たれますように! / 明日は母の誕生日 ( 2001-03-16 11:28 )
私は少女の頃、ある少年に「夢に見た」と言われて出演料を請求してしまった。それから数年後お給料という出演料を延々ともらっているけれど(笑) / 小枝 ( 2001-03-16 09:34 )
こ・・・これは!!なんとも読後のすがすがしい一遍ですねぇ。あややん感激・・。オリジナルですか? / あやや ( 2001-03-16 02:00 )

2001-03-15 消えたマンガ家 その四 『ヴィクトローラきこゆ』 三岸せいこ / 集英社ぶ〜けコミックス


【失意や絶望 愛 もしくは罪によって……】

 笈川かおる,耕野裕子,内田善美,上座理保,水樹和佳,吉野朔実。少し遅れて清原なつの,逢坂みえこ。

 ぶ〜けが大好きだった。少女マンガとしては「抑えが効いてる」印象が強く,当時のあわただしく先の読めない日々に,とても好もしく思われたものだ。

 三岸せいこはりぼんデラックスでデビュー,のちにぶ〜けに移り,短編集『ヴィクトローラきこゆ』『夢みる星にふる雨は…』,そしてそれらに収まらなかった短編『ドーンを待ちながら』だけを残して消えてしまったマンガ家である。

 先に『白いトロイカ』を紹介したテキストの中で,1960年代のマンガは著作権に呑気だった,というようなことを書いた。これは必ずしも,1970年代以降のマンガがコピーライトに厳格だった,という意味ではない。
 古都シランで行われる西側の経済会議に向かったレーゼンビージュニアは,森の中をたまのりして歩く娘に気を取られて事故を起こしてしまう。目覚めたとき,古都シランは,古風なドレスを着てゆっくりと道をゆきかう奇妙な人々にあふれていた……。三岸せいこの代表作の1つ,『ヴィクトローラきこゆ』も,設定のオリジナリティという意味ではかなり怪しい。パクりもとは,1960年代の映画『まぼろしの市街戦』,戦場の爆弾の仕掛けられた村に精神病院の患者だけが残され,奇妙な世界が展開する……設定だけ見るとまったく同じである。「ある映画のワン・シーンを再現したくて」と当人が書いているくらいで,イメージのコアを得た,本歌取り,というには無理があるだろう。
 しかも,パクっているのは映画だけではない。過去の記憶がさざなみのようによみがえるシーンは大島弓子,奇妙な人々の繰り広げるドタバタは萩尾望都,登場人物が愛に気づいたシーンの点描は名香智子……。要するに1970年代に少女マンガの可能性を押し開いた24年組のいいとこ取りである。

 だが,亜流だから安心できる,亜流だからなごむ,そういうことだってある。三岸せいこの作品が,ある種のいたみに対して治療効果がある,それはまぎれもない事実である。

 霧雨のように降りしきる過去の中にまどろむ主人公。過去が現在に復讐し,未来が過去を祝福する。大半の作品が,最後には過去の切なく暗い夢を振り払い,主人公がリアルな世界に歩み出すことで幕を閉じる。繰り返し,繰り返し,提供される主旋律。
 つまりこれは,少女マンガが,白馬の王子を待つおとぎ噺からリアルな恋と性と生活のレポートに変わる端境期の苦心の作であり,その意味でこの作者は消えるべくして消えたのかもしれない。

 …………あーっ,ダメだダメだ。3日間,何度か書き直してみたけれど,どうしてもうまくまとまらない。
 あと,書き残したこととして,あれですね,大島弓子の(とくにバナナブレッドより前の)ファンの方は,ぜひ三岸せいこの作品集を手に入れてご覧ください。パクられた大島弓子の技法について,逆にさまざまな発見を得られるかもしれません。
 というわけで,2〜3割の出来だけど,もういい。アップしちゃおう。

先頭 表紙

あう。レビューのお約束なんてしましたっけ……(クリック,クリック……しまった,している)。み,美奈子さま,同じ作者の『ワン・ゼロ』も,SFとコンピュータサイエンスと伝奇が融合した,それはそれは素晴らしい作品なのであります。いやまったく。ははは。 / 烏丸 ( 2001-03-16 00:31 )
『夢見る…』といえば!そうそう『夢みる惑星』! 無事当地に届きまして、読了いたしましたよ〜!……すばらしい〜!(激しくペシペシペシッ!)細い線の美しい絵、思索的な言葉、そして最後の方で明らかになる遠大な舞台設定……。烏丸様はどんなレビューを展開されるのか?ゴンドワナより楽しみにお待ちしております!(←プレッシャー?お許しを。) / 美奈子 ( 2001-03-15 22:00 )
美奈子さま,この三岸せいこは,ハードではありませんが,SF的設定の好きな作家でもあるんですね。『夢みる星にふる雨は…』というのも,よその星の話ではあります(ウラシマ効果については無茶苦茶ですが)。ちなみに,この「消えたマンガ家……」は,今のところ,全集,豪華本などのない,入手の難しい作品ばかりです。すみません。 / 烏丸 ( 2001-03-15 13:09 )
こちらもおもしろそう。お名前が三岸節子氏と似ていらっしゃいますね。このシリーズでご紹介いただいている作品は、古本屋で探すしかないのでしょうか。 / 美奈子 ( 2001-03-15 06:48 )

2001-03-11 消えたマンガ家 その三 『白いトロイカ』 水野英子 / 白泉社


【Golden Years】

 振り向くと,そこに微笑むのは追っ手に撃たれ死んだとばかり思っていた愛しい青年。乙女は「おお」と瞳をうるませてその胸に飛び込む……。

 第二次大戦終結後,アメリカの属国として,その風俗習慣からファッション,音楽まで,追いに追ったこの極東の植民地だが,どうしても取り込むことのできなかったものの1つがそういったボディランゲージだ。
 そんなバタくさいシーンを最も自然に,最も流麗に描いたマンガ家,それが水野英子(みずのひでこ)である。

 『白いトロイカ』は,少女マンガ勃興期に活躍した水野英子の代表作の1つ。なにしろ週刊マーガレットが創刊されたのがケネディ暗殺と同じ1963年,その翌年,東海道新幹線開通,東京オリンピック開催の直後に連載が開始された作品である。

 19世紀初頭のロシア,農奴の夫婦に育てられたロザリンダは,かつて皇帝に刃向かって殺された貴族と歌姫の間に生まれた娘だった。彼女はコザックの若者と知り合い,たまたま地主のもとを訪れていた音楽教師に母親譲りの歌の才能を認められ,コザックやジプシーたちに助けられて首都・ペテルブルグに向かう。そこで知り合った青年貴族は皇帝の圧政に反乱を起こそうと……。
 というわけで,久しぶりに読み返してみたが,30年以上昔の作品とは思えないほどテンポがよく,とても単行本2冊分に収まっている話とは思えない。波乱万丈,絢爛豪華,疾風怒濤,さりとて複雑に過ぎるわけでもなく,登場人物の描き分けも清濁,ギャグを交えて豊饒だ。
 要するに,質の高い映画に近いのである。

 週刊誌の登場とともに伸び盛りだった1960年代のマンガは,著作権についての意識がノンシャランだった時代背景,編集方針もあって,スポンジが水を吸収するように貪欲にあらゆる既存のメディアのよい面を取り込んでいった。水野英子にしても『すてきなコーラ』で映画『麗しのサブリナ』をまるまるパクるなど,現在から見れば問題だろうが,ストーリー,描写ともに大胆に映画の魅力を取り入れている。本作も,もととなった映画はあったかもしれない。しかし,水野英子以外のいったい誰が映画をここまでマンガに昇華できるというのか。その描線のしなやかな美しさ,キャラクターの魅力は,今なお鮮烈で,読み返すたびに衝撃を受ける。

 水野英子は女性ながら(短期間ではあるが)石森章太郎,赤塚不二夫らとともにトキワ荘に暮らしたことでも知られている。ただ,1969年にロックと狂気を描いた『ファイヤー!』で創作の1つの頂点を極め,その後はほとんど作品を発表していない。
 主人公の「歌」の魅力を追い求める旅路がそのまま「自由」への希求であること,そんな主人公を権力システムから外れた人々(コザック,ジプシー,ヒッピー等)が助けることなど,『ファイヤー!』と『白いトロイカ』には共通点が少なくない。この「歌」を「マンガ」に置き換えて作者の思いを読むのは簡単だ。だが,ロザリンダは歌劇場の歌姫より自然の中での生活を選び,アロンは他人は魅了するものの,ついに自分の歌を見つけ出すことができない。

 現在,水野英子がどうしているのかは知らないし,新しい作品を描こうとしているのかいないのか,描くべきか否かもわからない。
 しかし,ときどき復刻される『ファイヤー!』を除く彼女の作品の大半が絶版で手に入らないというのは問題だ。惜しい,のではなく,問題,なのである。

先頭 表紙

たらママさま,週マ週フレに創刊当時からなじんだせいか,烏丸は少女マンガのお星さまキラキラお目々がぜんぜん気にならないほう。水野英子は,初期の瞳が十字にきらめいている目など見るとさすがに時代を感じないではありませんが,逆に,シリアスな作品ではかなり早い時期から「お星さまキラキラ」から脱却した作家でもあったようにも記憶しています。 / 烏丸 ( 2001-03-14 16:01 )
私が週マにはまっていたのは70年代後半ですが、一度短編で水野英子さんの作品を読みました。「赤毛の・・・」だったのか、王女様ものだったのか、思い出せません。人物の顔の絵があまりにも古臭くて、ものすごく強烈でした。これがお星様きらきらお目目の少女漫画原点の絵なんだ、と1人で思っていました。 / たらママ ( 2001-03-13 14:15 )
ヘロヘロ共和国さま,内田善美については,大泉実成の『消えたマンガ家』でも,「この人を取り上げたくてこのシリーズを始めたのだ!」と力が入りながら,結局,内容はともなわず(住まいまではつきとめたようですが),著者(大泉)のファンレターで終わっていました。なぜ消えたのか,今後描く可能性があるのか否かなどぜんぜんわかりません。せめて旧作品だけでも再発行してほしいものですが。 / 秋のおわりのカラスマル ( 2001-03-13 14:03 )
しっぽなさま,水野英子の画風は部品的には古いタッチで,一歩間違えれば「ぬり絵」なんですが,なんかこう,「ああ,ペンが動いている」という感じがします。「ぬり絵」といえば高橋真琴の作品は手元に1つもなく,もう何十年も目にしていないのですが,比べるとどうなのかと思います。ちなみに少女マンガの「唇」の系譜については,橋本治の『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』の大矢ちきについての評論が実に面白いのですが,ご存知でしょうか。 / 烏丸 ( 2001-03-13 14:00 )
消えた漫画家といえば内田善美さんどうしてらっしゃるんでしょう?『星の時計のリデル』は今でも私の宝物ですがあれ以降の作品はあるのでしょうか? / ヘロヘロ共和国 ( 2001-03-12 08:53 )
彼女の描く人物の“唇”がすきだったーーーー / しっぽな ( 2001-03-11 08:27 )
小枝さま,やはり復刻が難しいのはそのあたりなのでしょうね。ただ,映画の場合,フリーになる著作権者が死んで50年,という扱いがどうなのか,よくわかりません。関係者が全員死んでなおかつ55年(日本は敗戦国なので5年プラス)生き延びる自信はないので,しょうがない,持ってないものは古本屋で大枚はたきますか……。 / 烏丸 ( 2001-03-11 02:07 )
うーん。何年か前家庭教育学級でお会いしたんですよ。水野さん、なんか原作のあるものは、復刻できないとおっしゃってましたけれど、でも創作はなさっていたように思いますが........ / 小枝 ( 2001-03-11 01:56 )
マーガレットコミックス版でなく,白泉社の花とゆめコミックス版なのが痛恨。ちなみに,烏丸がここしばらく一番再読したい水野作品は,西部のおてんば娘の恋を描いた『赤毛のスカーレット』。 / 烏丸 ( 2001-03-11 01:46 )

2001-03-09 消えたマンガ家 そのニ 『陽だまりの風景』 阿保美代 / 講談社コミックスフレンド


【あれは 天使が まいごの 子ねこを さがしている ロウソクの灯】

 マーガレットで桂むつみが連載を続けていたのとほぼ同じ時代,ライバル誌の少女フレンドでファンタジックメルヘンのページを担当していたのがこの阿保美代。
 1980年ごろ,週刊少女フレンド,別冊少女フレンドに,4ページから,せいぜい10ページ程度の,少し物悲しいイラストストーリーが載っていたことをご記憶の方も多いのではないかと思う。

 阿保美代は「あぼみよ」と読む。昭和30年3月3日生まれ,魚座・B型。身長154cm,体重52kg。青森市出身,日大芸術学部映画学科卒業。……これは作品集『ルフラン』(東京三世社)に手書き文字で書いていたプロフィールだが,少女マンガ家でこれほど詳細に答えている例はあまり記憶にない(だからなに,ということはないけれど)。

 彼女の作品の登場人物は,母親を失った子供だったり,恋人と別れた青年だったり,一人静かに列車を待つ駅長だったり……。
 子ねこを見失った少年が(実は子ねこは事故に遭って死んでしまっているのだ),星でいっぱいの夜空に天使が子ねこを連れていくさまを夢見る,とか,まあそういったお話。
 大半は少女誌向け砂糖菓子,としか言いようのない甘やかなメルヘンだが,ときにサイダー程度には酸味の効いたショートショートになっていることもある。
 あくまで「マンガ」としてのコマ割り,セリフ,ストーリー展開に力点を置いた桂むつみに比べ,夜空,雨,雪を描いた大ゴマに代表される阿保の絵柄は装飾的で,イラストレーション的味わいが濃い。もっとも,その1コマを切り抜いて額縁に入れるのは無理があって,そのあたりがマンガの不思議なところだ。

 代表作の1つとおぼしき「緑のことば」(『くずの葉だより』収録)では,公園で雨に遭った青年が,雨やどりしながらオーボエを演奏する。通りがかった乙女が,大きな木にもたれて雨の音,枝々のざわめき,オーボエの音色に耳を澄ます。演奏を終えた青年が声をかけようとすると乙女は走り去っていってしまう。彼女は耳が不自由だったのだ。

 と,言葉で説明しても,吹き出しも擬音もないたった6ページのこの作品(ハッピーエンドである,念のため)について何一つ伝えられないような気がする。

 不思議なのは,作品にもよっては,描画のタッチが『ガラス玉』の岡田史子に似ていることだ。ベタで塗りつぶされた青年の目,うねうねと情感をみなぎらせる少女の髪,風景でなく心象を語る樹木,などなど。
 似ているからといってどうということもないのだが,なんとなく岡田作品,阿保作品に「象徴主義」というレッテルを割り振ってみたくなるわけだ,これが。もちろん,2人の作風はボードレールとベルレーヌくらい違うわけなんだけれども。

 ちなみに阿保美代はこの10年ほど見かけなかったのだが,最近,講談社ソフィア・ブックスから『マンガ二人でつくる基本料理がいきなりおいしくできる本』を重金碩之の原作付きで発表している。消えてしまったわけではなかったようだ。

先頭 表紙

しっぽなさま,阿保美代は(今はなき)mimiにも書いていたもようです。「消えたマンガ家」とは失礼でした。 / 烏丸 ( 2001-03-09 20:56 )
マコさまいらっしゃいませ。岡田史子,ご存知ですか。烏丸の中ではファンとかいうよりもう別格,の作家の1人です。 / 烏丸 ( 2001-03-09 20:55 )
最近女性誌に掲載されてました。。。何かは忘れてしまったけれど・・・ / しっぽ ( 2001-03-09 13:21 )
なつかしいですね〜〜〜うれしい〜〜阿保さん岡田さん〜〜 / マコ ( 2001-03-09 12:22 )
資料等と申しましても,okkaさま,単行本持っているだけです。 / 乙女ちっく? 烏丸 ( 2001-03-09 11:58 )
思い出しもしないけれど言われると、よく読んでいたそんな漫画家が、まだまだいそうですねぇ。しかし、よく資料等ありましたねぇ。 / okka ( 2001-03-09 07:34 )

[次の10件を表示] (総目次)