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烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2000-10-27 [雑談] つっこみアフターフォロー(含,ちょっと怖い話)
2000-10-26 本の中の強い女,弱い女 その二 『一絃の琴』宮尾登美子 / 講談社
2000-10-26 新シリーズ 本の中の強い女,弱い女 その一 『たったひとつの冴えたやりかた』 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア / ハヤカワ文庫
2000-10-25 今日はビゼーの誕生日 『風車小屋だより』 ドーデ,大久保和郎 訳 / 旺文社文庫
2000-10-24 科学と文学について考える 素材その十(最終回) 『すべてがFになる』 森 博嗣 / 講談社
2000-10-24 科学と文学について考える 素材その九 『地球環』 堀 晃 / 角川春樹事務所(ハルキ文庫)
2000-10-24 科学と文学について考える 素材その八 『竜の卵』 ロバート・L.フォワード,山高 昭 訳 / 早川書房(ハヤカワ文庫)
2000-10-23 科学と文学について考える 素材その七 『空想科学読本 第二版』 柳田理科雄 / メディアファクトリー
2000-10-22 科学と文学について考える 素材その六 『生物学個人授業』 岡田節人,南伸坊 / 新潮文庫
2000-10-21 科学と文学について考える 素材その五 『アワビがねじれてサザエになった やっぱりふしぎな生物学』 奥井一満 / 光文社知恵の森文庫


2000-10-27 [雑談] つっこみアフターフォロー(含,ちょっと怖い話)

 ここしばらくの「くるくる」内のつっこみのアフターフォローです。

 まず,偕成社の「伝記世界の作曲家」シリーズ。
 昨日,帰りにちょっと大きめの書店に寄ることができたので見てきました。本文の文字も大きくて,そうですね,本の造りとしては小学校高学年向きといった感じなんですが……ちゃんとエルトン・ジョンの伝記には同性愛やドラッグについて普通の音楽雑誌の記事程度にはちゃんと書いてありました。立ち読みで数冊ざざざっと眺めただけですので,チャイコフスキーの場合,同性愛志向(嗜好か?)について書かれているかどうかは確認できませんでしたが,心の通わぬかなりとんでもない結婚だったことは十分うかがわせるなまぐさい内容になっていました。
 写真などもそれなりに豊富で,好きなミュージシャンの資料として持っていて悪い本ではないとは思うのですが,なぜにそれをわざわざ子供向け,それも明かに小学生向けとして販売しているのか,偕成社の本意は謎です。
 もっとも,たとえば烏丸がアウシュビッツの強制収容所について知ったのは小学校のときで,それは子供向けの本ながら山のような髪の毛や裸で追いやられる女性の写真,石鹸の話などが載っていました。「小学生だから無難にこのくらい」と考えることのほうが「子供だまし」なのかもしれません。

 続いて,岐阜県富加町,町営住宅の怪現象の件,もうあちこちのテレビ番組などでも取り上げられ,新鮮味はなくなってしまいましたが,その後もれ聞いた話では,入居時に4階建ての1階にお年寄りが振り分けられ,それで住民と町役場の間でいざこざがあった,という話です。それでなんとなくこの町営住宅に不満を抱えていた上のほうの階の住民が,建材の伸縮による音(昼と夜の温度差や乾燥の具合で家屋が鳴るのはごく普通のこと)に過剰反応し,ストレスから「何かいる!?」という気持ちが高まった,ということかな,と思われます。……もし霊の仕業でないなら。

 その話題の際にちょっと触れた,妹が嫁いだ家の近所の話。用事で電話をかけたので,ついでにもう少し詳しく聞いてみました。
 その場所というのは,小高い丘の緑の中に,ぽつんぽつんと一戸建ての家が建っているという具合なんですが,そこが「出る」と言われるのも当然,その丘は古いお墓だったのだそうです。それをバブルの盛りのころに,不動産業者が十分な御祓いもしないまま,がががっと荒っぽく造成してしまったというのですね(映画「ポルターガイスト」のまんま!)。しかも,生木が生えているのをきちんと掘り起こしたりしなかったため,建てつけも非常に悪い。おまけに,そういう安造りのわりに,なにしろバブルの盛りなので,非常に高い価格帯で売られ,無理をして買った若い夫婦など,文字通り夜逃げした家が何軒もあり,夜ともなると陰陰滅滅として,余計にいけない。今でもいくつかの家で「出る」そうです。
 妹夫婦はその土地も購入の候補にしていたそうで,今はほっと胸をなでおろしているとのことでした。
 実は,その近辺のほかの,いわゆる「心霊スポット」についても聞いたのですが,それはまたいずれ。

先頭 表紙

しかも階級書き間違えるしー。とほほ。 / 烏丸 ( 2000-10-28 01:55 )
烏丸Zは真面目で心優しいのですな。烏丸Gは… / こすも・F・ぽたりん ( 2000-10-27 19:26 )
おまけに多重人格で,烏丸Aが書いた怖い話を読んで,烏丸Bは怖くてトイレにも行けないのであります。 / 一緒についていく 烏丸C ( 2000-10-27 17:50 )
ところで烏丸様はもしやサディズムでマゾヒズムで露出狂とか・・・? / エル ( 2000-10-27 16:43 )
おおお、烏丸様、詳しい解説ありがとうございます!!これなら新たに日記をかかれた方が良かったのでは。。突っ込みにしておくのは勿体無い。しかし芸術家っていうのは永遠の少年少女で精細かつ無頓着じゃなきゃやっていけない職業でありますね。。確かに一般人でカミングアウトする人まれですね。一見,同性愛先進国のように見える米国も、ちょっと田舎街いけば同性愛者は人間扱いされなかったりしますし。それが、こそに「芸術」の文字が引っ付くと途端に才能へ早変わり。 / エル ( 2000-10-27 16:43 )
と,あだこだ書きましたが,烏丸,同性愛のシュミはまったくないので実はよくわかっておりません(性倒錯のほうは……このうちいくつかは,今どき倒錯ですらないやん)。きっと芸術家ではないんでしょう。 / 本フェチ? 烏丸 ( 2000-10-27 16:05 )
また,芸術家は少年少女のまま常人よりゆっくりと年をとる,という考えがありますから,60歳でやっとフロイトの言う口唇期を抜けて肛○期,ということもあるでしょう(じゃあ,男○期になったらどうなっちゃうの? とも思いますが,その前に寿命で死んでしまうのでしょう)。 / 本文より疲れた…… 烏丸 ( 2000-10-27 16:01 )
そもそも芸術家が作品のインスピレーションを得ようとする行為はある面非常に受動的で,性的には男性原理より女性的姿勢(今どきは逆かも(笑))になりやすいかもしれません。また,芸術的行為は既成概念に対するアンチテーゼをつむぐ行為でもあるわけで,その意味でサディズム・マゾヒズム・露出狂・窃視・肛○性交・フェティシズムなどの性倒錯に走ることは理にかないます。 / 烏丸 ( 2000-10-27 16:00 )
いくつか理由が考えられますが,音楽家に限らず芸術家は全般に私生活に無頓着で,また周囲もその私生活を知ろうとする結果,性癖などがオープンに話題になりやすい。しかもオープンになっても,普通のサラリーマンやアイドルタレントと違って,デメリットとなりにくい(隠す必要があまりない)。……つまり,実はそこらの普通の人にも同性愛者は多いのに,把握できてないだけかもしれません。 / 烏丸 ( 2000-10-27 15:58 )
音楽家の人達は同性愛嗜好(なんとも曖昧な書き方・・)の方が多いみたいですね。私も昔読んだ本に「○○○は同性愛者というより、肛○性交嗜好者だった」と書かれていてぶっ飛んだおぼえがあります。クラシックでは作曲家だけじゃなく指揮者も多いですね。 / エル ( 2000-10-27 14:17 )
「スティング」は昨日の本屋にはありませんでしたが,このシリーズ,子供向けかどうかに関係なく1人のミュージシャンを体系づけて紹介する本として読むとそれなりに面白そうです。「メル・コリンズ」とか「アラン・ホールズワース」とか,全貌のよくわからん人でこういうのがあればよいのですが……。 / 烏丸 ( 2000-10-27 11:54 )
偕成社の伝記、近所の図書館に全巻揃っていたので、とりあえず「スティング」を借りました。彼がセックス・ピストルズにも影響も受けたこと、脚注にもパンクについて説明がありました。おもしろいので別の巻も借りてみようかと。 / けろりん ( 2000-10-27 02:27 )

2000-10-26 本の中の強い女,弱い女 その二 『一絃の琴』宮尾登美子 / 講談社


【無明の夢やさめぬらむ】

 『一絃の琴』は,高知出身の作家宮尾登美子が,地元に伝わる一絃琴を題材に幕末から昭和にかけて女二代の人生を克明に描き上げた小説。上梓まで17年,書き直すこと5回と言うだけあって,全編,か細くも凛とした絃の音漲る稀有な作品。作者は本作で直木賞受賞。

 一絃琴は須磨琴とも呼ばれ,在原行平(業平の兄)が須磨の浦に流された折,浜に流れ着いた舟板に冠の緒を張って葦の端を指に巻いてかき鳴らしたのが端緒とされる。ただし須磨琴は合奏が主で,土佐に伝わる一絃琴とは奏法が異なる。
 その後,一絃琴は京都をはじめ各地で盛んに演奏されるが,やがて衰退し,明治になって伊予上野村の千足神社の祠官の子に生まれ,正親町中納言家の一絃琴取締役を務めた真鍋豊平が一念発起し寂びれた一絃琴再興のため全国を行脚。郷士門田宇平が京から戻って土佐に伝えた。

 『一絃の琴』の主人公は,この豊平門下の門田宇平に学んだ沢村苗。士族の娘に生まれた苗は,年に一度沢村家を訪ねる旅絵師に琴を与えられ,のちに門田宇平に習い,さらに宇平門下の松島勇伯を師と仰ぐ。身勝手の許されない時代と女という性の故,二十有余年琴から離れるも,のちに土佐の名士市橋公一郎の後妻として市橋塾を開き,最盛期四百人とも言われる子女を集めて一絃琴を教え広める。しかし,公一郎の死とともに市橋塾は閉ざされ,苗は養女稲子の育成に没頭する。
 後半は,有り余る美貌と才能,家柄を誇り,市橋塾を継ぐ者と目された岳田蘭子が,その驕慢さゆえ苗に否定され,長い年月の果てに高知へ戻り,一絃琴を再興して人間国宝に指定され,死ぬまでを描く。

 宮尾登美子は実在した一絃琴の担い手として苗と蘭子の二人をねばり強く描き上げる。どこまでも堪える苗(吽)と華やぐ蘭子(阿),この二人の対照的な性格,一絃琴への姿勢,強さ。幕末,明治という時代の中で圧殺され圧殺されてもなお息吹く苗の個,それに対し,あらゆるものを手にしながらただ一度の敗北に狂おしく身悶えする蘭子。作者の筆は底意地が悪いほどに二人の人生を踏み躙り,斬り刻み,ただ一絃の響きのみが蕭然と漂う。
 行平,豊平,宇平,有伯,旅の絵師らに綿々と伝わる琴の音の寂寥感。それを代表するものとして,架空の登場人物,仲崎雅美と共に時の向こうに消えてしまった有伯直伝の「漁火」が心を打つ……。もっとも「漁火」は存外に華やかな曲だというが。

 『一絃の琴』は最近NHKで苗(田中美里),蘭子(吹石一恵)ほかでドラマ化された。ドラマでは,有伯の死やその娘の扱い,苗の婚家など,あれこれ原作と異なるところも少なくない。
 また,一絃琴はこの烏丸とも因縁浅からず,この正月に亡くなった家人の父親は真鍋豊平の生家と同じ伊予上野にあって一絃琴の制作で知られ,家人もまた母親より一絃琴を学んでときに廬管を両の指に嵌めて弦をかき鳴らす。琴は『一絃の琴』冒頭で旅の絵師亀岡がこしらえた通り素朴な木の造り,今週末には真鍋豊平没後100年を記念する演奏会が催される。

 伊予上野に往く風眇々,返す風蕭々。

先頭 表紙

わーははは,烏丸の書くものをマに受けてはいけません。演出,演出。で,本物の家人のキャラといえば……〓仝★!(#◇▲%&……回線ガ切断サレマシタ……ツーツーツー……。 / 烏丸 ( 2000-10-27 11:57 )
……かくも典雅な麗人とご一緒でいらっしゃるとは。返す返すも、過日の暴言、平にご容赦下さいまし。 / 恥じ入るばかりの蛮人 ( 2000-10-27 06:26 )
エルさま,ストーリーはかなり変わっていました。苗の師匠の有伯は女がらみで殺傷沙汰,しかも苗の弟子の仲崎雅美は有伯の娘という扱い。さらに後半,蘭子は「塾の後継ぎにしてもらえない」役だけという扱いで,物語は苗が塾をやめ,一人で思うさま琴を弾く,というところで終わってしまうのです。でも,テレビドラマ化するとしたら,妥当なセンだったでしょうか。 / 烏丸 ( 2000-10-26 21:00 )
田中美里で今思い出しました、NHKのドラマ。確か、たまたま途中一回だけ見て「なんやこれ!」と言ってその後見てなかったのでした。うーん全部見とけば良かったです。原作との違いを突っ込むチャンスを逃してしまいました。 / エル ( 2000-10-26 19:09 )
この本読んだ後でNHKのドラマ見ると,いかに時代劇にウソが多いか考えさせられてしまいました。少なくとも,嫁に出たものが連れもなしにすたすた実家に帰ったり,使用人が座敷で主人に反論するなんて,あるはずない。逆にいえばそういう時代に嫁いだ身でなんらかの実績をのちの世に残した,というのは相当凄いことに違いありません。 / 烏丸 ( 2000-10-26 15:55 )
動乱の幕末から昭和を生き抜いた女性の人生を軌跡を見ると、ぐうたらな身が引き締まる思いです。もう一度この本読み返してみたいです。 / エル ( 2000-10-26 13:31 )

2000-10-26 新シリーズ 本の中の強い女,弱い女 その一 『たったひとつの冴えたやりかた』 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア / ハヤカワ文庫


【太陽のまっただなかに】

 企画段階できちんとベスト10を決めておられるケロロ軍曹と違って,ディスプレイに向かって書き始めた今にいたってもメモ1枚用意していないこの烏丸。しかも新シリーズのテーマたるや本の中の女たち!! そんな人生の大テーマなのに,手ぶらで大丈夫か!?
 答え:確率的に登場人物の半分は女性なんだから,なんとかなるでしょ。

 では,はじまりはじまり……。


 銀色の髪,フランス人形のように愛らしい姿で小象に乗る,写真の少女の名はアリス。
 幼ないころ,高名な探検家の父と同じく著名な作家である母に連れられ,世界中を旅行する。飛行機や銃に荒らされる前のアフリカで野生のマウンテン・ゴリラを実際に見た最初の白人女性となり,カルカッタでは飢えた人々の間を歩き,まだ平和だったベトナムの森で子馬に乗って駆け回る。知的でエレガントで底なしにタフな母親から自立する闘いに疲れて12歳で自殺を試み,10代の末には自分を社交界にデビューさせるために企てられたニューヨークでのパーティと英国国王謁見の予定を含む世界一周旅行を台無しにするためだけに3日前に出会った男の子と駆け落ちして結婚,すぐに離婚。
 20代前半,グラフィック・アーティストとして雑誌に寄稿する一方,アナーキストと称して左翼運動に没頭。ヨーロッパで戦線が拡大した1942年には米陸軍に入隊,女性として初めて空軍情報学校を卒業,写真解析士官としてペンタゴンで働く。1945年,ドイツにわたり,のちにアポロ計画にかかわる有能な科学者たちを合衆国に連れ帰るプロジェクトに参加。そのプロジェクトの立案者で指揮官だったハンティントン・D・シェルドン大佐と結婚。CIAの発足とともに夫婦で冷戦時代のスパイ活動に深く巻き込まれる。
 いったん辞職願いを書いて夫のもとから姿をくらますが,40代後半になって基礎科学を学びたいと大学に入り直し,実験心理学に挑戦。大学を最優秀の成績で卒業,博士号を取得,心理学の講師となる。健康上の理由で講師を辞してのち,1968年,男名で作家デビュー。実験的,野心的,サイケデリックかつ骨太い作風の短編,長編で主な賞をたて続けに受賞。
 1977年,実は女であったことが暴露され,同時にそれまでの人生を明らかにして世界中のファンを驚愕させる。
 1987年,弁護士に後事を託す電話をかけ,病気で寝たきりとなった夫を射殺,同じベッドの上で自らの頭を打ちぬく。

 ……以上は,連作短編集『たったひとつの冴えたやりかた』収録作品のあらすじではなく,その作者,J・ティプトリー・ジュニア(アリス・シェルドン夫人)その人の生涯の概略である。

 『たったひとつの冴えたやりかた』は,作者の最後の作品集で,従来の実験的な作風とは異なり,穏やかでノスタルジーあふれる連作スペース・オペラとなっている。
 大宇宙にあこがれる少女コーティー・キャスが,16歳の誕生祝いに両親から贈られたスペース・クーペをこっそり遠距離用に改造して,遠い星々をめざす冒険の旅に出る。そして彼女は偶然,希望通り未知の生物と接近遭遇する。しかし……。

 失明し,アルツハイマーに苦しむ老いた夫と,心臓疾患の悪化した自分。かねてから夫婦の間に自殺の取り決めがあったとされる彼女が,本作の明るい少女と暗い結末にこめたものは何だったのだろう。

先頭 表紙

石川喬司というのは,星,小松らが出てきたころから,作家としてよりはSFや海外ミステリの評論,普及に努めた人で,『SFの時代』という評論集が最近文庫になったようですが,それ以外の著書(小説)は入手がかなり難しいだろうと思います。それにしても美奈子さま,こゆいSFをたくさんお読みですね。烏丸が一番熱心にSFを読んだのはかなり昔のことだったので,ゼラズニィやティプトリーは「最近の作家」なんです……。 / 烏丸 ( 2000-10-27 12:03 )
石川喬司という方は寡聞にて存じ上げませんでした。手に入ったらぜひ読んでみます。(後日、関係ない書評の時などにつっこんでしまってもよろしいでしょうか?) / ( 2000-10-27 06:14 )
ちなみにSFを読み始めるきっかけになったのは、今は亡きロジャー・ゼラズニィの真世界シリーズ(サイン&メッセージ入り本持ってます。イェーイ!)。 / 唯一自慢できる蔵書です。 ( 2000-10-27 06:11 )
有名どころではやはりフィリップ・ディック(彼がペーパーバックライターの地位にずっと甘んじなければならなかったのは信じ難いが、それゆえのあの作品群か)。ややマイナーではフレッド・ホイル(天文学者としては有名でしょうか?)。個人的にはスティーブ・エリクソンも立派なSF者だと思いますが(それを言うならまずピンチョンでしょ!とつっこまれそうですね。でも彼は難しすぎ〜!(泣))。 / 手元になくてかなり忘れてますが(汗) ( 2000-10-27 06:09 )
ちなみに,単なる本の虫だった烏丸の人生(目標職業?)を決定的にしたのは,SF作家・競馬評論家,石川喬司の『魔法使いの夏』という短編集でした。 / 烏丸 ( 2000-10-27 02:23 )
うーむ,美奈子さま,お詳しい。イチオシの作家は,レムやホーガン以外ではおりますか? / 烏丸 ( 2000-10-27 02:21 )
彼女がカミングアウトした時は衝撃が走りましたな。それにしても、こういう最期だったとは。こうしてみると『愛はさだめ、さだめは死』のタイトルも実に含蓄深いものがあります。合掌。 / ( 2000-10-26 21:09 )
無茶苦茶な人生を送る無頼派おっさん作家が渋いハードボイルド小説を書くようなもんなのでしょうか・・?私にも理解出来ませんわ。。 / エル ( 2000-10-26 19:01 )
エルさま,こんな山あり山ありの人生送っておいて,その上空想小説書こうという発想,烏丸にはよくわかりません。SFのご先祖さま,ジュール・ヴェルヌ(『海底2万マイル』『八十日間世界一周』『月世界旅行』『十五少年漂流記』など)は船にも乗れない旅行嫌いだったそうで,こちらのほうがよっぽど気持ちがよくわかる。 / 烏丸 ( 2000-10-26 16:02 )
しかしまあ、なんちゅー破天荒な人生なのでしょう。作者の女性。。まさに事実は小説より奇なり。 / エル ( 2000-10-26 13:26 )
それはそうと,『たったひとつの……』の表紙や本文イラストは,軍曹オススメ,『観用少女(プランツ・ドール)』の川原由美子でございますね。 / 烏丸 ( 2000-10-26 12:01 )
お、お恥ずかしい。単に決めているというだけでありまして、その内容がどうかというとこれがまた、お恥ずかしいと申しますか、なんというか、しどろもどろなのでありますっ。 / ケロロ軍曹 ( 2000-10-26 11:34 )

2000-10-25 今日はビゼーの誕生日 『風車小屋だより』 ドーデ,大久保和郎 訳 / 旺文社文庫


【とりとめもなく……】

 今日,10月25日はワルツ王,ヨハン・シュトラウス(1825年),そしてジョルジュ・ビゼー(1838年)の誕生日。

 ビゼー作曲,クリュイタンス指揮,パリ音楽院管弦楽団の組曲『アルルの女』『カルメン』はとてもよい。カラヤンに比べてゆったりとしてつやがあり,ストコフスキーより明確。
 とくにあれだけ幅とねばりのあるクラリネットとフルート(アンリ・ルボン?)の音色は,あまり記憶にない。低いところから,こう,ひたひたと,しかし着実に満たしていくような。
 高校時代だったろうか,毎週のように縁戚の家を訪ね,応接間にこもって『アルルの女』を繰り返しかけながら,本棚のポーやユゴー,メルヴィルにふけったことを思い出す。

 シュトラウスやビゼーは,音楽の教科書や入門用名曲集に再三取り上げられた分,損をした感じがしないでもない。ツウをきどる会話では出てこないか,せいぜい『美しきパースの娘』について知ったかぶりする程度。『カルメン』(メリメ)や『アルルの女』(ドーデ)の原作まで追う者が,今,どれほどいるだろう。

 そういうわけで,今朝は,ドーデ『風車小屋だより』なんて懐かしいものを持ち出してみた。添付画像は,あの,草色の厚紙の箱に入っていたころの旺文社文庫で,これもまた懐かしい。フランシス・ジャムの『三人の少女』は当時旺文社文庫でしか読めなくて……とか言っても感傷にすぎないのはわかっているのだが。

 今ふうにいえば『カルメン』が青年将校によるストーカー殺人事件なら,『アルルの女』はストーカーにすらなれないウブな青年の物語。
 二十歳になる明るい百姓の青年ジャンが,闘技場でたった一度会ったことのあるビロードのレースずくめのアルル女に夢中になる。彼の家族は反対しつつも披露宴を催すが女は現れず,ほかの男の情婦であることが明らかになる。ジャンは陽気にふるまうが,ある朝,母親の制止をふりきって飛び降り自殺してしまう。

 その前のページの,『星』という短編が,これまたうっとりするほど美しい。
 羊飼いが番をする山の上にお嬢さんが食糧を持って現れる。ところが雷雨による増水で帰ることができなくなり,二人は並んで星を見ながら星についての言い伝えを語り合う。そのうち,お嬢さんは羊飼いにもたれるように眠ってしまう。それだけ。

 村祭り,プロヴァンスの教会,山羊,羊,星。星。

先頭 表紙

資生堂といえば,春ごろのCMがシルヴィ・バルタン「アイドルをさがせ」のリメイクをBGMにしていましたが,その時点ではCD化されてなかったようです。ちょっとよいかと思ったのに。 / 烏丸 ( 2000-10-26 13:14 )
最近の、資生堂のコマーシャル思い出しちゃった。あれ、妙に色っぽかった。 / 口車大王 ( 2000-10-26 12:33 )
旺文社文庫は,注釈がそのページの中に載っているので,シェークスピアとか古典のお勉強には大変便利なのです。『海潮音』も旺文社文庫版がオススメ(っても,今さら手に入れるのは大変ですが)。 / 烏丸 ( 2000-10-26 02:25 )
シルヴィ・バルタンがモーツァルトの40番歌ったときも,確かちゃんとクレジットが……というより,そもそも曲名が"CARO MOZART"になってますね。 / 烏丸 ( 2000-10-26 02:23 )
↓大ではなく、あっ です・・・ / 水美 ( 2000-10-26 02:06 )
大!これです!これです。中学生の頃、図書室にあったのは!!こでで、シェークスピアとか、「博物誌」とか読みました。あの頃でもこのシリーズ、年期がはいってて、大人になってから、どこのだったんだろう?と悩んでいました。謎が説けた!娘の中学って蔵書がお粗末。のぞいてがっくり。あれでは本好きな子供は育たん! / 水美 ( 2000-10-26 02:04 )
「キッスは目にして」は、さすがにクレジットが入ってましたね〜!(そりゃそうだ)ビゼーを歌うときはフランス語に苦しみました・・。そんな私はフランス語選択・・。 / どーやって卒業したんだあやや ( 2000-10-26 00:31 )
そうそう,ダ・パンプ。著作権法的にはもちろん死後50(+5)年どころではないのでフリーなんですが,あんなメインに使って作曲料もらっちゃいけません。使うのなら,ちゃんとクレジット入れてほしい。でも,チェックのためにシングル盤買うのもばからしいし……。 / 烏丸 ( 2000-10-25 16:02 )
あまり関係ないですが、ダパンプだかラパンツだかいう人たちが、思いっきり『アルルの女』をパクった曲を歌ってましたですねえ。CMで堂々と流すな、と。 / こすもぽたりん ( 2000-10-25 15:22 )
懐かしいものを出してきましたねえ。旺文社文庫なんて、もう若い人は知らないだろうなあ。 / mishika ( 2000-10-25 14:18 )

2000-10-24 科学と文学について考える 素材その十(最終回) 『すべてがFになる』 森 博嗣 / 講談社


【「日」でも「秒」でもなく「時」で管理。なにそれ?】

 とくにいくつという予定はなかったが,そろそろ(おそらく読み手の皆様も)飽きてきたことだし,その十とキリもよいので「科学と文学」シリーズは今回で打ち止めとしよう。ふと気がつくと『パラサイト・イヴ』に始まり,『すべてがFになる』で終わる……どよどよどよん。

 本書『すべてがFになる』については,すでにこすもぽたりん氏の「神田マスカメ書店」に詳解されている。ここではコンピュータの扱いについてのみ,いくつか指摘しておきたい。

「いえ……,UNIXを介してFTPしてますから,フロッピィは使いません。大丈夫だと思いますけど……」
 いきなり,これだ。これは研究室のMacにコンピュータウイルスが,という状況で出てきたセリフだ。その前ページに
「あとはネットワークからソフトを持ってくるときだね,気をつけなくちゃいけないのは」
とあるからコンピュータウイルスがネットワークを介しても波及するという知識はあるようだが,「UNIXを介してFTP」なら大丈夫というのでは,何もわかっていないとしか思えない。

 本作に登場する某大手ソフトハウスは,離れ小島に入り口が1つしかない研究所を設け(消防法違反),有能な開発者50人をそこに閉じこめてソフトを開発させている(プログラマやオタクの生活を理解しているとは思えない設定。電気街もコンビニもないところではPCオタクの3分の2は棲息できない)。その研究所は「レッドマジック」という独自OSによって完全管理されており,レッドマジックの現バージョンは4,それを7,8年使っている。
 研究所の奥にはそのレッドマジックを開発した天才工学者が7年間幽閉されており(誰に?),彼女に食事や本や機材を渡す出入り口はすべてビデオに撮られ(なんで?),その記録が全部データとして残されている(どうして?)。もちろん,それも彼女の作ったレッドマジックとその制御下にあるロボットが管理している。

 ある日突然,レッドマジックがシステムダウンし,同時に殺人事件が起こり,電話もかけられなくなってしまうのだが,そこでスタッフが言うにことかいて,
「レッドマジックはセキュリティが完璧なんだ。どんな人為的な工作にも対処できる。…(中略)…あらゆるソフト的な破壊工作に対応している」
 複数のスタッフがいぢったOSのセキュリティが7,8年経って「完璧」なんてあるかぁ!

 そもそも,その技術者連中たるや,電話回線とPCやMacがそこにあり,パソコン通信サービスのIDを持っているにも関わらず,警察に連絡もできない。で,これまでレッドマジックがやっていた管理を徹夜でUNIXに差し換えるという。それが可能なら先にDOSのTERMでも使え。

 そもそも,幽閉者が作ったシステムに,幽閉者をチェックさせているのだ。そのへんをこれ以上つっこむとネタバレになってしまうので詳細は省くが,これだけは言っておきたい。本書の背表紙には我孫子武丸が
「ずっと8ビットだったミステリの世界もこれでようやく32ビットになった」
と賛辞を送っているが……どう考えても16ビットだと思うぞ。

 本書は,理系人間の書いた,理系人間待望のミステリ! とよく言われる。しかし,理系,文系以前に,もう少し考えてほしい点が少なくない。某所で上記のようなことを指摘したところ,熱狂的ファンから総攻撃を受けた。ある理系大学生がメールでいわく,
「僕はコンピュータには詳しくないが,そのあたりは全然,気になりませんでした」
 ……今どきの理系の論理はそんなものなの?

先頭 表紙

Z80ですかぁ。最近のようにPCやOSが肥大化し,インタフェースやデバイスがブラックボックス化してしまうと,HTMLのソース程度ならともかく,I/Oを叩くとかそういうのはいったいどこで入門するのやらと思います。だから,そういう授業は貴重なのでは。(って,アセンブラ組めない……以下同文) / 烏丸 ( 2000-10-26 13:12 )
大学で『アセンブラ』という実験のお題目がありました。Z80のアセンブラの実験。アセンブラの実験っていったい何? と思ったら、アセンブラで水門を操作するプログラムを組んで、水を堰き止めるというもの。工学基礎実験だったかな。毎週山のようにレポートを書かされて、たった2単位。しかも、必修。 / こすもぽたりん ( 2000-10-26 12:38 )
ディスアセンブルという言葉も,もう死語ですねえ(って,アセンブラ組めないお前が言うな。 > 烏丸) / 烏丸 ( 2000-10-25 17:56 )
ソースなんかいじったことないんでしょうねえ。ソースといえばペヤングくらいの認識で(こんなこと書く私も私ですが)。ソースといえば、最近の若いエンジニアはソースを読むという発想自体がない、と弊社のチーフ・エンジニアが嘆いておりました。 / こすもぽたりん ( 2000-10-25 15:27 )
書くつもりがあろうがなかろうが,これだけの長さで書けば,人間が「色に出にけり」ということがありますね。この作者,アプリケーションユーザーかもしれませんが,OSいぢったことはないですね。ソースを修正してコンパイルしたらエラーではじかれたのがよほどショックだったのだろう。でも,多分それはOSのせいじゃなくて,単に型の宣言をし忘れたせい。……こんなもんかな。 / 烏丸 ( 2000-10-25 12:39 )
百歩譲ってパズルだっていうのならそれはそれでいいんです。よくわからないのは,これ,パズルとして成立しているんですか? 幽閉したのも,その幽閉の条件を設定したのも,幽閉から出たのも……。これでは,命題が不成立だと思うんですよ。島田掃除(ママ)のアレでいうなら「なぜピエロの格好で踊ったのか」という謎の答えが「ピエロの格好で踊りたかったからー」になってませんかねえ? 読み違えているんだろうか。 / 烏丸 ( 2000-10-25 12:20 )
森本人が「人間を書けないのでなく,書かなかったのだ」と反論したのを目にしました。でも,少なくとも『F』はオタクを書こうとして書けなかったのは間違いない。無駄な(勘違いに基づく)エピソードが多いですからね。 / 烏丸 ( 2000-10-25 12:12 )
いえいえ美奈子さま,「科学」「SF」なんて言葉のせいか,今回のシリーズにはなんとなくつっこみも少なく,寂しく思っていたところです。どんどんつっこんでやってくださいまし。ちなみにこの烏丸,「〜シリーズ」なんて枠組みはもうけても,実は何も考えてなくて,その日その日に思いついた本を取り上げているだけです。また気がむけばSFも出てくることと思います。 / 烏丸 ( 2000-10-25 12:09 )
「どう考えても16ビットだと思うぞ。」という烏丸さんのツッコミは、本書を最後まで読むとさらに味わい深いです。 / こすもぽたりん ( 2000-10-25 09:57 )
萌絵ちゃん萌え萌え系掲示板などでは、「森は人物が描けない」などという批判をすると「森作品は全て、高度なパズルなのだから、人物など描く必要はないのではないか」という答えが返ってくるようです。だったら、小説などという形を取らずに、最初からクイズにすればいいのにと思います。 / こすもぽたりん ( 2000-10-25 09:41 )
あー、今日は何だかIEのつっこみ機能の具合が悪くて、烏丸様のページにもう1時間近く居座ってしまっているわ(汗)。 / あちこち汚してしまってすみません。 ( 2000-10-25 08:16 )
んー、私もPC初心者タコですが、それでもこの作品の設定はなんかとてつもなく妙〜な気がしますね。我孫子氏の賛辞は、ミステリ界へのエールだったのでは。でも「……どう考えても16ビットだと思うぞ」という烏丸様のツッコミには笑いました。 / 美奈子 ( 2000-10-25 08:02 )
いやーん、もっと続けてほしいですぅ。あるいはシリーズ第二段ということで後日にでも、烏丸様がお好きだったSFの話など交えつつ、ぜひ。 / 補助頭脳、欲しい! ( 2000-10-25 07:54 )

2000-10-24 科学と文学について考える 素材その九 『地球環』 堀 晃 / 角川春樹事務所(ハルキ文庫)


【あなたの補助頭脳をチェックしておきたいんです】

 紡績会社社員でもある堀晃は作家としては寡作だが,わが国のハードSFの第一人者と称されることが多い。彼の『太陽風交点』は,おそらく国内で書かれたハードSFとしては最も高い評価を得た短編の1つで,1981年,第1回日本SF大賞を受賞した。
 それが,悲劇の始まりだった。

 SFというのは,マイナーな文化である。
 『日本沈没』のようにベストセラーが現れ,映画の原作として話題になることがあっても,筒井康隆のようにテレビCMにまで登場し,不気味に嗤う作家がいても,その根本にあるのは,SFファンの中から作家が登場し,SFファンのために作品を書き,それをSFファンが評価するという仕組みである。そして,この国のSF文化は,星新一,小松左京,筒井康隆,石川喬司ら,第一世代を頂点とする一種の内燃機関を構成し,新人は極力SF作家の集いにはせ参じ,ベテランからの評価を得ようとする。悪くいえば家元制度のように閉じた社会であり,別の閉じた世界を構成する純文学,大衆文学の文壇とは激しく反目し合う。その結果どういうことになるかといえば,先に述べた大物作家の誰一人として芥川賞,直木賞は受賞していないし(半村良が直木賞を受賞したのは,SFでなく中間小説),SF界側は大江健三郎の『空の怪物アグイー』を一切評価しない。

 そして,そのマイナーな文化をビジネスとして体裁づけ,長年にわたって新人作家のデビューや生計の一角を支えていたのが「SFマガジン」「ハヤカワ文庫」の早川書房である(東京創元社の創元推理文庫のSF作品はいずれも海外作品の翻訳で,国内のSF作品は収録されない)。
 そのハヤカワが,日本SF大賞受賞作『太陽風交点』文庫化の既得権でもめ,作者堀晃と徳間書店を相手に訴訟を起こしたことが,第一世代のSF作家の大半を怒らせ,彼らのハヤカワ文庫収録作品はそれ以降増刷されなくなった。もちろん,以後「SFマガジン」に第一世代の新作が発表されることもなかった(光瀬龍など,一部を除く)。
 「SFマガジン」は独自に若手を育て,大原まり子,神林長平らで生き長らえるが,ファンと作家が密着し,閉じた世界で互いを育んできたSF界にとってこの分断はあまりにも大きかったといえるだろう。

 早川書房はそれ以前から,原稿料が安い,育ててやったという顔をする,など,必ずしもSF作家から好もしく思われてはいなかった。そんな早川書房を「奢っている」「愚かな」と責めるのは簡単だが,藪の外にいる者に実際のところはよくわからない。いずれにしても,日本SFはそれ以降あっけなく求心性と継続性を見失い,失速していく。
 もっとも,1980年以降というと,海外SFも魅力を発揮できなくなるころで,単に当時はSF黄金時代の終焉,あるいはSFが映画やゲームに拡散していく時期だっただけなのかもしれない。

 さて,その堀晃の短編集が,本当に久しぶりに文庫になった。本『地球環』にはその短編うち,「情報サイボーグ」シリーズが収録されている。
 堀晃の作品は,宇宙や情報工学についての根源的な理論や世界観をベースにするため(科学雑誌などでもてはやされる,いわゆる流行の話題はあまり用いない),年月を経ても作品がそう古びない。SFは苦手,科学は苦手,という方も,ぜひ手にとって本作に目を通してみていただきたい。
 ここには,SFがまだ力を持っていた最後の時代の,上質な知的エンターテイメントがある。

先頭 表紙

本当に。ナボコフとかディックとか、ちくまや早川(おっと)にひきとられてホッとした人も多かったのでは。 / み@サンリオ20冊くらい持ってる ( 2000-10-26 21:03 )
サンリオ文庫はですね,なーんにも考えてない担当者が,海外のSFとか実験的小説とか言われる作家,作品を,よしあしもなーんにもチェックしないで(てゆか,ほかの出版社が相手にしないようなクズばかり)「独占翻訳権」をとってとってとりまくって,それでパンクしたとそれはもうもっぱらの。そのぶん,ほかからは出ないような貴重品もいくつかあったわけですが。 / 烏丸 ( 2000-10-26 11:59 )
サンリオ文庫がつぶれちゃったのと同じ(笑)? / ( 2000-10-26 06:07 )
きゃー。アホなこと書いたばかりに、奥さまにまでお気づかいいただいてしまってすみません!お許しくださいませ。(反省コザルのポーズ) / でも今度は麗しの奥さまに興味しんしん。 ( 2000-10-26 06:05 )
「2号の件につきましては,受付で整理券を……」と書こうとしたのですが,家人から,もう少しオシャレなジョークを,と教育的指導が入りました。勉強しなおします。とほ。 / 烏丸 ( 2000-10-26 00:30 )
そういうことやってるから(『人喰い病』の石黒達昌も海燕出身),海燕,つぶれちゃったんですね。 / 烏丸 ( 2000-10-26 00:23 )
シーナ・ワールドは「海燕:小説新潮:SFマガジン」で「5:3:1」の割合ですか。ふうむ……。 / ( 2000-10-25 17:58 )
おおー、素晴らしい! 拝読した後、紀伊国屋ノースシドニー店までダッシュしちゃいましたよ(本当)。でも『みるなの木』はなかった、残念。(代わりに『地下生活者/遠灘鮫腹海岸』を買いました。)……うう、烏丸様にツボをつかれまくっている私。およめにしてほしい(爆)! でも麗しの奥方がいらっしゃるのでしたね、残念残念。あっ、奥様もここご覧になっていらっしゃるのかな? ごめんなさい上に書いてあるの全部ウソです、単なる悪ふざけです、お許し下さい(ペコリ)。 / 2号の座に甘んじますわ(殴殺) ( 2000-10-25 17:55 )
よくぞ聞いてくれました!(笑) 椎名SFと文芸雑誌については『みるなの木』を例にちょこっと書いています。そちらもご参照くださいな。 / 烏丸 ( 2000-10-25 12:45 )
「明確な境界線なんてない」のご意見に賛成です。たとえば椎名誠って、出版業界(?)ではどういう扱いなんでしょう? 『武装島田倉庫』に続く連作はもろにSFですよね。言葉の感覚がすごくて興奮しながら読んだ記憶があります。 / 美奈子 ( 2000-10-25 12:31 )
ほほう、なるほど。アンチ筒井の朝日論説委員ですか。丁寧なご説明、ありがとうございます。いろいろないきさつがあるのですねぇ。 / 美奈子 ( 2000-10-25 12:25 )
SF作家のほうは,「ヘンなものは皆取り込んでしまえ」という気概があったのか,シュルレアリスム,ファンタジー,ホラー,ミステリと分類されそうなものも全部書いていました。……と,こんなふうに書くといかにも烏丸がSFのほうに肩入れしているように見えるかもしれませんが,烏丸的にはおもしろければ派閥は何でもよし,小説でもマンガでも映画でもなんでもおっけー,です。 / 烏丸 ( 2000-10-25 12:07 )
筒井康隆なんて,デビュー当時からSFというよりは前衛的な小説で,ああいうことをできない純文学のほうに問題があった。純文学とミステリはわりあい仲がよいようで,『虚無への供物』の中井英夫は純文学からそんなに嫌われていません。中井英夫にはSF作家が書いたとしか思えない『銃器店へ』という短編集もありました。などなど。 / 烏丸 ( 2000-10-25 12:06 )
SFと文学,SFとミステリの明確な境界線なんてものは,多分ありません。どっちの派閥に属するかの問題と,編集者がSFにアレルギーがあるかどうかの問題だったんじゃないか,と思います(少女マンガでも,「SF」というだけで描かしてもらえなかったとか,そういう話が昔は多かったようです)。 / 烏丸 ( 2000-10-25 12:06 )
美奈子さま,大江健三郎を例にしたのは,当時,朝日新聞の論説委員がアンチ筒井康隆で,その1年の出版を振り返って,という記事の中で「SFでは大江にこれこれがあった,それ以外に見るべきものは何もなかった」とSFを口にしながら星,小松,筒井らをてっぱん無視した,という故事(だよなあ,今となっては)にならったものです。 / 烏丸 ( 2000-10-25 12:04 )
あっ、しまった。下で?マークを入れるのを忘れてしまい、何だか知ったような書き方になってしまいましたが、私、森博嗣の作品は読んでおりませんです。失礼しました。『空の怪物アグイー』はSFだったのですか(未読にて知らず)。けっこう初期の作品だったと記憶してますが。アグイーというキャラ自体は他の作品にも登場していましたっけ。『治療塔』も、大江がSFを!ということで話題になりましたが作品自体への反響は今いちだったようですね。やっぱり『万延元年のフットボール』のドロドロには負けてますか。 / 美奈子 ( 2000-10-25 07:47 )
ふむふむなるほど、こういう経緯があったのですね。しかし私、SFと文学の境目ってよくわからないです。ミステリ作家が「UNIXでFTP」と書く時代になってきたし、両者を隔てる定義だてって今後ますます難しくなるのでは。 / 美奈子 ( 2000-10-25 07:34 )
この『太陽風交点』事件,当時は朝日新聞の社会面さえにぎわしたというのに,いまや誰も覚えていないし,インターネットで検索しても1か所でしか発見できませんでした……よく見たら,堀晃当人のこさえたホームページ。いかにSFが市民権を失ってしまったか,よーくわかります。この『地球環』にしても,そういう「往時を懐かしむ」という気持ちのない方には,はたしてどんなものやら。 / 烏丸 ( 2000-10-24 14:32 )
むむむむ、SFを最後まで読み通したことのない私ですが、これは興味深い。久々に挑戦してみますですか。 / こすもぽたりん ( 2000-10-24 14:17 )

2000-10-24 科学と文学について考える 素材その八 『竜の卵』 ロバート・L.フォワード,山高 昭 訳 / 早川書房(ハヤカワ文庫)


【近くて遠い隣人の物語】

 ハードSFを1冊,ご紹介したい。
 ハードSFとは,端的にいえば科学をまじめに取り上げたSFのことである。科学をまじめに取り上げてないSFは,ソフトSFではなく,スペースオペラやファンタジーと呼ぶ。すわなち「サイエンス・フィクション」の略としてのSFの本領はハードSFにあるといって過言ではないだろう(では,レイ・ブラッドベリやフレドリック・ブラウンは,と問われたら,とりあえず船で逃げよう)。

 ところで,一言で科学と言ってもいささか間口が広い。航空力学と量子力学を同じ箱に入れてどうするという気はするし,最近では金融工学だって理系の学問だ。しかし,普通金融パニック小説をハードSFとは呼ばないし,バイオ,ネットワークものについてもあまり聞いたことがない。やはり,宇宙を舞台にメカががしがし活躍する,そんな固め(?)のSFをハードSFと呼ぶことが多いようだ。

 ここでイチオシしたいのはジェームズ・P.ホーガンなのだが,この作家には大きな難点がある。創元推理文庫の初期の『星を継ぐもの』『創世記機械』『ガニメデの優しい巨人』『未来の二つの顔』『未来からのホットライン』『巨人たちの星』,このあたりまでは本当に面白い。とくに月面で発見された宇宙服の死体が少なくとも5万年前のものだった,という謎に始まる『星を継ぐもの』は,デビュー長編でありながら破綻のないプロットに意外な展開で,読書の極上の楽しみを与えてくれる。しかし,ホーガンはなぜか途中から社会をテーマにしたもっちゃりした作風に変わってしまい,しかもいずれもうんざりするほど長い。いまやホーガンといえば面白くない作家の代表である。

 だから,ここではロバート・L.フォワードの『竜の卵』をプッシュすることにしよう。
 これは,太陽系から50光年離れた星域に誕生した,直径20キロにみたぬ中性子星(パルサー)に知的生命が! というかなりとんでもない設定を,最新科学を背景にとことん押し進めた長編である。
 SFには地球の700倍の重力の惑星メスクリンに棲息する生物を描いた『重力の使命』(ハル・クレメント)という名作があるが,それに正面から挑戦した力ワザが『竜の卵』である。本書に登場する生物チーラは,時間感覚が人間の百万倍であるため,地球からの探査線が中性子星に接近したわずか1か月の間に原始時代を脱し,文明を開花させ,宗教を改革し,科学を打ち立てる。本書はそのチーラの変遷を描くことで,サイエンス・フィクション(SF)が同時にスペキュレイティブ・フィクション(SF)であることを身をもって証明する……なんてカッコつける必要もない。ともかく読み応えあり。

 作者ロバート・L.フォワードはヒューズ研究所の化学者であり,デビュー以前からSF作家との交友の中で,さまざまなSF作品に貢献しているそうだ。講談社ブルーバックスには『SFはどこまで実現するか 重力波通信からブラック・ホール工学まで』という訳書もある。宇宙を舞台としたハードSFにチャレンジしたい竜の卵,もとい,作家の卵にお奨めである。

 ただ,今となっては苦笑するしかないのが作中のコンピュータの扱いである。本作が発表された1980年というと,まだパーソナルコンピュータがこの世になく,科学者たちは使用料と時間配分に気を遣いながら大型コンピュータから吐き出される紙テープ相手に格闘していた。本書に描かれたホストコンピュータは現在では小さなチップ1個で十分おつりがくる。ハードSFを書く難しさの1つの顕れだろう。

先頭 表紙

たとえば,H.G.ウェルズの『タイムマシン』などの各作品は,技術的には古い時代に書かれたものでも(もちろんタイムマシンそのものは当分できそうもありませんが),今でもこの30年間に書かれたSFの大半よりもよほど「くる」ものがあります。要は何をどう書くかであって,素材は古くなってもいいと思います。えらそーなことを言うなら,書き手がどれほど「今」をまっすぐ見るか,でしょうか。 / 烏丸 ( 2000-10-25 12:57 )
ご指摘の通り、SFで描かれるハードウェアはすぐに古びてしまうから、作家も大変でしょうね。『ソラリス』でも、惑星間の連絡装置に真空管が使われていたような(笑)。でも、優れた作品の本質はそういった弱点を目にしてもなお訴えてくる部分があると思うのですが、いかがでしょう。 / 美奈子 ( 2000-10-25 08:11 )
出たー!J.P.ホーガン!!なつかし〜!よくわからないまま読んでましたよ〜。フォワードの「竜の卵」はハードSFだったのですか。何となくタイトルからファンタジー路線かな?と思って、手にとっていなかったですよ。 / 美奈子 ( 2000-10-25 07:27 )

2000-10-23 科学と文学について考える 素材その七 『空想科学読本 第二版』 柳田理科雄 / メディアファクトリー


【柳田理科雄は本名】

 この手の書籍の嚆矢は『ウルトラマン研究序説』(中経出版)ではなかったろうか。これは科学特捜隊の組織・技術戦略や怪獣出現による経済効果を若手学者25人がまじめに(本当)分析したものである。1991年12月の発行で,1992年12月に発行されてベストセラーになった『磯野家の謎』(飛鳥新社)にも先んじる。

 『空想科学読本』もテレビ番組の重箱の隅をつっつく書籍の1冊で,怪獣が何万度という高熱の炎を吐き,正義のヒーローが一瞬にして巨大化して翼もないまま空を飛び,さらに巨大なロボットに人間が乗り込んで敵ロボットと格闘する,そういった「空想科学上の常識」に現実的な科学の面からアプローチを試みたものだ。
 その結果得られた結論は,物悲しくも爆笑ものだ。ウルトラマンはその体重を維持するために横に5倍は厚みのある肥満体でなければならないのに,空を飛ぶためにはヒラメのように平べったい形にならざるを得ず,しかも設定通りの速さで飛んだら衝撃波でずたずたになる。兜甲児はマジンガーZで船酔いし,敵とぶつかった瞬間慣性の法則で圧死する。ウルトラセブンの巨大化には最低9時間半かかり,逆に松坂慶子の肺にひそむ宇宙細菌ダリーと闘うためにミクロ化した場合は脳細胞も58億分の1の2.4個になり,記憶の大半が失われ,微生物として一生を終える。サンダーバードのジェットモグラは遠心力で非情な棺桶と化し,タケコプターをつけたドラえもんの頭はひびが入り,みかんをむいたようにめくれ返ってちぎれ飛ぶ。

 もちろん,こういった「空想科学」のウソを暴く遊びは,「巨人の星」の大リーグボールへのつっこみなど,マンガ誌の投稿欄などに古くから見られたものだ。しかし,OUTなどアニメ専門誌上での「宇宙戦艦ヤマト」に対するおちょくりを契機に,やがて様式を持った「遊び」と化し,現在ではそこそこヒットしたアニメやマンガ作品には必ず「つっこみ本」が後を追う。アマチュアによるファンジンやインターネット上のホームページでも同様のつっこみは花盛りだ。つまり,空想科学作品は,シリアスに書かれると同時にお笑いの題材となるという二重構造を背負い込むことになる。

 その結果,科学を背景にした作品は非常につらい立場に追い込まれた。
 およそ人間が人間として描かれていないミステリや,科学をまるっきり無視したホラーがベストセラーになる一方で,科学を匂わせる作品に限ってお笑いに足をひっぱられるのだ。もちろん,悪いことばかりではない。たとえばアニメ「ポケットモンスター」は,「その世界にはポケットモンスターが棲息する」という一点を除くと非常に理にかなった世界観を展開し,それが作品の魅力の1つともなっている。しかし,SFに新人が現れにくい原因の1つに,これらのつっこみ精神があるのもおそらく間違いない。

 だが,気にすることはない。第一に,ミステリやホラーはあの程度で立派に容認されているではないか。第ニに,本書の著者もそうだが,つっこみの背景にあるのは空想科学への底なし沼的愛だ。現に,本書のあらゆるつっこみは「ウルトラマン」などの空想科学番組に対する執着と,小学館などから発売された設定資料集を正しいと前提とした上でのものだ。
 といっても,昨今の怪獣映画がつっこみを恐れて大人向けドラマとしても破天荒な子供騙しとしても中途半端になってしまう気持ちはわからないでもない。ここは1つ,「どうせ昔のことだから」で押し切れる「大魔神」リメイクで気勢をあげてみるのはいかがなものであろうか。

先頭 表紙

しかも,大学の学部もちゃんと「理科I類」だったそうで。ツジツマ合って,ご立派でございます。 / 烏丸 ( 2000-10-24 01:36 )
にょ〜! 逆だったにょ!(©でじこ) カウントダウンすると「タ〜イムボッカーン!」に繋がってしまうにょ。ところで、柳田理科雄が本名だったとわ! / こすもぽたりん ( 2000-10-23 19:01 )
キャプテンウルトラは,ウルトラマンとウルトラセブンが円谷プロ制作だったのに対し,同じ時間枠のタケダアワーでありながら東映の企画制作で,そのためどうも話題からはずされてしまうことが多いようです(実際,特撮はちゃちぃしカタキ役のバンデル星人もしょぼい)。たとえば,主題歌もまま忘れさられており,「ワン、ツー、スリー、フォー、」ではなく,「スリー,ツー,ワン,ゼロ!」なのであります。だって,シュピーゲル号は3分割,主人公もキャプテンウルトラ,ジョー,ハックの3人(人?)なんですから。 / ハックのデザインのチョコ懐かし 烏丸 ( 2000-10-23 17:26 )
ゼットンいますか。ウルトラホークについては帰って読み返してみます。ウルトラホークと聞いただけで、なにやら涙腺が緩みます。キャプテンウルトラは「シュピーゲル、シュピーゲル、シュピーゲル、ワン、ツー、スリー、フォー、そーれゆーけキャプテ〜ンウル〜トラ〜♪」ですね。小林捻持ですねっ! / こすもぽたりん ( 2000-10-23 17:07 )
本文,大ウソ書いてました。『サザエさんの秘密』より『磯野家の謎』が先です。失礼いたしました。 / 烏丸 ( 2000-10-23 16:07 )
玉乗りゼットン,おりますおります。ところで,旧版がどっかへ行ってしまいました(泣)。旧版でもやはり「合体という思想をビジュアル化した先駆は『ウルトラセブン』」のウルトラホーク1号となっておりましたでしょうか。その直前に放送されていた「キャプテンウルトラ」のシュピーゲル号がすっかり失念されている……。 / 烏丸 ( 2000-10-23 15:40 )
↓「いすの」は「いるの」の間違い。どん兵衛食べながら書いてたら間違いちった。今ごろお昼なんですよん。 / こすもぽたりん ( 2000-10-23 15:32 )
おお、旧版を書こうとしていたところでした。新版でも、玉乗りのように地球に乗っかるゼットンはいすのですかい? / こすもぽたりん ( 2000-10-23 15:30 )
と学会の「とんでも本」シリーズが「フィクションは相手にしない」と明記しているのは,このあたりよくわかったうえでのことと思われます。 / 烏丸 ( 2000-10-23 12:22 )

2000-10-22 科学と文学について考える 素材その六 『生物学個人授業』 岡田節人,南伸坊 / 新潮文庫


【生命は絶えたことがない】

 「科学」そのものでなく「最近の科学と文学」のみだらな関係を覗き見したいという野望はすでに大幅に崩れつつあるが,それは烏丸の力不足97%,残りの3%はサイエンス・フィクション(SF)から何を紹介するかでまとまりがつなかいためである。今さら一昔前のハードSFなんか持ち出しても,何書いてよいのか正直よくわからん。
 SFについては後でなんとかするとして,今回もまた生物学関係。

 『生物学個人授業』は生物学者・岡田節人の講義をイラストレーター・南伸坊が自分なりにテキストにまとめ,イラストカットも担当した,というもの。
 テキストをまとめたのが南伸坊であることがポイント。つまり彼は,講義を聞き,理解の及んだ領域について自分なりの解釈に付加情報を加えて本にしているわけだ。ケロロ軍曹の「第666野戦重砲マンガ小隊」で報告された清水義範と西原理恵子の『おもしろくても理科』『もっとおもしろくても理科』とは構造的に全然違う。なにしろ『おもしろくても……』は学者でもない小説家が科学についてわかったようなことを書き並べ,その姿勢の怪しさをサイバラがナマスにする。面白くならないわけがないのである。
 で,それと構造的に違う本書がどうかといえば,こちらはもう,つまらない。講師はまじめに生物学を説き,聞き手は一生懸命それを再生産するのだから,笑いどころはない。笑いをとるための本じゃないのだから当たり前だけど。

 それでも(ってのは失礼だな),さすが専門家,たとえば『ジュラシック・パーク』ではDNAの再生の説明にずいぶんページをさきながら,DNAを被う染色体についてはまるっきりシカトを決め込んでいるとのご指摘。染色体を作るというのは今の生物学でも全く未開の領域で,ウソをつくにもタネがなかったということらしい。なるほど。
 そもそも,地球上のあらゆる生物は,もともとはたった一種類の単核生物から始まっている。では,現在,地球上に生物は何種類いるのか(答:8000万種類)。また,一番種類が多いのはどんな生物で(答:昆虫,とくに甲虫),またどうやってそういう種類を数えるのか。トキなんぞ貴重度が相当低い(絶滅しても辛抱すべき)という理屈はなかなか刺激的だ。
 あるいは,発生というお話。DNAがコピーされるだけなら,卵がオタマジャクシになり,オタマジャクシがカエルになる説明ができない。細胞がさまざまに分化するから発生は起こるのだが,その分化とは仮の姿であり,すべての細胞はそれぞれの細胞になる可能性を保有していると岡田は説く。
 では,最初は1個しかなかった細胞がいかにして成体にまで育つのか。遺伝子は個々の細胞を特徴づけるだけでなく,全体を統括してボディプランを担当する力も持っている。つまり,遺伝子を変えてもハエの頭を持ったカエルは作れないが,それでも,カエルやネズミが頭を作るために動員される遺伝子(ホメオティック遺伝子)は,ハエが頭を作るときに動員される遺伝子と似ている,ということである。このあたり,ホメオボックスについての話は面妖ながら非常に興味深い。

 しかし……指おって虫の種類を数えても,ホメオボックスに感動しても,文学への階段はいまだ遠い。やはり,文学たるもの,夢が破れるところから始めなくてはならんのか。というわけで,次に取り上げるのはとても哀しく,非道い本である。

先頭 表紙

2000-10-21 科学と文学について考える 素材その五 『アワビがねじれてサザエになった やっぱりふしぎな生物学』 奥井一満 / 光文社知恵の森文庫


【意思と遺伝】

 以前,『タコはいかにしてタコになったか わからないことだらけの生物学』という本を紹介したことがあるが,同じ著者によるシリーズ3冊めである。安易な文明論にはこぶしを握り,一方で正直に自らの仮説の限界を告白する。その正直さは好もしいが,さすがに3冊めともなると書きたいことが尽きてきたのか,今回は全ページの下約3分の1が空白かイラストで,あっという間に読めてしまった。さすがにこれは上げ底と言うべきか。

 それでも,昆虫など,生物の擬態というのは何故そうなっているのかさっぱりわからん,というようなことがたくさん載っていて,かつての昆虫採集少年としてはなかなか楽しい。
 たとえば,カゲロウの仲間にカマキリモドキというのがいて,前足のあたりだけカマキリそっくりなのだそうである。これが,何故そうなっっているのか,さっぱりわからない(カマキリのマネ,ということが遺伝子レベルでありうるのか。また,大きなメリットがあるのなら近いカゲロウの種がこぞってそうなりそうなものだがそうでもない)。
 アワビのような貝がやがて巻き貝になった,ということはわかっても,ホネガイの外のトゲトゲや,ナガニシのようなながーい殻,エビスガイのピラミッド型など,個々の特徴は説明できない。
 ウミウシや一部の昆虫がカラフルな模様を持っているのは,なぜか。自分でその姿が見えるわけはないのに。
 光る生物は,どうやって光る仕組みを得たのか? ホタルの場合は異性と呼び合うために用いられているが,なぜ昆虫の中でホタルだけがその機能を得たのか? それどころか,ほかの種のホタルの光りパターンを真似て,その種が近寄ってきたところを食べてしまうホタルもいるとのこと。そんなノウハウはどうやって獲得され,どうやって遺伝されるのか?
 などなど。

 そのほか,雑学として初めて知ったのは,高速道路のナトリウムランプ。これは,普通の灯かりだと虫が集まり,落ちた虫を引くとスリップしてしまう。だから,虫を寄せないナトリウムランプが開発されたのだそうだ(昆虫の可視波長の範囲がヒトに比べて紫寄りにずれており,赤寄りの長波長は見えないことによる)。

 ところで,いくら正直は美徳と言っても,こう「わからない」を連発されると物足りない思いもつのる。次はもう少し「仮説」を教えてくれる本を取り上げてみることにしたい。

先頭 表紙

ちなみに,奥井一満氏の光文社知恵の森文庫シリーズでは,1冊目の『ミミズは切られて痛がるか―生き物の気持ちになった生物学』がなんといってもオススメです。奥井センセが,右や左に,怒る怒る。 / 烏丸 ( 2000-10-23 18:18 )
水美さま,イチオシの本がございましたら,ぜひとも日記で詳しくご紹介くださいまし。ちなみにソロー(岩波文庫)は我が家のどこかにあったと思うのですが,どうも記憶が……。 / 烏丸 ( 2000-10-21 23:07 )
あっ!変換が・・・疑問画、ではなく、疑問が・・・です。たらーーー / ミスの多いミセス@水美 ( 2000-10-21 19:04 )
烏丸様、僭越ながら、私が読んだ本もご覧になって下さいますか?それは、『人工生命』朝日出版社刊 です。パソコンにはまって、プログラミングに興味を持ったとき読みました。それが、ソローの『森の生活』で、ソローが自然の形態についてもった疑問画、この本の中で解き明かされているのです。あー、不思議なつながり!と涙がちょちょぎれました。ソローも良いですよね。あほな頭で考えたことですから、烏丸様には笑われそうですけど・・・・お許しを! / 本がだいすき@水美 ( 2000-10-21 19:01 )

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