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烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2000-12-04 トホホな犯人,警察もトホホ 『事件のカンヅメ』 村野 薫 / 新潮OH!文庫
2000-12-04 マンガを語る試み 『マンガと「戦争」』 夏目房之介 / 講談社現代新書
2000-12-03 安楽椅子探偵短編集のイチオシ 『ママは何でも知っている』 ジェイムズ・ヤッフェ,小尾芙佐 訳 / ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス
2000-12-01 光あるところに影がある 『史上最強のオタク座談会 封印』 岡田斗司夫・田中公平・山本 弘 / 音楽専科社
2000-11-30 妻は夫の奴隷か!?(←ちょっと大げさ) 『ミミズクとオリーブ』 芦原すなお / 東京創元社(創元推理文庫)
2000-11-29 作家が選んだ第2位 『サム・ホーソーンの事件簿I』 エドワード・D・ホック / 東京創元社(創元推理文庫)
2000-11-28 烏丸のそれはちょっといやだ その10 『不肖・宮嶋の一見必撮!』 宮嶋茂樹 / 文藝春秋
2000-11-27 烏丸のそれはちょっといやだ その9 『魔術師さがし』 佐藤史生 / 小学館(プチフラワーコミックス)
2000-11-27 烏丸のそれはちょっといやだ その8 『猟奇文学館1 監禁淫楽』 七北数人 編 / ちくま文庫
2000-11-26 烏丸のそれはちょっといやだ その7 『女(わたし)には向かない職業2 なんとかなるわよ』 いしいひさいち / 東京創元社


2000-12-04 トホホな犯人,警察もトホホ 『事件のカンヅメ』 村野 薫 / 新潮OH!文庫


【貴弘 嫌疑晴れた帰れ 美和子】

 少し前にも触れたが,最近,文庫のお色直しや新規参入が続いている。中でも「光文社知恵の森文庫」と「新潮OH!文庫」は個人的に肌が合うようだ。もっとも「知恵の森文庫」は光文社文庫の一部の装丁を変えたもので,なにしろカッパブックスを抱える会社だけに備蓄が豊富。一方の「新潮OH!文庫」は『恐るべきさぬきうどん 麺地創造の巻』『オタク学入門』『漫画の時間』など,なかなか新味が感じられてよろしい。

 本日ご紹介する『事件のカンヅメ』は新聞の三面を沸かした犯罪を振り返るというもので,決して突出したクオリティではないが週刊誌的に気楽に読めて楽しい。「思わずトホホな犯罪テンコ盛り」というサブタイトルからはB級事件物かと思われるが,扱われるのは誘拐,放火,脱獄,銃乱射,ハイジャック,毒殺などその折り折りに朝刊一面を飾ったに違いないシリアスな事件で,しかし犯人の動向をこまめに見ると情けない,そんな内容である。細部の真偽は不明だし資料性も高いとは言えないが,出張途上の時間つぶし等には最適だろう。

 まずは「カネは天下の拾い物」と題し,拾得者成金になるにはというお話。埼玉県だけでも現金を落としたり置き忘れたりといった遺失届けがなんと約19億円(95年),JR東日本で約14億円(92年)。しかし公道上に落ちているお金の場合どんなに早く見つけても実際に拾わない限り拾得者としての権利は生じないそうだ。ともかく拾うべし。

 新聞社会面の尋ね人欄,「準 連絡待つ 姉・兄」とかいうアレだが,実はそれを利用して脅迫者とのやり取りが行われることもあるらしい(横浜銀行の顧客リスト流出事件,小学生誘拐監禁事件,かい人21面相事件など)。また,求人欄を利用して保険金殺人や誘拐の対象を漁ることもあるようなので油断できない。
 なお,グリコや森永から金を強奪しようとした稀代の知能犯「かい人21面相」は,その11年前の大阪ニセ夜間金庫事件,デパート脅迫事件と同一犯ではないかと取り沙汰されたそうな。

 また放火について,理容店を営む男が休日のサウナの帰りがけに放火する「火曜日の放火魔」,あるいはジャイアンツファンによる「巨人軍敗戦日の放火魔」など,情けない例も紹介されている。

 ところで本書でも16件のうち「政治や思想的動機で実行されたのは最初の『よど号』事件だけ」と指摘されているように情けない犯人の多いわが国のハイジャック事件だが,99年7月の全日空機ハイジャック事件についてはこの烏丸,少々納得のいかないことがある。
 この事件の直後のテレビニュースで,アナウンサーは「機長の機転」と言った(本当)。
 犯人がスチュワーデスを脅してコックピットに押し入ろうとした際,操縦桿を握っていたのは副操縦士で,機長はノックの音に様子がおかしいと覗き穴から状況を覗き,自らドアを開けた……ということを報道するのに,なぜ「ドアが開けられたのは機長の機転であったことがわかりました」となるのだ?
・(飛び道具でも爆弾でもない)セラミック包丁を持った犯人をコックピットに進んで招き入れ
・結果的に操縦桿を握らせ
・推定200メートルという低空飛行で500人の乗客の命を危険にさらした
のは,まさしくその機長ではないか。刺されて亡くなったことは気の毒としても,どこにも英雄的な要素はない。
 これがなぜ,その後のテレビ報道や雑誌グラビアでは「516人を守った機長」一色になってしまうのか。

先頭 表紙

この本にも載っていた,銀座で1億円拾った(1980年)大貫さんが亡くなったそうです。享年62歳。 / 烏丸 ( 2000-12-06 12:21 )
「飛雄馬 パーフェクトかたついた帰れ 一徹」 ← 『巨人の星』連載終了直後の少年マガジン別冊に載っていた(本当)。 / 烏丸 ( 2000-12-05 13:07 )
「家人 本売った帰れ 烏丸」 / こすもぽたりん ( 2000-12-05 01:37 )
あっ、一度目に読んだ時は見逃していた! 尋ね人欄に美和子が! / こすもぽたりん ( 2000-12-05 01:35 )

2000-12-04 マンガを語る試み 『マンガと「戦争」』 夏目房之介 / 講談社現代新書


【ゴルゴの内面や自意識は意味をなさず,そのぶんだけ悲劇は軽くなる】

 著者・夏目房之介は夏目漱石の孫だが,それとは全然関係なく,他者のマンガ作品を語るのに自らのペンでキャラクターやコマを模写し,その上でその描線やコマ割り,動き,記号,セリフ等にいかなる意味がこめられているかを分析するという説得力溢れる手法,いわばマンガに対するアグレッシブな批評法を確立したマンガ評論家である。とくに『消えた魔球 熱血スポーツ漫画はいかにして燃えつきたか』は戦後スポーツマンガを容赦なくエグる,マンガ界の死海文書ともいえる名著。もちろん,アグレッシブな批評だから正しい,などという論拠はなく,好みが噛み合わない点だって多々あるだろうが,夏目がマンガを読み,語ることの領域を広げてくれたことは間違いない事実だろう。
 ただし,本書『マンガと「戦争」』では,ストーリーやセリフに重点が置かれたためか,引用は模写ではなく単なるコピーである。

 本書で夏目は,手塚治虫,ちばてつや,水木しげるから宇宙戦艦ヤマト,大友克洋,ナウシカ,エヴァンゲリオンにいたる,戦後のマンガやアニメが,戦争をどうとらえ,どう描いてきたかを分析する。
 手塚的未来破局SFにおけるユートピア思想がデビルマンによって覆され,さらにAKIRAによって皮膚の境界線を喪失していき,戦争が個人のトラウマの中に埋没するエヴァにいたる……といった歴史観から,『沈黙の艦隊』の海江田艦長のアップが連載初期の三白眼のキツネ目の「欧米人には日本人の表情って,こんな風に不気味に見えるんじゃないか」から,国連会場で米大統領と向き合う場面では「体格も表情も米大統領と遜色ない」,いわば世界や米国に対して理念として堂々と対峙したい日本人の理想像に変わっていく(これは鋭い),といった各論まで。
 ただ,確かに随所に鋭角的な洞察,論理展開はあるのだが,強いていうなら,あまりに論旨が明快すぎて「個々の作品世界をそんなシンプルにまとめて大丈夫か」と心配な面はある。また,戦争という切り口に限っても,取り上げられた作品が少なく(たとえば少女マンガは1作も触れていないし,『はだしのゲン』を含め被害者サイドに視点をしぼった索引はほとんど扱われていない),単行本としてはせめてこの十倍のページは必要なようにも思われる。早い話がテーマのあまりの重さに対し,中身が十分厚いとは言えないのだ。引用のカットが多いこともあって,1時間もあれば目を通せる……というのは,やはり短すぎだろう。終戦後55年が1時間。5時間,10時間ならOKかといえば,そんな問題ではないが。

 それでも,自分の言い著したいことのために作品を引き合いに出すマンガ批評,あるいは「今日は遠足に行きました。とても楽しかったです。」レベルの感想文が多い中,夏目房之介の作者憑依型(?)批評のリアリティは捨てがたい。
 マンガについてあれこれ考えたい,表現したい向きには,とりあえずお奨め。

 ところで,夏目センセイもおっしゃっておられるが,大手出版社はマンガで儲けている割りにはマンガの資料整備に冷たい。単行本収録作品に初出が明記されてないなど論外,どこか,大枚はたいて年度別日本戦後マンガ全史ハードカバー全55巻をまとめてくれないものか。夏目センセイやオタキングらを動員して,1巻2,000円,1セット110,000円なら買うぞ。きっと。えー,家人さえ了解してくれれば。多分。

先頭 表紙

ふと思うに,マンガ評論家としては夏目房之介のライバルにあたる(そんな意識はないかもしれませんが)関川夏央が『「坊っちゃん」の時代』で描き上げた漱石があのように情けない酒乱のオヤジであるのは,ちょっとだけ笑えるような気もします。 / 烏丸 ( 2000-12-05 13:15 )
『あの頃マンガは…』は料理でいえば「不味い!」。こちらはせいぜい「量が少ない」ですから格段にマシです。もうちょっと塩加減をなんとかしてほしかったところもありますが。 / 烏丸 ( 2000-12-05 00:57 )
『あの頃マンガは思春期だった』で、「偉人の孫ってのもタイヘンなのねえ」と思って以来避けていましたが、これは面白そうですな。『日本戦後マンガ全史』の方も、11万なら買うでしょう。 / こすもぽたりん ( 2000-12-05 00:46 )

2000-12-03 安楽椅子探偵短編集のイチオシ 『ママは何でも知っている』 ジェイムズ・ヤッフェ,小尾芙佐 訳 / ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス


【あんた方のおつむも少ししめあげるんだね】

 先だって酷評した芦原すなおの『ミミズクとオリーブ』だが,これが何を狙ったものかといえばそれはもう間違いなくヤッフェの「ブロンクスのママ」シリーズだろう。

 毎週金曜日の夜,ママの家を息子のデイビッドとその妻シャーリイが訪ねてくる。デイビッドは殺人課に務める刑事,美味しいチキンを食べながら彼が話題にする事件を,ママはいとも簡単にくつがえしてしまう。
「3人の中に彼女を殺した者がいるのは間違いないのに,誰が犯人か決め手がないんだ」
「まったくあんたたちときたら,鼻の先も見えないんだから」
 ロシアからアメリカに渡ってきたユダヤ系移民の娘で,ブロンクスに育ち,貧しい生活の中で誰にも欺かれないよう目を配り続けてきたママにとって警察の調査など児戯にも等しいのである。

 「ブロンクスのママ」がエラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン(EQMM)に登場したのは1952年。知名度が今ひとつなのは,アメリカでは短編集の形でまとめられておらず,このようにまとめてママの推理が読めるのは日本だけなのだそうだ。逆に日本での本書の人気はなかなかたいしたもので,早川書房の『ミステリ・ハンドブック』(1991年)でのミステリ短編ランキング第10位,光文社『EQ』130号のオールタイム・ベストでも第9位,光文社『文庫の雑誌 本格推理12』アンケートでもルルーやフィルポッツと並んで作家名の8番目に名が挙がる。

 収録作品はいずれも短く,基本的には先に書いたようにママのところに息子夫婦が集い,手料理を美味しく食べながら事件の話題が提出され,明らかと思われる容疑者にママが疑義をはさんで2,3質問をし,その答えにママが事件の真相を確信する,という具合。従兄弟や近所のつきあいなど,ママがこれまでの人生で出会った人々の他愛ない行為が事件を解くヒントになるあたり,クリスティのミス・マープルものも思わせる。
 ママは誠実で情に厚いが,息子をいつまでも子供扱いしたり,嫁と競い合ったりと,それなりに煩わしい面もきちんと描かれる。登場する殺人事件はいずれも金や愛情のもつれによる市井のトラブルで,凶悪な連続殺人鬼などは登場しない。しかし,事件にいたる犯人や容疑者の事情,ママの謎解きの説得力は行数を費やしてないわりには重厚で,ことに老人がかかわる事件,子供がかかわる事件についてのママの反応はシリアス。『ミミズクとオリーブ』などこれに比べればピースが2つか3つしかないジグソーパズルにしか見えないほどだ。
 書かれたのが半世紀も前だけにタッチが古いのは否めないが,ミステリ好きな方にはチェスタトンの『ブラウン神父の童心』,アシモフの『黒後家蜘蛛の会』などとともにぜひ読んでいただきたいと思う。

 ……なんてエラそうに書いてはいるが,この烏丸,実は本作をずっと「ハヤカワミステリ文庫」収録作品と思い込み,「こんなにあちこちで絶賛されているのに,なぜ本屋で見かけないのだろう。古いから品切れなのかしら」などと長年困ったちゃんなことを言っていたのであった。縦長版形のハヤカワ・ポケット・ミステリのほうだったのね。

先頭 表紙

2000-12-01 光あるところに影がある 『史上最強のオタク座談会 封印』 岡田斗司夫・田中公平・山本 弘 / 音楽専科社


【トトロの森のエコ・ジジイ(笑)】

 やはりオタクたる者,無難に嫌われない安易な道よりは己の信じるイバラの道を歩むのが正しい「若さゆえの過ち」である。本書はオタキング・岡田斗司夫,正しい音楽家・田中公平,と学会会長・山本弘による鼎談であり,『オタク学入門』から一歩進んだオタク学応用編と言えよう。
 もともとは音楽専科社の「hm3」(hm3は「Hyper Multimedia Music Magazine」の略,実のところ季刊の声優雑誌である)に掲載された対談で,「あまりにやばい」と削られた部分までかなり忠実に再現したものである。確かに相当やばい。アニメ雑誌ではまず掲載は不可能だったろう。

 内容は
  宇宙戦艦ヤマト徹底大研究
  起動戦士ガンダム徹底大研究
  宮崎アニメ徹底大研究
  付録ノストラダムス大いに笑う
に分かれ,基本的にはヤマト以来のアニメ制作にまつわる「ウォッチャー」及び「現場者」としてあれこれ語り合うというもの。
 ともかく,危ない裏話にはことかかない。あるところで「××××は」などと匿名にしてあるので,「そうか,さすがにこれは匿名扱いなのか」と思いつつ読み進むと,ほかの章の内容を重ね合わせればしっかり名前や仕事がまるわかりになったりする。大丈夫か。

 たとえば,オタキングが宇宙戦艦ヤマトのスタッフルームへ遊びに言って「ヤマトの設定見せて!」と言ったら,全員顔を見合わせるという。ものすごいデカいキャビネットを開いたら,180センチぐらい紙が積んであって,しかもそのドアに「1」と書いてあるというのだ。スタッフとの打ち合わせや大学教授を招いてのブレイン・ストーミングを全部テープ起こししているらしい。内容はアイデアの宝庫で,これから発表されるSF作品はすべてその中にあるのではと思われるほどだが,量が多すぎてもう誰も活用できない。

 あるいは,

田中 ●本●之さんがね,あの人幽体離脱できてん,昔。で,ある声優さんに「昨日,君の部屋へ行ってきたよ」って行って,(中略)「ベッドの上に赤いタオルがあったでしょ」「ええ〜っ!?」ってゾッとしたって話があったよ。
山本 それ,窓からのぞいたんちゃいます(笑)?  

 もしくは,実はドラえもんの声優とのび太君の声優は無茶苦茶仲が悪く,狭いアフレコ室ではしとはしに座っているらしい。ほかの声優が気を遣って大変そうだ。

 さらに,

田中 『ガオガイガー』の1話が(セルが)1万2000枚なんですよ。バカでしょ?
山本 バカですね(笑)。
田中 何を考えてんねん。初めにそんなやったら,あとはどないすんねん!?言うて。

岡田 筒井康隆ヘンですよ。やっぱちょっと神経症的なところがあって。話してる時にこやかなんですけどね。家帰ったら「あれはああいう意味やったに違いない…!」と思って電話かけてくるんですよ。「君はこういう意味で言うたね!?」「言うてまへん…」(笑)!

岡田 (ガンダムの富野はモビルスーツに)性器つけるんですよ。女性器か男性器かどっちか。で,メカの話する時も,すぐそういう下ネタに走るんですよ,打ち合わせが。
(中略)
山本 じゃあやっぱり,シャアがララァをバイブ調教したって話もホントやないかなー(笑)?

 ……などなど,ああもう! きりがない!

 ガンダムや宮崎駿の悪口は許さない,というファンは読まないほうがよいかもしれない。……いや,むしろ読んでほしい。
 オタクの道は批評の道。妄執はオタクのわざではないのである。

先頭 表紙

と思っていたら,続巻,続々巻が出てしまいましたねえ。やはり音楽専科社では文庫系の出版社と付き合いがないのか。今オタク系といえば「光文社知恵の森文庫」か「新潮OH!文庫」なんですが。 / 烏丸 ( 2000-12-05 00:59 )
文庫になったら買おっと。 / こすもぽたりん ( 2000-12-05 00:44 )
いやいやー,この対談を読むと,「ヘンな人」でないとアニメやっちゃいかんのか〜な気分のハンペンでございます。 / 烏丸 ( 2000-12-02 22:49 )
声優通に聞いたところによると、「大山さんは変わった人だからねえ…」ということでした。 / こすもぽたりん ( 2000-12-02 22:00 )
あ、惜しい、今見たら11112ヒットざました。 / こすもぽたりん ( 2000-12-02 21:59 )
「のび太のくせにナマイキだぞ!」を間違って大山さんが読んだりしてほしかった・・。 / あやや ( 2000-12-02 05:06 )
「だめだなあのび太くんは」「ドラえもんなんか,きらいだあ」……周囲の緊張を想像すると,けっこうすごいものがあります。シナリオ担当者ははらはらしているのか,楽しんでいるのか。 / 烏丸 ( 2000-12-02 02:10 )
大山のぶよと小原乃梨子は仲が悪いのかあ、と思いつつ観た今日の「ドラえもん」は一味違いましたです。 / こすもぽたりん ( 2000-12-01 19:41 )
中堅課長が3人そろって,会社の役員,部長の悪口をまとめたようなもんですからねえ。……しかし,本当はここにも載せられないもっとやばい話がいっぱいあるに違いない。 / 烏丸 ( 2000-12-01 18:06 )
唐沢俊一が「なぜオレを呼ばない」と怒り、読み進むにつれ「呼ばれなくてよかった…」と思ったという本ですな。 / こすもぽたりん ( 2000-12-01 17:54 )

2000-11-30 妻は夫の奴隷か!?(←ちょっと大げさ) 『ミミズクとオリーブ』 芦原すなお / 東京創元社(創元推理文庫)


【中年夫婦デンデケデケデケ】

 創元推理文庫だからといってゆめゆめ推理小説だと考えてはいけない。せいぜい亜・推理小説,セミ・ミステリとみなすべきだろう。ちなみに「亜」は「あるものの次に位置する」,「semi」は「半分」といった意味であって,実際のミステリ度はさらに低い。

 内容は作家たる語り手の妻が縫い物,洗濯,料理の合間に難事件を説く,という趣向の短編集。ミステリでいうところの安楽椅子探偵モノなのだが,いずれも勘で言い当てているだけで,とても推理といえるようなものではない。というより,これが創元推理文庫では,プロ目指して日夜犯罪やトリックに思いをめぐらせている作家のタマゴ諸氏が気の毒でならない。
 語り手の家の庭のオリーブの木も,そこに訪れるミミズクもただの飾りであって(ギリシア神話の知恵の女神アテナがフクロウを愛好したことによるにせよ),推理の展開にとくに関連はない。さらに随所に登場する「焼いたマテ貝の入った『分葱和え』,南瓜のきんとん。讃岐名物の『醤油豆』。焼いたカマスのすり身と味噌をこね合わせた『さつま』,黒砂糖と醤油で煮つけた豆腐と揚げの煮物。カラ付きの小海老と拍子木に切った大根の煮しめ。新ジャガと小ぶりの目板ガレイ(ぼくらの郷里ではこれをメダカと呼ぶ)の唐揚げ」といった田舎料理の数々も事件とはなんら関係ない。
 だからこれは,讃岐の高校生たちの恋と青春を描いた『青春デンデケデケデケ』の作者によるほのぼの夫婦小説であって,それ以外のものを期待してはならない。

 ということで読み終えたら本棚のコヤシにするか♪本を売るならBOOK・OFFに「お代はいらねえ」と叩き捨てればよいのだが,なぜわざわざ取り上げるかといえば加納朋子の解説が不愉快,というか不可解だったからである。

 加納朋子についてはこすもぽたりん氏が『ななつのこ』を紹介しているが,いわゆる「日常の謎」系の若手ミステリ作家の類である。それは別によい。彼女が解説で本『ミミズクとオリーブ』をベタボメしているのも,まあしかたない。探偵役の妻を「私なんかよりずっと心が広くて優しくて感受性も豊か」と言うのも(なんで「私」が出てくるのかひっかからんでもないが),ほっとけばよいだろう。
 しかし,そこから「確かに女性が男性を知っているほどには,男性は女性を知らない,という気もします。ということはすなわち,人間をもっとも知っているのは女,ということになるのでしょうか」と導くのはいくらなんでも牽強付会が過ぎるというものだ。
 本書の妻は本の中の架空の存在で(当たり前だ),その妻の言動を描いた芦原すなおは男性だ。勘違いを差っ引けば,この一節は「女である私は人間をよく知っている」としか読めないのである。
 ちなみに男であれ女であれ,「人間をよく知っている」などと平気で口にする輩は信用できない。傲慢か馬鹿か,あるいはその両方だからである。

 さらにいえば,この黙々と夫にかしずき,掃除や洗濯,料理や縫い物ばかり受け持たされる妻,そして主婦をそう描いてしまう作者が,烏丸には不快でならない。語り手の友人が手土産に持ってきたオコゼ4匹を,唐揚げにしてビール,薄造りにしてポン酢と浅葱をそえて日本酒,さらに鍋になったところでようやく妻が座って晩餐に参加する……ここに描かれているのは,まるで男に尽くす召し使いのような主婦の姿であり,そんな姿を無条件にほめちぎる加納朋子もどうかしているのではないか。
 妻は夫の母親ではない。

 と,日記には書いておこう。

先頭 表紙

もちろん,亜・推理小説といえば泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』。 / これまたベタ 烏丸 ( 2000-12-01 18:03 )
セミ・ミステリといえば、やはり北村薫『夜の…』 / ベタですんまそん(©おさる) ( 2000-12-01 17:55 )
たら子母さま,烏丸は男尊女卑な本やエロい本も喜んで読みはしますが,この本や加納朋子の解説が嫌なのはそういう点について全く無自覚なことです。わかった上で夫婦の役割分担するのは別によいと思うのですが,どうも芦原すなおは「女は家にすっこもっているものだ」みたいな考え方をかけらも疑ってないようで,それが神経にさわるのです。 / 烏丸 ( 2000-11-30 19:32 )
おっしゃる通りですわ。「青春デンデケデケデケ」買ったけど、たぶん1回通して読んですぐ古本屋に売りました。 / プンプン妻 ( 2000-11-30 18:48 )

2000-11-29 作家が選んだ第2位 『サム・ホーソーンの事件簿I』 エドワード・D・ホック / 東京創元社(創元推理文庫)


【古き良き時代の犯罪】

 腰巻きの「IN★POCKET 文庫翻訳ミステリーベスト10 作家が選んだ第2位 不可能犯罪愛好家必読!」の惹句も目に鮮やかな,エドワード・D・ホック(1930〜)の短編集。今年5月の発行。

 映画化を意識してか単にウケの問題か,昨今の欧米ミステリといえばサスペンス&長編が主流。そんな中,ホックは現役では非常に珍しい短編のスペシャリスト,しかも不可能犯罪パズラーが得意という,本格ファンには得がたい作家である。
 サム・ホーソーンシリーズは禁酒法のさなかの1922年を端緒に,医師が,自らかかわった事件を現在から振り返って語るという体裁のもの。舞台はアメリカ,ニューイングランドの田舎町ノースモント。『事件簿I』には初期のサム・ホーソーンもの12編と短編「長い墜落」が収録されているが,いずれもトリッキーな不可能犯罪が描かれている。

 たとえばシリーズ第1作の「有蓋橋の謎」(1974年発表)では,雪の降り積もった道を2台の馬車が走り,後からきた2台目の馬車が有蓋橋の入り口に到着してみると,轍の跡は残っているのに1台目の馬車が橋の中にいない,出口のほうにも出た形跡がない。馬車を操っていた若者は離れた場所で死体で発見される。
 続く「水車小屋の謎」では,水車小屋に住みついた男がボストンに宛てて送った頑丈な手提げ金庫から膨大な本や書類が消失し,男は水車小屋の火事跡から頭を殴られた死体として発見される。
 「投票ブースの謎」はさらにすごい。選挙当日の衆人環視の中,3方を堅い木で囲まれ,入口がカーテンで仕切られた投票ブースの中で立候補者の1人が刺され,死んでしまう。はたして殺害方法は。また,凶器はどこに。
 ノンシリーズの「長い墜落」では,会社社長が21階の窓ガラスを割って飛び降りたのに,地上では誰も落ちてきた気配がなく,途中に引っかかるような場所もない。そして4時間後,そこに墜落死した社長が発見される。短編ながら,張り巡らされた伏線が見事。

 そのほか,ブランコに乗っていて先生がちょっと目を離したすきに誘拐されてしまった少年,「エルフ」と書き残して密室で殺されていた車掌,行き止まりの廊下から消え去った覆面強盗,観衆の目前で閉じられ埋められたタイムカプセルの中に転がっていた死体,パラシュートで降下中に絞殺されたスタントマン……。

 いずれもなかなか魅力的な不可能犯罪であり,ホーソーン医師による謎解きも面白い。もちろん,指紋や解剖といった科学捜査の発達していない1920年代だからまかり通る,という話もあるし,無理押しな謎解きもなくはない。しかし,全体的にはホームズ譚を読むような,ノスタルジックで手応え豊かな時間を過ごすことができる。
 サム・ホーソーンシリーズはすでに59話まで書かれているそうで,『事件簿II』以降の発売が待たれるところである。

 ところで,「作家が選んだ第2位」とあるからには「第1位」もあるはずだ。しかし,創元推理文庫の棚を探しても見当たらない。考えてみれば当然で,「IN★POCKET」は講談社の小冊子,ベスト10は東京創元社の文庫に限定されるわけではない。
 調べたところ,2000年文庫翻訳ミステリの第1位は「読者が選んだ」「作家が選んだ」ともにトマス・ハリスの『ハンニバル』(新潮文庫)であった。なるほど。

先頭 表紙

2000-11-28 烏丸のそれはちょっといやだ その10 『不肖・宮嶋の一見必撮!』 宮嶋茂樹 / 文藝春秋


【破滅に向かってまっしぐら,写真界の横山やすし】

 『不肖・宮嶋の ネェちゃん撮らせんかい!』に続いての宮嶋本ご紹介である。しかし……「それはちょっといやだ」シリーズ最終回で,よもや不肖・宮嶋を取り上げることになるとは。この烏丸,涙でディスプレイもにじもうかというものである。

 思えばこれまで,週刊文春のグラビア担当でありながら,クレスト新社,太田出版,新潮社,祥伝社,ザ・マサダなど他の版社を転戦してきた不肖・宮嶋,ついに大本営,芥川賞・直木賞の文藝春秋からの単行本化である。紅白饅頭に注連縄(しめなわ)を副えておごそかに書評したいものだ……が。残念ながらヌルい。これまでの彼の全著作中で最もヌルい。無残なまでに,ヌルい。

 理由の一,文字量が少ない。
 各ページ,縦36文字×横12行である。活字の詰まった文庫本が43文字×20行であることを思えば,隙間だらけである。しかも,ただでさえ文字の少ない割組みに加え,26ある各章すべてに宮嶋のおちゃらけ写真,おちゃらけ川柳がだっふり幅をきかせているのである。

 理由のニ,もちろん宮嶋茂樹はカメラマンであって,文字が少なくとも写真が語れば善哉。しかし,その写真がヌルい。
 以前も述べたが,ノルマンディー上陸作戦50周年記念式典でドイツ軍の制服を着て日章旗を振り,金日成の像の前では同じポーズをとって撮影されるなど,「そこまでやるんかいな」と伊勢エビも直立不動するような,そんなミッションがない。
 もちろん,戦火のチェチェンに赴く,水中に落ちていく航空機のコックピットから脱出するディッチング・トレーニングなど,宮嶋が今もスクープに生命を張っていることは否定しない。しかし,法の華の取材撮影,輸送艦「みうら」の退役式典,ローラーゲーム,エアロビ大会,林眞須美宅解体現場……通して読めば,どうにもヌルいのである。文章の突っ込みも甘いのである。

 理由の三,編集方針がなんか違う。
 先にも述べた通り,各章の頭には不肖・宮嶋のおちゃらけ写真が並んでいる。本文内写真にも宮嶋は頻出する。表回り含めれば,ざっと数えて40枚以上,宮嶋当人の写真が載っているわけである。
 これではもはやお笑いタレント本ではないか。

 不肖・宮嶋ファンは,静止映像としての宮嶋当人のファンではない。
 自衛隊,オウム,北朝鮮,戦場,動乱,容疑者,きれいなネェちゃん,そういったターゲットにくらいつき,糞をたらし,はいつくばってでもスクープを狙う,その「矢印」が興奮を呼び,笑いを誘うのである。だから文章はノリのよい現在進行形でないといかんのである。各章におちゃらけ写真と川柳を付けるのは,サービスのつもりかもしれんが,それはそのスクープ写真を狙う宮嶋を過去のある時点に追いやるだけであって,「矢印」本来の魅力は失われてしまうのである。これではオートバイの名車を博物館のガラスの中に置いて,ほらえーやろ,とゾクのニィちゃんから拝観料取るようなもんである。なんでそれがわからん。

 実は,今回唯一嬉しかったのは,紀伊国屋BookWebが「裏カバーに若干のキズがあるので1割引きにいたします」と言ってくれたことであった。見れば爪でひっかいた程度。携帯電話,ボールペンと一緒にカバンに入れればすぐつくような,書店店頭でも気にしない程の些細なキズである。再手配などお願いせずありがたく1割引きでお支払いさせていただいたが……待望の不肖・宮嶋の新刊でこんなことが一番ありがたいとは。……それはすごくいやだ。

先頭 表紙

ネタの多くが不肖・宮嶋のヒット作の後追いであること(「みうら」とか「林眞須美宅」とか),新潟少女監禁事件のように同じネタで2題とっていることなど,週刊文春のグラビアならおっけーでも,単行本にされるとちょと待てな感じです。結局,不肖・宮嶋本がある程度売れるのが明らかになって,ネタが十分集まる前に本にしてしまったということでしょう。 / 烏丸 ( 2000-11-29 12:27 )
いやいや、まったくもってこの本にはやられました。「宮嶋、宦官になっちゃったの?」という感じでございました。 / こすもぽたりん ( 2000-11-29 01:49 )
エルさま,烏丸の「シリーズ」は,書評を書く自分のためのハッパかけのようなもので,たとえばケロロ軍曹のように全体の構成を考えたりしているわけではありません。ですので,また似たり寄ったりの書評が続くと思われます……。しかし,次は何をとりあげましょうかねえ。 / 烏丸 ( 2000-11-29 01:38 )
たら子母さま,文藝春秋としては初めての本ですから,手抜きというよりは勘違いだと思うのですが……内輪のことはわかりませんが,単行本の編集に妙に手馴れた担当者の手による本なのかな,という気がします。宮嶋の魅力はそういうところではなく,不器用ながらしつこくしつこく,だと思うんですが。 / 烏丸 ( 2000-11-29 01:35 )
「それはちょっといやだ」シリーズ最終回なんですか??もっと沢山読みたいです。。しかしオチが一割引とは。 / エル ( 2000-11-29 00:23 )
それはまた、同じ宮嶋さんの別の本とは天と地の評価の違いですねえ。まあ、製作側も二匹目のドジョウを狙うと手抜きになるんでしょうか。 / たら子母 ( 2000-11-29 00:05 )

2000-11-27 烏丸のそれはちょっといやだ その9 『魔術師さがし』 佐藤史生 / 小学館(プチフラワーコミックス)


【もどすって? だから“竜”に】

 新刊情報に注意はしているが,無論チェック漏れもよくある。書店でたまたま佐藤史生の『魔術師さがし』を見つけたときは本当に嬉しかった。

 なにしろ前作『心臓のない巨人』が99年1月。2年ぶりというのはそれでもましなほうでその前の『鬼追うもの』が95年6月,その前の『精霊王』が89年11月と,寡作と言うも虚しい竜舌蘭のようなマンガ家なのである。
 それでも,幸い,遠過去ファンタジーの傑作『夢みる惑星』全3巻,華厳的世界観とコンピュータを扱った怪作『ワン・ゼロ』全4巻は小学館から文庫化されて現在も入手可能だ。絵に対する好みはさておき,SFファン,コンピュータ技術者の方々はぜひ手に取ってご覧いただきたい。とくに後者について,コンピュータを扱ったマンガでこれほどバイナリという概念をバイナリに溶かしたものは見たことがない。しかもテーマはサイバーパンクよりディーバで切実。これに比べれば理系ミステリ作家とやらの作品など入学前の数のおけいこのようなものだ。

 紹介の順が逆になったが,佐藤史生(ペンネームは砂糖と塩から)は少女マンガに革命をもたらしたと言われる24年組・ポスト24年組の1人で,竹宮恵子,萩尾望都らのアシスタントを経てデビュー,坂田靖子,花郁悠紀子,山岸凉子らと親交がある(あった)らしい。問題は『金星樹』『春を夢みし』など70年代後半の初期作品は別にして,その後不親切極まりない作家になってしまったことである。
 不親切とは,要するに,難しいのだ。テーマの多くは(恋愛を扱う際でさえ)およそ通俗的でなく,ある種の状況や感情を描くのに多くの読者に理解しやすい従来の方法を決して用いず,徹底的に異様な設定構築に突っ走っていく。その結果,読者は突き放され,頑張って一字一句読み込んで頑張らないとついていけないということが起こる。その代わり,ひとたび懸命に頭と感性を駆使して読んだなら……佐藤史生的としか表現しようのない,えも言われぬ独特な彩り,手応えが得られるのである。

 本作『魔術師さがし』はこんな始まり方をする。
 大魔法使い(グラン・メール)パングロスが,彼が封印されていたパンタレイ島で行方不明になり,彼をさがすためにマスターチャリスの依頼で名だたる魔術師達が召還される。彼らはまず竜穴のあるエニグマ・ピークに向かい,事態の把握に努めるが……。ここまで読むと剣と魔法のファンタジーと思われそうだが,実際はまるっきり違う。これは,ある種の知性の誕生物語なのだ(これ以上書くとネタバレになるのでこんな妙な書き方しかできないが)。

 それにしても,難しい。コムズカシイのではなく,本気でムズカシイ。
 単行本のために描かれた番外編では,たとえば次のようなやり取りがなされる(作者の一種の悪戯だろう)。

  ベビー「彼らが世界をみる そのみえ方が彼らの言語系だよ パングロス!」
  パングロス「人間の数だけ視点がある──?」

  パングロス「しかし……わたしは本質を理解したい」
  ベビー「人間は趣味をもつ 偽装人格(ペルソナ)も然りだ」

 必死で追いかけようとしている,というのが実情で,今のところなんとか面白がっていられるが,これ以上作者が読み手レベルを「高い」に設定してしまったら……それはちょっといやだ。

 しかし,これほど「おどし」た後では信用されないかもしれないが,面白いことは保証する。併録の短編「マルタの女」(マルタは○の中にひらがなの「た」)においても,四国松山へのデパート進出の話がよもやこんな高爽で愉快なオチにいたるとは。

先頭 表紙

この「マルタの女」,ぽたさま紹介の『恐るべきさぬきうどん 麺地創造の巻』,そして創元の新刊の『ミミズクとオリーブ』(芦原すなお)と,ほんの10日ばかりの間に3か所で四国の話題が目に入った。四国が隠れたブームかなんかなのか。まさかね。 / 烏丸 ( 2000-11-28 12:49 )

2000-11-27 烏丸のそれはちょっといやだ その8 『猟奇文学館1 監禁淫楽』 七北数人 編 / ちくま文庫


【その前に体を拭きましょうね】

 1989年1月,19歳のホステスを足立区内のホテルに連れ込み乱暴したとして逮捕された少年達を追及したところ,アルバイト先から自転車に乗って帰宅する途中だった女子高生(17歳)を別の少年の家に拉致監禁,暴行を加えて殺害し,死体をドラム缶にコンクリート詰めして放置したことが明らかになった。

 2000年1月,新潟県内で1990年11月に行方不明になった少女(当時9歳)が19歳になって保護された。彼女は男性(逮捕時37歳)に無理やり連れ去られ,怖くて逃げられなかった,家の外に出たのは今日が初めてと答えた。

 これらの事件が他の営利誘拐や殺人事件に比べても記憶に生々しいのは,少年犯罪,犯行を知りつつ放置した親の責任,警察の不手際などだけでなく,「監禁」という事件そのものの構図が多くの男達の心の闇の琴線に触れたからではないか。
 誰にも渡したくない,触れさせたくない少女を疾風のようにさらい,無垢なまま閉じこめる。食事も洋服も言葉も性も,すべて閉じた函の中で……。
 そんな「監禁」をめぐる古今の短編を集めたのが本書である。収録作は以下の通り。

 皆川博子「朱の檻」
 連城三紀彦「選ばれた女」
 小池真理子「囚われて」
 宇能鴻一郎「ズロース挽歌」
 式 貴士「おれの人形」
 篠田節子「柔らかい手」
 赤江 瀑「女形の橋」
 谷崎潤一郎「天鵞絨の夢」

 大家からミステリ,ホラー,SFとなかなか強烈なラインナップだ。
 だが,読後感は残念ながら今一つ。理由は明らかで,先に挙げた事件が示すように「監禁したいほど恋しい」ことと現実の「監禁」との間には,無関係と言えるほど距離があるからだ。
 それは愛のようで愛ではない。「監禁」による愛の成就など御伽噺に過ぎず,相手に対する不断の思いやりなしにはただの人形遊びに過ぎない。もし「監禁」を描いて何か新しい感動を与える文学があり得るなら,それは山のようなエログロB級作品の中から僥倖のように立ち上るだろう。だが,本集に納められた作品の多くは,時代柄ただ耽美に走った谷崎は別として,書かれた段階ですでになにかしら人間を描こうとする意識が強すぎ,「監禁」の持つ本質的な暴力や「監禁」される者の恐怖,崩壊が描ききれていないような気がする。
 要するに,現実の事件記事のほうがよほど心に深く陰を残すのだ。

 なお,式貴士について少し説明しておこう。おぞおぞするようなグロテスクな刑罰を描いた『カンタン刑』,グロテスクなエロスとSFの結婚『連想トンネル』『吸魂鬼』などの作品は70年代の末から80年代半ばにかけてソニー・マガジンズおよび角川文庫から発行された。SFといっても未来のメカやネットワークが描かれるわけでなく,しいていえば人魚姫を描いてその食事や主人公とのセックスが描かれる,そんな感じだろうか。
 1991年に亡くなった彼にはもう1つの顔がある。ハードレイプ,凌辱を得意とした官能作家,蘭光生である。二見書房の『女教師・犯す』は当時「本の雑誌」で最も過激なアダルト小説とされたように記憶している。現在駅の売店などで売られる(なじみの本屋では買えない)黒い表紙のフランス書院文庫を館淳一とともに初期のころ支えた作家の1人である。
 本集におさめられた「おれの人形」は,式貴士ならではの超能力を持った主人公による拉致監禁レイプ譚。しかし,式作品の淫靡さ,蘭名義のハードさいずれにも欠け,お文学臭の強い本書の1つの限界を示しているようにも思われる。

 ここは1つ自分で監禁文学の傑作を……家人が(また)実家に帰りそうで,それはちょっといやだ。

先頭 表紙

なお,式=蘭,かつさらに,=間羊太郎らしいのですが,こちらの著者名についてはよく知らないので触れませんでした(現代教養文庫に『ミステリ百科事典』という著作あり)。W大ミステリ研のOBでしたかねえ? ともかく現実の拉致監禁事件,この本の書評,式貴士について,の全部を1回で書くのはちょっと無理でしたね。いずれも舌たらずな結果になって,反省。 / 烏丸 ( 2000-11-27 16:18 )
蘭光生が亡くなっていたとは…。学生時代の友人で現在N○Cに勤めるネズミ男クンは、出会う女性全員に蘭光生を薦めていたことだなあ。 / ( 2000-11-27 14:50 )
「戦争も未来も殺人も」……なるほどおっしゃる通りです。経験者だから優れたものが書けるというわけでもありませんしね。烏丸様による監禁文学傑作の誕生をお待ちしてます! 最初の発表はもちろん「ひまじん」で……!? / ( 2000-11-27 13:18 )
「朱の檻」もこの選集に入れるから妙なので,作品として文句があるわけではありません。篠田,小池は,はっきり「監禁」をテーマにして書きながら,ヌルい。式に関しては,「監禁」と「猟奇」をうたいながら式であって蘭でないのはなぜ,ということで編集,築摩のヌルさを感じます。気持ちはわからないではないけど,もっとキツいものがあるのにお茶を濁した感じがしてしまうのです。 / 烏丸 ( 2000-11-27 12:30 )
それから,3000バイトの壁で書ききれなかった点として,谷崎の耽美のことがあるのですが,大正時代にこのような絢爛たる耽美を書いたことは本当に凄いと思います。内容的にも一種徹底している。表現力は烏丸ごときが言うことではない。ただ,「監禁」テーマのオムニバスにこれをいれるべきだったかというとちょっと違う感じがします。 / 烏丸 ( 2000-11-27 12:25 )
そうかもしれませんが,ベルヌが旅行嫌いだったような具合に,実行にいたらない者の想像力にも期待したいのです。そうでないと経験していない者には戦争も未来も殺人も書けないことになってしまいかねない。もちろん,キングが『ミザリー』を書いたのは,ファンに直接監禁された経験はなくともファンの異常心理を常々感じていたため,とかいった具合に,想像の核は必要でしょうが。 / 烏丸 ( 2000-11-27 12:21 )
こういうのはふつうの神経では書けないですよ。耽美や感傷ではね。烏丸様レベルの読者を納得させるようなのが出るとしたら、被害者からしかないでしょう。 / み ( 2000-11-27 11:46 )
何冊か購入経験有りです。マンガ文庫も数冊・・・あれ?どこにしまったっけ?もしかして、息子たちに見つかったかな?(笑) / akemi ( 2000-11-27 02:42 )
↓&↓↓,1分違い。惜しい!(そうか?) それはともかく,びっくりしていただいて本望ではありますが……「式」はともかく「蘭」をご存知とは……。エルさまさすが。ちなみに,烏丸はフランス書院文庫に書いたことはありません,はい。 / 烏丸 ( 2000-11-27 01:41 )
それにしても筑摩書房も,こんな普通の文学短編集に「猟奇文学館」はないよなあ。売れればよいのか。 / 買うほうも買うほう 烏丸 ( 2000-11-27 01:38 )
なんと、式=蘭!びっくりでございます。。「また」って・・もしや、フランス書院の作者の1人が実は烏丸さまだったとか・・? / エル ( 2000-11-27 01:37 )

2000-11-26 烏丸のそれはちょっといやだ その7 『女(わたし)には向かない職業2 なんとかなるわよ』 いしいひさいち / 東京創元社


【ま,ねかせておいてあげなさい】

 11月30日,つまり今から4日後に発行される予定の新刊である。本屋に積んであったのだからよしとしよう。
 1巻については『ののちゃん』の書評内でケロロ軍曹の手で必要にして十分な紹介がなされている。野暮を承知で繰り返すなら,朝日新聞朝刊掲載『ののちゃん』のクラス担任でおなじみ藤原瞳先生が推理小説の新人賞を受賞し,豪放な女流作家として活躍するというもので,タイトルはイギリスの女流作家P・D・ジェイムズの『女(おんな)には向かない職業』(ハヤカワ書房)のパロディである。

 第1巻では「27の瞳」と称して瞳が学校の先生をしながら市民講座で推理小説を学び,新人賞に入選するまでの話がプロローグとして挿入されているが,今回はなんと17歳でソフトボール部に所属する(可憐だ)瞳のノンシャランな日々を描く「17の瞳」(中学時代はアルゼンチンの山奥にいたとは),地元の小学校に赴任する「でもしかの瞳」,『ののちゃん』と同時期の「27の瞳」,そしてミステリ作家としてデビュー後の「34の瞳」という構成になっている。肝心の瞳のノンシャランさ,作家業界の内幕暴露色は残念ながら第1巻に比べるとやや弱いかもしれない。
 ……それにしても,なぜ2巻になってこういう構成なのか。釈然としないので初出一覧を見て,驚いた。小説現代(講談社),朝日新聞,オール讀物(文藝春秋),週刊文春(同),小学四年生(小学館),パロル(パロル舎),小説宝石(光文社),おそい・はやい・ひくい・たかい(ジャパンマシニスト社),おりがみ(清興建設),創元推理(東京創元社)。どんな雑誌かまるでわからないのまで混じっているが,ともかくこれだけバラバラな発表先に4コママンガを書きまくり,集めてみれば大河ドラマとまでは言わないまでも,全体を通してスジの通る一人の作家の人生が描かれているわけである。

 どうもこのいしいひさいち,底が読めない。やくみつる(=はた山ハッチ)らのスポーツ4コマの先鞭を切ったのは当人だし,秋月りすのOL4コマに対しては『ノンキャリウーマン』,植田まさし『コボちゃん』等に対しては『ののちゃん』があり,業田良家『自虐の詩』が4コマで大河ドラマを!? と言えば,しれっとこういうことをしてみせる(もちろん,『女には向かない職業』と『自虐の詩』を同次元で語るのは双方のファンにとって無理があるとは思うのだが)。
 4コマでどうしてこんなことができるのか,と思っているうちにいつの間にか単行本も100冊を越え,とどまるところを知らない。ドーナツブックスの4コマだけでもすでに4483作品。貧相な自画像の下に,どれほどの余力が残されているのか。ときどき,いしいひさいちの本当の姿を知らないまま,釈迦の掌の上を飛んでいる猿のような気分にさえなってしまう。いしい家の金庫には25年前に描かれた全シリーズの最終回がしまわれているとか,著者の死後全作品をグラウンドに並べてヘリコプターから見たら新たな4コマ作品が浮かび上がるとか……それはちょっといやだ。

 なお,東京創元社からはほぼ同時に『大問題2000』も発売されている。これは自自公,セクハラ知事,日の丸・君が代,地域振興券,ブッチホン,フリューゲルス,脳死移植,臨界事故,てるくはのる……といった1999年の出来事を峯正澄の文と合わせて振り返る「いしい版・現代用語の糞知識」である。峯正澄の文はともかく,必携であること言うまでもない。

先頭 表紙

この「17の瞳」部分は,いったい何に連載されているのやらっ。まだ連載中なら,買わねばっ。 / 烏丸 ( 2000-11-26 01:24 )
いやあ、17歳の瞳ちゃんは萌えでしたな。あの図書館で本を読む際の姿勢などたまらん魅力でした。近日刊と言われている「となりのののちゃん」も楽しみですなあ。 / こすもぽたりん ( 2000-11-26 01:20 )

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